- サイボウズ株式会社
- グローバル開発本部 大阪開発部長
- 岡田 勇樹
「すべてを共有する」必要はない!? サイボウズに学ぶ、リモートワーク成功のカギ
今回のソリューション:【分散開発】
〜東京と大阪、離れた場所で働く開発チームのリアルな現場とは? サイボウズ株式会社の成功事例を紹介〜
リモートワークを成功させる「カギ」はどこにあるのだろうか。ビデオチャットで常にコミュニケーションを取れる状態にしたり、他拠点の映像をプロジェクターで映すなど、各社が創意工夫を重ねている。
しかし、リモートワーク特有の「コミュニケーションの難しさ」に、課題を抱えている企業も少なくない。
「チームワークあふれる社会を創る」という理念を掲げるサイボウズ株式会社も、リモートワークに力を入れている企業のひとつ。同社では2014年7月の大阪開発拠点の立ちあげを皮切りに、複数拠点での分散開発を進めてきた。
その大阪拠点の立ち上げを担ったのは、もともと「地元で働きたい」という思いを持っていたという、グループウェア「kintone」の開発リーダー・岡田 勇樹さん。
「『すべてを共有する』ことがリモートワークの成功の秘訣だと思っていたんです。ただ実際にやってみると、それは必要なかったとわかりました」と語る岡田さん。
今回は、コミュニケーションの溝を埋めるために気をつけたこと、成功の秘訣、そして未だ解決できていない課題について、詳しいお話を伺った。
大阪に開発拠点を立ちあげ、分散開発をスタート
私は大学院を卒業後、新卒でサイボウズに入社しました。3年目に松山へ転勤し、5年目に東京に戻ってきてからは、kintone開発チームのリーダーをしています。そして2014年の9月に大阪に開発拠点を立ちあげ、今も大阪で勤務しています。
▼今回の取材も、大阪と東京をつなぐ「遠隔」で行いました。
昔から子供を育てたり、親の面倒をみたりということを考えると、地元の関西に住みたいな、ということを考えていました。2013年頃には、今の上司に「もう会社を辞めて大阪に帰ります」という話もしていたほどです。
ただ、ちょうどそのタイミングで大阪に開発拠点を立ち上げるという話をもらって。責任者として、立ちあげに携わることになりました。
もともと大阪に営業所はあったのですが、そこには数名の営業担当しかいませんでした。そこに人事やエンジニアも入れて、大きめの拠点にしていきたいという構想があったんですね。
当時の営業所があまりエンジニアや学生さんにとっては魅力的な場所ではなかったこともあり、大阪の中心地にまずは4人ほどが入るオフィスを借りました。今では大阪も20人ほどの規模になり、東京-大阪間で分散開発をしています。
大阪に開発拠点があることで、採用にもメリットがありますね。東京で人を採用するのは苦労しますし、将来的には地元に帰りたい、関西出身の人を採りやすいというのは良い点かと思います。
敢えて「大阪のメンバーだけのチーム」は作らない!
kintoneの開発チームは、4つほどの小さなチームに分かれています。そして、いま大阪にいる4人のkintoneメンバーは、それぞれが別々のチームに分かれて働いています。
本当は、大阪拠点で1チームを作ってしまう方が、コミュニケーションも取りやすくて簡単ですよね。そこを敢えて、東京のメンバーと組み合わせて、その人のやりたいことや特性を優先したチーム構成にしています。
その理由は、今後さらに分散開発が進んだ時のための、成功事例を作っておきたいからです。今は東京・大阪・松山に開発拠点がありますが、今後は、在宅で仕事をする人も増えてくると思っています。
今の段階で、例えば「大阪1人、東京3人」というチーム構成でもうまくいくということが証明できれば、拠点が増えてもスムーズに回せるはずです。
各チームは、それぞれが毎朝テレビ会議を実施して、コミュニケーションを取っています。東京では、誰か1人の席に集まって大阪と繋ぎますが、大阪では隣に座っている人同士が別の会議に出ているような状態なので、ヘッドセットをつけてそれぞれが自分のいるチームと話していますね。
ある程度ツールにコストをかけ、コミュニケーションの質を担保
弊社では、分散開発を始める前から在宅勤務を推奨していました。ただ、当時は月に1、2回だけ在宅で仕事をするという形が多く、長期間にわたり、完全に離れた場所で仕事をすることはなかったんですね。
もともとコミュニケーションはkintone上で行っていることも多く、開発プロセスもGitHubを使ったフローに慣れていたので、業務の進め方については心配していませんでした。ただ、リアルな場所でのコミュニケーションは完全に無くなってしまうので、そこをどう埋めるかということに一番気を付けて進めていきました。
例えば、テレビ会議にはCiscoのテレビ会議システムを使用しています。SkypeやGoogleハングアウトなどの無料サービスも試したのですが、やはり声がちゃんと聞こえるかであったり、遅延が無いかといった「コミュニケーションの取りやすさ」が重要になるんですよね。
テレビ会議ツールをつなぐことに手間取ってしまって、ミーティングの最初の10分を消費してしまうことってあると思うんです。それは、拠点が分散していなければ必要のない作業なので、どうしても本拠点ではない方が足を引っ張っている感じが強くなってしまいます。
そういった問題は、ある程度コストをかけてでも、解消していくことが重要だと感じていますね。
また、直接会って話す機会を作ることも大事にしています。大阪で採用した人も、最初の3日間くらいは研修で東京に出張します。ただ、その期間だけでは他のメンバーとあまり仲良くなれないので、3ヶ月に1回は東京に行き、チームメンバーの懇親会を開催しています。
リモートワークで「すべてを共有する」必要はない!?
分散開発を始めた最初の頃は、Skypeを常時接続し、離れていても同じチームで働いている、という感覚を持てないかを試していました。「すべてを共有する」ことがリモートワークの成功の秘訣だと思っていたんです。ただ実際にやってみると、それは必要なかったということがわかりました。
実際にそこにいるわけでもないのに、常に「見られている」という感覚は、あまり気持ちのいいものではないんですね。直接見られているのと、パソコン越しに見られているというのは違うんですよ。
例えば、席でご飯を食べているところなんて見られたくないですよね。そうすると、接続を切るようになって、もう一度入れるのが面倒になり続かないんです。
空間の共有が大事だと妄想していたのですが、実際は必要ありませんでした。チャットでいつでも声をかけられるだけでも十分だということを、これから職場を分散化していきたい人には伝えたいですね。
会議の進め方にはまだまだ課題もあり
分散開発のスタイルになって、パフォーマンスが落ちたということはありません。ただ、会議の難しさというものは課題として残っています。大阪の方が人数が少ないので、どうしても人数が多いほうが「主」で、少ないほうが「従」という主従関係になってしまいます。
ただでさえ発言が少ない人が「従」の方に入ってしまうと、重要な会議でもまったく発言できなくなってしまいますね。僕自身は結構発言をするタイプですが、遠隔で行うマネージャー会議だと話しかけるタイミングが難しいというのは、今でもよく思います。
こういった問題は、人数の多い方が気を使うことで解決していくのが良いと考えています。東京の方に、「大阪の人、何かないですか?」と定期的に聞いてもらう。
そのためにも、東京にいるリーダーに、大阪出張で分散開発を体験してもらっています。会議での喋りにくさというものを実際に体験すると、東京に戻ってからも会議を改善しようという気持ちになってくれますね。
サイボウズを「働きたいところで働ける」会社にしていく
個人的には、大阪に移ったことでプライベートの充実感がまったく変わりました。やはり、関西弁が聞こえてくる環境は心地良いですし、家族も喜んでくれることで、ストレスなく仕事に打ち込めます。
事情があって地元に帰らないといけない人であったり、地元の方がプライベートも充実してパフォーマンスが出るという人は必ずいます。そのためにも、まずは大阪で成功事例を作り、サイボウズを、「働きたいところで働ける」会社にしていきたいと思っています。(了)