- ライター
- SELECK編集長
- 山本 花香
数値化しづらい「PR」の効果をどう測る? SansanのPRマネージャーに聞いてみた(後編)
〜今後のPRに求められるのは「PRBP」という存在? 効果の測り方から、PR担当のスキルアップ、社内の巻き込み方までを徹底的にお伺いしました〜
本シリーズ「教えて!対談」は、SELECKの読者の方が、日頃の業務における課題や気になるテーマに関して、話を聞きたい相手に取材をするという企画です。
第1弾は、LAPRAS株式会社でPRを担当する伊藤 智弥さんから、Sansan株式会社のPRマネージャー小池 亮介さんへの取材!
「事業に資するPR」をテーマに、前後編にわけてお届けしています。
昨日公開した【前編】では、PRの定義や目指すべきゴール、具体的なアクションの仕方についてお話いただきました。
後編では、PRの効果計測や社内の巻き込み方から、PR担当の果たすべき役割まで存分にお話いただいております!ぜひご覧ください。
前編はこちら:事業に資する「PR」ってどうやるの? SansanのPRマネージャーに聞いてみた(前編)
数値化できない効果を、どう測る? Sansanの「PRポイント制」とは
伊藤 PRアクションの結果把握って大事だけれど、難しいなとも思っていて。数値化できない効果もあると思うのですが、どのように把握されているんですか?
▼LAPRAS株式会社 事業開発マネージャー / PR 伊藤 智弥さん
小池 弊社では、パブリシティの効果に対しては「PRポイント制」を導入しています。
具体的には「そのアクションで届けるべきメディア」「掲載量」「主語か否か」「論調」「能動的に仕掛けたか」「メッセージング」の6つの評価項目があります。
各項目、3点ずつの18点満点で、そのうち15点以上を獲得した露出を「良記事」とし、その件数を目標にしてクォーターごとに振り返っています。
例えば、届けるべきメディアで取り上げられたとしても、掲載量が極端に少ない場合はポイントが低くなるんですね。一方で、施策の背景やユニークさみたいなところまで深掘っていただけると「良記事」という判断になります。
ただ、これを何件達成すればOKという訳ではなくて、あくまでPRのアクションを振り返るための判断軸だと考えています。なので、どちらかというと効果計測よりも、コミットするアクションの担保と振り返りを目的としていますね。
▼Sansan株式会社 PRマネージャー 小池 亮介さん
例えば掲載量が少ないということは、提供している情報に不足があったり、提供した先が間違っているのかもしれない、といった感じです。
伊藤 LAPRASでも似たような形で管理しているのですが、アクションの担保だったり、異常検知や気付きを得ることはできても、ゴールに対して近づけたかという指標ではないと思うんですね。
つまり、メディア露出に限定された話なので、何をもって今期のPRは良かったと言えるのかが気になります。
小池 それに関しては、上期と下期でPRゴールを設定しているので、どこまで近づけたかを期末に振り返っていますね。
最終的には定性的な判断になると思いますが、PRゴールを指針として確実にアクションしていくことで、掲げたゴールに近づけるかなと思っています。
そのために、SansanやEight、コーポレートなどの各セクション担当が四半期ごとのアクションプランを作成し、PRグループのオフサイト合宿で共有しています。
▼PRスケジュールのイメージ
日々の業務に追われていると、問い合わせ対応で1日が終わってしまうこともあるので、PRゴールに近くための活動をぶれなくするための、ピン留めになっていますね。
PR担当としての評価は不要? スキルを伸ばすためのワークを導入
伊藤 ちょっと話が逸れるのですが、もう少し突っ込んでもいいでしょうか(笑)
小池 はい、どうぞ(笑)
伊藤 僕らはあまり課題感だとは捉えていないのですが、そうなるとPR担当の評価や給与査定とかってどのように決めるんだろう…という疑問があるかなと思いまして。
小池 弊社の場合は全社で横断した評価指標があるので、PR独自の評価指標ではなく、単純にビジネスマンとしての能力を測る指標をもとに評価がされていますね。
逆に言うと、メディア掲載を今期100件獲得したから給料がめちゃくちゃ上がりましたとかって、あまり本質的ではないじゃないですか。
結局、すごくいいパスが上がってきたら獲得できたりするので。もしPR担当の評価を考えるなら、自分でその波を起こせる力があるのかを見るのがいいんじゃないかなと思いますね。
伊藤 確かに、同感です。PR担当としての能力を伸ばすために、何か取り組まれていることはありますか?
小池 査定には全く影響しないのですが、チーム内でPR能力の可視化は行っていますね。
具体的には、電通PRが定義したオクトパスモデルをもとに、広報力を構成する8つのスキルにおいて、それぞれ5段階の自己評価をつけてもらいます。
▼電通PRが定義したオクトパスモデル(※同社HPより引用)
すると、「普段あまり意識できていなかったけど、危機管理力が足りていないかも」とか「情報分析は得意だけど、メディアとの関係づくりはちょっと自信ないな…」といった感じで、日々の業務で考えられていなかった自分の弱点みたいなものが可視化できると。
つまり、チーム内でワークしてお互いの伸びしろを見つけることで、メンバーのPRスキルも伸ばせていけたらなと思っています。
社内の味方をつくるため、情報共有と惜しみない協力を行う
伊藤 この関係構築力にも関係することなのですが、社内の協力関係を築くことがすごく大事だなと最近特に思っていて。
社内を巻き込む上では、この施策でどれくらいの効果を得られたかの納得感って、結構大事じゃないですか。ここって握りの問題なのか、何なのかなって…。
小池 それで言うと、予めこのくらいの効果が見込めますよ、といったコミュニケーションは取っていないですね。一連のPRアクションのアウトプットを、事業の方で十分に活用しきれたかどうかが大切だと思っています。
よくあるのが、広報と社内の他部署が連動していないケースです。広報は記事が出てハッピーなんだけど、営業やマーケからしてみたらお客さんに全然知られてなかったり、客先に持っていく資料がなかったり、別の課題を抱えているんですよね。
実はすごく簡単に埋められる溝が放置されていないかを、PR担当が改めて見直して、能動的にそこを乗り越えていけるかどうかが大事だと思っています。
なので僕は、社内メンバーとランチに行って困っていることがないかヒアリングしたり、他部門の困りごとには積極的に介入しにいったり、草の根活動をしていますね。
伊藤 素晴らしいですね。僕も自社のミートアップイベントなどを開催する中で、社内のメンバーと協力してどう事業目標に貢献するかを考えてるのですが、まだまだ課題はありますね。
小池 あとは巻き込むというより、社内に味方を作るようなイメージかもしれないです。そこで意識しているのは、情報共有とメリットの提示、そして惜しみない協力です。
露出依頼をする時しか連絡を取らなかったり、何のために依頼しているのかを共有しなかったりすると、PRに協力する気持ちになれないと思うんですね。やはり、広報担当者の姿勢は大事だと思います。
また、PRスキルを使える場面って沢山あると思うので、その協力を惜しみなく行うようにしています。
例えば、App Storeのレビュー返信の文言とかも、一緒に考えたりします。この書き方って合ってるのかな、と不安なメンバーがいれば一緒に作成したり、フィードバックしたりすることで、協力関係ができるのかなと思っています。
コミュニケーションのプロとして、会社が求めるPRの役割とは…?
伊藤 僕も、PR担当ってコミュニケーションの専門家であり、いわゆる「PRBP(PR Business Partner)」みたいな存在かなって思うんです。
事業に資するHRの専門家を「HRBP」と呼んでいるように、要は、事業目標から逆算して、その達成のためにPRの戦略を立ててビジネスの成長に貢献できる人。
本来すべての職種でそうあるべきだと思っていて、PRの領域でも、PRBPみたいな人がもっと出てくるといいのかなと思うんですよね。
小池 たしかに。特にベンチャーでは社長と二人三脚できるケースがよくあると思うので、そういう良い環境に置かれている人こそ、社長と同じ目線でも物事を捉えて、一緒に事業を創っていくくらいのスタンスでやる。
PRにかける予算も同じで、広報としてのメリットではなく、会社や事業部にとってもメリットがあるかどうか、という目線で話ができるといいですよね。
例えば「Eight事業部で新規ユーザー開拓の広告を打っているけれど、そこでカバーできない層にリーチするためにイベントを開催します」という説明をすれば、PRに投資しようとなりますし。
伊藤 同感ですね。加えてベンチャーにありがちなのが、社内では当たり前の言葉が外部の人には伝わらなかったりするじゃないですか。それを変換して伝えるのも、コミュニケーションのプロであるPRの役割かなと思うんですよね。
小池 僕もそう思います。弊社内ではすごく意味の強い言葉でも、社外にだすと文脈が複雑で伝わらないケースって結構あって。
例えば、以前の会社ミッションは「ビジネスの出会いを資産に変える」だったのですが、そのまま言われても、初対面の人からしたら意味がよくわからない。
それを理解してもらうために、世の中と自社の間に「橋」を渡し続けるのが、PRの役割だと思っています。
しかも、コミュニケーションのターゲットによって必要な橋の種類が全然違う。すごく丁寧に頑丈に造った橋を渡さないといけない場合もあれば、ロープ1本をピッと渡せば理解してもらえる場合もありますしね。
社内の強い想いが世の中に伝わらないのはとても悔しいので、そうならないように、コミュニケーションを取る相手によって伝え方を都度変えていく必要があると思います。
伊藤 本当にそう思います。すごく勇気づけられました(笑)いやぁ…今日はめちゃくちゃ勉強になりました。ありがとうございました!
編集後記
そもそも「PRとはなにか」という問いのもと、世の中の態度変容を目指したPRゴールの設定から、具体的なアクションまでをお伺いした前編。
後編ではさらに、その効果検証の方法から社内の巻き込み方におけるポイントまで、実務担当者が聞きたいテーマについて深掘っていただきました。
特に印象に残ったのは、両社ともにPR担当を「コミュニケーションのプロ」として捉え、広い意味でのPR活動をしているということ。
LAPRASの伊藤さんが「PRBP」と話されていたように、事業目標から逆算して、その達成のためにPRの戦略を立ててビジネスの成長に貢献できる人が、今後求められていくのだろうと強く感じました。
実務者の目線から、鋭い視点で深掘りしていただいたLAPRASの伊藤さん、自社の具体的な取り組みを余すところなくお話くださったSansanの小池さん、本当にありがとうございました!(了)