【事例4社】テレワークに必要な「ラポール形成」とは? 部下との信頼関係を築く方法

ラポール形成」という言葉をご存知でしょうか?

ラポール形成とは、元々は心理学の用語で「相手との信頼関係が築かれている状態」を意味します。

個々の価値観が多様化し、「働き方改革」によって個人のワークスタイルが尊重される時代においては、仕事を円滑に進めていく上でも、相手との信頼関係を築くことがより一層求められます

そこで今回は、ラポール形成って何? という基本の解説から、マネジメントにおいてラポール形成が必要な理由、4社の実践例までをご紹介いたします。

<目次>

  • 「ラポール形成」とは
  • マネジメントにおける、ラポール形成の必要性とは?
  • ラポールを形成する「4つの手法」
  • 【4社事例】ラポール形成のための実践例をご紹介

「ラポール形成」とは

ラポール(rapport)」とは、フランス語で「収益・利益」や「関係」のことを意味します。

そのラポールを語源として、催眠家とクライアントの「親和関係」を表す心理学の用語として元々使われていたのが「ラポール形成」です。現在では「信頼関係を築くこと」という広い意味で用いられています。

人間心理とコミュニケーションの学問であるNLP(※)では、ラポールを築き、そこから関係性を発展させるプロセスを「社交ダンス」になぞらえた4つのプロセスで表現しています。

※NLP…Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラミング)のこと

  1. キャリブレーション(相手をよく観察する)
  2. ペーシング(相手のペースに合わせる)
  3. ラポール(信頼関係が生まれる)
  4. リーディング(相手の望ましい方向へ誘導する)

参考:加藤聖龍『手にとるようにNLPがわかる本』(かんき出版, 2009)

この「ラポール形成」が、企業の組織マネジメントにおいても注目を高めています。

 マネジメントにおける、ラポール形成の必要性とは?

組織開発においても用いられることの多い「氷山モデル」では、マネジメントの対象を、水面から出ている部分を「コンテント」、水面下を「プロセス」に区分します。

「コンテント」は仕事のアウトプットなどの目に見えるものを指す一方で、「プロセス」は仕事の進め方や、人間関係やコミュニケーションなどの目に見えないものを意味します。

参考:「第2次組織開発ブーム」が来ている日本。そもそも「組織開発」とは何か?ーPHP人材開発

従来の管理型マネジメントでは、この「コンテント」の部分を重視するため、指示通りに動いているか? 業務を計画通り遂行しているか? などの面で部下を判断してしまいがちです。

すると、お互いの関係の溝がなかなか埋まらず、じわじわと誤解が生じてくる…ということが起こり、最悪の場合「離職」へと繋がる可能性もあります。

大手調査会社である米ギャラップ社が行った従業員のエンゲージメント調査によると、上司との信頼関係がしっかり築けている従業員の方が、仕事に対するエンゲージメントが59%高いことがわかっています。

また、業務に直接的に関係のない話も含めてマネージャーとコミュニケーションしている従業員の方が、エンゲージメント率が高い、という調査結果もあります。

このように、上司との信頼関係の有無によって、部下の仕事に対するモチベーションが大きく左右されるため、ラポールを形成することはマネジメントの大前提として重要だということがわかります。

さらに、ラポール形成ができていると、仕事のエンゲージメントが上がるだけではなく、上司からのフィードバックを受け入れやすくなります。

結果として、従業員1人ひとりが自律的に成長できる土壌ができ、優秀な人材の離職を防ぐことができるなどのメリットもあります。

ラポールを形成する「4つの手法」

次に、ラポール形成に効果的な手法についてお伝えします。ラポール形成のための方法は多く存在しますが、今回はその中から4つご紹介します。

1.ペーシング

ペーシングとは、「相手に合わせた行動をすること」です。具体的には、話す速度や声のトーン、手の位置などを合わせることによって、相手に親近感を持たせるのに有効な手段です。仕草の真似をする「ミラーリング」も、ペーシングの一手法です。

2.バックトラック

バックトラックとは、「相手の言葉を用いて反応すること」です。「オウム返し」とも言われ、「今日は仕事がうまくいかなかった」という発言に対し、「うまくいかなかったんだね。」と反応するような手法のことをいいます。

1on1やコーチングなどの場面で、相手の言葉を用いながら「〜だったんですね」と反応することも、バックトラックのひとつです。相手に安心感を与え、より話を促す効果があるとされています。

3.リフレーミング

リフレーミングは、「相手の欠点を言い換えること」です。例えば「ひとつのことに集中して視野が狭くなってしまう」という悩みを抱えている人に対し、「集中力を長く発揮できる」などのプラスの表現で言い換えます。本人が弱みだと感じていることを覆い隠すのではなく、新しい視点や気づきを与えることがポイントです。

4.ザイアンス効果

ザイアンス効果とは、「接触回数を増やすと、好意レベルが高まる」という心理効果のことです。例えば、10時間の接触時間があるとすると、10時間・1回よりも、1時間・10回の方が、相手に対して好意を抱きやすいといわれています。マーケティングや恋愛などでも多く使われる手法です。

【4社事例】ラポール形成のための実践例をご紹介

では最後に、ラポールを形成するための参考として、4社の取り組みをご紹介します。今回は、テレワーク中でも実践できる事例に焦点を当ててご紹介いたします。

1.個人チャンネル「times」と「あいさつスレッド」/ ミラティブ

テレワーク環境下でラポールを形成するには、「日常のコミュニケーションをいかに担保するか」が重要です。

ミラティブ社では、Slack上に「times」という個人のつぶやきチャンネルを用意して、今日のお昼ごはんやBGMにしている音楽など、プライベートなことを投稿しているといいます。

また、「おはようございます」「お疲れさまです」といったあいさつだけを行う「あいさつスレッド」を作成し、他メンバーと自然に接触するような場を設けています。

これは、前述した「ザイアンス効果」も期待される取り組みで、Slackであれば「絵文字」なども有効活用して、接触回数を増やすことがラポール形成への近道です。

▼同社のあいさつスレッドの様子

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2.ピアボーナス「mertip」 / メルカリ

メルカリ社では、組織が急拡大する中で、よりリアルタイムに賞賛を送りあえる仕組みを設計するため、2017年9月よりピアボーナスの運用を開始しています。

「mertip(メルチップ)」の愛称で社内に浸透している同制度は、導入後アンケートでも社員の満足度が高く、最も多い人は月60回もmertipを受け取ったといいます。

ラポール形成では、「褒める」ことも非常に重要だと言われています。

「自己肯定感」という言葉があるように、人は誰しも「自分の存在価値を認められたい」という欲求があります。

組織やチームの中で日常的に自分の存在価値を感じられることは、モチベーションやエンゲージメント向上にも非常に有効です。

▼同社の「mertip」の様子

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3.毎月メンバーで感謝の気持ちを伝え合う「Thanks to」/ overflow

創業初期からリモート前提の組織運営を続け、2020年春にはオフィスを手放す意思決定をしたoverflow社。

同社では、偶発的に発生するコミュニケーションを担保するため、ラポール形成の思想に基づいて相互理解や感謝を目的として様々な施策を行っています。

その施策の中のひとつ「Thanks to」では、全社会議でメンバー1人ひとりがその月に感謝のメッセージを送りたい人を決め、伝え合うという取り組みを行っています。

▼同社の「Thanks to」の様子

Thanks to以外にも、斜め1on1や、週1の「オフカフェ」、月1の「もてなし会」など任意参加の場を設けて接触回数を増やすことで、ラポール形成を深めています。

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4.相互理解を深めるワークショップ「Answer yourself」 / RELATIONS

SELECKの運営会社であるRELATIONS社では、相互理解を深めるため、新卒研修の一環として「Answer yourself」というワークショップに取り組んでいます。

これは、組織開発の源流の一人とされるクルト・レヴィンが、1940年代のアメリカで行った「トレーニンググループ」と呼ばれる学習方法に近いものです。

その内容としては、1グループ10人程度で、1週間の共同生活を行います。特定のテーマやファシリテーターを決めずに、「今、ここ」の感覚を自由に言語化し合うことで、人間関係や自身の在り方について新たな気付きを得られるワークショップとして知られています。

こうしたワークショップは様々な種類がありますが、Answer yourselfは、以下のような流れで進めていきます。

  1. ライフからキャリアまで「自分の人生のターニングポイント」を2つ話します。他の参加者は、発表者の話を聞きながら、予め用意されたワークシートに気付きをメモしていきます。
  2. 発表を終えたら、各参加者から「さらに深堀りして聞いてみたいこと」「ストーリーを聞く中で改めて気づいたこと」「届けたいメッセージ」を伝えます。
  3. 発表者1人に与えられた時間は50分で、その時間内に2のステップを繰り返すことで、相手の価値観やバックグラウンドの理解を深めていきます。全員のターンを終えた後は、お互いの新たな気付きをシェアする時間を設けるのもおすすめです。

ここでは、先述した「リフレーミング」が効果的です。

例えば、自分では「自信がないことが悩みだ」と思っていても、他者から「過去の経験を踏まえると、それは『謙虚さ』という表現の方が近い」といったフィードバックをもらうことがあります。

すると、そのような見方もあるのか、という気づきになり、弱みに対して向き合う姿勢を変化させることができます。

▼Answer yourselfで実際に使われたワークシート

実際の参加者からは「もっと一緒に仕事をしたいと思った」「〜さんが今この会社を選んでいる理由がわかった気がする」といった声もあり、とても満足度の高い内容でした。

Answer yourselfは短時間のワークショップ形式ですが、より深く相互理解を深めるためには、合宿形式で開催するのもいいかもしれません。

おわりに

いかがでしたでしょうか。「信頼関係を構築することは、マネジメントにおいて重要だ」とわかっていても、なかなか具体的な行動に移しづらいものです。

部下との信頼関係を構築し、組織やチームを良くするためにも、ぜひ「ラポール形成」の手法を活用してみてはいかがでしょうか。

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