- READYFOR株式会社
- VP of Engineering
- 伊藤 博志
組織の「乳化」を目指す。職種を超えた連携を生み出す「スクワッド組織」運営とは
〜ミッション単位で職種横断チームを編成する「スクワッド組織」。ビジネスメンバーとエンジニアの垣根をなくし、全社が一体となるREADYFORの組織運営〜
職種が異なるメンバーが一体となって、スピード感を持って業務を遂行するには、どのような施策が有効なのだろうか。
2011年にサービスを開始し、日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を運営する、READYFOR株式会社。
同社では、ミッションである「想いの乗ったお金の流れを増やす」ために機能を磨くと共に、それを利用するユーザー組織のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を推進していく必要性を感じているそうだ。
そのためには自組織でもDXを体現すべきだと考え、「組織の中にエンジニアリングが自然に溶け込んでいる『乳化』の状態」 を目指したという。
そこで、元々は職種ごとのチーム編成だったところから、2020年1月に「スクワッド組織体制」を導入し、異なる職種のメンバーがワンチームとなって同じ目標を追う形へと移行。ビジネスメンバーとエンジニアが共通言語を持って業務を遂行することで、スピード感を持ってミッションの実現へと前進することができているそうだ。
今回は、VP of Engineering(以下、VPoE)として組織づくりを担う伊藤 博志さんに、組織の乳化を促進するプロセスと具体的な取り組みについて、詳しくお伺いした。
DXを体現するために。職種の垣根を超え「乳化」した組織を目指す
僕は、新卒入社したゴールドマン・サックスでエンジニア経験を12年積んだ後、FinTech系のスタートアップ企業を経て、2019年10月にREADYFORに入社しました。現在はVPoEとして、主にエンジニアの組織づくりとアーキテクチャの設計全般を担っています。
弊社は、福祉や地域、医療研究といった領域に「想いの乗ったお金の流れを増やす」手段のひとつとして、2011年にクラウドファンディングサービス「READYFOR」を立ち上げました。
クラウドファンディングの裏側の仕組みは、実はとても複雑になっていて。実行者に想いの乗ったお金が届くまでには、審査や契約書作成、支援金の入出金管理といったワークフローの中で多くのマニュアル業務が発生します。
僕たちは、その複雑な業務をテクノロジーで解決するためにサービスを磨くとともに、それを活用いただく方々のDXも促進していきたいと考えていました。
そのためには、まず自分たちの組織が「DXを体現すること」が重要です。そこで、2019年10月からの組織づくりにおいて参考にしたのが、日本CTO協会理事の広木さんが言及されていた「DXを実現するためには組織が融合して、エマルションという乳化の状態を目指さなければいけない」という言葉です。
この言葉に深く共感し、READYFORにおいても「ビジネスとエンジニアリングの垣根を越えて、組織の中にエンジニアリングが自然に溶け込んでいる『乳化』の状態」 を目指すことに決めました。
複雑な業務フローを可視化。共通認識をつくることで乳化を促進
まず、全社朝会などで僕から「乳化した組織を目指していくこと」や想いをメンバーに伝えました。そして、職種を超えて連携しやすい土壌をつくるために行ったのが、「BPMN(Business Process Model and Notation)」というモデリング記法の導入です。
これは「丸はスタート、四角はアクション、ひし形は分岐」といった簡単な表記ルールに則って、業務のワークフローを可視化する手法です。
なぜ導入したかと言うと、エンジニアがビジネスプロセスをきちんと理解した上で機能改善や新規開発に取り組むことが、組織を乳化していく上で重要だと考えたからです。
僕が地道に啓蒙活動を続けていると、徐々にBPMNに挑戦してくれるビジネスメンバーが増えていきました。
▼実際にエンジニア以外のメンバーから投稿されたBPMN(一例)
その後、ほぼすべてのメンバーが活用してくれるようになり、異なる部署のメンバー同士でも複雑な業務フローを理解し、協力し合える土壌ができました。
エンジニアに留まらず、ここまで広くBPMNが浸透している組織はとても珍しいと思いますね。
「OKR×スクワッド組織」に移行。職種混在でも高速で業務を遂行
次に、乳化を促進するために取り組んだのが、職種を問わず同じミッションを共有し、ともに実行することへの挑戦です。
弊社は以前から目標管理手法としてOKR(※)を運用していました。従来は開発チーム全体でひとつの共通目標を追う形でしたが、エンジニア組織が拡大して10名を超えた頃から、フロントエンド・バックエンド・プロダクトマネジャーといった役割ごとにチームを分け、異なる目標を持つ必要性が出てきました。
※OKRについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
しかし、役割単位でチームOKRを設定すると、必ずしも全社的なミッションに紐付かない部分が出てくるんです。メンバーによっても注力すべきミッションが異なっているので、適切なOKRを設定することが難しい側面がありました。
▼エンジニア組織が拡大したことによる、チームOKRのひずみ(イメージ図)
そこで、より良い組織の形を模索して行き着いたのが、Spotifyなどの先進的な企業で取り入れられていた「スクワッド組織」です。
スクワッド組織では、職種が異なるメンバーを「ミッション単位」で集め、スクワッドと呼ばれるチームを編成します。そして、スクワッドごとにミッションに基づいて意思決定をし、業務を遂行するのが特徴です。
この組織体制とOKRをかけ合わせることで、目標設定を最適化できるとともに、メンバーの自律性が促進され、意思決定スピードの向上も期待できると考えました。
▼スクワッド組織の導入によるミッションとOKRのアラインメント(イメージ図)
元々はプロダクト開発チームだけに取り入れようと考えていましたが、職種を越えて同じミッションを追う方が全社的な目標達成に近づくことと、組織の乳化にもつながるため、2020年1月から全社でスクワッド組織の体制に移行しました。
現在は、半期もしくは四半期ごとに各スクワッドのOKRを決めて運用するフローとなっています。
たとえば、サービスの根幹を支える「決済会計基盤スクワッド」では、CFOと経理チーム、エンジニアチームが一体となって活動していて。まさに「乳化の状態を表しているスクワッド」だなと感じますね。
また、各スクワッドではBPMNを元に「どのタイミングでどんな情報が必要になりそうか」を事前にすり合わせて、専門的なところはそれぞれに任せることにしています。これが職種が異なるメンバーがうまく連携して、運営できているポイントかなと思います。
全社方針と一貫性を持つ「Tech Vision / Tech Values」を策定
さらに、組織の乳化に繋がる活動の一例として、2020年3月からTech Brandingチームが取り組んだ「Tech VisionとTech Valuesの策定」があります。
この活動の背景には、対外的にも「READYFOR=テックカンパニーである」というブランディングをしっかり行っていかなければならないという思いがありました。
そこで、社外にも通じる共通認識をつくるために、採用チームとエンジニアがスクワッドを組む形で、「乳化」を目指すエンジニアチームの在り方を言語化していきました。
まず、Tech Visionの策定においては、会社のビジョンである「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」との一貫性を持ちながら、乳化のニュアンスを込められるワードを紡ぎ出して、「想いをつなぎ、叶える未来を、つくる」と定めました。
次に、READYFORの7つの行動指針を上位概念として、それをテック文脈に翻訳する形で、「7つのTech Values」を定めました。たとえば、会社の行動指針のひとつに「まよったら言う」というものがありますが、それをTech Valuesでは「技術的にコミットするための議論を厭わずに、まよったら言う」としています。
エンジニアが技術的にコミットするためにも、エンジニア以外のメンバーがやりたいことをきちんと理解した上で、違うと感じたら率直に伝え、合意したなら最後までコミットする。そのプロセスを経ることによって乳化が促進される、と考えて導き出した言葉です。
このような7つのTech Valuesを体現することで、自ずと組織が乳化した状態になり、最終的には会社のビジョンやミッションの達成に繋がるように、すべてを連動させた形で言語化できたかなと思います。
ここで定めたTech VisionやTech Valuesを組織に浸透させていくために、エンジニアの採用面接では候補者の方に説明した上で、Tech Valuesに沿った質問をしています。
社内では、たとえば週次目標として「今週はこのバリューを意識しよう」と声がけをしたり、評価に組み込まれている行動指針をエンジニアリング文脈で解釈するのに活用されていたりします。
社外向けの登壇資料にも活用することで、READYFORのエンジニアチームがどんな組織なのかを伝えるのに役立っていますね。
事業フェーズに合わせて、より柔軟性のある組織運営を実現したい
現在、READYFORの組織は130名を超え、エンジニアはそのうち15名ほどの規模となっています。
その誰もが「乳化」というテーマを大切にしてくれて、組織にエンジニアリングを溶け込ませるための様々な取り組みを実践したことで、会社全体の一体感や「前進できている感覚」がすごく高まっているように感じます。
今ではエンジニア以外のメンバーも、ごく自然に「業務の自動化」に取り組んでいて。採用チームがGAS(Google Apps Script)を使って、メール送信を自動化していた時には驚きました。
一方で、スクワッド組織に移行してみて気が付いたのは、各スクワッドが成し遂げるミッションを前もって決めることの難しさです。スタートアップは短いスパンで状況が変わるので、それに対してどのようにスクワッドを対応させていくのかは悩むところですね。
今はスタートアップとしての成長期で、集中しなければいけないことが定まっているからこそ、この体制がベストなのかなと思っていて。今後は、いかに流動性と柔軟性を保ちつつ、ひとつのミッションにコミットできるような組織体制を作っていくのかにチャレンジしていきたいです。(了)