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全員参加の技術の祭典!「自由な開発」で成長スピードを高める、メルカリの組織づくり
〜全社の開発業務を1週間止めて、各自の好きな開発に専念できる「Mercari Hack Week」。急成長を続けるメルカリの、エンジニア組織づくりの全容〜
チーム開発を行う上で、優先度が高いのはあくまでも「事業方針や目標に則ったプロダクト開発」だ。それ故、エンジニア個人として自由に研究・開発する時間を持つことはなかなか難しいのではないだろうか。
そんな中、半年ごとにエンジニアが「自由に」開発できる期間を設けることで、非連続な技術力の成長を後押ししているのが、株式会社メルカリだ。
同社では、少数精鋭だったエンジニア組織が、2年で約3倍までに急増。それに伴って、「個人の裁量が減った」「目標ドリブンになりすぎて、新しい技術の習得が難しい」といった声が挙がり始めていたという。
そこで、開発スケジュールにメリハリをつけることや、新しい技術を検証してプロダクトに還元することを目的に、エンジニアのための技術のお祭り「Mercari Hack Week(以下、Hack Week)」を開催。
Hack Weekには同社のエンジニアほぼ全員に加え、プロダクトマネージャーや人事のメンバーも参加。結果的に100以上のアイデアが生まれ、実際のプロダクト機能に実装されたものもあるという。
今回は、その企画・運営を担うEngineering Officeの村田 隆一さんと、大角 佳代さんに、エンジニア組織のエンゲージメントと成長スピードを高める組織づくりについて、詳しくお伺いした。
※編集部注:本取材は、オンラインで実施しております。
目標ドリブンな開発に、個人の余白を生む「Hack Week」を発案
村田 私は、前職のサイバーエージェントグループやDeNAにて、エンジニアとマネージャーを経験した後、2018年9月にメルカリに入社しました。現在は、エンジニアの組織開発を担うEngineering Officeというチームに所属し、主にエンジニアの採用、育成、制度やカルチャーづくりを担当しています。
大角 私は2018年10月にメルカリに入社し、同じくEngineering Officeに所属しています。主に組織の業務改善や、ブログなどを通じた外部発信、エンジニア組織のカルチャーづくりやエンゲージメント施策を担当しています。
弊社のエンジニア組織では、数年前まで「Be Professional Day」という社内ハッカソンを実施していました。頻度はチームごとに異なりましたが、業務を1〜2日止めて各自の好きな開発ができる機会でした。
村田 しかし、上場した2018年頃から組織が急拡大したことで、その実施が難しくなってきて。「個人の裁量が減った」「柔軟な意思決定がしづらくなった」という声も挙がるようになりました。
また、事業成長のための開発に集中する中で、「目標ドリブン」になり過ぎてしまっていたんですね。そのような状況を変えるため、CTOの名村が発起人となり、エンジニアが自由な開発に専念できる期間として「Hack Week」を企画しました。
▼左:村田さん、右:大角さん(オンライン取材の画面スクリーンショットを撮影)
最初に行ったのは、社内のネゴシエーションです。というのも、Hack Weekを実施する1週間は、通常のプロダクト開発をすべて停止して、業務の制約を受けずに開発できる環境を整える必要がありました。
そこで各部門長に、なぜやりたいのかという理由とともに「一緒に盛り上げてください」と伝えてまわったところ、特段ハードルが出てこなくて。みんな「いいじゃん、いいじゃん」と賛同してくれましたね。
全エンジニアが参加。半年サイクルで開発リズムを作る
村田 Hack Weekの開催にあたり最も重視したのは、「1年や半期を通して開発スケジュールにメリハリをつけること」です。例えば、スプリント4回→Hack Week→スプリント5回→Sprint Bufferという形で、半年ごとに開発サイクルを一巡させる形にしました。
各スプリントでは、技術負債の解消、開発効率の向上にフォーカスした開発施策を行っています。Sprint Bufferも同様に、目標ドリブンなプロダクト開発を2週間止めて行う施策です。
イベントであるHack Weekに対して、Sprint Bufferは技術的な開発に優先順位をガチャっと切り替えるイメージです。
また、毎年新しい技術をプロダクトに取り入れ、非連続に会社を成長させる循環も作りたくて。そういった目的から、Hack Weekの最終日には「Demo Day」というプロジェクト発表の場を設けました。
▼Hack Weekの目的として社内に共有したスライド
Hack Weekに近しい仕組みとしては、Googleの「20%ルール」が有名かなと思います。これは、例えば金曜日だけなど、業務の20%を好きな開発に使えるという制度ですが、経験者から「うまくいかなかった」という声も聞いていました。
なので、構想の際には「まとめて時間を取る方が好きな開発に集中できて、通常業務とのリズムが作れる」というSpotifyの事例も参考にしました。
2019年10月に第1回のHack Weekを開催したのですが、弊社のエンジニアほぼ全員が参加し、個人やチームを組む形で100以上のアイデアが寄せられ、希望制のDemo Dayでは33のデモが発表されました。
「Idea Board」で仲間を募集。運営の議事録は全てオープン化
大角 運営は4人のメンバーが担当して、開催の3カ月前から全社に周知する中で、社内限定のHack Weekポータルサイトと「Idea Board」をオープンしました。
このIdea Boardには、自分のアイデアとともに「プロジェクトメンバー募集中」とか、「自分では開発できないので、このアイデアを使ってください」のようにステータスを書き込むことができます。
▼実際のIdea Board(一部)
Hack Weekはエンジニア主体のイベントですが、デザイナーやプロダクトオーナー、HRの方も参加していました。例えば、HRメンバーから「採用管理システムを自動化しませんか」と提案して、エンジニアとチームを組んで進めることもできます。
他にも開催前にはアイデアピッチを行ったり、オンライン上で「この人の発表が面白そうだからコラボしよう」と声がけする動きもありましたね。
村田 実は、1回目はあまりプランニングせずに短期間で準備したので、すごく大変で。運営側のドキュメントも特に残していなかったんです。
そこで2回目の開催では、グランドスケジュールやタイムラインの設計、プランニングや予算管理なども含めて、しっかりとドキュメンテーションを行いました。タスク管理にはJiraをカスタマイズして導入し、毎日運営メンバーで進捗を確認していましたね。
また、ディスカッション内容はSlackやGoogleドキュメント上に議事録として残し、社内メンバーは誰でも見られるように全てオープンにしました。
盛り上げ練習や拍手の効果音まで。オンラインならではの工夫とは
大角 また、自分のSlackアイコンを非公式のHack Weekキャラクターに設定して、名前の欄には開催日を記載し、まるでオフィシャルbotかのように毎日告知してまわりました(笑)。社内ポスターや提灯、司会用の法被などのグッズも作りましたね。
ただ、今年3月に行った2回目のHack Weekは、新型コロナウィルスの影響で急遽オンライン開催に切り替えることになって。オフラインで狙っていた効果をなるべくオンラインでも得られるように、急ピッチで設計し直しました。
特に意識したのは、オンラインでも発表しやすい雰囲気づくりです。まず司会が堂々として、絶対に緊張した雰囲気を出さないことが大事ですよね。
長時間のイベントで出入りも多いので、繰り返し「Slackでコメントしてね」と声がけして、最後まで盛り上がりが続くように意識しました。
▼実際にSlack上でメンバーが盛り上がっている様子
発表の冒頭では「盛り上がり練習タイム」を設けて、Slack上で全員にコメントしてもらって心理的なハードルを下げたり、Slackを盛り上げてくれた人に対する賞を設けたりしたことで、予想以上に盛り上がりました。
また、イベントは日本語・英語の同時開催だったため、司会のふたりが両言語で交互に進行をして、発表の本編では同時通訳を準備することで、言語に対して壁を作らないように心がけました。
このように、全員がリアルタイムに同じ理解度を得られるように進めることは、非常に重要な配慮だと思います。
村田 オンラインのイベントは、スピーカーが話した後に反応が分かりづらいのが難点です。そこで、当日は拍手の効果音も鳴らしていました。発表が終わったらパチッと押すアナログな方法ですが(笑)。
オンラインイベントを盛り上げるには、一発で何かをやるというよりは、すごく小さな工夫の積み重ねが効くと思いますね。
アイデアの実装までを運営がサポート。会社全体で受賞者を称える
大角 1週間のプロジェクト結果を発表するDemo Dayでは、4つの審査基準があります。
それは、「革新的かどうか(interactiveness)」「会社やプロダクトへの貢献度(contribution to the company)」「実用性と面白さのあるテクノロジーかどうか(utilization of technology)」「プロダクトの実現性(completeness)」というものです。
当日、審査員から何度も「絶対に1週間で作ったものじゃないですよね」との声が挙がるほど、力作ばかりで(笑)。どの発表からも、潜在的に持っている「思うがままに開発したい」という気持ちが伝わってきましたね。
※実際の発表内容については、メルカリ社のこちらこちらの記事をご覧ください。
このように受賞アイデアをプロダクトに実装する時は、運営メンバーがマネージャーに掛け合ってプロジェクト化し、発表者を主体にプロジェクトメンバーを集めて、実装までをサポートします。
この活動の成果指標としては、参加人数やアイデア数もありますが、こういった受賞アイデアの実装プロジェクトが創出できているかどうかも見ていますね。
また、受賞者にトロフィーや記念グッズを授与すること以上に大切なのは、「きちんとエンジニアを称える場」を用意することです。なので、エンジニアだけが集まる会ではなく、全社会で称賛の場を設けて、CEOからも受賞者を称える言葉を掛けてもらっています。
▼Hack Weekキャラクターのトロフィーや記念グッズも用意
「ワクワクできるエンジニア組織」を作り、その輪を広げていきたい
大角 Hack Week開催後に実施したアンケート調査では、参加者の約90%が「満足」という高いレートを付けてくれて。「作りたいものを自由に開発できて嬉しかった」「業務では使えない技術に挑戦できた」といったポジティブな声を、たくさんもらうことができました。
運営側としても、個人の技術力の強化はもちろん、組織力の底上げにもなっていると感じます。また、Hack Week自体が社内外への「エンジニアリングの強さ」のアピールになると思っていて。
「自由に使える時間が1週間あれば、これだけのアイデアや新しい技術が出るんだ」と、エンジニア組織のポテンシャルを可視化できたことで、通常業務にも良い影響が生まれています。
村田 エンジニアにはオープンソースの文化があるので、例えば他社とコラボしてこういう取り組みを広げていったり、ぜひ他企業の方にも真似していただけると嬉しいなと思っています。
今後は、「プロダクトを作るときにワクワクできるエンジニア組織」とか、「テクノロジーをより伸ばせるエンジニア組織」といった組織づくりにチャレンジしていきたいですね。
大角 私は、メルカリのエンジニアメンバーはすごく高い技術を持っているものの、それがまだ一般の方にまで伝わっていないように感じていて。「メルカリって若い会社だけど、技術もすごいよね」と言っていただけるように、今後はその認知を広げていきたいと思っています。
また、日系企業として世界に進出するグローバル化にも積極的に取り組んでいるので、そういった側面を知っていただけるように、発信し続けていきたいと思います。(了)