【8社の事例】階層に頼らない「自律型組織」実現のカギは、ガバナンスと伴走支援!

近年、ティール組織ホラクラシー組織など、「自律分散型」の新しい組織形態が注目を高めています。

これらの組織は、従来のようなピラミッド型の指示系統・意思決定のプロセスを持たず、メンバー1人ひとりが自ら思考し、自ら最適な行動を選択しています。

一方で、必ずしも、自律型の組織を作るためにティールやホラクラシーの導入が必要なわけではありません。

自律型組織」の形成には、大きくわけて2つのポイントがあります。それは、個の判断の拠り所となる「ガバナンス」と、自律的な行動を後押しする「伴走支援」です。

そこで今回は、過去SELECKで取材した【8社の事例】を使いながら、自律型組織が求められる時代背景から、その組織づくりにおけるポイントまで、詳しく解説します。

<目次>

  • 自律型組織ってなに?
  • 時代は「管理型」から「自律型」の組織へ
  • 自律型組織のカギは「ガバナンス」と「伴走支援」
  • 自律型組織の「ガバナンス」を機能させるための3要素
  • 自律型組織の「伴走支援」を構成する3要素
  • おわりに

自律型組織ってなに?

まず「自律型組織」の話に入る前に、そもそも「自立」と「自律」の違いを正しく理解しているでしょうか?

大辞林を参照すると、これらの「じりつ」は、以下のように定義されています。

「自立」
他の助けや支配なしに、自分ひとりの力だけで物事を行うこと。ひとりだち。独立。

「自律」
他からの支配や助力を受けず、自分の行動を自分のたてた規律に従って正しく規制すること。

つまり「自律」とは、周囲の助けを受けずにただ自立した状態ではなく、「規律に従って自ら思考し、自ら行動すること」を意味します。

※自律型人材の育成法については、ぜひこちらの記事をご覧ください。

では、そうした自律的な人材が集まれば、「自律型組織」ができるのでしょうか?

答えはNOです。組織としての「自律」とは、メンバー1人ひとりが組織の目指す方向と行動規範を正しく理解し、十分な情報と権限が与えられた環境下で、適切な行動をとることを意味します。

そのため、自律的な人材を育成するだけでなく、組織として自律的な行動を促進する「環境整備」が重要です。

時代は「管理型」から「自律型」の組織へ

また、自律型組織とよく対比されるのが、「管理型組織」です。

高度経済成長期においては、日本企業の多くが上長からの命令・指示によって動く「管理型組織」として急速な成長を遂げてきました。

しかし、VUCA(※)と呼ばれるような、不確実性が高く変化の早い時代においては、メンバーが自ら考え行動する「自律型組織」のニーズが高まっています。

※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり、不安定で不確実、複雑な時代を表現する言葉

そうした中で、近年現れたのがティールやホラクラシーといった「自律分散型」の組織形態です。

「ティール組織」は、フレデリック・ラルー氏が5つの「色」で表現した組織運営スタイルの中でも、最も進化した組織の形だと言われています。

▼管理統制の強い「オレンジ(左)」⇄自律分散的な「ティール(右)」

上図の通り、ティール組織には、従来のような管理型の指示系統・意思決定の構造がありません。自律的な個が有機的につながり、自ら思考して行動することで、組織が成り立っています。

参考記事:マネージャー不在の「ティール組織」ビュートゾルフの、ITを使った意思決定術とは?

また、ティールを実現するためのひとつの形態として、「ホラクラシー組織」があります。

この特徴としては、組織の意思決定プロセスのすべてにおいて、「ホラクラシー憲法」というルールが適用されることです。また、権限は個人ではなく、「ロール」と称される役割に委ねられています。

▼ホラクラシーの導入による組織の変化

参考記事:組織に「法」があれば、マネージャーは要らない。「ホラクラシー組織」の運用実態とは

こうした組織運営を取り入れている企業は、まだ少数ではありますが、不確実性の増す時代において、変化に強い「自律型組織」への移行は今後もさらに進むでしょう。

自律型組織のカギは「ガバナンス」と「伴走支援」

一方で、自律型組織を作るために、こうした新しい組織形態を必ずしも取り入れる必要はありません。

実際、ティールやホラクラシーの定義からは外れるけれども、独自の形態によって自律型組織を実現している企業も存在します。

たとえば、株式会社ISAOでは、役職・階層を撤廃した「バリ(=超)フラット」という名の組織形態をつくっています。

▼同社の組織形態「バリフラット」

参考記事:社員99%が諦めた会社の復活劇!役職ナシ・給与も公開する「バリフラット」な組織作り

こうした事例から考えると、自律型組織には、大きく2つのポイントがあると考えられます。それが「ガバナンス」「伴走支援」です。

まず、どこを目指して行動するのか、その行動基準は何か、という判断の拠り所となるのが「ガバナンス」です。

よく「自律している=自由で統制(ガバナンス)がない」と考えられがちですが、自律型組織において一定のルールは必要です。ホラクラシーはその最たるもので、「法」がすべてを統治しています。

その上で、自律的な行動を組織として促進していくためには、行動をサポートする「伴走支援」も同じく大切です。

自律型組織に必要なこれらの要素は、さらにいくつかの構成要素に分解されます。

そこで、SELECKで過去取材した事例をもとに、自律型組織の作り方についてポイントを解説したいと思います。

自律型組織の「ガバナンス」を機能させるための3要素

まず、自律型組織においてガバナンスを機能させるためには、ただ「規律」を定めるだけでは不十分です。ポイントとしては、以下の3つが挙げられます。

  1. ミッション・ビジョンの策定・浸透
  2. バリューの策定・浸透
  3. 権限委譲と、そのための情報オープン化

はじめに、組織のメンバー1人ひとりが「どこに向かって進めばよいか?」を指し示す、ミッション・ビジョンを定め、それを浸透させることが重要です。

キャディ株式会社では、ミッションを策定するだけでなく、OKR(Objectives and Key Results)による目標管理を導入することによって、個人の業務とミッションの紐付きを可視化しています。

創業以来、キャディでは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げています。

ですが徐々に人数が増え、アルバイトも含めて15名くらいになった頃に、自分が日々向き合っている業務が会社のミッションとどう結びついているのかが見えづらい、という声が出てきたんです。

参考記事:高いゴールには「線形」の目標設定では到達できない? ゼロから始める、OKR運用の全貌

次に、組織の方向性だけでなく、「その実現に向かって、どのように歩んでいくか?」を示すバリュー(行動指針)を定めることが大切です。

株式会社ユーザベースでは、従業員にバリューを浸透させるため、行動規範を「DO」と「DON’T」で明文化した、「カルチャーブック」を制作しています。

▼イラスト付きでバリューを伝える「31の約束」

それぞれが思い思いに行動していては、自律型組織は成立しません。組織の行動規範を理解することで、適切な行動を選択できるようになります。

こんな風に誰かにフィードバックするシーンで、相手に対して直感的に「それ、違うよね」と思う時ってあるじゃないですか。でも、それを言語化するのって結構難しくて。(中略)

ただ、そういう時に31の約束に沿ってフィードバックすれば、よりポジティブに、かつユーザベースらしさに基づいて客観的に他者評価できるんですよね。

参考記事:「DO」と「DON’T」で自社のバリューを明文化。ユーザベース「31の約束」の存在意義

さらに、適切な判断をもとに実際の行動に移すためには、十分な情報を得られて、かつ業務を遂行できるほどの権限を持っている必要があります。

多くの「社会人インターン」を受け入れている株式会社POLでは、就業形態によらず、すべてのメンバーに情報を開示し、社員と同等のレベルで意思決定の権限を委譲しています。その意図は、やはり自律的な行動を促すためだと言います。

社会人インターンを受け入れる上では、情報をフルオープンにし、意思決定の権限をできる限り委譲することが大切だと考えています。(中略)

その方が、1人ひとりがより能動的に動けるじゃないですか。そうすることで「もっとPOLに関わりたい」という気持ちを高めてもらえたらと思っています。

参考記事:採用する側も、される側もハッピー!累計30人が参加した「社会人インターン」の全貌

自律型組織の「伴走支援」を構成する3要素

もうひとつ、ガバナンスがあっても、メンバー1人ひとりの自律的行動をサポートしなければ、実際の組織運営はうまくいきません。そこで大切なのが「伴走支援」です

この構成要素としては、主に以下の3つが挙げられます。

  1. 目標設定
  2. 1on1
  3. 組織風土

まず第一に、自らの進むべき方向性を定めるのが「目標設定」です。

いくつかの手法がありますが、自律型組織において大切なことは、目標は与えられるものではなく、自らの意思をもって設定するということです。

株式会社ウィルゲートでは、「Will・Can・Must」というフレームワークを用いて、マネージャーとメンバーの話し合いのもと、個人目標を設定していると言います。

Will・Can・Mustというフレームワークを使い、本人のやりたいこと・やるべきこと・できることの「重なり」を意識し、目標設定を行っていきます。(中略)

このようにWill・Can・Mustの重なる部分をすり合わせ、目標として設定し、プロセスも含めMBOシートに明記するようにしています。

参考記事:マネジメントにおける「曖昧さ」をなくす!合意形成を重視する、人事制度の運用法とは

マネージャーは、会社や事業の戦略を理解した上で、メンバーに寄り添いながら正しく目標を設定できるよう支援することが大切です。

次に、目標達成に向けて、継続的な支援をする仕組みが「1on1」です。

隔週ごとに1on1を実施している株式会社マッチングエージェントで、メンターを務める島谷さんは、「メンティー本人の納得感が大切」だと話します。

あくまでも「これをやって欲しい」ということは言わずに、背中を押す程度にしたいと思っています。ただ1on1でも、一番大事なのは、やはり本人が納得できるかどうかなんですよね。

「◯◯してよ」と言うのと、「◯◯してみたらどう」と言う場合で、受け取り方も全然違うと思っていて。「自分がやってみようと思ったからやります」という形で1on1が終わって、行動に移ってもらうまでが僕の責任かなと。

参考記事:メンティが「自分で考え、納得する」ことが大切。二人三脚で行う目標達成プロセスとは

最後に、組織全体として自律的な行動をサポートする仕組みや、その動きを賞賛する文化も大切な要素です。

株式会社Fringe81では、社員の約8割が、主業務以外のサイドプロジェクトに主体的に参加しているそうです。

そうした自律的な動きを支えているのは、「組織貢献」を評価に組み込んだ人事制度と、お互いに価値を提供し合うという「組織文化」だと言います。

こうした動きが実現できているのは、評価の仕組みだけでなく、私たちが持っている「会社の在り方」の価値観がベースにあると考えています。

私たちは、一般的な「雇う・雇われる」という従属関係みたいな会社ではなくて、「お互いに価値を提供し合うフェアな関係」で成り立つ会社が素敵だよね、という考え方を根底に持っています。

参考記事:人事は組織の「プロマネ」。社員の8割がサイドプロジェクトを推進する自律型組織とは

おわりに

いかがでしたでしょうか。自律型組織は、組織の「ガバナンス」と自律型人材を支える「伴走支援」の両輪が揃うことで、実現できるものだと思います。

VUCAと呼ばれる時代において、自律型組織は事業をドライブする一要素になり得ると思いますので、ぜひご参考にしてみてください。

当媒体SELECKでは、自律的な成長を促す「伴走型のマネジメント」が、組織づくりにおいて重要であるということを、600社以上の取材を通じて学びました。

そこで開発したのが、1on1の運用と改善で、メンバーの内省を促進し、パフォーマンスを最大化するツール「Wistant(ウィスタント)」です。

進化したマネジメントを体験したい方は、ぜひ、チェックしてみてください。

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