• キャディ株式会社
  • 代表取締役
  • 加藤 勇志郎

高いゴールには「線形」の目標設定では到達できない? ゼロから始める、OKR運用の全貌

〜OKRの肝は、いかに「ムーンショット」を置けるか。「進捗は数字で追わない」「達成度は評価と紐付けない」OKRを成功に導く運用のポイントとは〜

高いミッションを掲げ、全社の力を集結させる。その実現を目指し、非連続的な成長を遂げられるかどうかを左右するのが「目標設定」だ。

製造業というレガシー産業を舞台に、独自アルゴリズムを用いたマッチングによる受発注プラットフォーム「CADDi」を開発・運営するキャディ株式会社。

▼製造業の受発注プラットフォーム「CADDi」

2017年11月に創業した同社は、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションに向けて、2019年1月よりOKR(※)による目標管理の運用を開始。

※OKR:Objectives and Key Resultsの略。詳細はこちらの記事をご覧ください。

その一番の肝は、「ムーンショットと呼ばれる高い目標を、いかに設定できるかどうか」だと、代表の加藤 勇志郎さんは話す。

また、OKRの運用を成功させるためには、「KRの進捗は数字で追わない」「健全性を測るヘルススコアを設定する」「達成度と評価を紐付けない」など、気をつけるべき複数のポイントがあるという。

今回は加藤さんと、現場へのOKR浸透を推進するサプライパートナーサクセス本部長の幸松 大喜さんに、OKRの導入背景から設計、運用ノウハウに至るまで、余すところなくお伺いした。

大きなペインのある「製造業」のポテンシャルを解放したい

加藤 僕は、大学時代からビジネスを経験していたのですが、将来起業するなら社会的に大きなペインのある分野に取り組みたいと考えていて。

ただ、社会に出る前はそれが何かよくわからなかったので、様々な業界を経営目線で見ることのできる会社に行きたいと思い、新卒でマッキンゼーアンドカンパニーに入社しました。

あらゆる業界でのコンサルティング経験を積み、3年目でシニアマネージャーに就任して、製造業の戦略策定から購買改革までを担当しました。

ここで感じたのが、グローバルにおいても「日本=製造業」という認知が圧倒的に高い。その一方で、業界特有の課題、特に売上の6〜7割を占める「調達」におけるペインが大きいということでした。

購買担当の人って、会社からはコストダウンしろと言われ、お客様からは納期遅延などで怒られるような、厳しい立場に置かれていることが多くて。

通常業務や見積もりを各社から取り寄せる作業に忙殺されながら、さらに相見積もりでの価格交渉をするような慣習を見てきて、このペインをどうにかできないかなと考えていました。

その課題感から生まれたのが、製造業の受発注プラットフォーム「CADDiです。

サービスの構想とデモをもとに獲得した案件を回しつつ、プロダクトの開発を進めて、2017年11月にキャディを創業しました。

▼左:幸松さん、右:加藤さん

幸松 私は代表の加藤とマッキンゼーの同期で、もともと製造業をメインに担当していました。退職後に町工場で3ヶ月勤務した経験から、製造業の課題感に共感し、2017年末にジョインしました。

現在は、部品を供給する町工場側のビジネス全体を見ています。それぞれの工場の強みを見極めて、町工場・お客様・キャディのWin-Win-Winのサプライチェーン作りを目指しています。

高いゴールには「線形」ではなく「曲線」を描く目標設定が必要

加藤 創業以来、キャディでは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げています。

ですが徐々に人数が増え、アルバイトも含めて15名くらいになった頃に、自分が日々向き合っている業務が会社のミッションとどう結びついているのかが見えづらい、という声が出てきたんです。

例えば「お客様のお問い合わせに対応する」という業務が、どうミッションに貢献するのかの関係性がわからないと。実際、組織サーベイの数値の中でも、一番低かったのが「ミッションと業務のつながり」に関する項目でした。

また同時に、今まで個々のレベルですり合わせていた目標設定の在り方も見直そうという話になり、2018年11月にOKRを導入する意思決定をして、2019年1月から運用を開始しました。

なぜOKRにしたかと言うと、ミッション実現のためには、いわゆるMBOやKPIといった「線形」の目標設定では難しいと思ったんですね。というのも、売上や社数などの数値目標を追ってしまうと、重要な基盤づくりの部分が、目標から落ちてしまいがちになる。

そこでまず、OKRの策定にあたり、ミッションから逆算する形で重要なことをブレイクダウンし、10年後、5年後、3年後、1.5年後、1年後で、それぞれ定性的なゴールと数値指標を定義していきました。

例えば、キャディの中長期的なマイルストーンとして「製造業のサプライチェーン全体を支えるインフラになること」を置いていますが、そのひとつ手前には「アジアNo.1の金属加工品の取扱量(300億)」があります。

OKRの上流設計においては、この全体の流れを描けるかどうかがすごく重要だと思っていて。仮にこれが売上1,000億を目指して、500億、300億、100億みたいな感じであれば、OKRって要らないと思うんです。

数字だけでなく定性的なロードマップを描くことによって、目標のステージが明確に変わってきて、線形ではないチャレンジングな成長曲線になるんですよね。

例えば「インフラになる」と「取扱量を増やす」というのは、どちらもミッションからブレイクダウンした状態ゴールではありますが、同じ延長線上にはありません。

だからこそ、KRの設定の際には直近の目標だけでなく、先の目標に対しても今からやっておくべきことを組み込むことが大切です。

OKRの一番の肝は「ムーンショット目標」をいかに置けるか

幸松 全社OKRが決まった後は、1年後や次四半期の部署OKRをリーダー陣で話し合い、それをメンバーに共有して個人OKRまで設定しました。

それから、改めて全社横並びでの比較をしたのですが、その際に「それって本当にムーンショットなの?」という議論は何度もしましたね。

加藤 OKRの一番の肝って、今までのやり方の延長線上では到達できないけれど、実現を想像するとワクワクするような「ムーンショット目標」をいかに置けるかだと考えていて。

特に弊社の場合、MBOやKPIに慣れていた中途メンバーが多かったので、OKRの「目標の達成水準は6〜7割を理想とする」という部分に違和感を覚える人が結構いたんですよね。

それに対しては、自分たちの目指すミッションが非常に高いため、普通に目標を積み上げていっただけでは実現できないことや、ToDo目標ではなくムーンショットにするための対話を繰り返し行いました。

例えば「カスタマージャーニーの作成」だとToDoになってしまいますが、「すべてのお客様のパターン別に作成できていて、かつ全メンバーが認識できている状態」と定義すると、目標のレベル感が伝わります。

幸松 僕は、このムーンショットをみんなで議論する過程そのものが、かなり大事だと思っていて。というのも、目標を設定して終わりではなく、その先にある世界って何だろう? という話をみんなで何度も議論するんです。

すると、目標のレベル感も擦りあってきますし、チームがいい状態になれば「もう少し高い目標いけるんじゃない?」という案がメンバーから出てきたりして、良い循環が生まれていると感じますね。

進捗は「数字」で追わない。お天気マークでステータスを管理

幸松 KRの進捗共有については、Googleスプレッドシートでステータスを管理し、全社員がいつでもアクセスできる状態になっています。

各進捗は、晴れ・くもり・雨というお天気マークで表現しています。こうすることで、週次のミーティングでどこを重点的に話すべきかを、パッと見で判断できるようになりましたね。

加藤 そもそも僕は、OKRの進捗を数字で追うことは絶対やめた方がいいと思っていて。ムーンショットって基本的に非連続的な成長によって到達するものなので、数字で表すことによる落とし穴があると思うんです。

例えば、四半期OKRに対して、最初の1ヶ月目は仕込みの期間が必要だとすると、数値の進捗では常に0%になります。ですが実際には、同じ0%だとしても、順調に仕込めている「晴れ」もあれば、全然着手できていない「大雨」の場合もある。

なので、担当者の感覚値でお天気マークをつけておき、会議では「雨」や「ずっと雨だったけど晴れになった」ものについて集中して話すようにしています。

幸松 結局、雨のときにどうするか? が一番重要じゃないですか。お互いの状況を共有することで、他部署の人がどうやってサポートできるか、あるいは他の人からどういうサポートが必要かを話し合い、アクションを見直していますね。

OKRは「ヘルススコア」で健全性を保ち、評価と紐付けない

幸松 もうひとつ、進捗管理において「ヘルススコア」という指標も参考にしています。これは、OKRには入らないものの、目標達成に対する健全性を担保する指標です。

例えば、「新しい顧客を100社獲得する」というKRがあった時に、10万社にスパムメールを送りまくるような手法って、会社の信頼を落とすじゃないですか。

そうしたネガティブな手法を制限したいけれど、OKRに組み込むほどの重点指標ではない時に、ヘルススコアを活用しています。

例えば、製品の不良率などをKRに設定する一方で、優良な町工場への集中した発注を防ぐため、ヘルススコアとして辞退率を設定していますね。

加藤 また、OKRを成功させるために重要なのが、達成度を評価と紐付けないということです。

というのも、普通にやったら到達できないようなムーンショットを目指すことにOKRの真の価値があるのに、それが評価に紐づいてしまうと、人間はより守りに入ってしまうと思うんですね。

そこで、弊社では何を加味するかというと、目標の「難易度×達成度」でスコアリングをして、評価とは別の「発揮スキル」として考慮しています。

これは評価に直接影響するものではありませんが、評価をつける際のひとつの参考指標として使われています。

幸松 またそれとは別に、四半期の終わりに「ウィンパーティー」と呼ばれる全社合宿を実施していて、そこでMVPの表彰を行っています。

結果を伝えるだけではなく、達成するまでの過程や思いをストーリーで伝えることで、ムーンショットってすごいとか、自分もそうなりたいという思いが伝播していってると思いますね。

クロスファンクションのOKRを運用し、より高い目標を達成したい

加藤 OKRを導入してまだ6ヶ月ですが、元々の課題だったミッションと業務のつながりに関するスコアは、0.8ポイント(※最大5ポイント、0.1刻み)上がりました。

また、OKRの議論ができるようになったことがそもそも大きな進化だと思っていて。

初めてOKRを作った時、ミッションが遠すぎて、今ここで自分が何をすべきかを考えて、目標設定をすること自体がめちゃくちゃ難しかったんですよね。

それが、3月に次四半期の目標を議論した際には、各部署やメンバーがスムーズに設定できたのですが、これはミッションと自らの業務の関連性を理解しているからこそだと考えています。

今、新たな試みとして、全社・部署・個人というOKRツリーとは別軸で、全社クロスファンクションでのOKRを4月から運用しています。

これは、四半期ごとではなく1年単位で、これができたら本当にやばいみたいな達成度4〜5割ほどの非常に高いObjectivesを3つ設定しているんです。

というのも、例えばキャディのブランドを作ったり、リーダー陣を育てたりって、本当に全ての部署が関わらないと達成できないんですよね。それを本部や個人に落とすのではなくて、クロスファンクションのメンバーで追う体制を作っています。

みんなのワクワク度も圧倒的に高いので、これをきちんと回し切りたいというのが、次の1年くらいで達成したいことですね。

幸松 OKRをやってみて思うのが、結局、バリューや評価制度、挑戦を恐れないカルチャーみたいなものが、すべて連動して初めてOKRって成功するものなのかな、ということで。

難しい課題がある時にそれにわくわくできるかとか、OKRだから達成できなくてもまぁいっかというマインドにならないか、がすごく大事なんですよね。

なので、仮に進捗がいまいちだとしても、それでも諦めずに頑張ろうよと思えるチーム作りをしていきたいなと思っていて。

それは人数が増えれば増えるほど当然難しくなってくると思うのですが、メンバー全員が本気で目標達成を目指せるチームを今後も作っていきたいと思います。(了)

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