マネジメントは「ピープルマネジメント」の時代へ。その定義や実践法・事例を徹底解説
「マネジメント(management)」という言葉に対して、皆さんはどのような印象を持たれているでしょうか?
一般的には、人や組織を「管理」し、より高いパフォーマンスや成果を上げるための手段と捉えている方が多いかと思います。
そもそもマネジメントという言葉の由来は、「マネジメントの父」として知られるピーター・ファーディナンド・ドラッカーが、1973年に刊行した「マネジメント」という書籍にあるとされています。それによると、
マネジメント:組織に成果を上げさせるための道具、機能、機関
参考文献: マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則
とされています。また、実際にマネジメントと一口にいっても、その対象は様々です。例えば、
- タレント(人材)マネジメント
- パフォーマンスマネジメント
- ビジネスプロセスマネジメント
- プロジェクトマネジメント
- タイムマネジメント
- リスクマネジメント etc….
このように、マネジメントとは「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」といった経営資源を適切に管理することで、組織の成果の最大化を目指すものと捉えることができます。
しかし、昨今の時代の変化に伴い、新しいマネジメントの概念が登場しています。それが「ピープルマネジメント」です。
世界を代表するコンサルティングファームのひとつであるデロイトが2018年に発表した「2018 HR Technology Disruptions(日本語:劇的に変化するHRテクノロジー2018)」によると、
- HRテクノロジー市場における3つのミクロ変化は、「テクノロジーの発展」「働き方の変容」「組織管理手法の変化」
- (上記の変化に伴い)タレントマネジメントは、ピープルマネジメントへと発展している
- ピープルマネジメントでは、企業文化、エンゲージメント、職場環境、リーダーシップ、権限委譲、調和に重点を置く
- 約180億ドル規模の「ピープルマネジメント市場」がすでに確立している
ということが記載されています。
そこで今回は、マネジメントの意味や定義、そして直近のトレンドを踏まえた「ピープルマネジメント」の概念や実際の事例について、徹底解説いたします。
<目次>
-
-
- ドラッガーの定義に学ぶ 「マネジメント」の意味と果たすべき役割
- 「パフォーマンス」だけを重視するマネジメントはもう古い!?
- 今こそ求められる「ピープルマネジメント」の定義と実践法
-
ドラッガーの定義に学ぶ 「マネジメント」の意味と果たすべき役割
ピープルマネジメントについて説明する前に、マネジメントの基本的な定義について触れておきます。前述したドラッガーは、マネジメントの目的と役割を以下のように定めています。
(※本記事では一部を簡単に抜粋しています。詳しくはこちらの書籍をご参考ください。「もう知ってるよ!」という方はこのパートは飛ばして、こちらからお読みください)
①マネジメントの役割(原則)
1, それぞれの組織に特有の社会的機能を全うする。
2, 組織に関わる人々が「生産的」に働き、仕事を通じて「自己実現」できるようにする。
3, 社会的責任を果たす。
②マネジメントの仕事
- 目標の設定
- 目標の設定に沿った組織の構築と運営
- 成果の評価とフィードバッグ
③マネジメントの目的
設定した目標に沿って組織を運営すること。
このようなマネジメントの機能を担うのが、マネージャーです。ドラッガーは「組織の成果に責任を持つ者」と定義しています。
つまり、マネージャーが組織の目標を設定し、その達成のための組織(チーム)を作る。そしてメンバーを評価・育成していくことを通じて、組織としての社会的に機能や責任を全うしていく。ということが求められるのです。
そのための具体的な手法として、これまでに様々な目標管理の仕組みや、人事評価制度などが生み出されてきました。
目標管理の参考記事:【保存版】Googleも採用する目標管理「OKR」を徹底解説!導入事例や運用ツールも紹介
人事評価制度の参考記事:【6社のリアル事例】人事評価制度の実態とは? 2019年最新のトレンドも併せて解説
また当媒体SELECKでは、これまでに様々な企業のマネジメントノウハウを取材してきました。下記の記事にまとめておりますので、ぜひあわせてご覧ください。
参考記事:事例から学ぶマネジメント。現場の成功ノウハウ【10選】まとめ
「パフォーマンス」だけを重視するマネジメントはもう古い!?
これまでマネジメントにおいては、ビジネス上の目標達成のために、いかに「成果」を上げるか、ということが圧倒的に重要視されてきました。
それに伴い、マネジメント≒パフォーマンスマネジメントという考え方も広く認知されていました。
参考記事:【事例4社】新時代のリーダーが知るべき、パフォーマンスを上げるマネジメントのPDCA
ですが、時代の変化に伴い、パフォーマンスに偏ったマネジメントには限界が見えてきています。
その背景にあるのは、近年の日本における「働き方改革」にも代表されるような、企業を取り巻く環境の変化です。具体的には
- 市場環境の変化の激しさ(VUCAワールド)
- 人材や考え方の多様化
- テクノロジーやインターネットの発展
- グローバリゼーション
- 生産性や効率に対する意識の向上 etc….
こうした環境変化により、企業がこれまで以上に重視する必要となったのが、優秀な人材をひきつける魅力ある組織づくりです。そして、従業員が会社に対してどのくらい愛着を持っているか? を表す「エンゲージメント」が重視されるようになっています。
参考記事:「エンゲージメント」の向上で組織を強化!企業の改善事例を紹介【5選】
2018年に発表されたアメリカの調査会社Gallup社のレポートでは、同社の調査対象の企業の中でエンゲージメントの下位25%と、上位25%を比較しています。
そして後者のほうが、顧客指標は10%高く、生産性は17%高く、売上は20%、利益は21%高いと報告しています。
つまり、エンゲージメントを高めることで、組織としてのパフォーマンスは自然と上がっていくことを示しているのです。
このような背景から、マネジメントにおいても、パフォーマンスだけではなくエンゲージメントの向上を重要視する動きが高まっています。そこで登場した概念が、前述した「ピープルマネジメント」なのです。
今こそ求められる「ピープルマネジメント」の定義と実践法
では、ピープルマネジメントとは、どのような概念なのでしょうか。
ピープルマネジメントは、その名の通り「人」に関するマネジメントのことです。…ですが、と言っても幅広いですよね。一例として、National Research Council (NRC)Canada が定めている定義を紹介します。
(当媒体で翻訳しております。原文は上記リンク先をご覧ください)
人材の最も効率的な活用をゴールとし、従業員の成長と仕事上の活動、そしてパフォーマンスに向き合うこと。
従業員の可能性をNRC(自社)の成功のキーとして捉え、思考をロックせずに導くこと。
個人と組織、双方の目線から人の成長に関わり、具体的な活動と連携させ、コーチングし、パフォーマンスに関する課題と向き合うこと。
(自社の)現在と未来のビジネスニーズに応じて、最も効率的かつ効果的な人的資源の配置を行うこと。
このように、ピープルマネジメントにおいては「従業員1人ひとりと向き合い、その成長を引き出すこと」が最も重視されています。
そして従業員の成長によってパフォーマンスが向上すると、エンゲージメントが上がり、それによってまたパフォーマンスが向上する…という、マネジメントの良いサイクルを回すことができるようになります。
NRCの定義には、ピープルマネジメントを実践するための5つのステップも定義されています。
Level 1 効果的な職場環境の整備
Level 2 綿密な仕組みづくりと研修の実施
Level 3 個人の成長に対する投資
Level 4 効果的なチームづくり
Level 5 未来に向けた包括的な戦略の実行
ちょっとむずかしいので(そして英語なので)、もう少し具体的に、国内企業の事例からピープルマネジメントの実践法を紹介します。
まず、レシピ動画サービス「kurashiru[クラシル]」を展開するdely株式会社には、同社の事業成長を支えるピープルマネジメントの仕組みがあります。
具体的には、OKRを踏襲した「Drive Point」という名の目標管理手法を導入し、その運用を1on1でサポートしています。
今後、さらに加速度的に事業と組織を成長させるためには、現マネージャー陣が持っているマネジメント力を横展開して、個人の力をスケールさせるような仕組みづくりが必要だと考えています。
そこで現在は、delyでこれまで培われてきたマネジメントの強みや文化を言語化して展開する施策を進めているところです。
(中略)成長や変化のスピードの早い会社にこそ、マネジメントができる人材は必要になると思っています。
次に、スターバックスコーヒージャパン株式会社では、店舗で働く「パートナー」1人ひとりのチャレンジや成長に向き合うことで、関係性の質、すなわちエンゲージメントを高く保つことに成功しています。
それが結果として、顧客の喜びやリピートにつながっているのです。
スターバックスでは社員に限らず、パートナー全員が4ヶ月ごとの人事考課面談を受けるのですが、その際に1人ひとりが「自分がここにいる理由」を毎回確認します。
(中略)外から「こうしなさい」「上を目指しなさい」と言うのではなくて、「あなたがどうなりたいのか」「ここで成し遂げたいことはなにか」を話すことで、それが動機の原点になるんです。
(面談の)内容は「スターバックスで働くことを通じて、あなたの人生の目標にどう近づくか」ということがコンセプトになっています。
上記の事例でもわかるように、ピープルマネジメントを通じて「人」に徹底的に向き合うことで、それが結果的に企業の成長にもつながっていることがわかります。
実際にピープルマネジメントを実践する際には、まずは「1on1」からスタートするのがおすすめです。
1on1とはメンター(多くの場合、マネージャー)とメンティー(部下)が1対1で対話をする場のことです。
一方的にレビューをする場ではなく、あくまでもメンバー個人のパフォーマンスを上げるためのサポートの場となります。また、短期的な目標や成果に関する話だけでなく、中長期のキャリアや成長に関する相談ができます。
具体的な実践法は、こちらの記事を参考にしてください。
エンゲージメントとパフォーマンスの高い組織をつくるために、ぜひ、始めてみてはいかがでしょうか。