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自社を「美人」に見せるのは危険? 年間100名超を採用するSansanの採用プロセスを公開

〜書類選考では何を見て、面接官はどう選ぶ? 面接の際の「プラス要件やコア要件」とは? 急成長を続ける、Sansanの採用ノウハウ〜

候補者の見極めや惹きつけ、選考におけるジャッジプロセスなど、課題を抱える企業も多い「採用活動」。

クラウド名刺管理「Sansan」と、名刺アプリ「Eight」を展開するSansan株式会社は、1年前に300人だった組織が、現在は400人へと急成長を遂げた(※2018年6月時点)。

同社では、総勢17名にわたる採用チームが、採用マーケティングチームとリクルーティングにチームに分かれ、日々の採用活動を行っている。

同社で人事部 シニアマネージャーを務める西村 晃さんは、「『なんとなくダメかも』という理由で不採用にすることを避けるために、採用要件は明確に言語化している」と話す。

今回は西村さんに、Sansanにおける採用プロセスの全貌から、評価の仕組み、面接官の選び方、さらに人事のあるべきスタンスについて、詳しくお話を伺った。

採用マーケが独立!年100名以上を採用する、Sansanの採用チーム

僕は現在、Sansanの人事部にて、リクルーティングDivisionのシニアマネージャーを務めています。新卒採用と中途採用の双方に関わりつつ、名刺アプリ「Eight」における「Eight Career Design」というHRソリューションの業務を兼務しています。

Sansanでは、現在およそ400人が働いていますが、昨年の6月は300人でした。離職率も低い水準に留まっているため、新卒と中途合わせて1年で大体100人強が純増しているということになります。

現在の人事部には33人が所属していて、中途採用・新卒採用・Employee Success(社内制度や教育を担当)・労務と領域が分かれています。

更に採用における特徴としては、「採用企画チーム」という形で、4名が採用マーケティング特化に独立したチームに所属しています

彼らが採用マーケティングのKPIを管理しており、それぞれの採用媒体・メディアに対して常に適切なPDCAを回し続け、ファインディングを最適化しています。

Sansanはもともとデータ分析に強みがあって、「DSOC(Data Strategy & Operation Center)」に研究開発を担当するR&Dグループがあり、分析のプロフェッショナルが20名以上いるんですね。

採用マーケティングのチームはそのメンバーにも手伝ってもらいながら、「この媒体には、いくらの予算でどのようにアプローチすれば最適化できる」という分析をして実行に移しています。

採用マーケを独立させたことで、各媒体での成功施策の再現性が高くなりましたし、新しいメディアが出てもすぐにその特徴を把握できるようになりました

そういう意味では、リクルーターが、本当にリクルーティングの本質的な部分に集中できる体制になっていますね。

人事界隈だと「媒体の運用もリクルーターがやるのが当たり前。そもそも、採用マーケティングにそんなにリソース取れない…」みたいな部分もあるかと思います。

でも、競合する企業のレベルが上がってきている中で、チームとしてはノウハウを残す事が大切ですし、属人化させないことも非常に大事だと思っています。

準備は怠らない。レジュメは読み込み、面接官トレーニングも実施

選考の最初は書類選考です。そこで人事として大切にしているのは、「とにかくレジュメはきちんと読み込む」ということです。

「レジュメなんてしっかり読まなくても所属企業と役職、表彰歴等で大体判断できるでしょ」という意見もありますが、そうじゃないんですよ。それはあくまで採用側の論理なので、「相手が受ける印象」とは全然違う話なんです

レジュメをしっかり読まないって、単純に失礼じゃないですか。候補者の方が多くの時間を取って自分の人生を書いてきてくれていることに対して、きちんと向き合う姿勢を持つべきですし、面接に向けてわからないことがあったら事前に調べておくのは当然ですよね。

実際、面接官の本気はテクニックだけではなくて、事前準備から伝わるものだと思っています。

ただ、レジュメだけで結果が決まるということはもちろんありません。特に新卒に関しては、中途以上に会ってみなければわからない部分も多いので、まず会ってみましょうというフランクな姿勢は大切にしています。

面接に関しては、ケースバイケースで変動はするものの、原則3回ですね

そして、面接官に対しては人事部で資料を用意してトレーニングを実施しています。

新卒採用を例に取れば、「なぜ、このタイミングで当社が新卒採用に取り組むのか」「面接官の方にどのような姿勢で面接に取り組んで欲しいのか」といった目的やマインド面について最初に説明します

次に、面接で見て欲しいポイントを明確に定義して伝えています。これは、先述のR&Dグループの力も借りながら社内のコンピテンシーを可視化して、それを言葉に落とし込んだものになります。

ただ、あまりにカチっと決めすぎて、「面接官らしさ」が出せないことは避けたいので、ガイドラインとしてインストールするイメージです。

「なんとなく」はNG。面接官の基準をすり合わせる「言葉」が大切

面接は、レイヤーによって役割が全く異なります。基本的に一次面接は人事か現場のメンバーが担当し、次は配属部署の部長、最後に役員面接です。

書類選考ならびに一次面接まででスキルセットはある程度見ておくので、二次以降はスキルの深掘りと、人物面を含めた双方のマッチ度を確認する形になります。

質問に関しても、二次以降は基本的にはフリーフォーマットです。ただ、評価項目が決まっているので、各自でそれを解釈して、測れるように質問をしてもらっていると理解しています。

評価項目に関しては、「プラス要件」「コア要件」「注意要件」といったものを設けています

プラス要件は「これがあるとすごくいいね」というもので、「コア要件」はSansanで活躍している社員が共通して持っている要素。逆に注意要件は「こういう要素は当社にはマッチしないかもしれない」というポイントです。

▼評価基準・プロセスの一例(要件の一部にモザイク処理をしています)

このように要件を明確に定義しているのは、「なんとなくダメかも」という理由で候補者の方を落選とすることを避けるためです

候補者方の時間をせっかく頂いたのに、良いフィードバックが出来ないのも大変失礼ですし、そもそもリクルーターと面接官でコミュニケーションする上で、前提となる言葉がないと議論ができないじゃないですか

ただ、言葉で決めても、解釈は人によってずれてくるかと思います。それはある意味、当然かなと。逆に解釈が揃うのであれば、複数人で面接する意味がないですよね。

なので前提としては、ズレは諦める。そこを無理やり合わせるよりは、面接官を知ることでそのズレは解消されますし、むしろそこに面接の醍醐味があると考えています。

例えば「Aさんは企画屋さんなので、彼女が『企画力ある』と言った時には、他の面接官に比べてスキル評価としては信憑性が高い」、みたいな考え方ですね。

人事はプロデューサーのような側面があるので、社員を知るという事はマストです。候補者と面接官のマッチングも大切な要素なので。

その上で、言葉としては認識を揃えておいて、解釈自体には揺らぎを持たせて都度コミュニケーションですり合わせる、というのが最も効率的ですね。

「名誉職」だからこそ、面接官をきちんと評価していきたい

また、面接官の役割は、大きく3つあると思っています。

まずは自社に合うかどうかの「ジャッジ」、次に会社の魅力を伝えてファンを作る「アトラクト」、そして最後がとても重要だと思っているのですが、候補者の方の人生に何らかのプラスを与える、ということです。言うなれば、「インパクト」でしょうか。

ある人の人生にプラスを与えるチャンスを、個人として1時間もらえることってそうそうないと思うんですよ。

こちらが本気で向き合えば、入社につながらなくても互いに何かしらのいいきっかけになるかもしれないですよね。

僕の場合、最終的にマッチしなかった候補者の方から別の方を紹介してもらえたりするんです。新卒で3人、中途で2人紹介してくれた人もいます。また、転職後の業務の相談を受けるケースもあります。

彼らとは選考段階でものすごく深くコミュニケーションしたので、Sansanの魅力が全部伝わっていて、会社への理解も深い。だからこそ、こうして紹介や相談をしてくれるんだと思います。

人事としてそのくらい向き合えるかということは、最初のレジュメを読み込む話しかり、訓練できることなので、ぜひやるべきだと考えています

そして、そんなに1人ひとりに向き合うことを、報酬を貰いながらできる「人事」って本当に素敵な仕事だなと。

また「インパクト」という点では、候補者へのバイアスだけでなく、世の中の情報へのバイアスも外す必要があるなと感じています。採用倫理と言えるものかもしれません。

例えば噂話で他社の話をしたり、ベンチャーであれば「大企業は裁量権ないよ」って断言したり…

あくまで、人事に限った話になるとは思いますが、圧倒的な情報収集や思考の上で候補者の方に接する必要があると思っています。自身のKPIの達成に追われて、必要以上にプッシュをしたりすることも論外ですね。

人事以外の面接官は、職種やポジションによってアサインされます。ただ、面接官は自社理解やそれを候補者の方に伝える能力が必要なので、ある種の「名誉職」と言えるのかもしれないですね。

もちろん業務の繁忙具合によって、適性があってもアサインできないメンバーがいるのでその点は歯がゆいですが…。

一方で、それぞれ自身の業務がある中で、面接業務に入ってくれていることをきちんと評価できているのか、というと、僕たちの中でも正直まだ課題です。

そもそも面接官は、現場でも実績を上げているメンバーが多いため「まるっと」評価されているように見えがちなんですよね。

でも通常業務とは全然違う脳の使い方をすると思いますし、少なくない工数を頂いているので、切り分けて評価したいな、と以前から思っていました。

そこで今年の7月から新しく、「ビジネスサイドの新卒採用を最適化する」というプロジェクトを始めました。

Sansanには社内で部署を横断したプロジェクトを立案できる「Many Projects」という制度があるのですが、その中で立ち上げた形です。

具体的には、現場のメンバーと一緒に採用基準を作るところから始めています。プロジェクト化することで、その活動がきちんと評価対象になることがいいなと思っていますね。

自社を「美人」に見せない。ベンチャーだからこそ課題感も共有

これまで多くの方の採用に関わらせていただいた中で、反省したこともあります。

ダイレクトリクルーティングを始めた頃はそれこそ、スカウト文も甘い言葉みたいになってしまっていて。

すると候補者の方も、他社さんと比較せずにすぐ「Sansanに行きます」と行ってくれたりするのですが、そういう人にはSansanが「とてつもない美人」に見えていることがあるんです

でもSansanは急成長を遂げているベンチャーで、なおかつビジネスドメインも非常に尖っています。また、2年に一度はミッションを見直しているくらいに変化が激しい環境です。

なのでそういう状態で入ってきてしまうと、体制が大きく変わったりした時に本人が「アレ?」となってしまうようなことが起きてしまいました。

だからこそ、ちゃんと悪いところや課題感もわかって、他社さんと真剣に悩んだ上で腹決めして来てもらえるように、期待値を調整しなければいけないなと。これは、僕個人としての大きな反省です。

最近は、社内にヘッドハンティングの制度を立ち上げられたらなと考えています。

もともとエンジニアに関しては半年に1回、異動希望を取っているのですが、他の職種にはなくて。

そこで社内で「あの人、うちの部署に欲しい」と言える仕組みができれば、より多くの人に活躍してもらえるのではないかと思っています。

Sansanは自分たちの言葉で言うと、「非連続の成長」をしている組織です。

今までの「名刺管理」という文脈から、「世界を変える出会いを生み出す」という新しいフェーズに入ってきています。僕らにしか起こすことのできない本当のイノベーションが迫ってきている感覚があります。

その環境に身を置けていることに感謝しつつも、自分自身が非連続な成長をしていかなければ置いていかれてしまう、という危機感も感じる日々です。

なので、変化を楽しめる人や事業成長と自身の成長を重ね合わせることが出来る人にはまたとない環境だと思います。「Sansanってまだまだこれからでしょ!」という人たちに、ぜひ来てほしいですね。(了)

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