- 株式会社メルカリ
- 総務グループ マネージャー
- 山下 真智子
同僚から月60回「成果給」を受け取った人も!メルカリの「ピアボーナス」運用の裏側
〜社員1人あたり、週に「400ポイント」を贈り合える!リアルタイムの賞賛文化と適正な評価を実現する、メルカリ「mertip(メルチップ)」運用の実態〜
非上場でありながらその評価額は10億ドルを超え、国内唯一の「ユニコーン企業」と称される、株式会社メルカリ。
同社が提供するフリマアプリ「メルカリ」は、2017年12月に世界累計1億ダウンロードを突破し、サービスの拡充とグローバル展開をさらに加速させている。
そんな同社では、急拡大する組織の中で、よりリアルタイムに、そして気軽に互いを「賞賛」できる仕組み作りの必要性を感じていたという。
そこで2017年9月に、従業員同士で感謝の言葉とともに成果給を贈り合うことのできる「Unipos(ユニポス)」を導入し、「ピアボーナス」の運用を開始。
「mertip(メルチップ)」の愛称で社内に浸透している同制度は、導入後のアンケートにおいて、社員のおよそ9割が、5段階評価で満足度4以上という高評価を得ている。
また、チームや拠点を越えたコミュニケーションの促進だけでなく、バリューに紐づく評価制度にも、mertipの仕組みが活用されているという。
今回は、同社の総務グループでマネージャーを務める山下 真智子さんに、mertipの実態について詳しくお伺いした。
「攻める総務」として、バリューを体現しやすい環境を作る
私は、前職はホテルで勤務していたのですが、元々メルカリの超ヘビーユーザーでして(笑)。
その当時、自身のブログでメルカリのことを書いていたことがきっかけとなり、2014年に1人目の総務として入社しました。現在は、5名から成る総務チームのマネージャーを務めています。
メルカリには、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューがあります。
総務チームでは「社員1人ひとりがバリューを最大限に体現すること」をミッションに、「攻める総務」として日々活動しています。
具体的には、オフィスの管理や、増床・移転の実行といった「ハード面」から、社内コミュニケーション施策などの「ソフト面」に至るまで、メルカリ社員がバリューを体現できるような環境づくりを行っています。
それに加えて、最近ではシステム導入による業務効率化にも取り組んでいます。
例えば、以前は依頼ごとに総務が手作業で対応していた出張手配を、今はチャットボットで自動化するなど、より効率良く働ける環境を整えています。
メルカリでは、総務、労務、経理、人事など、業務範囲が重なってくる部分もあるので、お互いに連携しながら業務を行っていますね。
ピアボーナスを導入し、従来の賞賛文化をリアルタイムに
社内コミュニケーション施策のひとつに、「Thanksカード」というものがありました。これは四半期ごとに、感謝や賞賛を伝えたい相手に手書きのカードを贈るという制度です。
元々こうした賞賛文化はあったものの、組織が数十名から数百名規模に拡大していく中で、より深くその文化を浸透させていく必要性を感じていました。
そこで、もっと気軽に、リアルタイムで賞賛し合える仕組みを作りたいと思っていたところ、社員同士で成果給を贈り合うことのできる「ピアボーナス」を知りまして。
いくつかのピアボーナスのツールを比較検討した中で、「Unipos(ユニポス)」が一番使いやすく、自社らしさを出せる仕組みも整っていると感じたため、導入することに決めました。
導入自体はHRチーム主導で行い、運用はミッションに紐づく形で総務が担当しています。
特にトライアル期間は設けず、2017年の9月に全社導入しました。
そして、導入1ヶ月後にとったアンケートでは、社員のおよそ9割が、5段階評価で満足度4以上をつけてくれて。また、各従業員に配布される「チップ」の消費率も半分以上でしたね。
▼導入1ヶ月後に実施した、アンケート調査結果(グラフは編集部にて作成)
この定着のポイントとしては、「ネーミング」と「導入の仕掛け」が大切だと考えています。
こうした制度って「日常的に口に出せるワード」でないと、なかなか広まっていかないと思っていて。
そこで、社員に親しんで呼んでもらえるような案をみんなで出し合った結果、「メルカリ」と「Tip(チップ)」を足しあわせた「mertip(メルチップ)」という名前に決定しました。
今では、ピアボーナスやUniposという名前ではなく、「mertip送ったよ」「mertipありがとう」といった形で、社内のメンバーが日常的に使っています。
また、導入する側が「『誕生日おめでとう』とかにも使っていいんだよ」といったような、具体的な活用例を周知することで、より気軽に贈り合ってもらえるようになりましたね。
拠点を越えたやり取りも!「mertip」運用の実態とは?
mertipでは、チャットツールのSlackやUnipos上から、ポイントを簡単に贈り合うことができます。
「1ポイント=1円」で運用しており、受け取ったポイントは、毎月の給与とともに現金で個人に支払われます。
毎週月曜に1人あたり400ポイントずつ配布され、未使用であっても1週間ごとにリセットされる仕組みです。そのため金曜になると、駆け込みでmertipの消化率が高くなったりしますね。
よくある使われ方としては、「39(サンキュー)」のポイントとともに感謝の言葉を伝える、といったような、気軽なものが多いです。
▼実際に「39」のmertipとともに、感謝を伝えている投稿画面
他にも、ある人がお菓子を10個くらい買ってきて、「自由に持って行っていいので、代わりに僕に100mertip送っておいてください」といったおふざけ混じりの使われ方もあります(笑)。
こうした想定外の使われ方もあるのですが、「賞賛を贈り合う文化」をすごく大事にしているので、これも禁止せずに許容して、気軽に贈れる空気作りを重視しています。
また、mertipを全社的に促進していくため、「mertip賞」という賞を新たに創設しました。
この賞は、mertipを「一番多く貰った人」と「一番多くあげた人」の両方を表彰しています。より多くの良いところを見つけて、賞賛を贈り合ってほしいという思いから、ポイントではなく「回数」を指標にしています。
第1回目の前者の受賞者でいうと、3ヶ月でおよそ180回もmertipを受け取っていましたね。
導入から数ヶ月経ちましたが、今ではチーム間だけではなく、拠点を越えたコミュニケーションの促進にも繋がっているなと感じています。
というのも、弊社には国内でも、東京オフィスの他に仙台と福岡にもカスタマーサポートの拠点があります。
こうした地方拠点とのコミュニケーション手段には限りがあるのですが、mertipの活用でリアルタイムなフィードバックを直接本人に伝えることができ、以前よりもコミュニケーションの量が増えましたね。
評価制度にも役に立つ!バリューに沿った行動を可視化する
さらに、mertipの仕組みは「評価」をする際にも活用されています。
弊社では、「OKRによる目標達成度合い」と「バリューに沿った行動」の2軸で、四半期ごとに評価を実施しています。
そのため、評価の時期になると、被評価者が3ヶ月分の頑張ったことをシートに記入して、対する評価者も、3ヶ月分の記憶を辿ってその人の評価を行っていました。
ですがこのやり方では、お互いに評価時期に相当な労力がかかる上に、どうしても直近の行動や目立った部分に評価が引きずられてしまって。
特に、「バリューに沿った行動をしているか」という後者の評価が難しかったんですね。
この点、mertipの仕組みでは、リアルタイムな360度からのフィードバックが、個人のタイムライン上に蓄積されていきます。
そのため、評価時期にそれを纏めるだけで、個人のバリューに紐付いた行動を可視化することができるんです。
▼個人のタイムライン画面で、同僚から受け取った賞賛や感謝が可視化される
これによって、わざわざ被評価者が自分の行動や成果を纏めなくても、「チームメンバーからの信頼が厚いな」とか、「他のチームの人とも沢山コミュニケーションを取っているな」といったことを、評価者が把握できるようになりました。
また、管理画面では、自分の贈った・貰った内容だけでなく、全社員のやり取りが見られるようになっています。
そのため、上司だけではなく、同僚やチーム外のメンバーからもその人がどのような賞賛を受けているかが可視化されるので、社員同士の相互理解にも役立っていますね。
グループ全体のコミュニケーションを活性化していきたい
mertipのポイントを消化しきっても、「0円」で感謝の言葉をつけて贈るような人がいる一方で、全くmertipを利用していない人も、やはり一定数は存在します。
なので、今後はこの割合をなるべく減らせるような施策を打っていきたいと考えています。
例えば、今は個人単位でしか贈れないポイントをチーム単位でも贈れる仕組みや、貰ったポイントを現金以外と交換できる仕組みですね。個人の成果給に留まらず、そこから好循環するような施策を試していきたいです。
一方で、「みんなでmertipやろうよ」と頭ごなしに言うことは、違うなと思っていて。無理に全員がやる必要はないと思っているんですね。
賞賛を贈り合う文化をつくりたいと思った時に、強制したとしても、絶対に続かないじゃないですか。なので、利用を促進するための工夫はしても、無理矢理にならないように気を付けています。
また、mertipに限らず、懇親会やチームビルディング、シャッフルランチなど、メルカリには社内のコミュニケーション施策がものすごく沢山あります。
これも思想としては同じで、すべてに必ず参加してほしいというものではないんです。
人それぞれ、コミュニケーションの取り方や、好み、家庭の事情などが違うので、私たちが色んなオプションを用意することで、そこから自分にハマるものを選んでもらえたら、という思いで運用しています。
また、組織が拡大するにつれて、人の顔と名前が一致しないなどの問題も出てきているので、よりコミュニケーションを活性化する仕組み作りを、一緒に考えてくれる仲間も募集中です(笑)。
今後は、他拠点や子会社の総務とも連携し、グループ全体でバリューを体現できるような環境作りを目指して、施策を考えて実行していきたいですね。(了)
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