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組織崩壊の危機から「Uber2.0」へ。カルチャー再定義、評価制度の刷新など4つの改革
シェアライドサービス「Uber」を筆頭に、Uber EatsやUber Freightなどの多角的な事業を展開し、今年4月にIPOを果たすなど、急速なスピードで成長を続けるUber社。
2018年末時点の公式数値では、世界63ヶ国に展開し、約9,100万人のMAUを有し、ドライバーを含めた従業員数は、なんと22,000名超え。
そんなUber社が、2017年に起きたある出来事をきっかけに、CEO交代を余儀なくされ、組織変革を進めてきたことをご存知でしょうか?
今の生まれ変わった組織は、社員から「Uber 2.0」と呼ばれているほど。現在は、アメリカの転職口コミサイト「Glassdoor」によるレーティングでも、総合スコア「4.3」という高い評価を得ています。
▼GlassdoorのUber社のページ
一時期、組織崩壊の危機に瀕したUberが、これほど社員から支持される会社へと変貌を遂げた裏側には何があったのか…?
気になって色々と調べてみたところ、カルチャーコードの再定義や、評価制度の刷新、福利厚生の拡充などなど、様々な改革に着手していたことがわかりました。
今回は、その「Uber 2.0」の組織変革の全容について、ご紹介したいと思います。
<目次>
- 「Uber 1.0」が直面した、組織崩壊の危機とは…?
- 【改革①】「カルチャーコード」を再定義する
- 【改革②】stack rankingの導入で「評価制度」を刷新
- 【改革③】労働環境の改善のため「福利厚生」を拡充
- 【改革④】「Comparably」を活用して、組織の透明性を高める
- さいごに…自社の組織を変革したいあなたへ
※文中の英訳については、編集部による意訳ですので、ご了承ください。
1. 「Uber 1.0」が直面した、組織崩壊の危機とは…?
まず、Uber社の組織変革のきっかけとなった出来事から。
それは2017年2月に、ある社員が個人のブログで告発した「ハラスメント問題」でした。
その内容から、セクシャルハラスメントの実態と不適切なHRの対応、そして組織的なマネジメントの問題が浮き彫りとなった同社は、組織の変革を余儀なくされました。
当時のCHRO、Liane Hornsey氏は、あるインタビューで次のように話しています。
“I’ve literally never seen employees so shocked by something and so put off by something,” Hornsey said. “And I then decided, because I could see this hurt, I could see the shock, that what the company needed more than anything, honestly, was to be listened to.”
訳:私は、従業員がこんなにショックを受けている姿を初めて見ました。その痛みを目の当たりにして、今会社に求められているものは、正直に、話をすることだと決心しました。
※引用元の記事はこちら
そして、一連の騒動の責任を取る形で、創業者かつ前CEOのTravis Kalanickが辞任。
その後、Expedia社のCEOであったDara Khosrowshahi氏(以下、Dara)が同年の8月に新CEOに就任し、組織改革を実行していったのです。
では、実際にどのような施策に取り組んだのか、ひとつずつ見ていきましょう。
2.【改革①】「カルチャーコード」を再定義する
まず、Daraが最初に取り組んだのが、「カルチャーコード」の再定義です。
前CEO時代のカルチャーコードには、14つの定義がありました。多いのでいくつか抜粋してご紹介します。
- Be an owner, not a renter(Revolutions are won by true believers.)
- Meritocracy and toe-stepping (The best idea always wins. Don’t sacrifice truth for social cohesion and don’t hesitate to challenge the boss.)
- Always be hustlin’ (Get more done with less, working longer, harder, and smarter, not just two out of three.)
簡単に意訳すると、以下のような内容です。
・借り人ではなく、所有者になれ(真に信ずるものが、革命に勝つ)
・実力主義と率直な意見(常にベストアイデアが優先される。周囲を気にして真実を犠牲にすることなく、また上司に挑戦することを躊躇わない)
・常に「働き者」であれ(少ない時間でより多くの作業をこなし、より長時間、よりハードに、より賢く働こう)
※全文(英語)をご覧になりたい方は、こちらの記事をご参照ください。
こうしたカルチャーは明文化されていたものの、それらが「社員に正しく浸透していない」ことが課題だった、と言います。
例えば「toe-stepping」は、役職や年代関係なくアイデアを共有するのを奨励することを目的としたカルチャーなのに、多くの場合、横柄な人が自身を正当化するための言い訳に使われていたそうです。
そこでDaraは、旧来の12のカルチャーを見直し、8つのコードに再定義しました。
▼Uber’s Cultural Norms
- We build globally, we live locally.(私たちはグルーバルに築き、ローカルに生きます)
- We are customer obsessed.(私たちは、カスタマーに寄り添います)
- We celebrate differences. (私たちは、違いを祝福します)
- We do the right thing.(私たちは、正しいことを行います)
- We act like owners. (私たちは、所有者らしく振る舞います)
- We persevere. (私たちは、辛抱強くあります)
- We value ideas over hierarchy.(私たちは、ヒエラルキーを超えてアイデアを評価します)
- We make big bold bets. (私たちは、大胆な賭けをします)
※引用元の公式ブログはこちら
以前と違って、全文とも「We」を主語とした新カルチャーコードでは、「私たちがどうあるべきか」がよりシンプルでわかりやすく伝わる表現になっています。また、12から8にカルチャーの数を絞ったことも、社員への浸透において重要なポイントです。
また、その決定プロセスにおいて「カルチャーは、ボトムアップで定義されるべき」だとDaraは語ります。
実際、Uberの新カルチャーは、社員のアイデアが元になっています。社員へのアンケートを通じて約1,200人からアイデアを集め、さらに全社員による投票によって、アイデアの絞り込みを行ったそうです。
このように、組織変革の出発点として、まずは上位概念から見直すということは重要なステップだと考えられます。同様の国内事例もありますので、併せてご参考にしてみてください。
▶︎参考記事:組織はなぜ変われないのか? 経営者こそ「360度フィードバック」を受けるべき理由(RELATIONS株式会社)
3.【改革②】stack rankingの導入で「評価制度」を刷新
次にUber社が取り組んだのが、「評価制度」の刷新です。
ハラスメント問題の発覚後、社員へのヒアリングにより明らかになったのは、Performance Review(評価制度)が形骸化している、という事実でした。
そこで同社は、半期に1度、社員のパフォーマンスを1〜5点のスコアで評価する「stack ranking」をPerformance Reviewに導入。
▼Uber社の評価分布図(※引用元:HR at Uber)
stack rankingは、GE社の元CEOであるJack Welch氏が創始(※10年後の2015年に廃止)したことで有名ですが、「上位20%・中間70%・下位10%」のいわゆるベルカーブに分布される「相対」の評価制度になります。
この制度には、上位層の人々には高額の報酬で報いる一方で、下位層の人々は解雇の可能性がある、という厳しさがあります。ですが、社員同士の競争をうまく引き出せば、企業の成長につながる仕組みです。
一方で、stack rankingは「マネージャーによって評価が属人化しやすい」といった欠点も指摘されています。
そこで同社は、同僚からも評価を受ける「Peer Review(※360度評価)」を同時に取り入れました。ウエイトは低くなりますが、こちらも評価に加味されるそうです。
※「360度評価」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
元々の課題が大きかった評価制度は、組織変革の目玉のひとつであったと考えられます。(※2017年時点の情報であり、現在もこの制度を運用されているかは不明です。)
4.【改革③】労働環境の改善のため「福利厚生」を拡充
さらに、組織として「Diversity & Inclusion」をより強化するようになった背景から、誰もが働きやすい労働環境を整えるため、「福利厚生」も拡充してきました。
その内容は、まさに至れり尽くせり!以下に、主な福利厚生を挙げてみたいと思います。(Glassdoorの社員の口コミをもとに記載しています。)
- Uberのサービス利用料17%オフ
- 月200ドル前後(※エリアにより異なる)の「Uber Credit」(UberとUber Eatsで利用可能)
- 無料の食事(朝昼)、スナック、飲料
- 月70ドルの健康手当(ジムやフィットネスなど)
- 18週間の父親の育児休暇(妊娠時・出産前後で取得可能)
- 無制限の休暇取得
- 手厚い医療保険(内科、歯科、眼科をカバー)
無料の食事提供やジムなどは、海外のスタートアップではもはや珍しくありませんが、Uber社員ならではの特典も盛り沢山。父親が18週間にわたる育児休暇を取得できる点も、かなり手厚い制度だと思います。
実際の口コミをみても、福利厚生に対する従業員の満足度はかなり高いです。社員がパフォーマンスを発揮できるような環境づくりは大切ですね。
5.【改革④】「Comparably」を活用して、組織の透明性を高める
最後に、変革を遂げたUber社が、現在活用している「Comparably」というカルチャーマネジメントツールをご紹介します。
▼ComparablyのUber社のページ
このサービスは、よく「Glassdoor」などの転職口コミの類似サービスとして紹介されていますが、実は目的や内容が異なります。
一番の違いとしては、前者では「退職後」に書き込まれた口コミが多いのに対し、Comparablyでは「在職中」の現役社員の口コミのみが表示されます。(退職者からの口コミも表示させるかどうかは、企業側が選択することができます。)
また、社員がレビューを書き込む際、必ず20項目からなる選択式の質問にも答える必要があります。
▼実際の質問(一例)
- How would you rate your manager?(あなたのマネージャーに点数をつけるなら?:10段階)
- Do you believe you’re paid fairly(あなたの会社では、給料が公平に支払われていると感じますか?:Yes/No)
- Do you look forward to interacting with your coworkers?(あなたは同僚との交流を楽しみにしていますか?:Yes/No)
この回答結果から、例えばCEOやTeamなど、カテゴリ別のスコアが算出されます。口コミや評価レートは常にアップデートされるので、候補者にとっても社員にとっても、組織の「今」の状態を確認することができます。
▼カルチャースコアの内訳(カテゴリ別)
そして経営者としては、部署別のスコアや競合他社との比較もわかるので、自社の弱い部分を強化して、組織改善につなげることも可能です。
例えば、シェアライドサービスの競合Lyft社と比べてみると、Uber社は「Diversity」などに改善余地がありそうですね。
▼「Uber」vs「Lyft」
さいごに…自社の組織を変革したいあなたへ
Uber社の組織変革の取り組み、いかがでしたでしょうか。国内外問わず、共通する部分もあると思いますので、ぜひご参考にしてみてくださいね。
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