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マネジメントが事業と個人の成長サイクルを回す!delyの、目標管理と1on1の運用法
〜事業を成長させるには、組織と個人の成長が必須。OKRを踏襲した目標管理「Drive Point」と1on1を運用する、delyのマネジメント術を公開〜
アプリダウンロード数1,800万を突破した、国内No.1のレシピ動画サービス「kurashiru[クラシル]」。
同サービスを運営するdely株式会社は、「70億人に1日3回の幸せを届ける」を事業ミッションに、ライフスタイル事業への参入やTRILL株式会社の連結子会社化など、急速な成長を続けている。
その事業成長を支えるのが、同社のピープルマネジメントの仕組みだ。OKRを踏襲した「Drive Point」という名の目標管理手法を導入し、その運用を1on1でサポートしているという。
具体的には、成功するかしないか五分五分の難しい目標を、全社・部署・個人レベルで設定。その達成を支援するため、全社で1on1を実施し、達成のハードルをできる限り早く取り除けるような工夫をしているそうだ。
開発部のマネージャーを務める井上 崇嗣さんは、「目標の設定、振り返り、よかったことを伸ばして反省点は改善する、というサイクルを個々人が回せるようになるのが理想」だと話す。
今回は井上さんと、同社で人事制度の設計を担当している大倉 竜一さんに、目標管理と1on1の運用法について、詳しくお伺いした。
マネジメントは、プロダクトを成長させる「手段」のひとつ
大倉 僕は、2017年の6月にdelyに入社しました。当時、社員数が30人ほどで1人目の労務としてジョインしたのですが、組織の拡大に伴って人事・評価制度の整備が必要になり、徐々に担当業務の幅が広がっていきました。今は、採用以外の人事労務全般を担当しています。
delyの人事には、組織成長のための制度設計や施策を打つ時に、「事業成長につながるかどうか」を大切にする思想があります。これには経営や事業側とのコミュニケーションが重要となるため、人事だけでなく経営や事業責任者と一緒に制度や施策を作ることが多いです。
井上 僕は、2018年の11月から開発部のチームマネージャーを務めています。delyの開発部は、アプリ・Webで分かれた職種混合の縦軸のチームと、ピープルマネジメントを主体にした横軸のチームが存在しています。
自分自身はSREなのですが、僕のチームにはサーバーサイド、フロントエンド、SREの、3職種のエンジニア6名が所属している形です。
▼左:井上さん(エンジニア)、右:大倉さん(人事)
井上 delyは4社目になるのですが、実を言うと、前職では「マネージャーをやらないか」と誘われても「やりたくない」と断っていたんです(笑)。
もともとフルスタックエンジニアになりたいとずっと思っていて、インフラ、サーバサイド、フロントエンド、アプリ、データ分析などの勉強をしていました。
それぞれを極めること自体とても難しいことだとは分かっていましたが、各分野のスキル習得と維持において、専門とされている方々の8割の水準を目標にしていたので、毎日家に帰ってからも勉強していたんです。
そんな日々を送っていたので、自分のスキルをアップさせることで手一杯で。マネジメントをしている暇はないと思っていました。
でも実際にやってみて、ある時「やっぱり全ての分野の8割を目指すのは、時間の制約的にどうしても無理だな」と思ったんですね。そこで、何がやりたいかを改めて考えた時に、サービスの基盤となるインフラの領域を極めたいなと。
そして、今後のインフラ領域のキャリアは、大規模トラフィックを捌くような難易度の高い経験が求められるだろうと思い、急成長していたクラシルを運営するdelyに2018年の5月にジョインしました。
ただ、そういう場面って、プロダクトが成長しないと現れないんですよ。当時はクラシルもプロダクトとしてやりたいことが山積みのタイミングだったのですが、自分のスキルも高めながらプロダクトを成長させることが、一番いい選択肢なんじゃないかと考えました。
そう考えた時に、組織やメンバー1人ひとりの成長を支援する「ピープルマネジメント」が重要だなと思ったんです。なので、僕にとっての「マネジメント」という役割はある意味、delyに入社した目的を成し遂げるための「手段」のひとつだと考えています。
全社・部署・個人の「Drive Point」をクオーターごとに設定
大倉 delyでは、事業成長と変化のスピードを大切にしているため、目標はクオーターごとに設定しています。
その目標管理は、当初OKR(※)を採用して2年ほど運用・改善していましたが、少し実態に合わない部分があり、現在はOKRを自社用にカスタマイズした「Drive Point制」というものを運用しています。
※OKR:Objectives and Key Resultsの略。詳細はこちらの記事をご覧ください。
この「Drive」は、弊社の掲げるバリュー(行動指針)のひとつで、「業務を遂行する力、人を巻き込む力」を意味しています。
それに由来して、クオーターごとに最もDriveすべきPointを定めており、その目標管理と評価の仕組みを総称する形で「Drive Point制」と呼んでいます。
まず、全社のDrive Pointについては、クオーターが始まる前に代表の堀江や経営層が集まって経営合宿を行い議論します。
その時々のあらゆる経営情報を元に、事業計画のロードマップを達成するためには次の3ヶ月で何に最も注力すべきか? を意思決定する形ですね。
その後は、全社→部門→個人にブレイクダウンする形で、Drive Pointを決めていきます。基本的にはOKRの仕組みを踏襲して、1人3〜5個のDrive Pointを設定していますが、運用面では異なる部分があります。
例えば、目標の達成水準は「50%」を目安に置いています。一般的なOKRだと60〜70%くらいだと思うのですが、弊社の場合、成功するかしないか五分五分の、難しい目標を立てる習慣が昔からあるんです。
全社共通の8段階のグレードごとに期待役割が定められているので、それを基準として目標の難易度を調整しています。
また、OKRでは定量指標をKRに置きますが、Drive Pointについては必ずしも定量である必要はない、というルールにしています。というのも無理に定量化しようとすると、事業と結びつかないような「意味のない目標」を立てがちなんですよね。
井上 特にエンジニアの成果は数値で測りづらいので、定性的な目標にして、かつ納得感を持てるように、個人のDrive Pointは自ら考えて設定してもらっています。
例えば、「ハイパフォーマンスなユーザー体験を実現する」という部署のDrive Pointに対して、あるエンジニアは「デザインシステム、マイクロインタラクションなどの設計・実装を通してデザインリニューアルをサポートする」といった個人のDrive Pointを立てています。
抜け漏れている視点や達成水準のズレがあれば、自身のグレードと役割をきちんと認識してもらって、少しストレッチした目標を立てる方向にサポートしていますね。
また、目標設定の前に個人のキャリアビジョンを明確化するサポートも行うようにしたことで、メンバーからは「キャリアパスについてじっくり聞いてもらったおかげで、自分のモチベーションのコアを理解・意識しながら行動できるようになった」といった声をもらいました。
大倉 全員のDrive Pointが出揃った後は、人事がメンバー1人ひとりの目標を確認するプロセスにすることで、全体のバランス感や違和感がないかを見るようにしています。
目標を意識づける進捗共有と、ハードルを取り除く1on1を運用
大倉 こうしてDrive Pointを決めた後は、メンバー1人ひとりが目標を意識し、かつ全社目線で最適なアクションをすることが大切です。
目標意識を高めるために、オンラインとオフラインの両方で、誰でも進捗を確認することのできる仕組みを作っています。
例えば「クラシルのアプリダウンロード数」など、数値で測れるような目標については、毎日Slackのチャンネルに最新のフォロワー数を流すことで、常に目標に対する進捗が把握できる状態になっています。
ただ、これだと無機質な情報になってしまうので、2週間に1度は、目標の進捗を共有する「社内報」のような資料を発行していますね。
▼実際の共有資料(マーケティング部パートの一部。全社で5〜6ページほど展開)
各Drive Pointを担う責任者が、実績値に対して現状ポジティブなのかネガティブなのか、ネガティブであればどのような改善施策を打とうとしているのか、をコメントで記載するんです。
デイリーでは細かい数値の進捗を共有し、隔週で施策や振り返りのコメントが入った見やすい資料を共有することで、社内の目標に対する意識がかなり上がったように感じています。
また、目標に対する障壁が発生した際の相談・対策や、コミュニケーションの推進などを目的として、全社で1on1を運用しています。
井上 僕がマネージャーになった当初は、2週間に1度、30分で1on1をしていたのですが、それだと個人目標の達成をサポートするには少なすぎたんですね。
個人の業務が順調であれば問題ないのですが、何かしらのハードルが存在する場合、それを認識して取り除くのにクオーターに6回の機会では間に合っていませんでした。
そこで、頻度を週1回に増やし、時間も最大45分に設定し、メンバーや状況に合わせて柔軟に対応できるようにしました。 1on1ってメンバーのための時間なので、彼らが価値あるものに感じている限り、時間を増やすことは問題ないと思っています。
また、1on1をより密度の濃い時間にするため、Googleフォームを使った事前アンケートを実施するようにしました。
▼事前アンケートのフォーム(一部)
というのも、1on1をやっている中で「毎回聞くことってあるな」と思ったんです。それを事前に把握しておけば、より本質的な部分に時間が使えるじゃないですか。
事前アンケートの項目は、回答の負担を少なくするため、基本的に選択式で答えられる形式にしています。例えば、今回の1on1で話したいテーマや、健康状態、業務量の負荷、個人のDrive Pointに対する進捗具合といった項目があります。
この回答で、あまり計画通りに進んでいないことがわかれば、何が障壁になっているのかを1on1で確認し、それを取り除くために何が必要かを議論します。
事業の変更などで本人のコントロール外で発生しているのであれば、期中であっても個人の目標設定を見直しますし、単純に業務量が多くて間に合っていないのであれば、どうすれば解決するかを一緒に考えていますね。
理想の形は、個人が目標設定から振り返りまでのサイクルを回すこと
井上 結局、組織の成長って、1人ひとりが自律的に動いていかないと成立しないと思うんですよ。
「目標の設定、振り返り、よかったことを伸ばして、反省点は改善する」というサイクルを個々人で回すことが、理想の組織の形だと思っていて。そこにマネジメントが要らなくなるのが、最終的に目指したい姿だと思うんです。
そのためには、マネジメント側が1on1で指導するのではなく、サポートするようなコミュニケーションを取っていくべきだと思っています。
1人ひとりが自律的になった結果、組織が成長し、プロダクトが成長して、その技術的な課題に自分が取り組める状態を目指したいですね。
大倉 今後、さらに加速度的に事業と組織を成長させるためには、現マネージャー陣が持っているマネジメント力を横展開して、個人の力をスケールさせるような仕組みづくりが必要だと考えています。
そこで現在は、delyでこれまで培われてきたマネジメントの強みや文化を言語化して展開する施策を進めているところです。
現状の変化と成長のスピードを維持するためには、マネジメントが出来る人材をさらに増やしていかなければなりません。成長や変化のスピードの早い会社にこそ、マネジメントができる人材は必要になると思っています。
Drive Point制をブラッシュアップしつつ、新任のマネージャーもすぐにキャッチアップできて結果を出せるようなオンボーディングの仕組みづくりにも、今後注力していきたいですね。(了)