「ピープルアナリティクス」とは? Google、Microsoftに学ぶ「職場の人間科学」実践法
「ピープルアナリティクス」とは、社員や組織に関する「データ」を収集・分析し、組織づくりに生かす組織開発の手法です。
ここ数年で、急速に広まっているキーワードですね。他にも、「HR アナリティクス」「タレントアナリティクス」と呼ばれることもあります。
ピープルアナリティクス専門の人材採用も加速しています。
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Googleでは、社員の採用から育成、さらに退職の防止を考えるにあたり、ピープルアナリティクスをその基礎として捉えています。
例えば…
- すぐれたパフォーマーを流出させてはいないか?
- その理由は?
- 今、新たな組織戦略へ踏み出すかどうか?
といった重大な意思決定を行うべきケースにおいて、従来は感情や直感がベースの「終わりのない議論」を行っていました。
しかし現在では、事実と科学に基づく分析を行い、より効率的に、公正な意思決定を導いているのです。
参照:re:Work
▼Googleの「People Analyst」の求人
またMicrosoftでは、従業員のキャリア・プログラムの中で幅広くピープルアナリティクスを用いてきました。
例えば…
- 従業員のレベルに応じたキャリアのサポートをどのように行うか?
- 新しい社員の受け入れにあたり、どのようなオンボーディングを行うことが有効か?
- 社内カルチャーが変化する中で、社内施策の進捗(進歩)をどのように計測できるか?
といった問いに答えるようなケースで、データを用いた意思決定を実行しています。
参照:re:Work
このように、ピープルアナリティクスを用いることで、あらゆる人事戦略における「正しい意思決定」を行うスピードを加速することができます。
今回はこのピープルアナリティクスに関して、その導入のメリットや、分析すべきデータの具体例を、事例と併せて紹介いたします。
ピープルアナリティクスを導入することのメリットとは?
では、具体的にどのようなシーンでピープルアナリティクスが役立つのでしょうか? 例えば、下記のような例が挙げられます。
- 組織に合った良い人材を、いち早く採用する
- 公正な報酬体系を作る
- 従業員のポテンシャルを発揮させる
- 離職率を下げる
- ハイパフォーマーを生み出す要素を理解する
- 若手のポテンシャルを引き出し、育成する
- 最適な人材配置を実現する
上記のような成果を得るためには、一般的に以下の3ステップに沿ってピープルアナリティクスを実行することになります。
Step1: データを収集する(ための仕組みを作る)
Step2: 集めたデータをモニタリングし、分析する
Step3: 分析を元に仮説を立て、施策を実行する(分析モデルを構築する)
とは言え、実際にどのようなデータを集め、どうやって分析すればよいのかはなかなかイメージがしづらいですよね。
そこでここからは、 ①採用 ②育成 ③組織づくり(社員の定着率を上げる) のそれぞれのフェーズで、具体的に分析すべき数値や、事例を紹介していきたいと思います。
①採用:自社に合った人材を効率的に獲得できているか?
採用に関するデータを分析すると、無意識のバイアスを排除して、効率的な採用を行うことができるようになります。
分析対象となるデータには、以下のようなものが挙げられます。
- 求人の公開から、採用までにかかっている時間
- 新入社員の属性(前職や、採用経路など)
- ステップごとの選考通過率
- 内定承諾率
- リファラル採用の割合
- 1名を採用するのにかかっているコスト
例えば採用決定率が下がっているとすると、自社のブランド力や魅力度が下がっている可能性がありますので、その原因を突き止めることが必要になります。
名古屋発のITベンチャー企業、株式会社エイチームは、その地理的なハードルもあり、以前は内定承諾率は約50%に留まっていたそうです。
そこで、「告白の成功率」をヒントに内定承諾率と選考期間の相関を分析。すると、選考開始からある一定のタイミングを超えた場合、一気に入社率が下がる傾向を発見しました。
どうしても地理的な問題は解消できないので、目をつけたのが選考期間でした。
(中略)「告白の成功率」でググってみたところ、「出会ってから3ヶ月以内に告白すると、成功率が高くなる」という記事を見つけて。
もしかすると、これは採用においても活かせるかもしれない、そう思って昨年の採用データを見てみました。
すると、適性検査を受けた時点から経過期間が3ヶ月以内だと、内定承諾率は約70%でしたが、4ヶ月を超えると約20%と著しく下がることがわかりました。
②育成:従業員が、自社で成長していく未来を描けているか?
従業員の育成や、キャリア形成のサポートのためにもデータを活用できます。
- 従業員の昇格・昇給率
- 社内のトレーニング制度などの利用率
- 育成やトレーニングに対する社員満足度
従業員がこの会社で成長していく未来を描けているかどうか、また実際に成長できているかどうかを把握するために、上記の数字は役立ちます。
株式会社ディー・エヌ・エーでは、2015年より「キャリアマネジメントアンケート」を導入し、社員の状況を漏れなく把握するための定点観測を行っています。
今年の8月でいうと、「やりがいを感じている」人が71%で、「能力を活用できている」人が84%です。
この数字をどう捉えているかというと、我々としては、まだ伸びしろがあると思っていて。「時折やりがいを感じている」人が21%いるのですが、「時折しか感じない人がこんなにいるのか…」という感じなんですよね。
個人ベースですと、もともとは点数が高かったのに、だんだん下がってきて最終的には回答しなくなる、というのが一番危ないパターンです。
③組織づくり:従業員の「体験」をより良くし、定着率を上げる
こちらも最近話題になっているキーワードですが、従業員体験を意味する「Employee Experience(EX)」を高めるためにも、データは不可欠です。
参考記事:形だけではない、真の働き方改革はアメリカに学べ!時代遅れの組織を変える3ステップ
まずは組織の状態を可視化し、課題を特定します。それを解決し、より良いEXを実現することで、従業員の満足度を高め、離職率の低下などにつなげることができます。
- 従業員の満足度
- 従業員の幸福度
- eNPS(従業員ロイヤリティ)
- 新入社員の早期退職率
- 優秀層の離職率
- メンバーとマネージャー、それぞれの欠勤率
上記のような数字を分析することで、自社の現状を把握し、課題に対して具体的なアクションを起こすことができます。
年間300人ペースで社員が増え続けるLINE株式会社では、多様なチームが成果を挙げるためのサポートをどう行っていくのか、という課題を抱えていました。
そこで同社では、2017年5月より、高頻度のアンケートを通じて組織の状態を可視化する「従業員向けパルスサーベイ」と「人間関係の診断サーベイ」を導入。
両者をセットで運用することで、チームの変化を早期に認識し、その原因に対しての仮説や改善策が立てやすくなったそうです。
LINEで導入しているパルスサーベイでは、組織風土や上司との人間関係、自己成長といった項目で、「組織の状態」がスコアリングされます。
導入している部門には「スコアの変化に注目してください」と伝えています。
というのも、絶対値が良いに越したことはありませんが、組織によって置かれた環境は異なりますし、LINEでは皆、難しい挑戦に直面しています。
その挑戦をサポートするためには、組織の健康状態の変化を早期に発見し、その原因を特定して、改善につなげていくことが重要だと考えています。