• ライター
  • SELECK編集長
  • 山本 花香

事業に資する「PR」ってどうやるの? SansanのPRマネージャーに聞いてみた(前編)

〜事業目標を達成するための、戦略的なPRの実現法とは? PRゴールの設定から具体的なアクション、成果の測り方までを徹底的にお聞きしました〜

本シリーズ「教えて!対談」は、SELECKの読者の方が、日頃の業務における課題や気になるテーマに関して、話を聞きたい相手に取材をするという企画です。

第1弾は、LAPRAS株式会社でPRを担当する伊藤 智弥さんから、Sansan株式会社のPRマネージャー小池 亮介さんに取材をしていただきました!

前職でプレスリリース配信サービスを提供する会社に勤め、あらゆる企業の広報担当の方と関わってきたLAPRASの伊藤さんと、前職で外資系代理店に務め、PR畑をずっと歩まれてきたSansanの小池さん。

PRの定義や具体的なアクション、社内の巻き込み方まで根掘り葉堀りお聞きしているので、今回は【前後編】にわけてお届けします!(※後編はこちら

「事業目標に貢献するPR」をいかに実現するか? PR担当者の方、必見です。

▼【左】Sansan 小池さん、【右】LAPRAS 伊藤さん

PRってそもそも何? 認知の先にある「態度変容」を起こす

伊藤 では、改めてよろしくお願いします。僕は今、AIヘッドハンティングサービスを提供するLAPRASという会社でPRを担当しているのですが、世の中の固定概念を変えて、態度変容を起こしていきたいと考えているんですね。

そのために、全体戦略を描いてPRのロードマップをひきたいと思っているのですが、これってめちゃくちゃ難しいなと(笑)。

色んな人に話を聞いてみたり、文献を漁ったりしながら自分なりに考えてはいるのですが、正解みたいなものがないですし、常に「これでいいのかな」という気持ちがあるんです。

ひとり広報で壁打ちできる相手もなかなかいないので、今日はその辺りをお聞きしたいと思ってます。

小池 はい、今日はよろしくお願いします。でも、僕自身も全然まだまだだなとは思っていて(笑)今年6月にIPOした時は特に、広報としての自分の力不足を痛感しましたし、会社のメンバーが増えていくごとに新たな課題もあります。

僕らもトライアルをしている部分が多いので、今日は一事例としてSansanのPRを紹介しながら、色々とディスカッションできればいいなと思っています。

伊藤 はじめに「そもそもPRとは何なのか」という話をしたくて。

個人的には、世の中に溢れているPRって、プレスリリースの配信や取材対応などの請け負い仕事になっていることが多いのかなと思うんです。

小池 確かに、その傾向はありますね。ただ自分の仮説としては、従来のPR手法は今の情報環境に徐々に合わなくなってきていて、業界全体が新しい広報の形を模索しているんじゃないかと思っています。

PRって「認知を得るための活動」だと捉えられがちなのですが、本来めざすべき到達点は、伊藤さんも話されていたように、認知の先にある「態度変容」だと思っていて。

個人的に、博報堂ケトルの嶋 浩一郎さんの考え方がすごく好きでよく参考にしているのですが、PRには3つのフェーズがあると。

最初が、よく国内で語られている広報にあたるような、認知獲得の「Awareness Change」、次に認識を変える「Perception Change」

例えば、「Sansanは名刺管理サービスである」という認知から、「名刺管理ってすごく重要だ」とか、「名刺管理って出会いの管理なんだ」といった認識に変えるといったことですね。

その上で、最終的なゴールが「Behavior Change」、つまり態度変容です。Sansanで言うと、名刺を共有し活用する文化形成だったり、EightなどのビジネスSNSが当たり前のように使われている世界が、PRのゴールだと思っています。

そして広報をやるからには、この態度変容まで到達して、世の中を動かしたいんですよね。

▼PRグループの目指す最終ゴール(※Sansan社資料)

伊藤 すごくよくわかります。一方で、それってかなり難しいじゃないですか。実際にどう進めていったらいいのでしょうか…?

小池 めちゃくちゃ高い目標ですよね(笑)。では、Sansanの取り組みをご紹介しますね。

そのPRゴール、「広報のための広報」になっていませんか?

小池 まず組織体制から話すと、全社で今549名の社員がいて、法人向けクラウド名刺管理サービスの「Sansan」事業部と、個人向けの名刺アプリ「Eight」事業部の大きく2つに分かれています。

それに対して、データ統括部門R&Dや人事などいくつかある横断組織のひとつに、PRが所属しているブランドコミュニケーション部があります。

ブランドコミュニケーション部は、「Sansanをよりよく知ってもらい、好きになってもらう」ことを目標に掲げていて、PRグループ、BX Designグループ、BX Directionグループ の3つのグループが連携しています。

そのうち、PRグループには主担当として6人のメンバーが所属しています。

メディア対応や施策を回すコミュニケーションチームの5人(1人は育休中)と、役員登壇時のスクリプト作成などを担うストーリーテリング担当1人といった形で役割を分けています。

広報の定義としては「ステークホルダーとの良好な関係構築」が一般的だと思うのですが、それだけ聞いても正直よくわからないですし、事業活動における指針としては必ずしも正解じゃないと思っていて。

そこで、自分たちの言葉で定義したのが「企てに参画してもらうための仕掛け」です。

これは、Sansanの想いに人々が共感して、能動的に企画に参加してもらったり、一緒に盛り上がるような仕掛けを作っていこう、という意味を込めています。

伊藤 独自の定義っていいですね。その上で、PR戦略を立てるときに何を意識されているんですか?

小池 一番は、会社のためのPR活動になっているか、を意識していますね。つまり、上位にあるのは会社のミッションや事業目標であり、それを実現するためのPRをすると。

というのも、広報のためのPR活動になってしまうと「メディア掲載をXX本獲得する」といった目標を立ててしまいがちなのですが、結局、これを達成しても、会社や事業にポジティブな影響がなければ会社として成功したとは言えないですよね。

会社や事業が掲げている目標だったり、社長や役員、現場社員との会話の中で得られるような情報をキャッチして、会社を成長させるためのPRを上位に据えるべきだと考えています。

PRアクションを振り返り、社内に還元していくことが大事

伊藤 僕の思うところも本当に同じで。事業会社のPRって、本来は中長期のビジョンや事業計画を達成するために行うべきだけれど、実際には難しいなって思うんですよね。

御社のPRゴールでいうと、具体的にはどのようなものを設定しているんでしょうか?

小池 例えば、法人向けのSansan事業部でいうと、名刺管理に留まらないITのソリューションに展開していくため、より大きなスケールでSansanを捉えてほしいという事業目標がありました。

それに対してPRとして何ができるかを考えた時に、名刺管理の枠を越えたプラットフォームのような認識を得られれば、事業がよりスケールアップするんじゃないかと。

そこで、PRゴールには「SaaS(※)の代名詞になる」を掲げました。

※SaaS:Software as a Serviceの略で、クラウドで提供されるソフトウェアの総称。

そして次に、達成のための戦略立案とスケジューリング、ターゲットやキーメッセージの選定などを行い、実際のアクションを決めていきます。

例えば、SaaSの代名詞になるための戦略として、弊社の強みであるカスタマーサクセス(以下、CS)における「ソートリーダーシップ(業界の第一人者)」を取ることを目指して、PR施策を考えていきました。

具体的には、社内イントラでCSの教科書的な書籍が翻訳出版されることを知り、版元に声をかけて、共同で出版イベントを開催しました。

イベントを行った1年前は、まだCSという概念が今ほど盛り上がっていなかったので、CSについての理解を深めてもらう内容にしたのですが、当日は100名ほど集まってくださり、3、4媒体ほどの露出を獲得できたんですよね。

ただ、これでは点で終わってしまうので、参加いただいたメディアに弊社CS担当の寄稿記事枠をいただけないか提案し、8回の連載を獲得することができました。

さらに、それをきっかけとして、その担当者が外部イベントで複数回登壇することが決まったり、連載をまとめた書籍の出版の話が持ち上がったり…。ひとつのアクションからPRが波及していったんです。

伊藤 すごい。理想的な形ですね。

小池 ですが、ここで終わらずに社内にどう還元していくか、というのが重要で。

例えば、露出したCS担当に営業向けの社内勉強会を実施してもらったり、訪問先で「CSについて聞きたいことがあれば、担当の者がお話しに伺いますよ」と言って営業の武器にしたり。

アクションをして終わりではなく、結果を把握して、事業部との協力関係は十分であったかを振り返り、それをPRゴールの設定にフィードバックする。この一連のフローがすごく大事だなと思います。

▼PR活動のサイクル図(※Sansan社資料)

弊社も、まだこれを完璧に回せているわけではないです。ただ、結局どこが欠けても穴の開いたバケツみたいになってしまうので、きちんとフローを構築することが大切だと思っています。

(※後編に続く)

編集後記

読者がもつ自らの課題や関心ごとを、話を聞きたい人に直接お伺いできたら現場のナレッジシェアがもっと進むのではないか…そんな考えから生まれた本企画。

インタビュアーをお任せして取材が成立するだろうかという不安も少しだけありましたが(笑)、実務をしているからこその視点から生まれる質問や感じ方は、編集部には真似できない貴重なものだと感じました。

一般に知られているような認知獲得のためのPRではなく、「世の中の態度変容」を起こすようなPRをどう実践するかという、正解のない問い。

Sansan小池さんが話していた「広報のための広報になっていないか」は、多くのPR担当者の胸に刺さるのではないでしょうか。

後編では、PRの効果計測や、社内の巻き込み方、そしてPR担当者のあるべき姿について語っていただいています。現場の情報が満載ですので、ぜひ併せてご覧くださいませ。(了)

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