- オイシックス・ラ・大地株式会社
- HR本部 成長推進室 成長サポートセクション マネージャー
- 佐貫 敬史
3社統合でどう変わった? オイシックス・ラ・大地が組織のシナジーを最大化する方法
〜2度の経営統合を経て、オイシックス・ラ・大地はどのような変貌を遂げたのか? 「駆け込み寺」による社員の不安解消や、体感で理念を浸透させた融合プロセスを公開〜
異なるカルチャーをもつ組織同士が経営統合で同じ会社となる…こんな場合に、どのように組織を融合させ、シナジーを高めていけば良いのだろうか。
2017年10月、2018年10月の2度にわたり、経営統合を経験したオイシックス・ラ・大地株式会社。現在、700名を超える社員を有する同社は、今こそ統合によるシナジーを生み出すフェーズに入っている。
その融合をスムーズにしたのは、「駆け込み寺」などを通じた社員の不安解消や、新たに制定した企業理念「これからの食卓、これからの畑」を浸透させる体感研修といった、現場主導の施策だ。
さらに現在は、それぞれの強みを生かす成長支援や、早期戦力化のためのオンボーディングにも注力しているという。
今回は、大地を守る会出身でオンボーディング担当の鷲尾 早紀さんと、らでぃっしゅぼーや出身で成長支援を担当する佐貫 敬史さんに、組織統合のプロセスから現在の人事施策に至るまで、詳しくお伺いした。
組織のカルチャー統合を支えた「駆け込み寺」と経営の仕掛け
鷲尾 オイシックス・ラ・大地は、事業の成長を目指して、これまでに2度の経営統合を経験しています。
私は大地を守る会の出身で、2017年10月にオイシックス、2018年10月にらでぃっしゅぼーやとの2回の経営統合を経験しました。元々は営業や広報を担当していましたが、1度目の統合のタイミングで人事に異動し、現在は中途のオンボーディングを主に担当しています。
佐貫 私はらでぃっしゅぼーやの出身で、新卒で入社してから4年半ほど採用・教育周りを担当した後、EC運営やカタログ販売も4年ほど経験しました。2018年10月に、オイシックスドット大地(※当時)と経営統合をしたタイミングで人事に戻り、今はメンバーの成長支援を主に担当しています。
同じ領域にいても、それぞれ異なる文化をもつ3つの事業会社が統合するにあたり、当時は様々な反応がありました。統合をチャンスと捉えて初めから前向きな人もいれば、自分たちのブランドは今後どうなってしまうんだろう…と不安を覚える人もいました。
私自身、最初に統合するという事実を聞いた時はすごく衝撃を受けたのですが、目指している世界観が近かったり、一緒に働く人のことがわかってくると、そのような心配も溶けてきて。
▼左:鷲尾さん、右:佐貫さん
経営陣と社員の対話の機会として飲み会やママ社員向けのランチ会を頻繁に開催したり、社員主導で統合イベントが企画されたりなど、お互いを知るプロセスや仕掛けが数多くありました。
統合発表から正式統合までの10カ月近くにわたり、経営と現場の双方でこうした機会を作っていたと思います。
色々なことが同時並行に進んでいた中で、統合に向けた大きな活動としては、ステアリングコミッティ(※)による分科会、絶対すぐやる委員会(通称「ZSY」)、「駆け込み寺」の3つがありました。
※大規模なプロジェクトの利害調整や意思決定を行う、関係者の代表で構成する運営委員会
分科会では、各事業の関係者が集まって、事業統合をどのように行っていくかを議論したり、ZSYでは、それぞれの事業会社から有志で集まった30名が、新たな行動規範の策定や浸透、体現などを推進していましたね。
鷲尾 私は、経営統合を2回経験しましたが、いずれの時も「駆け込み寺」担当を務めました。経営と現場で対話する機会を設けていたとはいえ、統合にあたっての不安や懸念がある時に、気軽に相談できる場所を作りたいという思いから作られたものです。
まずはこちらから積極的に声を拾いにいくことから始めて、それを社長の高島に共有し、フィードバックを社員に伝える、という役割を担っていました。
こうした経営と現場、それぞれの施策を通じて、各自が何かしら自分なりに統合に関して考える機会を得られたことで、段々と融合ができたなと感じています。
新たに制定した企業理念は、「体験」を通じて浸透させる
鷲尾 統合にあたり、企業理念や行動規範、人事制度なども刷新しました。どちらかのやり方に合わせるのではなく「お互いの良いところを採用し、新しい制度をつくる」という考え方で進めてきましたね。
企業理念については、「これからの食卓、これからの畑」を新たに制定しました。これを全社に浸透させるため、「食卓」と「畑」に関する2種類の体感研修を実施しています。
たとえば「畑の体感研修」では、全社員が年に1回、いずれかの生産者さんの畑に行って、実際にお手伝いをしたり、先進的な農業を見学させていただいたりしています。
また「食卓の体感研修」は、Oisix、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやそれぞれのお客様を、サービス利用の開始時期や購入頻度などから目的に応じてオフィスにお招きし、四半期に一度、1時間ほどインタビューさせていただくものです。
実際に商品・サービスをどのように利用しているかや、それぞれの良いところ、改善してほしいところなどをお伺いしています。
佐貫 以前、らでぃっしゅぼーやにいた頃は、このようにお客様の声を直接聴く機会はなかなかなかったのですが、オイシックスが元々大事にしていた「お客様の声に基づいていかに問題解決できるか」という文化から始まりました。自分たちのサービスの価値をよりリアルに感じることができ、とてもいい機会だと感じています。
企業理念はやはり、頭で理解するよりも、肌身で体感するプロセスを経る方が自分ごと化するんですよね。また新しく入ってきた方々にとっては、これらの体験を通じて「この会社に入ったんだな」と強烈に感じられる機会になりますし、それによって会社への帰属意識も醸成されるように思います。
また、7つの行動規範として制定された「ORDism」は、表彰や評価の指標に組み込まれることで、その浸透が促進しています。
▼同社の行動規範「ORDism」
特に、行動規範を体現した人を、週次で「Best ORDist」として2〜3組以上は表彰し続けているので、普段から意識するようになりますし、どれくらいの体現レベルを目指すのかの共通認識も徐々にできてきたように思います。
全社員に「問題解決講座」を実施し、社内の共通言語をつくる
佐貫 社員共通の研修としては、理念浸透だけでなく、スキル習得を目的としたものもあります。そのメインとなるのが、問題解決講座です。
これは、マッキンゼー出身の社長の高島や執行役員の高橋が、ロジカルシンキングのメソッドを自社流にアレンジして作ったもので、もともとオイシックス社内で実施されている研修でした。
統合後に、それをブラッシュアップして社内で講師を募り、全社必修にしました。今は、問題解決のステップに沿った全10回の講座内容で、各回90分で構成されています。また理解度を測るために、中間と最終の2回に分けて、テストを実施しています。
仕事をする中で何かしらの解決すべき問題があった時に、それに対していきなり手法論の発想で考えてしまったり、今までの経験をもとに同じような手法で解こうとしがちじゃないですか。
しかし、本当に達成したいことを実現するためには、今目の前にある粒感の大きな問題を分解して、解決すべき問題を特定し、それに対して本当に有効な打ち手は何かを考えるスキルが必要です。
その「問題を分解して特定する」「特定した問題に対する打ち手を広げて、より効果的な打ち手を特定する」という、2段階のスキルをトレーニングする内容になっています。
この研修を全社員に受けてもらうことで、「今私たちが解かないといけない問題って何だっけ?」「この方法をもう少し掘り下げて考えると、どうなるんだっけ?」といった会話が、普段から出るようになっていますね。
社内に「共通言語」ができたことで、行きたいところに、より早く到達するための土台が作れてきたかなと思います。
「5つの視点」で育成プランを作り、オンボーディングを強化
鷲尾 こうして組織の土台を整えてきた一方で、中途入社された方のオンボーディングには全社視点で注力できておらず、各上司に任されてしまっていました。育成責任者が明確ではなく、思ったように立ち上がりがうまくいかないケースもありました。
そこで2019年の10月から、私が専任としてオンボーディングの仕組みを本格的に整え始めました。
入社前から入社後3ヶ月間のプログラムになっていますが、企業理念や行動規範の浸透、スキル研修、上司との1on1、人事とのヒアリングなどを実施しています。
具体的には、入社する前から自分が働くイメージを持っていただけるよう、上司になる人との面談や、チームメンバーと交流する機会を作っています。そして入社後は、全社共通の体感研修や問題解決講座に加えて、社長の高島とランチする機会や、各事業部のブランド研修なども行っています。
特に大きく変わったのは、本人が入社する前に、育成責任者が3ヶ月の育成プランを作成するようにしたことです。
ただ、最初から「書いてください」と言っても、どのような視点で書くべきかわからなかったり、書く粒度に差があったりしたので、今は「5つの視点」というガイドラインを作り、確認するフローにしています。
▼「5つの視点」
もし内容に不足があれば「もう少し詳しく記載してほしい」といったやり取りを育成責任者として、メンバーの3ヶ月後、半年後に期待する姿が明確になるように作成してもらっていますね。
また、オンボーディング期間は、育成責任者、メンバーそれぞれと人事が月1回のヒアリングを行っています。自分のミッションが明確かどうか、何か困っていることはないか、といった確認をしつつ、気になる様子があれば上司に伝えて解決に動きます。
今後はさらに、早期に能力を発揮していただき、その成長角度を上げていくことにフォーカスしたいと思っていて。「立ち上がりが成功している状態」とは何かをより定量的に定義し、そのためにどのようなスキル・Will・経験が必要なのかを入社した人のレイヤーに応じて設計していく予定です。
オンボーディング自体も常に新しいフェーズへと進化させていくことに、私自身もチャレンジし続けたいですね。
1人ひとりの「強み」を伸ばし、成長機会を生み出していきたい
佐貫 理念への共感や、行動規範の自分ごと化、そして問題解決のベーススキルが身についた次のステップとしては、個々人でどういう強みをより磨いていくかだと思っていて。
統合したことによるシナジーをより高めていくためには、強みを伸ばす成長支援が重要だと思っています。
実際に今までを振り返ってみると、統合におけるいい意味でのカオスな環境において、大きく成長したメンバーが何人もいるんですね。
例えば、らでぃっしゅぼーやとの統合時、出向希望者の募集に手を挙げて、過去の経験や本人のWillをふまえて新しい役割にアサインされた人。また、統合前までメンバーレイヤーだったけれど、統合前後のタイミングでミドルマネジメントにアサインされた中堅若手の人々。
いずれも大きな環境変化の中で、修羅場を経験して飛躍的に成長したのですが、共通しているのは「強みが自己・他者ともに認識されていること」と「それを磨く機会にアサインされること」でした。
この「強みの認識」の背景には、1on1の機会を活用して積極的に内省したり、自ら強みを言語化したりする積み重ねがあると思っていて。そういう人ほど新しい機会に巡り会いやすいですし、そのチャンスをうまく掴んで伸びているなと思います。
オイシックス・ラ・大地全体として、個人がWillを持ってスキルを磨き、そこに機会がマッチすることで、さらに成長する。そのサイクルが組織風土にありますが、今後のHRではその部分をより強く推進していくことで、成長する組織を作っていきたいと思います。(了)