- Ubie株式会社
- 共同代表取締役 / エンジニア
- 久保 恒太
カルチャーで社内を「分化」。機能別の組織で事業成長を加速する、Ubieの組織づくり
〜「採りたい人材なのに、要件にマッチしない」のはなぜ? 機能別にDev・Scaleの組織を設立し、カルチャーを完全に分化。事業成長を加速させる組織の運営法〜
組織や事業が拡大しても、知の探索を続けるためには、どのような組織運営をすればよいのだろうか。
2017年5月に創業し、生活者向けのAI受診相談サービスと、医療機関向けのAI問診サービスを開発・提供するUbie株式会社。
同社では、プロダクトマーケットフィット(以下、PMF)を迎えた頃から「採用したいはずの人材が、要件のミスマッチで採用に至らない」という課題が浮上。
そこで2020年1月から、0→10の開発をミッションとする「Dev」と、10→100の拡張をミッションとする「Scale」という形で組織を2つに分化させた。
両チームでは、それぞれが独自のカルチャーのもとで組織運営の意思決定を行っており、全社共通のミッション、ビジョン、事業を除くすべてを個別最適化。結果として、組織ごとに最適な採用要件を定義できるようになり、この1年で30名から100名へと規模が拡大しているという。
同社の共同代表を務める久保 恒太さんは、組織を分化したことのメリットとして「『知の探索』と『知の深化』を並行して進められるようになった」と語る。
今回は久保さんと同社のBizDevを担う重藤 祐貴さんに、組織を分化した背景から、実際の組織運営の方法に至るまで、詳しくお伺いした。
異なるカルチャーで、組織を分化させる。Dev・Scale・Opsの役割
久保 2017年5月に、共同代表である医師の阿部とともにUbieを創業しました。
現在、Ubieにはカルチャーで分化させた2つの組織と、それに伴走する1つの横断組織が存在しています。
▼同社の組織体制
まずDevチームは、大胆で高速な仮説検証をミッションとして「0→10の開発」を担っています。主にプロダクト開発、事業開発、組織開発に携わるメンバーがいて、現在、60名ほどのチームです。
Devは、創業当初からの組織体制をほぼ受け継いでいて、僕はこのDevチームに所属しています。
一方のScaleチームは、オペレーションエクセレンスの追求をミッションとして「10→100の拡張」を担っています。
主に、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった職種のメンバーが30名ほど在籍しており、「Ubie AI Consulting(以下、UAC)」という名称で呼ばれています。
これらのチームに伴走して、それぞれの生産性の最大化をミッションとするのが、Opsです。コーポレート、PRやビジネスなど各領域のオペレーションやユーザーサポートなど、現在は10名ほどのメンバーがいます。
特徴的なのは、各々のミッションを実現するため、DevとScaleで組織のカルチャーを明確に分けていることです。
▼DevとScaleの違い
カルチャーが違うということは、求められる人材要件も組織運営の方針も、当然ながら異なります。全社共通のミッション、ビジョン、事業を除くすべてが、チームごとに最適化された形です。
たとえば、Devチームはマネジメント階層のないフラットな組織である一方、Scaleチームは階層型の組織でマネジメントが存在しています。社内的には、別会社に近いイメージですね。
2020年1月にDevとScaleに組織を二分したのですが、それぞれが求める最高の人材を採用できるようになり、1年で約3倍の100名規模まで組織が拡大してきました。
「採りたい人材なのに、採用に至らない」課題にどう向き合うか
久保 Ubieは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションを掲げ、生活者向けの「AI受診相談ユビー」と、医療機関向けの「AI問診ユビー」を提供しています。
いまは、どこか具合が悪いときにインターネットで検索をしてみても、きちんとした医療情報になかなか辿り着けないですよね。
一方の医療従事者も、日々さまざまな情報をもとに診察や治療を行っているものの、紙文化が残っていたり、データベースが不十分だったりして、適切な診療が難しい側面があります。僕たちは、その両面の課題をテクノロジーを使って解決していきたい。
そして究極的には、人々が意識しなくても健康な状態、つまりテクノロジーの力で健康であるためのケアが自動でなされるような状態を目指しています。
創業から2年ほどで、医療機関向けSaaS事業のPMFが見えてきたのですが、その頃から課題にあがったのが「採用」でした。
▼左:重藤さん、右:久保さん
重藤 私は、2018年の6月にBizDevとしてUbieに入りました。現在はDevチームに所属し、事業開発やカルチャー浸透を促進する役回りを担っています。
当時、すごく来てほしい人材であるはずなのに、なぜか採用に至らないという事象が起きていて。
というのも、それまではゼロイチの開発フェーズに適した「Ubieness(ユビネス)」という人材要件をもとに採用を行ってきたのですが、その要件に合う人と事業をスケールさせる能力のある人が、必ずしも一致しないことがわかってきました。
たとえば、顧客接点に圧倒的な強みがあるけれど、「ゼロベース思考」が当てはまらないといった感じでしたね。
久保 全社共通の人材要件を見直すことも検討しましたが、面談や面接を重ねるうちに、やはりそれも違うなと。0→10と10→100、それぞれに求められる役割とそれに適した人材要件があると感じていました。
であれば、それぞれに適したカルチャーで組織を分けようという意思決定をして、2020年1月にDevとScaleの2つの組織に分化しました。
個々のカルチャーに合わせて、組織運営の在り方を決めていく
重藤 DevとScaleでは、すべての意思決定が個々のチームに委ねられていて、採用要件や人事制度など、組織運営の方針についてもそれぞれに最適化しています。
▼DevとScaleの組織運営の方針
久保 両者の違いとして、たとえば、DevとScaleに組織を分化したタイミングで、Devチームの一部でホラクラシー(※)の試験運用を開始したことが挙げられます。
※ホラクラシー…人ではなくロール(役割)に権限を移譲する、組織運営の形態。詳しくは、同社のブログをご参考ください。
まずはホラクラシーがどのように機能するか、どんな影響があるかを計測するため、小さなチームから実験していきました。それから徐々に範囲を広げ、2020年の12月からDev組織全体に導入しています。
重藤 ホラクラシーを導入したことで、誰がいま、どのロールにアサインされているのかや、意思決定や責任の所在が明確になり、以前よりも動きやすくなったなと感じます。当事者意識と気合いでなんとか頑張っていた頃に比べると、本当にボールが落ちなくなりましたね(笑)。
久保 また、Devでは人事評価がなく、代わりに360度フィードバックを取り入れています。Devの役割は、事業の種を見つけてきて検証を行う部分なので、目標が定量化されてないことも多いんですね。そうした状況でメンバーを適切に評価するのは難しいと考えています。
一方で、オペレーションエクセレンスの構築が求められるScaleチームでは、いわゆる階層型のマネジメント体制で、KPIによる目標管理を行っています。人事評価についても、目標に紐づいた評価制度を整備しているところです。
全社会議なし、フロアも分ける。「カルチャー純度100%」を徹底
重藤 こうした組織を運営する上で「カルチャーを混ぜない」ということを重視しています。
そのために、G Suiteのドメインを分けてカレンダーやドキュメントを別々に管理したり、SlackやNotionのワークスペースも完全に分けています。全社会議もなく、執務スペースのフロアも分けることで、異なるメンバー同士の不必要な交流がないように徹底しています。
というのも、カルチャーの純度が100%である状態が、それぞれのパフォーマンスを最大化すると考えていて。中途半端に混ざってしまうと、それぞれが50%50%の力しか発揮できなかったり、正しい方向に進めないといったことが起こりかねないと思っています。
ただ、Ubieとしてめざす方向は一緒ですし、お互いにリスペクトし合っているので、良い関係性を保てていますね。
一方で、組織を分化しても、プロダクトに対するフィードバックサイクルをきちんと回すことが重要です。
ここに関しては、プロダクトのフィードバックをする機構がScaleに存在しているので、そのメンバーを介してコミュニケーションを取っています。
ScaleからDevに対してユーザーの声をフィードバックしたり、DevからScaleに事業検証のヒアリングを行ったりすることもあります。また、顧客の声が直接システムで届くような工夫もしていますね。
久保 またScaleチームでは、「フィードバック大賞」というアワードを月1、2回ほど実施していて、すばらしいフィードバックを送った人を表彰しています。こうした取り組みも、ScaleからDevへのフィードバックを促進しているかなと思います。
「知の探索」と「知の深化」を両立して、組織の変化を続けていく
久保 「両利きの経営」でも言われているように、組織を分化したことで「知の探索」と「知の深化」が両立できるようになったことが、すごくよかったなと思っていて。
よくあるのが、たとえば資金調達の前に数値を上げないといけないから、全員で深化しようみたいなことが起こりがちだと思うんです。通常は、組織が大きくなるにつれて、知の探索が続けづらくなると思うんですね。
そこを明確に分けたことで、将来のアセットになることを継続できる体制を構築できた。会社だけでなく個人としても、0→10、10→100それぞれを得意とする人が、各々の強みを活かした仕事をし続けられるというメリットもあります。
重藤 私は、各チームにとって最高な人材がどんどん採用できるようになったことが大きな成果かなと思っていて。採用全体の6割ほどがリファラル経由で、入社された方もパフォーマンスを発揮しやすい環境になっていると思います。
久保 今後、より組織が大きくなっていったときに、ある職能に特化されたスペシャリスト型の人がもっと増えてくるかなとは思っています。そういった方は、いまの人材要件やカルチャーではフィットしない場合もあるので、それに対してどう組織を変えていくかは課題としてありますね。
また、グローバルで共通のコンテキストがないところでカルチャーを浸透していくには、見直していくべき部分はあるかなと。
例えばDevでは、全社への「圧倒的当事者意識」を持っていることを要件のひとつにしていますが、海外では日本よりも職務範囲が明確に規定されているのが通常なので、自分自身の役割を超えた柔軟な対応が望めない場合も想定されます。この辺りは、これから構築していきたいと思っていますね。(了)