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  • 平山 高敏

「これからの乾杯を考える」キリンビール公式noteが紡ぐ、ブランドコミュニケーション

〜公式noteを開設し、個人を発露するコンテンツを発信。「街の住人」と交流を深めながら、自社への愛着度を高める、新たなコミュニケーション戦略とは〜

企業からの一方的な発信ではなく、社会や顧客との双方向のコミュニケーションを図るには、どうすればよいのだろうか。

飲食から医療にかけて幅広い事業を展開する、キリンホールディングス株式会社。

従来の自社サイトやSNSの運用に課題を感じていた同社では、企業のミッションや造り手の想いといった「情緒的価値」を語る場として、2019年4月にキリンビール公式noteキリンビール公式noteを開設

▼文章や写真、イラストなどの作品を誰でも公開できるメディアプラットフォーム「note」

その運営においては、キリンとしての発信に留まらず、noteのクリエイターや企業とのコラボレーション企画を実施。さらに、参加型の投稿コンテストなどを開催することで、読者との双方向のコミュニケーションを実現しているという。

同社で公式noteの責任者を務める平山 高敏さんは、「noteというプラットフォーム上で発信することで、造り手の熱量が同心円状に広がっていく」と語る。

今回は平山さんに、公式noteを開設した背景から、具体的な運営方法までを詳しくお伺いした。

造り手の「想い」を伝えたい。キリンビール公式noteを開設

僕は、Web広告代理店での営業や、「ことりっぷ」のWebプロデューサーとして企画やマーケティングなどを経験した後、2018年にキリンに入社しました。現在は、オウンドメディア上のWebコンテンツを中心とした、コーポレートコミュニケーションを担当しています。

入社した当初は、弊社のECサイト「DRINX」に掲載するコンテンツの責任者を担っていました。そこでは、ビールやワインといった飲料商品を扱っているのですが、当時は料理レシピなどのお役立ちコンテンツが中心で、「造り手の顔」が見えづらかったんです。

僕自身、「どういった想いで作っているか」といった商品の背景を知りたかったし、それを伝えることの方が大切だと感じて。そこで、造り手のインタビュー記事を掲載してみたら、多くの方々から反響がありました。

その経験から、社内にこれだけ「語れる人」がいて、「語れるプロダクト」があるのだから、企業のミッションや社員の想いを丁寧に伝えて、読者と接点を持てるような場が新たに必要だと感じたんですね。

そこで、そういった「情緒的な価値」を伝える場として、2019年4月にキリンビール公式noteを立ち上げました。

noteを選んだ理由としては、前提としてコストが掛からず、スモールスタートできるという点があります。また、noteにいる方々は、とても丁寧に自分の想いを発信されていて、その発信に共感した方々がTwitterで拡散したり、応援の気持ちを込めて課金したりする。

このカルチャーが土壌としてあるので、キリンの素直な想いを伝えやすく、持続的な運営が可能だと考えました。

「noteの住人」に貢献できることを考え、メディア方針を明示する

公式noteを開設してまず行ったのは、読者の方に向けた「所信表明」です。立ち上げまでの経緯や、今後どんなことをしていきたいのかを、想いを込めて発信しました。

というのも、「声をかけ合う」カルチャーがあるnoteの街では、僕たちから一方的に伝えるだけではなく、noteに集う方々と一緒にメディアを作り上げていきたいと考えたんですね。そこで、公式noteのタグラインは「これからの乾杯を考える」にしました。

次に、メディア運営におけるミッション・ビジョン・バリューを定めました。

▼キリン公式noteが掲げるバリュー(同社提供)

ここで重要なのは、はじめに「noteの住人に対して僕たちが貢献ができることは何か」を考え、その上で企業のメディアとしてどのような発信をすべきかを考えるという「順番」を守ることです。

加えて、キャンペーン情報や顔の見えないコンテンツといった、「他のメディアで発信できるものは、公式note上では発信しない」という、越えてはいけないラインも定めました。

企業の発信拠点として各方面から依賴が来た時に、プラットフォームの住人の好みにマッチする軸を守るという点でも、NGラインを明確にしておくことは大切だと思います。

関心度に合わせたレイヤーごとに、コンテンツとKPIを定める

公式noteでは、キリンへの関心度に合わせた3つのレイヤーでターゲット読者を定め、コンテンツを制作しています。

▼noteコンテンツの3つのレイヤー(同社提供)

まず、キリンのファンの方に対しては、主に造り手や社員の想いを伝える「ストーリー型」のコンテンツを発信しています。たとえば「#造る人たち」というマガジンなどが該当します。

次に、お酒などキリンのプロダクトに関心をもつ方に対しては、「商品の楽しみ方」を伝えるようなコンテンツを制作しています。たとえば、「#私の晩酌セット」「#夜更けのおつまみ」といった、お酒との心地よい付き合い方を紹介するものがあります。

そしてさいごに、より多くの方にキリンを知ってもらうことを目的に、お酒に強い嗜好性はないもののnoteのカルチャーが好きな方に向けて、主に投稿コンテストなどを実施しています。

これまでコンテストは4度開催し、一番最初に実施した「#社会人1年目の私へ」という企画では、2ヶ月で3,000件を超える応募がありました。

なぜこの3つのレイヤーに分けたかと言うと、そもそもお酒は「手軽に楽しむもの」なので、ストーリーや想いに偏り過ぎるコンテンツ展開は、機会損失に繋がってしまうと考えたからです。

また、各コンテンツの目的に合わせて、KPIの最重要項目も設定しています。

最上層は、きちんとファンの方々に届いているかを測るため、Twitterでのシェア数といったリファラル効果を見ています。中間層は「他の記事も読みたい」と感じてくださったかの指標として、noteの「スキ数」を、最下層は読者との接点を増やせているかを測るために「ビュー数」を指標にしています。

こうしてKPIを明確に分けることで、ブレないんですよね。ストーリー型コンテンツには、1万字に近いようなじっくり読ませる記事もあるのですが、ここでビュー数を追いかけてしまうと、本来伝えたいことが発信できなくなってしまう。そうではなく、僕たちの想いにファンの方が共感してくださり、シェアしていただけるかどうかの方が重要だと考えています。

どれだけ「主語」を持って語れるか。インハウスエディターの役割

公式noteを運営する上では、社内の巻き込みも重要です。実際に企画する際は、まず商品や活動の歴史、想いなどを1、2時間かけて担当者にヒアリングした上で企画案を作成しています。

ここで最も大切にしているのは、「読者の方に何を持ち帰ってもらいたいか」「何を一番伝えたいか」という部分を、担当者と一緒に明確にすることです。

なんとなくnoteで発信したいという状態だと良いコンテンツが作れないので、「まずは、私宛に想いの丈を綴った手紙を書いてきてもらえますか」と無茶振りすることもありましたね(笑)。

さらに、その担当者がどこまで「主語」を持って語れるかも意識していて。ひとりで語り尽くせるくらいの内容があるのか、担当者と造り手との対談形式の方がより深く話せるのではないか、といった視点で、「どの言葉を持っている方に語っていただくのがベストか」を考えていますね。

たとえば、100年以上の歴史をもつ「キリンラガービール」という商品の企画では、いまの担当者と、発売当時の取り組みを知っているブリュワーとの対談で調整したこともありました。

僕たちインハウスエディターは、メディアとしての軸を通しながら、「どう伝えるか」のバランスを調整することが役割です。そのため、担当者にはnoteという場を通じて何を伝えたいかが明確になるまで、企画の段階で「言葉を増やす」ようにお願いしていますね。

同じ想いをもつ「パートナー」と共に、熱量を伝播していく

また企画の際は必ず、料理家などのクリエイターさんや企業アカウントといった「noteの住民」と一緒にコンテンツをつくることができないかを考えています。

noteではフォロワー数の多さを重視して組むよりも、掲げているミッションの方向性が合致するもの同士で組む方がコンテンツの熱量が高まりますし、結果的に読まれると感じています。

そのため、キリンの持つ想いや、やりたいことをきちんとクリエイターさんにお伝えした上で、その想いが合致するかを確認した上で組んでいただいています。

たとえば、クリエイターの方々に晩酌時間を寄稿していただく「#私の晩酌セット」という企画では、コロナ禍で在宅時間が増えた読者の皆様に晩酌の楽しみを共有したい、という想いで始めました。想いを同じとする料理家さんに寄稿していただいたり、投稿コンテストを実施したりしましたね。

さらに、キリン発信のコンテンツだけでなく、僕たちと近しい活動をする方々とコラボする形で、共同マガジンを運営するような企画もあります。

たとえば岩手県遠野市で日本産ホップを栽培する方々とともに、「#日本産ホップを伝う」というマガジンを運営しています。これを見た他の地域の方々からも「いつかマガジンに投稿したい」という声もあり、僕らが「熱量の震源地」となって、それが同心円状に広がっていくような実感がありましたね。

「人柄」を感じるコンテンツを増やし、真摯に発信し続けたい

公式noteの開設から2年弱が経過し、社内外から「あの記事良かったね」と反応をいただくことが増えました。

最近は、社内にいる「生き証人」のような方々のメッセージを残してほしいと頼まれることもあります。

以前、コロナ禍で苦境に立つ飲食店を支援している企業の発信をまとめ、「#これからの乾杯を支える」というコンテンツをnoteで発信しました。

自粛が必要な時なので、慎重な発信を求める声も一部あったのですが、「これはいい企画だから、絶対続けてくれ」と応援してくださる方がいたり、このコンテンツを元にした企画を展開してくれた営業メンバーもいたりして。

社内の協力を得るためには、「あのメディアは良いらしい」と思ってもらう必要があります。そのためにもテクニックに走らず、世の中から必要とされていることに、真摯に向き合い続ける姿勢が重要だと思いますね。

コロナ禍によって、企業の社会的ミッションがより注目されていると感じています。そうした中で、社内にある情緒的な価値に目を向け、noteを活用する企業が増えていくと、コーポレートコミュニケーションもっと面白くなっていくんじゃないかと思いますね。(了)

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