- freee株式会社
- 組織基盤部 ムーブメント研究所
- 秋山 詩乃
「グロースビジョン」で自律的な成長を加速する。freeeが人事制度を刷新した理由
〜組織の拡大に伴い、人事評価制度が機能不全に。メンバーのモチベーションを向上し、自律的な成長を促進する、freee社の制度刷新の全容〜
働き方が多様化する中で、社員が自律的に成長し、望ましいキャリアを形成するためには、会社としてどのような支援をすべきなのだろうか。
2012年に創業し、クラウド会計ソフト「freee(フリー)」などを提供するfreee株式会社。
同社は、ここ数年の組織拡大に伴って、従来の人事評価制度に歪みが生じ、一部の等級にメンバーが偏るなどの問題が生じていたという。加えて、2018年に実施した組織サーベイでも、人事制度への満足度が低下していることが判明したそうだ。
そこで、評価制度のあり方を見直し、成長実感を得やすい仕組みへと刷新。さらに、個人の2、3年後のありたい姿を掲げる「グロースビジョン」を策定することで、多様なアサインメントと、中長期的目線で業務と向き合えるような状態を実現したそうだ。
それによって、メンバーは会社軸だけではなく、中長期的なキャリア軸での成長を実感できるように。会社としても「ありたい姿」の実現を後押しする、最適なアサインメントができるようになったという。
今回は同社にて、人事制度の運用や組織づくりを担う秋山 詩乃さんに、人事評価制度の全貌と、刷新のプロセスについて詳しくお伺いした。
※同社の意向により、以下「マネージャー」を「ジャーマネ」と記載しております。
組織の拡大とともに、メンバーの「成長実感」が薄れていった
私は2017年に新卒入社し、営業や事業企画を経験した後、2019年に人事部に異動しました。現在は、人事制度の運用やオンボーディング、カルチャーを軸とした組織開発を担当しています。
弊社は社会に対するコミットメントとして、「マジ価値を届けきる集団である」ことを掲げています。この「マジ価値」とは、ユーザーにとって本質的な価値があると自信をもって言えること、です。それを届け切る組織をつくるための仕組みとして、人事制度を運用しています。
弊社の特徴として、ミッションへの共感が強い人が多く、2018年の12月に実施した組織サーベイでは98%の人が「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションに共感していることがわかりました。
一方で、人事制度への満足度が低いことも同時に判明しました。というのも、組織が拡大の一途をたどる中、人事制度に歪みが生じている状況が続いていたんです。
加えて、当時は上場に向けた準備を進めており、向こう3年ぐらいで400人から1,000人ほどまで組織を拡大する予定だったんですね。
ミッションへの共感だけではうまくいく組織規模ではなくなってきていると感じ、組織の弱体化を防ぐためにも、個々人の成長を促進するための人事制度へと刷新する必要がありました。
そこで、2019年に私を含めた4人でプロジェクトを立ち上げ、成長実感を高めること、成長機会を創出することの2つの観点から制度を見直すことにしました。
「成長のモノサシ」に流動性を担保し、成長実感を高める
弊社の評価制度は、業績に紐づく評価と、成長軸の評価である「インパクトマイルストーン(以下、IM)」の2つで成り立っています。
このIMの目的は評価をすることではなく、個々人の成長を後押し・加速することにあります。役職に紐づく等級ではなく、10段階で「成長のモノサシ」を言語化したものです。
例えば、IM1は「freeeの価値基準や全社のミッションを理解することに積極的であり、高いコミットメントで業務に取り組むことができる」、それがIM2に進むと「freeeの価値基準を理解し、積極的に自分のチームのミッションの達成に向けて貢献することができる」といった内容で、成長の度合いが言語化されています。
今回の取り組みでは、メンバーの成長実感を高めるために、まずIMの見直しを行いました。
というのも、元々運用していたIMは、社員数が250名ほどの頃に設計されたものでした。その後、社員数が2倍ほどに増えたにも関わらず、そのまま運用し続けたことで一部のIMにメンバーが偏っていました。
加えて、同じIMでもメンバー間の能力にグラデーションが生じるなどの問題が生じていたんです。
そうした状況だったため、メンバーが成長を実感しづらい環境だったんですね。そこで、IMを13段階に増やし、数年先の1,000人規模にも耐えうる設計にしました。
▼刷新後の「IM(インパクトレビュー)」の具体例
さらに、評価軸も増やしました。以前は成長の幅をもたせることを目的にIMの表現を敢えて曖昧にしていたのですが、キャリブレーションの際に「何をクリアしたら次のIMに進むのかがわかりづらく、評価しづらい」という意見があって。
そこで、「インパクト創出軸」と「たけのこ軸」という2つの軸を設けました。
ひとつ目の「インパクト創出軸」とは、メンバーがどれくらいの「マジ価値」を、どのようなプロセスで提供できる人材なのかを言語化したものです。影響力の範囲に加え、自律の度合いや周囲への巻き込み力が明示されています。
そして、もう一つの「たけのこ軸」は、成長し続ける力を表現したものです。たけのこはとても成長が早いのに加え、風になびかれ変化・成熟しながら、120年間も生き続けるとされているんですよね。
たけのこのように過去の成功体験にとらわれない学び続ける姿勢や、周囲に積極的にフィードバックする力・受け取る力などを身につけて欲しい、という思いで「たけのこ軸」と名付けました。
この2つの変更を通じて「成長」の解像度を上げ、次のIMに向けて具体的にどのようなアクションを取るべきかを個々人で考えられるようにしました。
ありたい姿を描く「グロースビジョン」で長期的な動機づけを行う
次に、成長機会の創出を目的として、個々人のありたい姿を設定する「グロースビジョン」を導入しました。
グロースビジョンとは、会社だけでなく自身の生き方を踏まえた「2、3年後のありたい姿」のことです。評価とは完全に切り離されており、具体的なありたい姿とそれに業務を通じてどう近づけるか、の二部構成になっています。
例えば、「数年後には子供が欲しいから、それまでにこれくらいのキャリアは積み上げておきたい」というものや、「地元で新たなチームを立ち上げるべく、実際に現地に赴いて地域を巻き込んだ活動をしたい」といったものがありますね。
業務に関係なくてもOKというガイドラインになっていますが、多くの人は仕事に紐づくような「ありたい姿」を書いている印象です。
これを策定する前は、業務に関する範疇でしか「ありたい姿」を話せなかったので、個人の中長期的なビジョンとどのように紐づいているかを感じづらかったんです。
また、会社としても自律的な成長を後押ししたいと考えていたものの、どのような業務をアサインすればよいのかわからないという課題もありました。
しかし、このグロースビジョンを取り入れたことで、ここ半年で3人ほどが部署を異動するなどアサインメントに変化が起きています。
私自身、「もっと専門的な知識を身に付けたい」というグロースビジョンを掲げたことをきっかけに、現在は人事領域について学ぶ大学院に通っています。
メンバーの目指すべき方向性が明確に言語化されたことで、ジャーマネからは「1on1の場でフィードバックすべき部分とそうでない部分の強弱をつけやすくなった」という声が挙がっていますね。
グロースビジョンは「どんな理想でも叶えてあげますよ」という制度ではないので、あくまでもfreeeとしてどんな成長機会を提供できるのかを擦り合わせることが、最大の目的だと考えています。
自分では気付いていなくても、目の前の業務が将来に紐づいている可能性も十分にあると思っていて。なので、会社が新しい視点で意義づけしてあげることも目的のひとつかなと思います。
メンバーもジャーマネも平等。相互フィードバックで成長する
こうして人事評価制度を刷新してきましたが、メンバーの自律的な成長を促すためには、ジャーマネからのフィードバックも重要です。
弊社では、ジャーマネ自身のスキルやマインドを育成するためのチームが存在しています。これは専任のチームではなく、コーチングを得意とするエンジニアやセールスなどの多様なバックグランドを持ったメンバーが自律的に活動しているものです。
主な取り組みとしては、ジャーマネ自身の自己変革を目的としたコーチングのトレーニングと、フィードバックの方法を学ぶワークショップの開催です。ジャーマネがメンバーの目標設定・振り返りをフォローできるように、スキルの獲得を目的としたトレーニングを実施しています。
フィードバックは、信頼関係が築けているかどうかでメンバーの受け取り方が変わりますよね。弊社の行動指針のひとつに「あえて、共有する」がありますが、オープンにフィードバックし合うことで一緒に成長する、という姿勢が大切だと考えています。
ジャーマネはあくまでも「役割」であり、上下があるわけではないので、「マジ価値」のもとではメンバー全員が平等であるべきだと考えていて。
実際に、ジャーマネに対して「それって『マジ価値』なんですか」とメンバーから指摘することもありますし、そうした日々の共有が信頼関係の構築に繋がると思っています。
メンバーにとっての「マジ価値」が実現できる場を創りたい
どんな組織でも、拡大するにつれてメンバーの個性が良くも悪くも平準化されていくタイミングがあると思います。弊社も成長過程にありますが、freeeとしての魅力は失いたくないと思っていて。
今回導入した「グロースビジョン」は、メンバーにとっての「マジ価値」、つまり「その人が人生で本当に成し遂げたい価値」だと思っています。それを実現するために、メンバーがfreeeという場を存分に生かしてもらえたらいいのかなと。
「スモールビジネスを世界の主役にする」というミッションに共感してくれているメンバーが自律的に成果を出し続けることで、その実現に向けての歩みを日々進められると考えているんですよね。
メンバーにとっても、freeeで働くことが自分自身のなりたい姿に近づくためのマイルストーンになってくれていたら、一番嬉しいなと思います。
自分で手を挙げれば成長できるような機会をたくさん用意して、年齢も経験も関係なく、入社してくれたすべての人が活躍できるような組織を創っていきたいですね。(了)