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4年でMRR10倍×働きがい向上を両立。ベーシックの「リモート組織を成功に導く4つの仕組み」

4年でMRR10倍×働きがい向上を両立。ベーシックの「リモート組織を成功に導く4つの仕組み」 スタートアップ

長らくリモートワークを続けた企業において、「オフィス回帰」の流れが生まれつつある。今後どのような働き方を選択するかは、事業や組織づくりに大きく影響するため、多くの経営者が頭を悩ませていることだろう。

そんな中で、今後もリモートワーク主体の働き方を継続すると決断した企業が、株式会社ベーシックである。

BtoBマーケティングツール「ferret One」、フォーム作成管理ツール「formrun」などを展開する同社は、2020年2月から全面的にリモートワークに移行。そして、事業成長と社員の働きがいの両立を目指して、「評価制度」「行動規範の浸透」「コミュニケーション設計」「環境整備」の4つの観点で取り組みを実施した。

特に評価制度においては、従来より運用している「期待役割グレード​​制度」をベースに、「成果」に基づいて評価することと、適正に評価するための目標(ミッション)設定を徹底。その他にも、物理的な距離のあるリモート環境下であっても、密なコミュニケーションを絶やさない仕組みを構築しているという。

取り組みの結果として、リモートワーク開始後も事業の業績が順調に伸び続け、直近4年間でMRRが約10倍にまで向上、サーベイによる「社員の働きがい」の数値も上昇し、2022年の離職率は創業以来最も低い水準となったそうだ。

今回は、同社で人事広報部長を務める伊藤 総和さんに、ベーシックがオフィス回帰しないと判断した背景や、企業がリモートワークで成果を出すための仕組みについて、詳しくお話を伺った。

リモートワーク移行後も業績を伸ばし続け、離職率は最低水準になった

私は新卒で金融機関に入社した後、人材業界に10年ほど携わる中で、セールスマネージャーや営業企画、コーポレートマネージャーなどを経験し、その後ベーシックに入社しました。現在は、採用やオンボーディングを中心に人事機能を統括しています。

▼人事広報部 部長 伊藤 総和さん

弊社の組織づくりにおける大きな転機は、2020年2月に訪れました。当時はコロナ禍による環境の変化もあり、社員一人ひとりの生産性をどのように最大化できるかを考えた結果、全面的にリモートワークへ移行することを決断しました。

その後は、オフィスワークを組み合わせたハイブリッドな働き方を選択できるようにしながらも、弊社としては「今後もリモートワーク主体の働き方を継続する」と決めています。

今回は、多くの企業が続々と「オフィス回帰」を宣言する中で、なぜベーシックはそれをしないのかについてお話しできればと思います。

まず、一番大きな理由は、リモートワーク開始後も事業の業績が順調に伸び続けており、直近4年間でMRRが約10倍にまで向上したことが挙げられます。

▼同社の業績推移(2018年〜2022年)

また、サーベイによる「社員の働きがい」の数値も上昇しており、昨年の離職率は、2004年の創業以来最も低い水準となりました。

弊社では「正しくて強い組織になる / ハッピールーザーにならない」という想いに沿った組織運営を意識しており、この実践をもってリモート環境下にも関わらず、定性面・定量面ともに明確な成果が出せていることがリモートワーク継続に至った背景です。

しかし当然ながら、単純にリモートワークに移行しただけでは、このような成果には繋がらなかったと思います。

実際に、弊社と同様にリモートワークに移行した企業の方々からは、「ワークライフバランスを向上できた一方で、事業の業績が下降してしまった」とか「業績は伸びたものの、社員の帰属意識が低下したりメンタルコントロールが難しくなったりして、休職や退職が増えてしまった」といった声を聞くこともありました。

そのような状況を防ぎ、「事業成長と働きがいの両立」を目指した組織づくりを行うべく、ベーシックでは2020年当時から「挑戦と成長を促進する評価制度の運用」「行動規範の浸透」「コミュニケーション設計」「環境整備」という4つの取り組みを実施してきました。ここからは、それぞれの施策について詳しくお話しさせていただきます。

会社から期待する役割に応じて報酬を上げる「期待役割グレード制度」

1つ目の取り組みは、「挑戦と成長を促進する評価制度」の運用です。前提として、弊社は社員に対する「成長機会の提供」と「適正な処遇・評価」を提供するとともに、社員には継続的な成長志向を求めています。

また、リモートワーク環境下の評価制度において特に重要なのは、プロセスだけではなく「成果」に基づいて評価することと、適正に評価するための目標設定を徹底することだと考えています。

ベーシックではそのような考えを基にした評価制度として、「期待役割グレード制度」を導入しています。

具体的には、過去の一定期間に成し遂げた成果に対して評価・報酬を決めるのではなく、次の半期でその人に期待する役割(職責)の大きさに対してグレードと報酬を決定します。ですので、グレードの決定時に能力が多少不足している部分があっても、会社が期待して役割を任せることのできる基礎体力が身に付いているならば、報酬を上げるという制度運用になっています。

例えば、ビジネス職のグレードであれば、「難易度」「組織影響度」「裁量度」「対人関係スキル」の4軸でポイントが割り振られていて、その総合点でグレードが決定されます。また、1つ上のグレードに対して7〜8割は達成可能な水準だろうと判断されたタイミングで、グレードの引き上げを検討する形となります。

▼同社のグレード概要(ビジネス職の例)

半期ごとの目標設定と評価サイクルについては、まず役員と部長レイヤーが中心となって、各事業部や部門のKGIを達成するために必要な要素を洗い出し、具体的な戦略戦術を「ミッションツリー」として分解します。

次に、それに紐づける形で、マネージャーがメンバーそれぞれのグレードに合った「個人ミッション」を作成することで、個々人の成果の積み上げが、確実に事業成長に結びつくような仕組みにしています。

また、個人ミッションには、あらかじめ5段階の達成基準が設けられています。これによって、期が締まった時の成果をより明確化することと、高い基準を達成しようというメンバーのモチベーションを醸成するという狙いもあります。

▼例:コーポレート部門のミッションツリー(上)と、それに紐づく個人ミッションシート(下)

個人ミッションを決める際に注意しているのは、「成長と成果を最大化できる難易度」で設計することです。

部活動を例にすると、地区大会で1回戦負けするような学校で緩やかに活動していた人が、いきなり全国大会の常連校に転校したら、おそらく不安や諦めに襲われることになるでしょう。逆も然りで、退屈で成長実感が得られない環境では、成長と成果の最大化を望むことはできません。

ですので、適切な期待値とプレッシャーをバランスよく考慮することは、非常に重要だと思っています。

そして、個人ミッションが決定してからの半期は、メンバーと上司で週次1on1や月次振り返りを行い、ミッションに対する進捗度合いと、どのようにギャップを埋めていくかについて、かなり密にコミュニケーションを重ねています。

ミッション達成を目的として、週次・日次ペースで細かくPDCAを回していくと、リモートワークだからと言ってさぼってしまうといったことは起きません。これが、弊社がリモートワークに移行してからもうまく組織が機能している大きな要因の一つだと思っています。

メンバーの9割が「自分の評価に納得」と回答するほど、徹底した仕組み

評価制度の運用においては、「人材開発会議」「査定会議」「ミッション設定会議」という3つの会議体も運営しています。これらを通じて、メンバーの育成計画と共に、前述のグレードやミッションが決定される形となります。

▼査定までの全体スケジュール例(半期ごと年2回のサイクル)

まずミッションツリーの作成と同時期に行われるのが、人材開発会議です。ここでは約170人の社員一人ひとりに対して、対象メンバーの管掌役員とマネージャー、人事の部長レイヤーが参加して育成計画を立てます。

具体的には、本人の強みや課題、期待する役割と希望のキャリアプランに対して、どのような成長機会を与えられるかを多角的に話し合った上で、適切なグレードをマネージャーからプレゼンする形です。

▼議論した内容をもとに、上司が作成するメンバーへのフィードバックシート(例)

次に行う査定会議では、直近半期のミッションの到達具合や、他メンバーのグレードとの整合性を見ながら、人材開発会議でプレゼンされた個々人のグレードが適正かどうかを話し合っています。それと同時期に、各メンバーの個人ミッションも設計していきます。

最後に行うのが、ミッション設定会議です。ここではそれぞれの個人ミッションが、本人や事業を成長させるトリガーになっているかを最終確認しています。その場を経て決定した個人ミッションを持って、全員が次の半期を走り抜けるわけです。

ここまで徹底して「成長機会の提供」と「適正な処遇・評価」を仕組みに落とし込んでいることから、半期ごとの社内サーベイでも、9割以上のメンバーが「自分の評価に納得している」と回答してくれています。

basic power(コンピテンシー)の浸透を徹底し、一枚岩で動ける組織へ

2つ目の取り組みは、「行動規範であるbasic power​​(コンピテンシー)の浸透」です。

私たちは「GOAL ORIENTED(目的志向)」「TRY&LEARN(仮説検証志向)」「TEAM SPIRIT(協調・協業志向)」という3つのコンピテンシーを非常に重要視しています。これらは、リモートやオフラインといった働き方を問わず、成果を出すために必須の行動特性として定めたものです。

それを会社全体に浸透させるために、入り口である採用フェーズからこれらの志向性が高い方を採用し、評価のフィードバックの際にも、コンピテンシーに紐づけて伸ばすべきポイントを伝えるようにしています。

また、半期ごとに社員全員が集まる全体会では、「コンピテンシーの体現度合いの高い方」をMVPとして表彰します。そして、彼らが成果を創出するプロセスや、日々意識していることを社内報を通じて啓蒙することで、他メンバーのコンピテンシーへの理解がより深まるようにしています。

これらの工夫によって、現状でも全社員のコンピテンシーに対する理解度はすごく高い状態になっていますが、さらに日々の業務においては、マネージャー陣に対して自チームのコンピテンシー体現度を高める施策を実施することを求めています。

例えば「GOAL ORIENTED」の観点では、ミーティングの生産性を高めるために、アジェンダの事前共有や冒頭のゴール共有を徹底したり、そもそもミーティングを行うことの意味や目的を整理したりと、日々の行動レベルでの約束事(ワーキングアグリーメント)をチームごとに決めて運用するようなイメージです。

9つの切り口でコミュニケーション機会を創出。入社後GAPを排除する

3つ目の取り組みは、「コミュニケーション設計」です。

現状、全社のリモートワーク率は90%ほどで、引き続き積極的に活用してもらいたいと考えていますが、やはり対面コミュニケーションの機会が失われると、部署間の連携や横の繋がりを維持することが難しくなりますよね。それを放置してしまうと、結果的に帰属意識の低下を招いたり、組織の心理的安全性が低い状態に陥りがちです。

そのため、弊社ではリモートワーク移行後にエンプロイーサクセスに力を入れて、普段の業務では絡むことが少ない社員同士の連携や、横軸でのコミュニケーションパスを会社側から誘発する仕組みを構築してきました。

▼同社のコミュニケーション設計の全体像

まず、社員同士の食事に対する1回2,000円のコミュニケーション補助などを設けた上で、人事が主導して「配属部署 / 社長 / 同期 / 同年代 / 先輩社員 / 同郷 / 同職種 / 勤務場所 / 趣味・コミュニティ​​」という、9つの切り口でコミュニケーション機会を用意しています。​​

これだけ幅広い組み合わせで機会を設ける理由は、メンバーが仕事以外の繋がりを持つことで、組織に対する粘着性も強めることができると考えているからです。

また、あくまでもリモートワークを主体とした中で、「コミュニケーションスペース」としてのオフィスはどうあるべきかを考えて、全面的にレイアウトを変更しました。

▼リモートワークを軸としたニーズに合わせて、オフィスレイアウトを変更

そのような様々な取り組みをしてきた中で、特に一番力を入れたのは「入社前後のイメージギャップによる早期退職をなくす」ことです。

まず新入社員の受け入れ時の施策としては、入社前に人事とマネージャーで綿密なミーティングを行った上で、誰が、いつ、何をやるのかをまとめた「入社オンボーディングシート」を用意し、一人ひとりに合わせた丁寧なオンボーディングを実施しています。

また、入社後はとにかく新入社員が不安に感じないような働きかけを大事にしていて、定期的な1on1に加えて様々な切り口での歓迎ランチを企画したり、「ブラシス制度」として頼れるお兄さん、お姉さんを人事がセッティングしたりしています。

このブラシス制度に関しては、各事業部のマネージャー陣と人事メンバーが隔週で実施しているHR会議にて、新入社員一人ひとりの志向性やキャリア像、興味分野などを加味して、どの人が合いそうかを真剣に議論して決定しています。

▼新入社員をサポートするための全体スケジュール

その他にも、入社3ヶ月間の新入社員用のミッションを設定したり、趣味のコミュニティなどをSlack上で運営して、コミュニケーションの偶発性と継続性が生まれたりするような仕掛け作りを行っています。

※同社のコミュニケーション施策の詳細については、こちらのnoteもご参考ください

そして、4つ目の取り組みとして、「出社せずに業務を完結でき、生産性高く働ける環境整備」を行いました。

具体的には、経営に直結するコア業務とそれ以外のノンコア業務を振り分けて、ノンコア業務においては各業務に最適なSaaSなどのシステムを導入したり、外部に委託したりすることで徹底的にDXを図っています。

とはいえ、私は「現状維持は衰退」だと考えているので、一度決めた運用をやみくもに続けるのではなく、会社が目指すところに向けてさらに進化するために、ベストな選択は何かを考え続けています。

IPOを見据え、一丸となって組織強化や事業成長に取り組んでいきたい

ここまでお伝えした4つの取り組みを徹底したことで、冒頭にお伝えした通り「直近4年でMRR約10倍、働きがいの上昇、最低水準の離職率」という成果に繋がりました。

もちろん、どのような施策を行おうとも、退職者が一切出なくなるということはありません。しかし、近年は人間関係や評価への不満を理由に退職する方がおらず、その後も「ベーシックが大好きです」と言ってくれている人ばかりで、以前はそこまでの組織状態にはなっていなかったと思います。

今も引き続き、事業と組織づくりの両面を磨き込んでいる中で、採用シーンでは本当に優秀な方ばかりが集まるようになっていますし、在籍メンバーもそれに引き上げられるように、事業や自身の継続的なレベルアップを図ってくれています。

「もっと学んで成長していきたい」という方には、非常に素晴らしい環境になっていると思いますので、ベーシックに興味をお持ちの方にはぜひお問い合わせいただけたらと思っています。

また、現在はIPOを見据えて、組織基盤の強化や事業成長に対してしっかりと取り組んでいますが、それはゴールではなく通過点の一つでしかないと考えています。

ですので、私自身は今後も全メンバーを強く後押しできる環境を作っていきたいですし、会社のミッションやビジョンへの共感度が高い方々が集結している今、気を引き締めて全員で一丸となって頑張っていきたいなと思っています。(了)

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