• 株式会社うるる
  • 取締役 NJSS事業部長
  • 渡邉 貴彦

2度の「死の谷」から起死回生。試行錯誤の末に見出した「真に追うべきKPI」の設計法

〜利用企業が増える一方で、チャーンレートが上昇。2度の停滞期から抜け出すべく、試行錯誤した末に見出した「真に追うべきKPI」とは〜

事業を伸ばすため、フェーズに応じて、追うべきKPIをどのように変えていくべきなのだろうか。

2001年に創業し、クラウドワーカーを活用したCGS(Crowd Generated Service)事業を複数展開する、株式会社うるる。

同社が2008年にローンチした、入札情報速報サービス「NJSS(エヌジェス)」は、この12年の間に売上が停滞するという「死の谷」に2度直面したそうだ。

サービスが軌道に乗るまで、とにかく「契約数」を伸ばす戦略を取っていた同社は、値引きキャンペーンにより導入社数を増やしていた一方で、チャーンレートが上昇。契約後や更新時のフォローが不足していたことで、1度目の停滞期に陥ったという。

そこでチーム編成を刷新し、それぞれのチームが追うべきKPIを明確化。加えて「値引きの禁止」や「料金プランの改定」をすることで顧客単価を上げ、再び軌道に乗ったそうだ。

ところが、2018年頃に2度目の停滞期に突入。さらなるKPIの見直しやCS施策を強化した結果、チャーンレートの低下に成功し、年間13.5億円を売り上げる一大事業にまで成長したという。

今回は、同社の取締役で、営業・マーケティング・開発など、NJSSの事業部を統括する渡邉 貴彦さんに、NJSSで経験した2度の停滞期の乗り越え方とKPI見直しのプロセスについて詳しくお伺いした。

「真に追うべきKPIは何か?」を問い続けた、12年間

私は2010年にうるるに入社し、営業や新規事業の開発を担当した後、2019年に取締役に就任しました。現在は、入札情報速報サービス「NJSS」の事業部長として、営業やマーケティング・開発を統括しています。

NJSSは、全国の官公庁・自治体をはじめとした、全国約7,700の公共機関の入札・落札情報を一括検索・管理できる、SaaSモデルのサービスです。

入札情報は、各機関のホームページ上に公示されていますが、それを自分自身で取得しようとすると手間がかかります。それに対して、必要な入札情報を速報で入手できるようにしたのがNJSSです。

2008年にローンチして今年で12年目を迎えますが、2020年3月期には売上が13.5億円に達し、同年6月には利用企業が3,400社を超えるまでに事業を拡大してきました。

でも実は、これまでに2度、いわゆる「死の谷」を経験していて…(笑)。売上の停滞期を乗り越えるため、チーム編成を見直したり、「真に追うべきKPIは何か?」を追求し続けてきました。

そうした試行錯誤を経て、ようやく事業の成長軌道に乗せられたと思っていて。特に、悩みの種であった「チャーンレート」は、この2年で39%改善しました。

「新規受注数」は伸びても売上が増えない。1度目の停滞期に突入

ローンチからしばらくの間は、Web広告やSEOが効いていたこともあり、売上は順調に伸びていました。

しかし、2012年頃から利用企業の数は伸びているにも関わらず、売上が鈍化し始めて…これが1度目の停滞期でしたね。

というのも、事業が軌道に乗るまでは、とにかくお客様の「数」を増やすことを優先していたので、当時追っていたKPIは「新規受注数」だけだったんです。

そのため、営業の際には「導入後1年間は定価の半額で提供します」といった形で、受注のためにディスカウントするという手法を取っていました。

すると新規受注はできるのですが、定価に戻る契約更新のタイミングでチャーンするお客様が増えてしまって。当時は、3〜4名しかいない営業メンバーが、アポ取りから商談、更新時のフォローまで一貫して行っているような状況だったので、契約後や更新時の十分なサポートができていなかったんですね。

実際、契約したけれどログインしたことがなかったり、うまく落札できなかったりして、NJSSの価値を感じられないままにチャーンしてしまうお客様も多くいました。

「値引き禁止」と「料金プランの改定」で、単価の引き上げに成功

この状況から脱するため、まずはチーム編成とKPIを刷新しました。

セールス1人ひとりが一気通貫で担当する体制から、ナーチャリング課、セールス課、コンサル課という機能別の体制に分け、それぞれのKPIとして「商談アポ数」「受注数」「チャーンレート」を置きました。

これによって、契約更新時も丁寧なフォローができるようになり、チャーンを抑えることができてきましたね。

また、値引きラインを検証するため、試しに1ヶ月間だけ30%以上の値引きを禁止してみたんです。そしたら、新規の受注数がほぼ変わらなくて(笑)。半額まで値下げしなくても、売れることがわかりました。

そこでディスカウントの上限値を見直して、年間契約なら30%オフ、半年契約なら20%オフなど、契約期間に合わせて割引率を調整する方法に変更しました。

また契約更新時には「値引き禁止」をルールとして、最悪半額でもいいけれど、まずはしっかり価格交渉をするようにメンバーに伝えました。それでも値引きをする場合は、一部機能に制限をかけさせていただくなど、地道な交渉を重ねましたね。

さらに、顧客の平均単価を引き上げるため、料金プランも見直しました。

というのもNJSSは、最低1ID(※新着案内メールのキーワード設定が5つまで可能なアカウント)あれば利用可能なサービスなので、顧客の従業員数と売上が連動せず、アップセル方式での営業が難しいという背景があったんです。

そこで機能追加を行いながら、料金プランの幅を広げていきました。たとえば、元々は「検索機能」と「新着案件のお知らせ機能」のついた通常プランだけでしたが、「入札案件を管理できる機能」を新たに開発し、通常の上位プランとして用意しました。

さらに、既存ユーザーのチャーン防止を目的として、契約更新をしてくれたお客様に「分析機能」を無料で提供し始めたのですが、これも料金プランのラインナップに加え、最終的に3つのプランにしました。

ただ、料金プランは試行錯誤を繰り返していて、現在はまたプランを一本化しています。

オプション形式にして、こちらが提供できるものをすべて開示した上でお客様に選んでいただく形にすることで、NJSSをうまく活用してもらえたらと考えています。

「短期契約」を受注する動機づけが働き、チャーンレートが再び上昇

こうした一連の取り組みによって、1度目の停滞期を乗り越えることができました。それからしばらくは順調だったのですが、2018年頃から再び売上が鈍化し始めて…。

値引き額を抑えて、上位の料金プランを作ることで顧客単価を上げることはできたのですが、その結果なにが起きたかというと、契約期間がかなり短くなってしまったんです。

この時の反省は、「1ヶ月あたりの単価」をKPIに置き、かつ評価と連動させたことで、評価に直結する短期契約の方を受注するインセンティブが働いてしまったことでした。

この仕組みでは、割引率の低い短期契約を多くとってきた方が、評価が高くなるじゃないですか。一方で、契約期間が短くなったことで一気にまたチャーンレートが上がり、売上が伸びなくなってしまいました。

そこで「新規の契約数」「顧客単価」「契約期間」という3つのKPIを追う形から、シンプルに「受注の総額」を追う形に変えました。

この方針に切り替えてから、営業の仕方も変わり、メンバーのモチベーションも大きく変わっていきましたね。

またセールス以外も、マーケティングであればインサイドセールス(以下、IS)、ISであればフィールドセールス(以下、FS)といったように、次にバトンを渡すチームのKPIも、前のチームが成果指標として持つ体制にしました。

例えば、マーケティングはリード獲得数に加えてアポ獲得数を、ISはアポ獲得数に加えて受注数を追うようなイメージです。こうすることで、チーム間の連携が強化されていきましたね。

さらに、カスタマーサクセスでは「チャーン防止」を主要KPIにしていましたが、NJSSでいう「お客様の成功」は「入札案件を落札できるかどうか」なので、「利用企業が入札できるか否か」をKPIに置きました。

それによって、キックオフやオンボーディング、セミナーや説明動画など、よりNJSSを活用してもらえるようなサポート体制を強化する動きが活発になりましたね。

「売上拡大ツール」から、「落札成功サービス」へ

今年に入ってようやく2度目の停滞期を抜け、NJSSは再び軌道に乗り始めています。事業部の人数も、現在は80名規模まで増えました。

振り返ってみると、やはりフェーズに応じたKPIに変えていったことが、停滞期から脱する転換点になったなと感じていて。今後も、適切なKPIをブラッシュアップしていきたいと考えています。

例えば次は、セールスではLTVが高い傾向にある企業を定義し、その顧客をどれだけ受注まで持っていけるか、といったKPIを考えているところです。

また、組織の体制も柔軟に見直していきたいと思っています。今年の10月からは、ISを「アポを供給する部隊」と「ナーチャリングをする部隊」の2つに分けました。

というのも、公共機関の入札では「資格」が必要とされるので、その取得に時間がかかることで、契約後にお客様のモチベーションが下がってしまうケースがあったんですね。それを防ぐため、ISのナーチャリング部隊で、契約前に資格取得をサポートする体制を作りました。

NJSSは、これまで「売上拡大ツール」として売上を伸ばしてきましたが、入札案件を管理する「業務支援ツール」として活用しているお客様の方が、チャーンレートが低いことがわかってきて。なので、今後は「落札成功サービス」としての価値を高めていきたいと考えています。

また、公共機関と企業をマッチングさせるだけではなく、NJSSで座談会を開いたり、商談ができる機会を創るなど、新しいNJSSの価値を模索していきたいですね。(了)

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