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採用費「ゼロ」でも勝ち筋はある。ベイジが年間120名の自然応募を獲得した方法

〜日々のTwitterから認知を獲得し、オウンドメディアで関心を高める。転職の「第一想起」になることで年120名の応募を集めた、インバウンドリクルーティングの全貌〜

自社にマッチした人材を採用する手法として、「インバウンドリクルーティング」が注目を高めているが、その実践に課題感をもつ企業も多いのではないだろうか。

BtoBに特化したWeb制作会社として、業界でも際立った存在感を放つ、株式会社ベイジ。

同社では、創業初期からSNSやオウンドメディアなどを通じた情報発信に注力してきたことで、結果的にインバウンドリクルーティングによる採用を実現しているという。

▼インバウンドリクルーティング(同社提供)

具体的には、社員のTwitterをきっかけに、「ナレッジブログ」や「日報サイト」などのオウンドメディアを通じてベイジの認知を獲得。さらに、転職意欲が顕在化している層に対しては、徹底した求職者目線で制作した採用サイトによって興味関心を高めているという。

その結果、採用媒体や転職エージェントなどの外部サービスを一切使わずに、2019年は年間70名、2020年はコロナ禍にも関わらず年間120名の自主応募を獲得しているそうだ。

同社代表の枌谷 力さんは、「情報発信を継続的に行うことで、転職したいと思った時の『第一想起』になれる下地づくりが大事」だと話す。

今回は枌谷さんと、同社のディレクターで人事を兼務する今西 毅寿さんに、採用における思想からインバウンドリクルーティングの具体的な取り組みまで、詳しくお伺いした。

「情報発信」の積み重ねで、インバウンドリクルーティングを実現

枌谷 私は、2010年にベイジを設立しました。もともと自分で会社をつくるようなキャリアを歩みたいと思い、そのなかでも関心を持ったのがWebデザインの領域で。Webデザイナーとして2社ほど経験を積んだ後、フリーランスとして独立し、いまから10年前に創業に至ったという経緯です。

Web制作会社って、一般的には資金調達をしてグロースを目指すような会社ではないので、あまり経済的な体力がないんですね。我々も、マーケティングの広告を打ったり採用媒体に高額で出稿したりするほどの資金はなく、ましてやエージェントに依頼するという選択肢はありませんでした。

そういった環境でも、自分たちにできることはなにかを考えた際に、出した答えが「情報発信」でした。創業初期から、ブログやSNSに力を入れ、ただただ情報発信を続けてきましたね。

他社では「採用広報」と呼ばれるかもしれませんが、ベイジでは発信の目的をリクルーティングとマーケティングであまり分けて考えていなくて。どちらであっても、市場に対して「自分たちを好きになってくれる人を増やす」という意味では同じだと思っています。

特にBtoBだと、潜在顧客と採用候補者の境界線って結構グレーだと思うんです。元々お客さんだった人が社員になるケースもあれば、ライバル企業にいた人が社員になることもある。

「こういうコンテンツを作ったら、Web制作と隣接する市場の人たちが喜んでくれるだろうな」という目線でひたすら発信を続けてきた結果、自主的な応募が来るインバウンドリクルーティングの形が自然と出来上がっていました。

現在は、採用媒体やエージェントなどの外部サービスを一切使っていませんが、2020年だけで年間120名の自然応募があり、その内6名の入社が決まっています。

「Twitter道場」を立ち上げ、社員の情報発信から認知を広げる

今西 私は、2016年にベイジにディレクターとして入社しました。当時からブログや採用サイトに十分な情報量があったので、ここで一緒に働きたいなという思いでエントリーしたのを覚えています。

前職から15年以上この業界に携わっていて思うのは、Web制作の仕事はひとりで完結させることがすごく難しいということです。たとえスキルが高くても、お互いに仕事の波長が合わないとうまくいかないですし、そもそも相手を好きになれるか、信頼できるかがすごく重要だなと感じています。

そういった特性もあり、ベイジでは「社内のメンバーと仲良くなれそうか」を、採用において最も重視しています。

枌谷 いわゆるカルチャーフィットを客観的に見極めるというよりも、お互いの主観で惹かれ合うかどうかを大切にしていますね。それが、最大にして最低限の採用条件だと思っています。

そして、そのために必要なのがオウンドメディアやSNSを使った「自己開示」だと思います。結果として、日頃の情報発信がリクルーティング活動にもすごく良い影響を与えています。

今西 特にいま、最も効果を感じているのがTwitterですね。20名いる社員のうち、16名ほどがTwitterのアカウントを持ち、そのうち7名ほどが活発に利用しています。

私も、2019年5月から社名と実名をだす形でTwitterを本格的に始め、2020年11月に1万フォロワーを超えました。

枌谷 もともとベイジの課題として、私のイメージが強すぎるということがあって。「経営者のブランド=会社のブランド」という状態はあまり健全ではないですし、社員をもっと外に出したいという思いがありました。

そこで社員からの発信を促進するため、2019年5月に立ち上げたのが「Twitter道場」です。Twitterは有志で行っていますが、現在は7名がこの門下生になっています。

「1日10ツイート以上は投稿する」「毎週金曜に1週間の成果を報告する」といった簡単な指針だけは設けていますが、強制ではなく各自の自由に任せていますね。

今西 Twitter道場のチャットグループで、お互いに反応がよかったツイートや改善案などを共有し合うことで、Twitterを続けるモチベーションにもなっているかなと思います。

また、私がツイートで気をつけているのは、あまり綺麗ごとばかりを言わないということですね。日頃考えていることや、時には感情が前面に出ているようなツイートの方が、潜在的な求職者の興味を引くと考えています。

枌谷 結局、ルールを決めてしまうと「誰かの枠組みにはめられてツイートしてる感」が出てしまうじゃないですか。Twitterの特性的にそれだとフォロワーも伸びませんし、やる意味がなくなってしまう。であれば、多少リスクがあったとしても、各自が自由な裁量をもって思い思いやった方が意味があると思っています。

採用サイトでは「求職者目線」でコンテンツをつくり、関心を高める

今西 また、Twitterを経由してオウンドメディアに流入し、ベイジを知ってくださる人も多いです。

メディアとしては大きく2種類あり、そのひとつがナレッジブログです。これは社内のナレッジを発信するオウンドメディアで、ビジネスパーソンに役立つ内容を発信しています。クオリティを担保するために、社内に編集部のような体制を作って品質を管理しています。

もうひとつは、社員全員が毎日書く日報をコンテンツにした日報サイトです。こちらは週に数本、公開する日報を選んで軽くリライトしたメディアですが、社員1人ひとりが行動指針をもとに1日を振り返って書いているため、等身大の価値観や働き方が伝わりやすいかなと思います。

こうしたサイトは、転職意欲が潜在的な人に、ベイジのことを認知していただくのに有用ですね。

▼左「日報サイト」、右「ナレッジブログ」

枌谷 さらに転職に関心がある人に対しては、より深くベイジを知っていただくコンテンツとして、採用サイトや採用イベントを用意しています。

この採用サイトの制作で大切にしているのは、「求職者が知りたいこと」を軸にコンテンツを作ることです。

世の中にある多くの採用サイトは、企業目線で作られていると思うんですね。「こういう人に来てほしい」とか「自分たちはこういうことができる」といった、企業が伝えたいメッセージが多い。

ですが本来は、サービスサイトと同じように、求職者のメリットを伝える必要があると考えていて。ただ事業内容を伝えるのでなく、「こういう事業をしている会社だから、働く人にとってはこんなメリットがある」というところまで伝えきるようにしています。

▼求職者のメリットを伝える同社の採用サイト(※該当ページ

今西 またメリットだけでなく、実際にベイジで働くイメージが伝わるようなコンテンツも用意しています。

たとえば、仕事でミスした出来事の一部をご紹介する「私たちの失敗談」や、オフィス周辺のお店を紹介する「下北沢の美味しいお店」といった内容も採用サイトに載せています。

さらに、「ベイジで働くことの意義」や「仕事と給与と評価の関係」といった社内向けのスライドもすべてWeb上で公開することで、求職者がほしい情報にアクセスしやすいようにしていますね。

「会社の履歴書」で自己開示し、お互いの相性を選考で確かめる

今西 こうしたTwitterやブログ、採用サイトなどの情報を読み込んで、ベイジについてよく知っていただいた状態で選考を受けていただく方が多いです。

採用サイトで応募いただいた後は、書類選考と3回の面接を経て、内定というフローになります。特徴的なのは、一次面接の前に「ベイジの履歴書」をお渡ししていることですね。

というのも、選考は会社が一方的に評価をする場ではなく、相互理解のための場だと思っていて。なので、応募者の方が履歴書や職務経歴書を用意してくれるのであれば、我々も同じように会社の履歴書を用意しようという発想で始めました。

その内容は、会社の経歴や代表の職歴、社内の実情、今後の事業の方向性などを記載しています。

▼実際の「ベイジの履歴書」

1次面接でも口頭で説明する時間を設け、良い面だけでなく実情を踏まえてお伝えすることで、より深く会社のことを知っていただけますし、面接官によって伝達する情報のズレも少なくなりますね。

続く2次面接では、現場のメンバーも加わる形でスキル面を確認しています。1〜2週間ほどかけて取り組んでいただく職種別の課題や、性格診断(SPI)、読解力テストを実施して、最低限のスキルやベースとなる能力に懸念がないかを確認しています。

さらに、オファー前の3次面接においては、双方の認識に相違がないかを確認するようにしています。

というのも「仲良くできそうな人か」を重視しているのはコミュニケーションを円滑に行うためであって、仲良しこよしの会社をつくりたいというわけではないんですね。仕事面ではお互いに厳しくフィードバックすることもありますし、精神的なタフさを求められる局面もあります。

そういった本人に覚悟しておいてほしいことや、期待感を含めた入社後のキャリアパスイメージを明確にして、双方が納得した状態で内定を承諾いただくようにしています。

継続的な発信の土台をつくり、転職先としての「第一想起」に

枌谷 よく「小さな会社だと、予算も時間も限られるので人を採用するのが難しい」と聞いたりするのですが、工夫次第でいくらでもやりようがあると思うんですね。

ベイジのような20名規模の会社でも、年間100人以上が自然に応募するような状態を作ることができたのは、継続してきたことが大きいのかなと思っていて。採用したい時だけ「絶賛募集中です」とSNSに流しても、応募は来ないと思うんです。

デジタルのコミュニケーションは、もう少し豊かで多様で、自由度が高いものなので、日頃から自己開示をしてコミュニケーションを取り続けていくことが大事で。その中の誰かが「転職したいな」と思ったときに、一番に想起してもらえる状態を作ることが大切だと考えています。

今西 Twitterをする社員が増えてきた昨年頃から、特にその影響が大きくなってきたなと感じています。エントリーフォームに、最初にベイジを知ったチャネルや、ベイジを知った時期を選択する欄を設けているのですが、Twitterをきっかけに知ったという人がすごく増えましたね。

ただ我々は、エントリーを増やして多くの人を採用するよりも、入社した人が納得して長く働いてくれることの方が大事なので、これからも飾らずに情報発信を続けていきたいと思っています。

また、文面だけでは伝わりきらない部分もあると思うので、今後は動画メディアなどを活用して、社員の生の声を発信することにも挑戦していきたいですね。

いまのやり方が決してベストだとは思っていないので、とにかく色々な施策を試して、自分たちのありのままを伝えられる施策を増やしていきたいなと思います。(了)

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