- 株式会社うるる
- 執行役員 fondesk事業管掌
- 脇村 瞬太
プロダクトは「シンプルさ」が命。1年で契約数10倍を実現したfondeskの裏側
〜洗練されたプロダクト設計と、「第一想起」の獲得を目指すマーケティング戦略で指名検索数が1年で30倍に。コロナ禍での急成長を支えた「シンプル思考」とは〜
SaaS市場において、限られたリソースで効率的な事業展開を行うためには、どのような考え方が重要なのだろうか。
2001年に創業し、クラウドワーカーを活用したCGS(Crowd Generated Service)事業を複数展開する、株式会社うるる。
同社が2019年にローンチした、企業における電話の一次取次サービス「fondesk(フォンデスク)」は、コロナ禍によるリモートワーク普及の追い風も受けて、1年で契約ID数が約10倍に増加したという。
その成長の背景には、「シンプル思考」を軸にしたプロダクト設計や、「指名買い」を促進するマーケティング戦略が大きく寄与したそうだ。
fondesk事業の管掌役員である脇村 瞬太さんは「プロダクトのシンプルさを追求したからこそ、小規模のチームでも大きな成果の創出が可能になった」と話す。
今回は脇村さんに、事業開発において大切にされている思想や、事業成長に寄与した具体的な取り組み内容について詳しくお伺いした。
無駄をなくし「シンプルさ」を追求した、電話代行サービスを開始
僕は、2011年にうるるに入社して7年ほど新規事業開発を担当し、現在はfondeskの管掌役員として主にPRやマーケティング、人材育成などを担っています。
fondeskはオペレーターが企業の電話受付を代行して、受電内容をチャットツールやメールで共有するサービスです。これによってオフィスでの一次対応が不要になるので、社員やスタッフの方は業務に集中できますし、内容を把握した上で折り返すことができるようになります。
これまでも同様のサービスはありましたが、fondeskの特徴は「いたってシンプルなプロダクト設計」にあります。
5分ほどのWeb申し込みですぐに利用を開始できますし、料金体系は月額1万円の基本プランのみ、オペレーターのトーク内容は一律でカスタムは受けていません。また、サービスの利用設定もお客様自身にしていただき、まずは14日間の無料トライアルで使用感を確認していただくといった具合です。
このシンプルな設計は、かつてアウトバウンド特化型の電話代行サービス「フレックスコール」を運営していた時の経験から生まれました。
フレックスコールは受託型のサービスで、トークスクリプトは複数用意する必要がありましたし、コールセンター経験者でも業務の難易度が高くて、人材の採用や育成に苦労していました。また、お客様の要望を優先するあまり、スピード感のある成長ができていなくて。結果的にサービスはクローズしました。
一方で、同時期にChatworkさんと展開していた「サブスクリプション型の電話代行サービス」は順調に伸びていた。
そこから同サービスを基に「fondesk」として自社開発を進めることになり、最初にメンバー全員でプロダクト観やチームの在り方を話し合って決めたのが、フレックスコールでうまく行かなかった部分を削ぎ落とした「シンプルさの追求」でした。
本質的なペインに特化した設計により、契約数が1年で10倍に成長
fondeskの開発にあたっては、お客様のペインに特化したシンプルなサービス設計を目指すため、ユーザーインタビューを実施しました。
その際に、ある方から「営業電話の対応に悩まされて社長の指示で留守電にしていたものの、重要な電話を聞き逃しているかもしれないと、夜な夜な留守電を聞き直していた」というエピソードを伺って。
そこから気付いたのが、多くの方が「不要な電話は無視したい」と感じながらも、「必要な電話は折り返したい」「企業として誠実に対応したいので、機械ではなく人に電話を受けてもらいたい」という葛藤を抱えているということでした。
このペインをどうやって解消したら良いかと考えて、担当者の不在と折り返しの旨を伝えるだけの「一次取次に特化したサービス」に行き着きました。
このようにサービス内容がシンプルだとお客様の利便性向上に繋がりますし、元々カスタムできないことを謳っているので期待値がずれることもなく、契約解除やクレームは非常に少ないですね。
また、オペレーターの業務もシンプルになったことで、業務効率を上げながら人材定着率を安定させることができました。
このような設計にしていたからこそ、小規模なチームでもコロナ禍による急激な需要拡大に対応できましたし、契約ID数を1年で10倍にまで成長させることができたのだと感じています。
電話代行の市場認知を獲得するため、「記事広告」で世界観を訴求
また、2019年2月のリリース当初から取り組んできた「第一想起の獲得」も、この急成長に寄与しています。
第一想起の獲得を目指した理由は、電話代行サービスは何十年も前から存在していたにも関わらず、具体的なサービス名を認知している人が少なく、後発であっても認知獲得のチャンスがある市場だと感じたからです。
実際、「電話代行」の検索ボリュームは少なく、顧客獲得をするには検索ワードの総量を増やす必要がありました。そのため、まず業界や自社の認知拡大を目的に「記事広告」の施策に着手しました。
具体的には、KPIを指名検索数と置いて、「業務効率化」「DX」などの社会的なテーマと紐づけた内容で3ヶ月ごとに記事広告を出稿しました。さらに、記事と同じ素材やキーワードを盛り込んだ動画やコンテンツを制作して、リード獲得に活用していきました。
これは、ビズリーチさんやラクスルさんがお話しされていた「数ヶ月サイクルのテレビCMでサービス認知の『山』をつくり、同じ素材を転用したコンテンツで継続的に接点を設けることで、認知を引き上げていく」という手法を参考に、記事広告に応用した形です。
僕たちがこの手法を選択した背景には、toCと同様にtoBでも「指名買い」が増えていくだろうという考えがありました。
たとえば多くの企業で導入されているSlackは、価格や機能だけで見れば類似サービスと大きな差は無くても、拡張性の高さや「今後も良くなりそうだ」という未来への期待も込めて選ばれていると思うんですね。
fondeskも企業の業務フローに組み込んで長年使っていただくものなので、プロダクトの思想や目指す世界観を知った上で検討していただけて、指名買いに繋がりやすいという点で記事広告がマッチしていると思ったんです。
「記事広告はパフォーマンスが悪い」と言われることもありますが、長期視点で捉えるとROIが十分に見合う施策だと感じていて。2019年3月に公開したLIGさんの記事では100件以上の契約に繋がったので、実際の投資効果も高かったですね。
もし仮に、「ダイレクトレスポンス型でバナーを見せて契約してもらう」といった手法を取っていたら、今の契約数までは伸びていなかっただろうなと思います。
「指名買い」に繋がるユーザー紹介の促進で、成長がさらに加速
そして、記事広告の施策と併行して、「紹介」を軸にしたマーケティングも展開していきました。
というのも、toCでは主流ですが、toBにおいても「ダークソーシャル(※)」の影響力が増し、知人同士の直接的な口コミでサービス認知が広がる傾向が高まっていたからです。
※ダークソーシャル…FacebookやTwitterのようなオープンなソーシャルメディアと対比される、MessengerやLINEなどのクローズドな空間でのコミュニケーションのこと
まず、活用事例の創出と「事例記事」の作成に注力したことで、僕たちがユーザー理解を深めると共に、すでにfondeskを活用いただいている方が他企業の方にサービスを紹介しやすくなるという、良い循環を生むことができました。その事例コンテンツは様々なWebマーケティングにも転用しています。
さらに、40〜50社ほどと「紹介パートナープログラム」を実施していて、パートナーの方々に「紹介コード」を発行しているのですが、新規ユーザーの約3割の方が利用してくださっています。
具体的には、新規ユーザーさんは5,000円割引し、紹介パートナーさんは最大12ヶ月、月額の20%をバックするという内容なのですが、長期的に見てもSNS広告と比べてコストが低いですし、予算が少ない新規事業としては最良の戦い方だと思っていますね。
このような紹介を軸にしたマーケティングは、リードタイムが短く、解約率が低いなどのメリットもありますが、直接お客様とコミュニケーションを取るタイミングがないという難しさも感じています。
そこで、Twitterを活用して「fondesk」というワードをつぶいた方にはすべて僕が返信するなど、リアルタイムなコミュニケーションを心がけています。
アナログな方法ですが、その場で商談に繋がるケースもあるので、パフォーマンスが良すぎてやらない理由はないと思っていますね(笑)。
社会のオフィスレス・電話レスの波にのり、市場で1位を狙いたい
これらの一連の施策を行ってきた結果、リリースから1年で指名検索数は約30倍になり、他社サービスと比較せずに「指名買い」してくださった方の割合も6割を超えています。
初期にプロダクト設計のシンプルさにこだわったことで、フルリモート体制に変わっても事業を拡張し続けることができましたし、さらに営業プロセスやオペレーター採用の効率化など社内の改革も進めることができました。
今後はやはり、この電話代行という領域で1位を目指したいです。たとえば、コワーキングスペースを運営する企業さんと連携して、「会社を作る瞬間からfondeskを導入してもらう」といった世界観を実現することで、より多くの方にサービスを活用していただけたら嬉しいですね。
また中長期的な目線では、今後もオフィスレス・電話レスの流れは進むと思うので、地方企業や非IT企業の方々にも活用いただき、事業の競争力を高める一翼を担えるような貢献をしていきたいです。(了)