- スターバックスコーヒージャパン株式会社
- 人事本部 組織人材開発部 組織人材開発チーム
- 下青木 聖子
カギは「内発的動機」にあり!スターバックスの店舗で、主体的な人材が育ち続ける理由
〜スターバックスの店舗では「成功循環モデル」が毎日回っている!? 1人ひとりが「ここにいる理由」を考え抜くことで、内発的動機を引き出す仕組みとは〜
日本全国に1,415の店舗を展開し、ドリンクカップ上のメッセージなど、独自のきめ細やかなサービスに対してもファンの多いスターバックス。
同社の店舗で働く人は、社員・アルバイト問わず「パートナー」と呼ばれる。そして、店舗にはいわゆる「接客マニュアル」が存在しない。
その中でも、パートナー1人ひとりが、同社の「人々の心を豊かで活力あるものにする」というミッションを実現するために、様々な行動を自発的に起こしているのだ。
同社で組織人材開発チームのマネージャーを務める下青木 聖子さんは、「一方的に『こうしなさい』と言うのではなくて、『あなたがどうなりたいのか』を対話することで、それが動機づけの原点になり、主体的な行動につながる」と話す。
実際に、同社のパートナー全員が4ヶ月ごとに受ける人事考課面談では、1人ひとりが「自分がここにいる理由」を毎回確認するそうだ。
そして、パートナー間での関係性の質を高く保つことで、それぞれが新しいチャレンジに踏み込むことができ、結果として顧客の喜びやリピートにつながる、という「成功循環モデル」が日々回っているのだという。
今回は下青木さんと、新卒で入社後に4店舗のストアマネージャー(店長)を務め、現在は新卒採用を担当する佐藤 大輔さんに、スターバックス流の人材育成についてお伺いした。
「誰がアルバイトなのかわからない」スターバックスの職場風景
下青木 私は組織開発と人材開発の両方を見ているチームでマネージャーをしています。
前職は食品メーカーの営業をしていて、新卒4年目でスターバックスに転職したんですね。店舗勤務でストアマネージャーを目指すキャリアパスで入社しましたが、ゆくゆくは商品開発の仕事をしたいと思っていたんです。
そのときにまず驚いたのが、店舗で働いている20人ほどのうち、社員がたった2人だったことです。つまりほとんどがアルバイトの方だったのですが、傍から見て、誰がアルバイトなのか全然わからないんですよ(笑)。
スターバックスでは、アルバイトを含め、店舗で働くすべての従業員を「パートナー」と呼んでいます。その1人ひとりがお店に対して思いを持っていて、「もっとこうしたほうがいいよね」「これやってみよう」といった話を常にしており、本当にびっくりしました。
その後、いくつかの店舗でストアマネージャーを経験しましたが、スターバックスの仕事の面白さは、やはり一番の強みである「人材」を育てることにあると気が付きました。特にパートナーの可能性を引き出すことが、お客様の店舗での体験にダイレクトにつながっていると実感したんです。
そこで私も人材開発の仕事に関わっていきたいと思い、12年前に社内公募を受けて人事に異動してきました。
佐藤 私は現在、組織人材開発部の採用チームに所属し、主に新卒採用を担当しています。私自身も2005年に新卒で入社し、合計で4店舗のストアマネージャーを経験しました。そして2016年に、社内の公募制度を使って今の部署に移ってきました。
そもそも自分自身の入社のきっかけは、大学3年生のときに始めたスターバックスでのアルバイトなんです。
そのときの経験が衝撃的で。下青木も言ったように、パートナーがみんな前向きで明るくて、お客様のために何ができるかということを常に考えている。こんなアルバイト先はこれまでなかったな、と思ったんですね。
当時は店舗数が500ほどだったのですが、こんな人たちが全国にたくさんいるということがすごく不思議で。この会社がもっと大きくなったときにもこの雰囲気が保てたとしたら、それはものすごいことなんじゃないかと感じて、入社を決めました。
組織の隅々にまで、自社の「ミッション」と「バリュー」が浸透
下青木 なぜ、パートナーがこれだけ前向きに仕事ができるのかというと、まずは創業からずっと大切にしているミッションとバリューが組織にしっかり浸透していることがあると思います。
前提として、スターバックスは広告を打たずに、店舗自体が広告であるという考え方をしています。そして、店舗で提供しているサービスを通じて、お客様が私たちのミッションに沿った感動体験を感じてくださっているかを非常に大切にしています。
▼スターバックスの「ミッション」と「バリュー」(※画像は編集部作成)
そしてパートナーの方を受け入れる際には、そもそもお客様として私たちのミッションに対する共感があるか、また一緒に実現していきたいという思いがあるか、ということを必ず見ています。
佐藤 ストアマネージャー時代にパートナーの採用面接をよくしていたのですが、ご応募くださる動機として一番多いのは、「ユーザーとしてスターバックスで感じた嬉しい体験を、今度は自分が届けたい」というものでした。
実際に店舗で受けたサービスに感動してその店舗に応募する、という、良い循環が多かったように思います。
下青木 ミッションとバリューに関しては、入社後にも様々な場面で向き合うことになります。例えば、「グリーンエプロンカード」という、いわゆるサンクスカードを、パートナー同士で贈り合う仕組みがあります。
カードは5種類あるのですが、私達の4つのバリューとカスタマーサービスの指針に即した内容になっているんですね。それらを体現する素晴らしい行動に対して、感謝の気持ちを伝え、賞賛するという形になっています。
▼実際に佐藤さんが受け取った「グリーンエプロンカード」
こうした仕組みがあることで、所属意識も高まりますし、会社と自分のつながりも見えてくる。エンゲージメントの向上にもつながっていると感じます。
「外から」ではなく「内から」の働く動機を引き出すことが重要
下青木 もうひとつ大切にしているのは、ミッションやバリューへの共感があった上で「自分はどうしたいのか」ということを1人ひとりがすごく考えるということです。
例えば入社前の面接では、「どうしてスターバックスで働きたいと思ったのか」ということをしっかり深掘りします。
これは、実際に働き始めてからも同様です。スターバックスでは社員に限らず、パートナー全員が4ヶ月ごとの人事考課面談を受けるのですが、その際に1人ひとりが「自分がここにいる理由」を毎回確認します。
それが、いわゆる「内発的動機(※)」を生み出すためには最も重要なことだと思っていて。
※自身の内側から興味・好奇心が沸きおこり、それにより達成感、満足感、充足感を得たいと思うこと。報酬や評価といった外発的動機の対義語。
外から「こうしなさい」「上を目指しなさい」と言うのではなくて、「あなたがどうなりたいのか」「ここで成し遂げたいことはなにか」を話すことで、それが動機の原点になるんです。
店舗パートナーの場合、人事考課面談はストアマネージャーが行っています。面談のやり方にかっちりしたフレームワークがあるわけではないのですが、ガイドラインと、人事考課シートが用意されています。
シートはシステム上でパートナーが記入するのですが、その内容は「スターバックスで働くことを通じて、あなたの人生の目標にどう近づくか」ということがコンセプトになっています。
ですので、「個人のなりたい姿(成長目標)」を一番上に記入します。そこから、この4ヶ月にがんばったことの振り返りや、次に取り組みたいことなどを書いてもらい、面談ではその項目に沿って話を進めます。
佐藤 パートナーと面談をしていく中では、1回できれいにやりたいことがまとまらないことも多いです。
でも、面談を繰り返して行うことと、人事考課と人事考課の間の期間にフィードバックを繰り返すことで、徐々に本人も「こういうことが自分のやりがいかも」と気が付いてくるんです。これは、ストアマネージャーの大きな役割のひとつですね。
やはり、できるだけ本人のやりたいこと・チャレンジしたいことを明確にして、その機会を提供する方が、1人ひとりの成長につながると思っています。それによって、「自分で経験から気付きを得ようとする」姿勢が高まるんですよね。
自分が「やりたいです」と言った瞬間、その仕事は「自分事」になります。すると仕事を進めながらも、上手くいったこと・いかなかったことをきちんと内省するようになり、さらに深い気付きを得て、成長につなげることができます。
店舗の中では毎日「成功循環モデル」が自然に回っている
下青木 いわゆる「成功循環モデル(※)」で考えると、組織においてはまずは関係性の質が起点となって、思考の質、行動の質が上がり、最終的には結果の質が上がりますよね。
※MIT元教授のダニエル・キムが提唱している、組織に成功をもたらす要因を分析した理論
▼「成功循環モデル」のイメージ
スターバックスの店舗では、実はこのサイクルを昔から大事に繰り返してきたと思っていて。
パートナー同士の、いわゆる心理的安全性が高いんです。面談だけではなく、日頃から互いにフィードバックし合う文化もあるので、お互いのことを深く理解できています。
それは「仲良しこよし」という意味ではなくて、相手のためを思ってしっかりと言うべきことを伝えることができる、ということです。私たちのバリューで言うと「威厳と尊敬をもって心を通わせる」「お互いに心から認め合う」といった文言に、その文化が現れています。
このように、関係性の質が高いので、誰もが「やってみようかな」と新しいチャレンジに踏み込みやすい。すると行動が変わり、お客様に対してのサービスのレベルが上がり、最終的にはお客様が喜んでくださって、また来てくださる。
こんな風に、店舗の中ですごくわかりやすく成功循環モデルが毎日回っていると思っています。
佐藤 関係性に関しては、とはいえ人間同士なので、打ち解けるまでに時間がかかったり、大事にしてることが必ずしも折り合わなかったり、といったケースもありますよね。
実際、自分もストアマネージャーをしていて、チームをうまくつくれなかった経験があります。
でも振り返ってみると、結果的に自分の「こうしたい」という気持ちだけをパートナーに伝えていたなと。相手がどうしたいのか、ということを引き出す姿勢が足りなかったな、と思っています。
そこから、まずは目の前のパートナーが感じていること、考えていることを十分に聞くように自分の姿勢を変えたんです。それによって相手の反応も変わりましたし、チームとしてもすごくまとまってきたと感じました。
ですので、関係性がいいときもそうではないときも、やっぱり目の前の人と誠実に向き合ういうことがすごく大事だと思っています。
自分の「居場所」をつくるのは、会社ではなく自分自身
佐藤 いわゆる「店長」って、ビジネス上の責任も負っているので、売上などは常に頭にあると思うんですね。自分がストアマネージャーをしているときも、頭の中の半分くらいはOur Missionの実現と、ビジネスでの目標達成を考えていたような気がします。
しかも、売上のような数字と比較して考えたときに、モチベーションや関係の質って正解がないんです。目に見えないものに対してコツコツアプローチしていかなければならないので、なかなか取り組みづらいという部分はありますよね。
ですが、成果を上げるために必要な要素を分解していくと、結局「働く人のモチベーション」や、「現場における人と人との関わり方」は非常に大事なものとして出てくると思います。
最終的に目指す姿を考えたときに、モチベーションや関係の質が欠かせない、と信じることができれば、そこにアプローチすることもできるのかなと。スターバックスのストアマネージャーには、そこに心から納得している人が多いんだと思います。
下青木 私たちのバリューの中に「自分の居場所と感じられるような文化をつくる」という言葉があるのですが、それが実現できているからこそ、長く働いてくださる方が多いのだと感じています。
ただ、その「居場所」をつくるのは、会社ではなくて自分自身なんですよね。「自分がここにいる理由」を自ら考え、内発的動機を高めることで、自分が居場所だと思える文化をつくるための主体的な行動を起こすことができます。
店舗やアルバイトに対して「オペレーションだけやっていればいい」と考えていては、この状態は実現できません。会社としては、しっかりと現場に権限委譲を行い、主体的な取り組みを後押しすることが非常に大事なのかなと思っています。(了)