- 株式会社アンドパッド
- HR Manager
- 高嶋 恵美
1年で社員数が倍増!フルリモートでもバリューを浸透させる、アンドパッドの組織作り
〜ミッション・ビジョン・バリューを策定した直後にフルリモートに移行。YouTubeのライブ配信などを活用し、組織の結束力を高めた方法とは〜
組織の拡大に伴って生じる、メンバー間の目線のズレや、組織の亀裂を防ぐためには、どうすればよいのだろうか。
2014年に創業し、「幸せを築く人を、幸せに。」というミッションのもと、建設・建築現場で使える施工管理アプリ「ANDPAD」を提供する株式会社アンドパッド。
2019年のはじめに、いわゆる「100人の壁」に直面した同社は、社員全員の目線を合わせるため、1年かけてMVVを策定。
2020年4月より、コロナ禍でフルリモート体制に移行した直後から、MVVの浸透を目的として「ANDPAD Build up Conference」や「ランチパッド」という名のYouTubeライブの配信や「Web社内報」などの施策を実行しているという。
その結果、半期毎行っている組織サーベイでは「ミッションの発信」のスコアが3.5ptから3.9ptに、「ミッション浸透」のスコアが3.1ptから3.6ptに大幅改善したそうだ。(5.0pt満点/他社平均3.3pt)
同社でHR Managerを務める高嶋 恵美さんは、「MVVを浸透させていく上で重要なのは、課題と目的を明確にして、『面』で施策を実行していくこと」だと語る。
今回は高嶋さんに、リモート環境下でMVVを組織に浸透させるための施策と、その改善プロセスについて、詳しくお伺いした。
ミッションは存在していた。けれど、ずっと曖昧だった
私は、新卒から人事のキャリアを歩み、ベンチャーから大手企業まで様々な規模・フェーズの組織で経験を積んできました。そして2019年9月に人事としてアンドパッドに入社し、現在は採用マネージャーとして人事施策まわりを担当しています。
弊社は2014年に創業し、「圧倒的な顧客目線」を大切にして事業と組織を拡大させてきました。創業当初は、ミッションを明確には定めておらず、バリューもなかったんですね。
そんな中、2018年末頃に、顧客よりも社内の人間関係の方に目線がいってしまう、組織分裂にも近しい状態の「50人の壁」を経験しました。
その時はなんとか乗り越えたのですが、2019年のはじめに、今度は「100人の壁」が出てきてしまって。メンバー全員が同じ方向に向かっていく重要性を改めて感じ、ミッション・ビジョン・バリューを策定することにしました。
実は、当時もミッションはあったのですが、文言が頻繁に変わったり、言い回しが難しかったりで、全員が話せるくらい浸透しているものではなかったんです。
そこで、ミッション・ビジョンを再定義し、新たにバリューを策定するために、マネージャー合宿や全社総会でのグループワークなどを実施し、1年かけて議論を重ねてきました。
最終的に、ブランディングチームがワーディングを洗練させる形で、2019年12月末にいまのMVVが決まりました。
▼策定されたバリュー(同社HPより)
ただ、MVVを策定したことで組織の一体感が高まったかというと、一筋縄ではいかなくて(笑)。2020年4月からコロナ禍でフルリモートになったこともあり、なかなか浸透には苦労しましたね。
結局、言葉としてはわかっていても、個々によって「どのような人がバリューを体現しているのか」の捉え方にバラつきがある状態でした。
社内限定の「YouTubeライブ」を開始し、経営層からMVVを発信
そこで、今年の5月からMVVの浸透を目的として「ANDPAD Build up Conference(以下、ABC)」をスタートしました。
ABCは、経営層と人事のメンバーがYoutubeライブにて、45分間のフリーディスカッションを行うものです。現在は、隔週の金曜に開催しています。
当時、経営層とのコミュニケーションを図る機会が減っていることが課題のひとつとして挙がっていたため、経営メンバーがMVVへの思いを発信する場としてスタートさせました。
▼「ABC」放送中の様子
ただ、やはり始めた当初はうまくいかなくて。「そもそも経営層との距離が離れすぎていて、自分ごと化が難しい」という社員からの反応があったんです。
それからは、役員の人柄を知るようなコンテンツにしたり、ゲストを呼んだりと、毎月テーマを変えることで飽きがこないように工夫しています。
現在実施している、「役員が”今”話したい人」という企画では、様々な部門で活躍しているメンバーをゲストに呼び、その理由をバリューとあわせて紹介することで、バリューの浸透や相互理解にもつながっていますね。
また、家庭の事情で時間が合わないメンバーや、関心のある部分だけ聞きたいというメンバーもいるので、ABCの動画は全てアーカイブで残すようにしています。アーカイブ動画は、放送時間を10〜15分単位で区切り、そこに興味をひくタイトルをつけています。
フルリモートの状況下で組織が急拡大しているからこそ、こうした蓄積されるコンテンツは、新入社員へのオンボーディングの材料としても活用できています。
▼「ABC」アーカイブ動画のタイトル例(同社提供)
すべての施策においてそうなのですが、「やりっ放し」にしないことが大事だと思っていて。どうしたらリアルタイムで見られない社員にも伝えられるか、後からジョインするメンバーにも興味をもって見てもらえるか、といったところまで考えていますね。
「ランチパッド」と「社内報」を開始。施策は「面」で展開する
ABCが好評だったことを受けて、次に始めた施策が「ランチパッド」です。
ランチパッドは、ABCと同じくYouTubeのライブ配信なのですが、全社向けではなく部門別に実施しています。
ここでは、2週に1度、ノミネートされた人が具体的にどのような業務をしているのかを取り上げることで、業務レベルへのMVVの浸透や、ナレッジシェアにも役立っています。
さらに、より「人」にフォーカスした社内報もアップデートしました。現在は月2回のペースで発行していて、活躍している社員へのインタビューや、ABCやランチパッドの内容などを記事にして、部門の垣根を超えた情報共有ができるようにしています。
いずれも風変わりなコンテンツではないのですが、MVVの浸透という課題に対して、様々な角度から「面」で着実にアプローチすることが大切だと思っています。
以前は全社総会しかなかったので、経営の話もしたいし、MVVも伝えたいし、事業の振り返りもしたいといった感じで、1つのコンテンツに様々な目的が混ざっていたんですね。
それを、全社総会は「経営方針をしっかり伝える場」として切り分けて、ABCで「MVVを伝える」、ランチパッドで「ナレッジを共有する」、社内報で「人を伝える」、といった形で、コンテンツの位置付けを整理したことが良かったと思います。
こうした施策を通じて、「他部門のメンバーの人となりがわかり、業務がしやすくなった」「協働関係ができた」といった声がありましたね。
また「賞賛する文化」の土台が創られたことで、バリューを体現する人の「ロールモデル」が個々でイメージしやすくなったと感じています。
社員へのアンケートを実施して、施策の改善を繰り返す
また、それぞれの施策の振り返りと効果を把握するために、施策を始めた当初からアンケートを実施しています。
アンケートを取り入れた頃は、ABCをはじめとした新しい施策のコンテンツを改善するために、テーマや開催頻度、時間帯、視聴の有無などをヒアリングする目的で活用していました。
現在は、全てのコンテンツの土台が出来上がってきたので、「コミュニケーションに関するアンケート」と称して、メンバーがいつ、どのような場面で、どんなコミュニケーション課題を抱えているか、を把握するために月に一度実施しています。
このアンケートで気をつけているのは、「できるだけ設問を具体化すること」です。
というのも、コミュニケーションと言っても、業務を円滑にするコミュニケーションもあれば、心理的安全につながるコミュニケーションもあります。
どのコミュニケーションに対する質問かを明確にすることで、「寂しさを感じている」「帰属意識が足りていない」といった自身の感情に向き合うきっかけにもなると考えています。
また、毎月新しいメンバーが入社している状況なので、各コンテンツの存在を伝えるために、各アーカイブ動画や社内報などのURLを、該当する設問部分に貼り付けて誘導するような工夫も行っていますね。
アンドパッドの「人格」の解像度を上げていきたい
一連の施策を通じて、モチベーションクラウドの「帰属意識」や「ミッションの浸透」の項目が大きく改善されました。この1年で、組織の人数が100名から200名へと拡大するなかでも、組織の一体感が保てているかなと思います。
ただ、今後もこの働き方がスタンダードになることを考えると、リモート環境下で入社したメンバーが組織のカルチャーを体感するってなかなか難しいと思うんです。
新しいメンバーが「こんなことが知りたい」と思ったときに、必要な「材料」を用意しておくことが大事だと思っているので、今後もその材料を増やしていきたいと思います。
また、日々のコミュニケーションにも落とし込むことが重要ですね。MVV策定のタイミングで、バリューと連動した評価制度を作ったことで、マネージャーとメンバー間でもMVVに対する目線が揃ってきたかなと感じています。
ただ、社内で「アンドパッドで活躍する人」のイメージの解像度が上がってきた一方で、社外の人から見たイメージがそれに一致しているかというと、まだまだかなと思っていて。
各施策も始まったばかりなので、「アンドパッドの人」というイメージを作る上で足りていない「空白」を埋めるべく、引き続き試行錯誤していきたいですね。(了)