• LINE株式会社
  • 執行役員 Enterprise IT開発/Growth開発統括
  • 片野 秀人

「変化に強い組織」をつくる。LINE社の9,400人の環境づくりを担う、社内ITの挑戦

〜「いまの環境がベストな日は来ない」社内の小さな声を拾い、背景にある全社的な課題を想像する。LINE社の環境づくりの最前線に立つ、攻めの社内ITをご紹介〜

新型コロナウイルスの影響により、突如として始まった在宅ワーク。

グローバル全体で約9,400人(※2020年4月時点)という従業員を有する規模ながら、フルリモートワークへの移行を大きな問題なく速やかに実行したのが、LINE株式会社だ。

その背景には、社内向けサービスの提供を通じて、より働きやすい環境を提供し続ける「社内IT部門」の存在がある。

組織の急拡大に伴い、以前から多拠点化を進めてきた同社では、2018年頃から各種クラウドツールの導入や、オフィス間の移動における基本方針づくりなどを実施。そうした取り組みにより、2020年4月に全社在宅ワークに切り替わった際には、比較的スムーズに移行することができたという。

さらに、リモート環境下におけるチームコミュニケーションの課題に対して、ただツールを提供するだけでなく、効率的に活用するためのガイドラインを整備。

同社の社内ITを統括する片野 秀人さんは、「社内でなにか小さな声や困りごとがあった時に、それが全社的な課題なのかまで掘り下げて考えられるかどうかが大事」だと語る。

今回は片野さんに、攻めの社内ITとしての環境づくりと、大切なマインドを詳しくお伺いした。

社内ITは「守り」の部署じゃない。環境を変える最前線に立つ

私は2009年に、当時のライブドアに入社し、経営統合によりLINEに入りました。現在は、社内ITとサービスのGrowth開発を統括しています。社内ITは、2013年にLINEに入ったタイミングで立ち上げた部署です。

一般的に、情報システムの部署と聞くと、わりと「守り」のイメージを持たれる方が多いと思います。でも、私自身はIT部門が守りの領域だと思ったことは一度もなくて。むしろ、私たちは環境を変える最前線に立つ「攻め」の部署だと思っています。

LINEでは「WOW」という、ユーザーを感動させるような体験を大切にしています。このWOWを追及してNO.1を目指し、チャレンジをし続けることを価値基準とする。

そこで社内IT部門では、「働きやすさNO.1の企業を目指し、より良い環境を提供し続ける」ことをミッションに定めています。

私たちがサービスを提供する相手は、LINEに所属する社員全員です。既存の仕組みを運用するだけでなく、いかに新しい価値を提供できるかが、私たちの仕事だと思っています。

いまの環境がベストという日は来ないですし、常により良い環境ややり方がある。その前提で、社内からの「ちょっと困っている」という声にいかに耳を傾け、積極的に改善のヒントを拾うことができるか。

それが、社内ITという部署を、攻めなのか守りなのかに分けているのかなと思いますね。

都内に分散するオフィス間の「移動」に対し、基本方針を伝達

LINEというサービスが急成長していく中で、海外拠点が増えていきました。また、国内でも社員数の増加に伴い、2013年に福岡オフィスを設立しました。

さらに、2018年からは都内でもオフィス拠点を分散せざるを得なくなったのですが、そこで生じたのが「移動」の問題でした。

というのも、東京ー福岡の時は会議のために移動することはなかったのですが、例えば都内で当社オフィスがある新宿ー大崎になると、行って帰って来られる距離なわけですよね。

ミーティング1本のために移動しても、特に非難はされない。けれども、移動によって削られる時間がすごく無駄だなと感じていて。オンラインで会議できる環境があるのに、近いから移動するというのは違うなと。

そこで2018年8月に、新宿に新たなオフィスができたタイミングで、社内ITから「オフィス間の移動はやめましょう」といった旨のメールを出しました。というのも、本社との距離はさほど離れていないのですが、エレベーターの乗り降り、信号待ちなどを含めて往復すると、移動時間が30分近くかかってしまうためです。

▼通達内容の一部(※画像は編集部にて作成)

また当時、これからさらに従業員が増えることから、オフィスを分散させていく計画が決まっていたため、「まずは私たち(社内ITの部門)が本社オフィスから他のオフィスに引っ越します」と自ら手を挙げました。

というのも、社内ITは環境をつくる側の人間なので、不便な環境を自分たち自身が経験しないと、結局いいアイデアって生まれないなと思ったんです。

当事者として体験し、そこで生じた問題を解決する。そういった姿勢も伝えることで、移動の問題は次第に解消されていきました。

リモートで「チーム内すら見えなくなった」課題にどう対応するか

以前から、各会議室にテレビ会議システムを設置していましたが、自宅や出張先、社内カフェなど、会議室以外でのオンライン会議参加に対応するため、2018年にクラウドベースのWeb会議ツールを導入しました。

さらに、数々のプロジェクトを推進するため、社外コラボレーションのニーズが高まっていたことから、クラウドストレージも同時期に導入しました。

こうして早くから整備を進めてきた結果、2018年頃には、ほぼすべての業務がオンラインでできる状態になっていたんですね。

そのため、新型コロナウイルスの影響で在宅が余儀なくされた時も、環境設備の面では大きな問題はなくて。ただ、今までとの違いは、チーム内の人とも距離が離れてしまったことだと思います。

実際2ヶ月、3ヶ月と在宅ワークが長期化してきた中で、チーム内のコミュニケーションをどう円滑にするか、ということに問題が移ってきたなと感じています。

そうした状況下で草の根的に立ち上がったのが、マネジメントのナレッジを共有するチャットグループです。

ここでは、チームで実施したオンラインワークショップの内容や、困ったことがないかをメンバーに聞いたアンケート結果など、各マネージャーが自発的に取り組んだことをシェアしています。

また社内ITとしては、業務環境をより良くするため、オンラインホワイトボードなどのコラボレーションツールのライセンスを増やして全社展開したり、効果的なツールの使い方をまとめて共有したり、といったことをしていましたね。

ただ環境をつくるだけでなく、きちんと社員自身が活用できるようにする。それをいかにサポートできるかも、社内ITの大事な仕事だと思っています。

「この人に相談すれば何とかしてくれる」という信頼関係を築く

私は、社内でなにか小さな声や困りごとがあった時に、それが全社的な課題なのかまで掘り下げて考えられるかどうかが結構大事だと思っていて。

たぶん、きっかけはすごく小さなことだと思うんです。「ちょっとこれ困っていて…」という相談があった時に、他にも同じように困っている人がいるかもしれない、と想像できるかどうか。

そこから深掘りしていき、実は全体の90%の人が困っているとしたら、それってかなり大きな問題ですよね。なので、常にアンテナを張り、ひとりの相談からそこまで拡張して考えられるかどうかが大事かなと思います。

例えば、ビーコン端末を通じてLINE上に情報配信などができる「LINE Beacon」を活用して社内ITが開発した、出社時の位置情報で打刻を補完するシステムは、ある社員が「打刻をするのが面倒」と言っていたことが発端です。

これを「いや、打刻はルールだから」で済ませることもできますが、労務担当と一緒に「打刻って本当に必要なんだっけ?」というところからゼロベースで再考し、打刻するにしても効率化できないかを改めて考えたからこそ実現したと思います。

こうした社内の声を拾う仕組みとしては、LINE CAREという、困ったときの相談窓口のような社内サービスがあります。

また、普段のチャットコミュニケーションを見ている中で、「この問題って他のところでも出ていたな」と気づくこともあります。その意味では、隠れたニーズに気付くことのできるオープンな環境作りも大切ですね。

一方で、根底には「この人に相談すれば何とかしてくれる」という信頼が大切だと思っています。

何らかの相談を受けた時に、100%は無理だとしても、ほんの少しでもいいからきちんと返す。すると、また違う相談がきて、色々な情報が自然と入ってくるようになります。

この信頼関係があると、私たちが困った時に、ユーザー側の社員に助けてもらえるんです。こうした助け合える関係性を、地道に築いていくことが大切だと思います。

「支障ない」では不十分。以前よりも生産性の高い環境をつくる

いま社会全体として、在宅ワークが中長期的に続きそうな状況が、ある程度見えていると思います。

通常業務をする分には、支障はない。でも、チームとして120%のパフォーマンスが出せているかというと、そうではないと思っていて。オンラインとオフラインを組み合わせながら、以前よりも生産性の高い環境を作っていけるように、社内ITとして挑戦していきたいと思っています。

社内向けツールを提供するだけではなく、他部署と連携しながら、パフォーマンス向上という結果に繋げるところまで取り組んでいきたいですね。

また、時代の変化を先読みして対応することが理想ではありますが、今回予測できない事態が起きたように、すべてにおいて先回りすることは不可能だと思っています。

でも、ネガティブな変化が生じた時に、どのように動くかが非常に大事だと思っていて。

私は、たとえ後追いになったとしても、どこかで追い越せばいいと思うんです。最初は後手に回っていたとしても、振り返ってみたら「先回りして対応できて良かったね」と言えると、すごくいいのかなと思います。

そのためには、目の前の問題に場当たり的に対応するのではなく、根本から変えるところまでやりきることが大事だと思いますし、今後もその姿勢を大切にしていきたいと思います。(了)

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