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Pairs × タップル誕生のCSトップが現場を語る!KPI管理やメンバー育成、どうしてる?
〜恋愛・婚活マッチングアプリを開発・運営する「Pairs」と「タップル誕生」。両社のカスタマーサポート責任者が現場のノウハウを語る、競合対談・第2弾〜
SELECKで今年5月に公開した、「同業界・同職種の方同士で、現場の知見を共有し合う」対談インタビュー企画(※)の第2弾。
今回は、近年盛り上がりを見せている恋愛・婚活マッチングサービス業界を牽引する、「Pairs(ペアーズ)」と「タップル誕生」のCSトップによる対談です。
▼Pairs(左)とタップル誕生(右)のアプリ画面
完全インハウス体制と、グループ会社での対応という異なる体制で、CSのオペレーションを構築しているという両社。
株式会社エウレカの安信 竜馬さんと株式会社マッチングエージェントの大野 均さんに、それぞれの強みを活かした体制づくりから、現場オペレーターの育成・評価、そして業界の挑戦まで、余すところなくお伺いしました。
※第1弾の記事はこちら:【特別対談】BASE x STORESのプロダクトマネージャーが語る、PMの役割と未来への挑戦
「完全インハウス体制」と「グループ会社での対応」各々の強みとは?
ーー最初に、おふたりのご経歴からお伺いさせていただけますでしょうか。
大野 では、僕から。2010年にサイバーエージェントに中途入社しまして、以来ずっとCSに携わってきました。最初に担当した「アメーバピグ」というサービスでは、CSの立ち上げからサイト健全化、監視ツールの開発ディレクションまで経験し、2018年の11月からマッチングエージェントにジョインしました。
現在は、タップル誕生のCS責任者として戦略立案などを行っています。オペレーションについては、サイバーエージェント(以下、CA)グループ子会社のシーエー・アドバンスにて対応しています。
安信 私は、大学時代のアルバイトも含めると、約24年ほど一貫してCS畑でキャリアを構築してきました。様々な業種の企業でCSを経験した後、2016年の2月にエウレカに入社しました。
Pairsでは、CSの完全インハウス化やチャットボットの導入などを行い、2018年4月よりカスタマーケア部門のディレクターを務めています。
▼左:大野さん(マッチングエージェント)、右:安信さん(エウレカ)
ーータップルさんはグループ会社での対応、Pairsさんは完全インハウス体制なんですね。
大野 今はそうですね。ただ、CAグループの歴史としては、アメーバブログが始まった当初はインハウスだったんですよ。
その後、様々なサービスをリリースしていく中で、各サービスでのCS対応の方法やKPIの設定などがバラバラになってしまい、質の面で課題を抱えていました。
そこで、2010年にグループ会社であるシーエー・アドバンスに、CS監視などを行うオペレーション部門を立ち上げ、一元管理する形に変えたんです。
その中で、CAグループ内でも伸びていたマッチング事業に特化する部署が、2016年に立ち上がりました。現在は、問い合わせ対応9名、投稿監視18名の合計27名のオペレーターが在籍しています。
安信 弊社は元々アウトソースしていたので、逆ですね(笑)そこからインハウス化に踏み切ったきっかけとしては、ユーザーの抱える問題をよりスピーディーに解決したいという思いがあって。
また、同業のサービスも増えていた中で、VOC(Voice of Customer:顧客の声)をプロダクトにフィードバックしていく重要性が増し、それを活性化したいという目的もありました。
現在は、24時間365日オペレーター常駐の体制で、問い合わせ対応から投稿監視まで、すべての業務を社内で行っています。
ーーインハウスとアウトソーシングの、それぞれの「強み」って何でしょうか?
安信 インハウスは、やはり柔軟な対応ができる点が強みですね。例えば何かをリリースした時に予期せぬバグが発生しても、遅延することなく対応できるということは、顧客満足度に直結します。
元々、アウトソース時代は10時から22時の稼働でしたが、オンラインデーティングのサービスって大体23時以降がピークタイムなんです。なので、24時間体制になったことで、そこをカバーできたことも大きいですね。
実際、インハウスに移行したことで、KPIのひとつである平均レスポンスタイム(※)が大幅に短縮しました。
※平均レスポンスタイム:ユーザーの問い合わせから、オペレーターが返信するまでの平均所要時間
大野 それはすごく良いですよね。タップルでは、そもそもシーエー・アドバンスのことをアウトソーシング先だとは考えていなくて。拠点は違うけれども、志はひとつの「ワンチーム」だと思っています。
その強みとしては、CAグループ全社で蓄積されてきた知見だと思っていて。例えばAmebaは2004年から始まったサービスですが、その特性上、ブログへの書き込みなどは厳しく監視するCS体制を築いてきました。その知見を、他サービスに転用できるのは強みかなと思いますね。
CSのKPI設計はどうすべき? モニタリングはツールで仕組み化
ーーKPIについては、どのような指標を置いているのでしょうか?
安信 PairsのCSでは、全部で10項目のKPIを設定していますが、最も重視しているのがCSAT(※)のスコアです。
※CSAT(Customer Satisfaction):顧客満足度を測る手法
CSATはすべての返信メールにつけていて、「オペレーターの対応に満足したか」という質問に対するYES・NOと、回答率の2つを計測しています。
また、ユーザー体験に直接関わる指標としては、問い合わせ対応の「平均レスポンスタイム」や投稿監視の「平均プロセッシングタイム(※)」などを置いています。
※平均プロセッシングタイム:ユーザーが画像などを投稿してから承認されるまでの平均時間
一方で、これらの指標だけでは、オペレーターが実際の処理にどのくらい時間をかけたのかがわからないんですね。そこで、個人やチームのパフォーマンスを測る指標として「平均ハンドリングタイム(※)」を設定しています。
※平均ハンドリングタイム:オペレーターがメールを受領してから返信するまでにかかる平均時間
大野 僕らも、基本的には同じですね。大きくは、ユーザー対応の速さと顧客満足度の2点です。
違いとしては、夜間のアイドルタイムに受信したメールを含めてしまうと正しい数字が測れなくなってしまうので、レスポンスのKPIに対しては新着案件と滞留案件にわけて管理しています。
そして新着・滞留問わず、案件の重さによって優先度を判断しています。例えば、ログインできない場合には、早めに救済してサービスに復旧してもらう必要がありますし、仕様の確認などであれば、緊急度は低いので後に回しますが、より丁寧に対応させていただくような形です。
ーーKPIの計測や管理に関して、工夫されてることはありますか?
安信 CSメンバーが働いているスペースに大きなモニターを2つ用意して、リアルタイムですべてのKPIの動きが見られるようになっています。
すべての問い合わせ対応を、CSツールの「Zendesk(ゼンデスク)」で管理しているのですが、それに「Geckoboard(ゲッコーボード)」というアプリを連携してダッシュボード化しているんです。
▼PairsのKPIダッシュボード画面
日本だけでなく、台湾・韓国にあるCS拠点の数値もすべて可視化されるので、オペレーターのみんなが数字を意識してオペレーションを回す体制ができていますね。
大野 それ、めっちゃいいですね。うちもやりたいです(笑)
一同 (笑)
大野 タップルは、内製の「バスティーユ」というCSツールを使って管理しています。
Zendeskほどツールの拡張性は高くないので、対応時間などはリアルタイムでは見れないのですが、シーエー・アドバンスが開発しているので、現場の声をツールにすぐ反映させやすいのが良いですね。
▼タップル誕生のKPIダッシュボード画面
あとは、投稿監視のチームではBIツールの「Tableau(タブロー)」を使っていて、トラブル案件やお客様の声を取り込んだデータから、ビジュアル化しています。
安信 そこはうちも一緒ですね。Tableauでモニタリングの仕組みを作っています。
恋愛マッチングならではのトラブルも!どうやって対応する?
ーーよくあるトラブルとか問い合わせ内容って、どのようなものでしょうか?
大野 よくある内容としては、サブスクリプションなので、課金に関するものは多いです。例えば「アプリを消したのに請求されている」といったものがあります。
マッチングアプリならではでいうと、「お相手からの返信がこない」「サクラ(※)が混ざっているんじゃないか」といったお問い合わせですね。
※サクラ:一般ユーザーになりすまし、お相手からより多くの利用料を払わせるために運営が雇ったユーザーのこと
定額制・使い放題のサービスですし、もちろんサクラはいないのですが、よくある勘違いだったりするので、1件1件丁寧にご対応させていただいてます。
安信 Pairsでも、全ての問い合わせの6〜7割は、決済や機能に関するものが占めています。その他の問い合わせで今私どもが注力しているのは、本質的な恋愛サポートの部分ですね。
例えば、「アドバイスがほしい」というユーザーさんに対して参考になる情報をお伝えできるようにするため、男女・年代別のプロフィールの書き方などのTipsを用意しています。
また、カップル成立までの期間やメッセージやりとり数の平均値など、開示できるデータはすべてファクトとしてお出しして、ご参考いただいていますね。
今後はユーザーのニーズに合わせて、例えば恋愛アドバイスのできるオペレーターを採用・育成することも検討しています。
大野 弊社だと「タップルラボ」というオウンドメディアを運営しているので、そこに掲載されているTipsや事例の中から参考になりそうな記事をピックアップし、ニーズに合わせてご案内していますね。
また、CSチームの行動指針として、「顧客対応の5ヶ条」というものを定めていて。具体的には、「圧倒的感謝」「結論ファースト」「行間を読め」「一通入魂」「恋を応援しましょう」の5つなのですが、オペレーターの方々はデスクに貼ってくれたりもしていて、普段から5ヶ条を意識して各自で行動できる体制をつくっています。
オペレーターの「質」を担保し、向上させるための工夫とは
ーーオペレーターの「育成」の観点では、何か取り組まれていますか?
安信 Pairsでは2週間に1度、オペレーター全員が集まるワークショップを行っています。ここでは、普段の業務の中で良かった事例や学んだことなどを共有したり、他のアプリサービスを使ってみた時の感想や気づきだったりをシェアしています。
例えば最近ですと、「他社サービスのチャットbotの対応がすごく良かった」という話を共有してくれたメンバーがいたんですね。
すると、今までは自分たちの対応をどう良くするかにしか目線がいってなかったのですが、「確かにチャットbotが正しく回答することって大事だよね」という気づきから、「自分たちのbotにも、もっとたくさん学習させていこう」といったアクションにつながりました。
個々がもつ感覚のシェアをすることで、対応のレベル感が擦り合ってきて、改善のアクションも生まれるので、こうした場を繰り返し設けていますね。
大野 僕らもワークショップをやりたいのですが、CS拠点が沖縄にあって物理的に難しいので、遠隔でできるワークを今年の4月から始めました。
これは「100本ノック」と呼ばれるケーススタディで、お題に対してメールの返信文を書いて提出してもらっています。提出文は他のメンバーにも公開しているので、「こんな対応してるんだ」「こういった言い回しもあるんだ」といった気づきがあり、いいループが生まれていますね。
フィードバックは僕が細かく記入しているのですが、1つひとつに点数をつけているんですね。その採点の評価軸には、HDI(※)の格付け審査における評価項目を利用しています。
※ITサポートサービス業界における、世界最大のメンバーシップ団体
その項目としては、共感を示すコミュニケーションや対応のスキル評価と、対応速度などのパフォーマンス評価などがありますね。
それで一定の点数を超えた人は、AKBのようなイメージで「神メンバー」と呼んでるんです(笑)その神メンバーをどんどん増やしていきたいと思っていて。
というのも、メンバーが若いので、そういう感じで楽しくレベルアップできる仕組みを考えていきたいと思っているんですね。今3ヶ月集中的にやってみて、いい取り組みだったと思っているので、今後も継続的にやっていきたいなと思っています。
プロダクトの成長に貢献する、目標設定と評価の仕方は?
ーーオペレーターの「評価」は、どのように行っていますか?
大野 タップルでは、CS対応のスキルと、プロダクトOKRから逆算した個人OKRを設定し、その達成度で評価しています。
OKRの達成度は四半期ごとに評価しているのですが、オペレーター1人ひとりについて、実際の評価者であるグループ会社のマネージャーと話し合い、総合的に判断しています。
安信 Pairsでは、スキルとマインドを中心に、25の評価項目を設定しています。例えば、後輩を育成する力やリーダーシップ、問い合わせ対応のスキル、シフトの遵守率、といったものがありますね。
また、問い合わせの「難易度」を踏まえてきちんと評価できるように、その内容を5つのカテゴリに分けています。
例えば「機能」であれば比較的簡単ですが、「決済」になるとやや難しくなります。さらに「トラブル対応」や「恋愛相談」になると、マニュアルが存在しないので高度なスキルが求められるんですよね。
なので、難易度と対応スキルの掛け合わせで評点を出し、かつオペレーター1人に対して3人のスーパーバイザーをつけることで、評価に偏りがないようにしています。
また目標設定については、昨年までは弊社もOKRを運用していたのですが、現在は一旦ストップして全社でMAUを追っています。
というのも、OKRを運用していた時って、全社OKRに紐づく形でCSの目標を立てるのが結構難しかったんですよね。直結したものが見出しづらいというか。
なので、MAUは、我々CSがきちんとサポートすることでユーザーがアクティブになるという繋がりが見えやすいので、すごく追いやすくなったかなと思います。
恋愛マッチングサービス業界全体で「安心・安全」をつくりたい
ーー最後に、それぞれ目指しているゴールについてお伺いさせてください。
大野 はい。恋愛マッチングサービスの業界は、まだまだネガティブな印象が強いと思っているので、CSを通じてそのイメージを打破していきたいと思っていて。
やはりお客様の人生にも影響し得るサービスだと思うので、丁寧に向き合った対応や、快適なサポートをCSが提供することで、お客様に選ばれるようなサービスを目指していきたいと思っています。
安信 Pairsもその印象を変えていきたいと思っていて、実際にサービスを使って幸せになった方々の口コミをすごく大事にしていますね。
成功体験のお手伝いはもちろん、Pairsのファンをひとりでも多く作っていけるようなCSの在り方を追求したいと思っています。
大野 個人的には、キャリアを通じて「次世代の当たり前」を作りたいという思いがあるのですが、マッチングアプリはまさに、これからの時代にフィットするものだと思っているんですね。
その「安心・安全」を守るという部署がCSだと思っていますし、正しい認知をもっていただけるよう社会に発信することにも、今後もっと挑戦していきたいですね。
安信 全くもって同感ですね。そういう意味では、どこまで実現できるかはわからないですが、ブラックリストの共有などをして業界全体としての健全性を一緒に高めていけたらな、と思いますね。(了)