- LINE株式会社
- LINE STYLEチーム マネージャー
- 笠岡 司
カルチャー浸透は「目的」ではない。「LINE STYLE」を策定から2年で進化させた理由
〜「LINEらしさ」をどれほど体現しても、WOWなアウトプットがなければ意味がない。グローバル全8,000人超えのLINE社員共通のスタイルと、浸透プロセスを公開〜
社員共通の価値観である「バリュー」。その浸透を進める上で、活動自体が目的化してしまった経験はないだろうか?
2011年に6月にローンチ後、アジアを中心として、グローバルMAU約1億6千万人を有するコミュニケーションアプリ「LINE」。
同サービスを運営するLINE株式会社では、組織全体に共通する「LINEらしいやり方・考え方」を示すため、2017年1月に「LINE STYLE」を策定。
これにより「チームワーク」「スピード」といったキーワードで共通の価値観が明確にされた一方で、経営陣の込めた意図がきちんと社員に伝わっていない、という課題感があったそうだ。
そこで約半年かけて、経営陣が大切にしている思想を改めて整理し、より伝わりやすい文言へとアップデート。2019年1月に、11の項目からなる「LINE STYLE 2.0」を制定した。
▼同社の「LINE STYLE 2.0」(※詳しくはこちらをご覧ください)
その浸透を担うLINE STYLEチームでは、認知・理解・実践の3フェーズにわけて、施策を実行。認知のためのステッカーや、理解を促すカルチャーブック、そして社内報を制作。さらに、自分ごととしてLINE STYLEの理解を深めてもらうため、半年かけて100回以上のワークショップを実施したという。
LINE STYLEチームのマネージャーを務める笠岡さんは、「LINE STYLEの浸透は、あくまで『WOW = No.1(※)』を実現するための手段」だと語る。
※WOW= No.1:「ユーザーを感動させる初めての体験」「思わず友だちに教えたくなるような驚き」として定義される「WOW」と、そのために必須な「No.1」を目指すという、同社の価値基準。
今回は笠岡さんと同チームの河村さんに、LINE STYLE2.0の策定背景から浸透施策の全容について、詳しくお伺いした。
組織の拡大に対して、「LINEらしいやり方・考え方」を定義
河村 私は今から10年前、まだLINEのサービスが誕生していなかった頃に入社し、以来広報を担当しています。現在は、社内広報と採用広報の業務に加えて、LINE STYLEチームにも所属しています。
笠岡 私は2017年2月にLINEに入社し、人材開発や組織開発を担当してきました。現在は、LINE STYLEチームのマネージャーも兼務しています。
LINE STYLEチームは、人事、PR、総務などの複数部署や、子会社、海外拠点から集まった7名のメンバーで構成されており、「LINE STYLE」の浸透をミッションとしています。
LINE STYLEは「行動規範」のような堅いものではなく、簡単にいえば「LINEらしいやり方・考え方」といった私たちのスタイルです。
▼左:笠岡さん、右:河村さん
河村 元々、これを定義した背景には、LINEが生まれた当時から暗黙知としてあった「LINEらしさ」にギャップが生まれてきたことがありました。
というのも、社名を「LINE株式会社」に商号変更した2013年と今を比べると、東京本社だけでも社員数が4倍になりました。また、海外の子会社を含むグループ全体では、8,217人(2019年10月末時点)の社員が在籍しています。
そうした中、1人ひとりの役割や属性が多様化してきたことで、社員の考え方や仕事のやり方が、以前とは異なってきていました。
笠岡 また「CLOSING THE DISTANCE」というミッションの実現には、私たちの価値基準である「WOW = No.1」を生み出す必要があります。そのWOWやNo.1を追求するためにも、LINEらしい考え方ややり方を言語化する必要があったんです。
そこで2017年1月に、経営陣が大切にしたい価値観を改めて言語化する形で「LINE STYLE」が作られました。その2年後、2019年1月には、最初のLINE STYLE(以下、LINE STYLE 1.0)をバージョンアップして「LINE STYLE 2.0」に刷新しました。
「キーワード」では伝わらない。LINE STYLEをバージョンアップ
笠岡 2017年に策定したLINE STYLE1.0は、NEEDS、SPEED、DETAIL、DATA、TEAMWORK、ENJOYという6つのキーワードでした。
これらには経営陣の考える「LINEらしさ」が表現されていたのですが、その抽象度が高かったため、なかなか社員に伝わりきらなくて…。
WOWの責任者であるCWO(Chief WOW Officer)が、そうした状況に危機感を抱き、2018年の後半からLINE STYLEの改定に動き始めました。
まずは、経営陣とLINE STYLEチームで集まり、CWOの作成したLINE STYLE2.0の素案を元にして、経営の意図が社員に正しく伝わるような文言案を考えました。そして議論をしながら、その文言をブラッシュアップしていきました。
たとえば「1% Problem-finding, 99% Solution-making(「できない」から「できる」をつくる)」という項目については、私たちは「どちらも大切だから、数字を消しませんか?」と提案したんですね。
それに対して、経営陣から「Solution-makingが大事であることを強調して伝えたい」というフィードバックをもらい、対比する数値をそのまま残すことにしました。
このように、ひとつの言葉、ひとつの数字に至るまで「LINEらしさ」とは何かについて議論を重ねました。さらに、グローバル間で認識の齟齬が生まれないよう、英語と日本語のニュアンスを海外拠点とも確認した上で、2019年1月に「LINE STYLE 2.0」が完成しました。
笠岡 「WOW」や「No.1」を追求していく上で、何が正解かは誰にもわかりません。だからこそ、このアップデートの過程では、経営陣が大切にしている思想をきちんと汲み取るように意識していましたね。
2.0の浸透のため、認知・理解・実践の3フェーズで施策を実行
河村 LINE STYLE2.0を浸透させるため、「認知→理解→実践」の3つのフェーズにわけて施策を考え、実行していきました。
はじめに認知を獲得するため、LINE STYLEや「WOW = No.1」のロゴステッカーを作りました。11のLINE STYLEを記載したシールは、社員証のサイズに合わせて作っているので、貼りたい人は社員証の裏に貼れるようになっています。
他にもLINEスタイルのPCの壁紙を作ったりして、LINE STYLEが目に触れる機会を増やしていきました。
次に、理解を促進するため「LINE STYLE BOOK」というカルチャーブックを制作し、全社員に配布しました。イラストや説明文だけでなく、改定にあたっての経営陣の対談なども載せています。
また、職種によってもLINE STYLEの捉え方が異なってくるため、様々な部署のリーダーに「私のSTYLE」をインタビューする連載を企画しました。この記事は、社内報やオウンドメディアで発信しています。
「あなたはLINE STYLEをどう捉えていますか?」「どういう部分を大事にしていますか?」といった質問で、各職種のSTYLEを深掘るような内容になっています。
たとえば、事業部長の対談では「事業企画のLINE STYLEって何だろう」ということをテーマに語ってもらいましたね。他にも、エンジニアやビジネスサイド、バックオフィスなど、様々な部署のメンバーを取り上げています。
笠岡 やはり職種が違うと、見方も変わるじゃないですか。LINE STYLEの内容はわかったけれど、自分の職種ではどう考えたらいいんだろう、といった場合の、理解の助けになっていると思います。
自分ごと化を深めるため、ワークショップを100回以上開催
笠岡 自分ごととしての理解をさらに深めるため、全社員を対象としたワークショップを、2019年1月から半年かけて延べ100回ほど実施しました。
新しく入ってくる社員に対しては、入社月での合同ワークショップを行っています。
一方、現社員向けのワークショップは、各事業の役員やマネージャーにどのチーム単位で実施するのが最適かを相談した上で、少ないところは5名から、最大では40〜50名の規模で実施しました。
その内容は、ミッションやWOWを実現するための文脈を踏まえて、LINE STYLEの意義を話した上で、まず自らの活動を振り返りながら、WOWを自分ごと化していくワークを行っています。
「最近、どんなWOWがありましたか?」「みなさんの仕事におけるWOWって何ですか?」といった問いかけから始めて、具体的にWOWを深めていくんです。
たとえばマーケティング担当であれば、「今度行うキャンペーンでWOWと思ってもらうにはどのような成果が必要か」「それはどこの比較でNo.1なのか」を考えてもらう、といった形です。
その上で、11のLINE STYLEの内、職種によって特色の出やすい4つのSTYLEに対しては、自身の業務を思い浮かべて、どのような仕事のやり方になるかを考えてもらうワークをしています。
たとえば「Users Rule(全ての原点は、ユーザーニーズ)」では、私の場合「全職種の新任マネージャーと1ヵ月行動を共にしてみる」といった感じですね。
残りの7つのSTYLEに関しては職種による差があまり出ないので、実践できているかどうかを自己採点する形で振り返ってもらっています。
河村 私も、広報チームのメンバーと一緒にワークショップを受けたのですが、改めてLINE STYLEについて1時間しっかり考えるという時間が取れたことで、深く考えるきっかけになりましたね。
LINE STYLEの体現よりも「WOW=No.1の実現」が最上位
河村 2020年からは、LINE STYLEの実践を目的とした施策として「GLOBAL WOW PROJECT AWARDS」の開催を始めました。
これは、1年で最もWOWだったプロジェクトを表彰するアワードです。グローバルも含めたLINEグループ全体から役員によってWOWなプロジェクトが推薦され、最終選考に残ったプロジェクトチームは東京にある本社でプレゼンテーションを行います。
その様子が世界各国にライブ配信され、グローバル全社員からの投票で「WOW OF THE YEAR」が決定されています。
笠岡 私たちが気をつけているのは、カルチャー浸透が「目的」になってはいけない、ということです。全社員がWOWやNo.1を追求することが重要なので、LINE STYLEをどれだけ体現しても、それを生み出せなければ意味がないんですよね。
なので、最もカルチャーを体現した人ではなく、最もWOWだったプロジェクトを表彰する形でアワードを設計しています。2019年は、韓国のエンジニアチームのプロジェクトが「WOW OF THE YEAR」に輝きました。
また、半期ごとの「360度フィードバック」では、LINE STYLEの項目に基づいてレビューされるので、自らの実践を振り返る材料になっています。
誰からレビューをもらうかは、本人が推薦をした上で、上長が最終確定をする形です。1人あたりのレビュワーは最低3人以上をルールにしていますが、中には、20〜30人に書いてもらう人もいますね。
具体的には、よく当てはまる・当てはまる・あまり当てはまらない・当てはまらないの4段階による各STYLEのスコアと、Continue(続けてほしいこと)とStart(新しく始めてほしいこと)についての総合コメントを記入する形になっています。
これは人事の管轄で、評価の参考材料としても活用されています。私は、スコアの絶対値より、この波形によって自分の傾向を掴むことが大切だと思っていて。
というのも、誰しもが、11あるLINE STYLEの中で、継続して発展させていく部分と、努力をして改善すべき部分を持っています。
たとえば私の場合は、「Stay a Step Ahead」は結構得意だけど、「Perfect Details」や「Always Data-driven」については弱いな、といった傾向がわかります(笑)。
▼実際の「360度フィードバック」の結果
自らの仕事のやり方・考え方を振り返って、「ここを伸ばしていけば、もしくはここを改善すれば、もっとWOWに近づくかもしれない」といった視点を持つことが大事だと思っています。
組織サーベイで状態を測り、注力すべきフェーズを見極めていく
河村 LINE STYLEの浸透を1年かけて推進してきて、今では「それはWOWだね」「ちょっとWOWっぽくないからもう少し考えよう」といった会話が、社員の日常会話でも自然に出てくるようになりましたね。
社員証やPCにステッカーを貼っている人も目にすることも多いですし、外部イベントなどでLINE STYLEについて自ら発信している社員も多くいます。
振り返ってみると、認知・理解・体現のどの施策が欠けても、うまくいかなかったかなと思っていて。日常的に目に触れることで認知をしてもらい、社内報やワークショップを通じて自分ごととしての理解を深めたからこそかなと思います。
笠岡 一方で、それらが「押し付け」にならないようにも気をつけています。
社員証の裏に最初からLINE STYLEのステッカーが貼ってあると、押し付けがましいじゃないですか。
ステッカーを貼りたい人は貼れる、壁紙を設定したい人は設定できる。ワークショップであっても「うちの部署は今そのタイミングじゃないかも」という相談を受けたら実施時期を遅らせますし、それを強制するのは違うと思っていますね。
今、LINE STYLE浸透の取り組みが一巡したところですが、どこまで深められるかは、3年くらいのスパンで見る必要があると思っています。その参考指標として、昨年の10月から「従業員サーベイ」でも、LINE STYLEのことを聞き始めました。
サーベイでは、LINE STYLEの認知・理解・実践それぞれに対して、「できているかどうか」を聞くような設問にしていて。
第1回のサーベイでは「認知はしているけど、理解できていない層」が一定数いることが可視化されたので、2020年は「理解」のところに一旦戻って、より注力していきたいと考えています。
LINE STYLEの浸透が、新しいプラットフォームや世界を変えるようなWOWなサービスの創出につながると思っていますし、その実現をめざして今後も活動していきたいと思います。(了)