- 株式会社トクバイ
- CTO
- 前田 卓俊
データ分析は「マインドマップ」から始まる?トクバイが創る、データドリブンな組織
〜Treasure Data、Puree、Firebase Analyticsなどを活用した、トクバイのデータ分析基盤と、その考え方を公開〜
2016年7月、クックパッドは特売情報事業を子会社化し、株式会社トクバイを設立した。
登録ユーザー数が600万人を突破する同サービスでは、徹底したデータ分析を行い、サービスの改善に活かしている。
その分析への取り組みは、「Treasure Data(トレジャーデータ)」や「Puree(ピューレ)」、「Firebase Analytics(ファイヤベース アナリティクス)」などを活用したデータ分析基盤はもとより、実現すべき「ミッション」を明文化し、マインドマップを活用して追うべき指標を可視化するなど、「データを解析する」以前の「考え方」の部分から設計がなされている。
今回は、同社でCTOを務める前田 卓俊さんに、詳しいお話を伺った。
「ミッション単位」のチームで組織を作り、ナンバーワンを目指す
弊社は、クックパッドの特売情報事業を子会社化する形で、2016年7月に設立されました。私はクックパッド時代から、特売情報のエンジニアとして事業に携わっています。
クックパッドでは、事業部に所属しているエンジニアやデザイナーがいます。私もその1人で、バックエンドからモバイルアプリまで、1人で書くこともありました。目的を達成するために必要なことなら自分でやるし、組織横断で責任をもつ技術部やインフラ部など、プロフェッショナルの力を借りるとより成果が出るならヘルプをお願いする、という動き方です。
トクバイに分社後も、そのチーム体制は踏襲していて、いまも一つの目的(ミッション)を共有したチームを組成し、日々のサービス開発業務に取り組んでいます。
例えば、「お買い得情報を提供するアプリとして、ユーザー価値/規模ともにナンバーワンのアプリを作る」といったミッションを四半期ごとに設定し、チームでミッションの達成に向けて集中して取り組んでいます。
データを可視化することで、サービスの流れが見える
私はCTOとして、そういった複数のミッションの、最終的な責任者という位置付けにあります。各チームが独立して動けるように、技術的な部分でのサポートや、KPIの設定、KPIツリーの詳細化といった、環境の整備を行っています。
プロダクトの直近の方向性を決める権限は、各チームのオーナーが持っています。そのため、サービスの方向性を決めるために必要なデータは、ダッシュボード化を進めて、常にチェックしやすい形にしています。
例えば、PVのログデータから、各流入元の割合や規模、さらに外部流入が多いページはどこで、次のアクションとしてどこに遷移しているのか、ユーザー属性ごとの継続率の傾向はどうか、といった様々な切り口で可視化しています。
▼数値の可視化にはダッシュボードツール「Re:dash」を使用
サービス全体の流れを確認し、核心となる部分をつかむ事が重要だと考えています。
データ分析の前に、まずは「KPIツリー」の構築を
私は、最初にどのような視点でサービスの流れを捉えるのかを明確にするために、KPIツリーをマインドマップに落とし込んでいます。
はじめに、サービスの最重要指標(KGI)を設定します。KGIには、「この数字が伸びると、事業が必ず成長すると疑わない」指標を設定します。次に、最重要指標を構成する更に詳細な指標を、ブレイクダウンして書いていきます。
例えば、ウィークリーアクティブユーザー(WAU)を最重要指標とすると、WAUを構成する要素として「新しいユーザーさんに使ってもらえているか(獲得数)」、「長く使ってもらえているか(継続率)」、「重要なサービス体験を受けてもらえているか(コンバージョン率)」など、様々な視点で分解ができます。
そこからさらに、獲得数であれば「広告経由」「自社Webサイト経由」「アプリストア検索経由」など、より細かい粒度に数字を分解していきます。
▼KGIをブレイクダウンして、マインドマップを構成
最終的に、枝葉の「葉」の数値の推移を見ると、例えば「この獲得経路は規模が大きいはずだが、まだ想定されているパフォーマンスが出ていないので、伸びしろがあるはず」という判断ができます。そして、その葉の部分がすべて伸びていればWAUは最大化されるはずです。
ただ、マインドマップはあくまでも頭の中を整理するためのものです。葉の部分を全部気にしていると、それこそ時間がいくらあっても足りないので、注力する指標は定めています。ただし、判断に迷った時やサービス全体を俯瞰したい時に、すぐに考えられる状態にしておく目的としては、作っておいたほうがいいと感じています。
データ分析のアーキテクチャを公開!
そういった数字を可視化する仕組みですが、まず、スマートフォンのアプリに「Puree(ピューレ)」というログ収集ライブラリが組み込まれています。Pureeはログをバッファリングしながら、一括で送信してくれる、アプリ版のfluentd(フルエントディー)のようなものですね。指定した専用のエンドポイントに、ログを送信します。
そのエンドポイントからは、fluentdで「Treasure Data(トレジャーデータ)」にデータを送信しています。
Pureeでログを収集するのと合わせて、「Firebase Analytics(ファイヤベース アナリティクス)」にもデータを送っています。これはスマートフォンアプリの運用に最適化された、Google Analytics(グーグル アナリティクス)のようなサービスです。インストール数やMAU、N週継続率のような、一般的な指標を見るために使っています。
Treasure Dataには、もっとプリミティブなデータがたまっているので、データ分析ツール「Jupyter Notebook(ジュピターノートブック)」や、ダッシュボードの「Re:dash(リダッシュ)」などを使い、より詳細な分析をしています。
Firebase Analyticsは、数値の異常を検知するという目的もあります。
例えば、Firebase Analyticsの方は数値が伸びているのに、生ログから割り出している方は落ちていたりすると、きっと何かがおかしいはずです。ほとんどのケースで、ログの方がおかしいのですが。それを第三者的な視点で判断するために、信頼できそうなサービスとしてFirebase Analyticsを併用しています。
▼アプリのデータ分析には「Firebase Analytics」
Firebase Analyticsにはユーザープロパティーと、イベントデータをGoogle BigQuery(グーグル ビッグクエリ)にエクスポートする機能を持っています。
弊社の場合はTreasure Dataにログがストックされているので、強烈なメリットはまだ感じていませんが、ログの収集基盤が無いケースでは威力を発揮するかもしれないですね。
目標だけでなく、その裏にある「ミッション性」が重要
ミッションごとのKPIを決めるときには、「GitHub(ギットハブ)」を使って、各ミッションのオーナーが今後どう行動するのかを、1枚のドキュメントにまとめています。
目標を決めるときは、単に「ミッションはこれだよ」というコミュニケーションだけではダメだと思っています。
「このミッションを達成することは、会社の2、3年後にとってこういう意義がある」「クリアするとこういう世界がひらけて、ユーザーさんにとってこんないいことがある」といったような、「なぜこの仕事に価値があるのか」を、メンバーそれぞれが心の底から納得している状態が大事だと思うんです。
▼GitHubにミッションと行動方針を明示
そういったものを書いた上で、各チームで1ヶ月半の計画を洗い出し、「直近の行動計画は常に解像度を高くして欲しい」というオーダーを出しています。全チームが1ヶ月半先を見据えて行動し、常に計画の変更もしていますね。
チームの性質を踏まえて、今後も共通認識や文化を作っていく
弊社はまだ、全体でも30人規模の組織です。クックパッドのひとつのサービスとして、料理の手前の買い物支援をすべく誕生し、日々サービスの改善を積み重ねてきました。
これからは「買い物サービス」として独立性をより高め、日々の生活における買い物シーンをより豊かにするものへ、さらなる進化を遂げなければなりません。
これから、株式会社トクバイが掲げる「楽しい買物を、増やす」というビジョンを実現するためにも、重要な価値観、未来はきちんとチームで共有し、チームで深く深く議論をして、共通認識や文化を作っていきたいですね。(了)