- ライター
- SELECK編集長
- 舟迫鈴
【連載:成長組織のリアル】カルチャーへの投資が「変化に強い組織」を作った。atama plusの軌跡
【Sponsored by 株式会社ゆめみ】本シリーズ「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(以下、RJP)」は、「企業が『リアルな現状』を語ることが素晴らしい」という世界を作ることで、採用のミスマッチを減らしていきたいという思いから生まれた特別連載企画です。
急成長スタートアップ組織の実態について、良い面だけではなく課題も含めた「ありのままの姿」を、インタビューを通じて深堀りしていきます。
インタビュアーを務めるのは、スタートアップの内製化支援を行うと共に、RJPを以前から推進している株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さんです。
第4弾となる今回は、2017年にatama plus株式会社を創業し、代表取締役CEOを務める稲田 大輔さんにお話を聞きます。
AIを用いた学習システム「atama+(アタマプラス)」を全国2,600以上の塾に展開し、創業から累計で約82億円を調達(※以下、数値はすべて2021年10月時点)するなど注目を集める同社。
現在およそ160名の社員を有するatama plusの組織づくりにおける特徴のひとつが、創業期から「ミッションに向かって一丸となる」組織カルチャーへの投資を行ってきたことです。
▼atama plusのミッション(同社の「atama+ culture code」より)
具体的には、創業3期目からカルチャーを明文化した「atama+ culture code」の作成に着手。またカルチャー維持のための妥協のない採用や、新入社員が既存社員100名以上との対話セッションを行う徹底したオンボーディングプロセスを整備するなど、これまでに数多くの施策を行ってきました。
しかし、そうした個々の施策以上に大切だったのは、創業前から一貫して「『意思決定の軸はミッション実現に近づくか』だと決めて、それにずっと従ってきたこと」だといいます。
対談相手であるゆめみ片岡さんも思わず「入社したい」と言ってしまうほど、真っ直ぐにミッション実現へと向かうatama plus。同社がこれまでに歩んできた道のりと、描く未来についてお聞きしました。
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「ミッションありき」で創業し、意思決定の軸は常に変わらなかった
片岡 本日はよろしくお願いいたします。最初に、自己紹介をお願いできますでしょうか。
稲田 僕は2017年にatama plusを創業したのですが、その前に遡ると、大学時代はエンジニアリングを勉強しまして、卒業後は三井物産に約11年間勤めていました。
約11年のうち、通算5年を過ごしたブラジルで、幼少期の過ごし方がブラジル人の幸福度の高さに関係があると感じ、教育に関心を持つように。その後、実際にブラジルで教育事業を立ち上げたり、投資先のEdTech企業に出向したりしていました。
その中で、「日本でテクノロジーを活用した教育を作りたい」と考えるようになり、起業を決意したんです。それがやりたいことを実現する一番の近道じゃないかなと思って。すぐに大学時代の友人たちに声をかけて創業し、4年半が経ったところです。
▼atama plus株式会社 代表取締役CEO 稲田 大輔さん
片岡 今日の対談テーマとしては「カルチャー」を置いていますが、稲田さんの「なぜatama plusはここまでカルチャーに投資するのか?」というnoteも拝見しました。創業前から、ご自宅に集まられて、ミッションやカルチャーについてお話されていたんですよね。
稲田 そうですね。そもそも会社を立ち上げるより前にミッションがあって、その実現のため会社を作ったので、生まれながらのミッションドリブンカンパニーだと思っています。
最初に「社会を変えるために会社を作る」ことを決めたので、以後、どんな意思決定するときもこれを一貫して軸にしています。結果として、atama plusの中にも「1人ひとりが自律して、同じミッションに向かって進んでいくことを目指す」というカルチャーが根付きました。
片岡 創業3年目にして「atama+ culture code」の作成に着手されるなど、カルチャー浸透のための施策にも投資をされている印象です。
稲田 たしかに施策もたくさん行っていますが、それ以前に何よりも大事なのは、「どんなカルチャーでありたいのかを決めること」だと思っています。
世の中には色々なベンチャー企業があり、色々な成功パターンがあると思いますが、僕は大きく3つのタイプに分かれる気がしていて。
まずは「伸びる事業をつくりたい」人たち。それから、「楽しく働ける、いい会社」をつくりたい」人たち、そして最後は「いいサービスで世の中を変えたい」人たちかなと。
どれも正解だと思いますが、本当の目的と意思決定の軸がズレてしまうと、会社の価値は作れないと思っています。
例えば、事業を伸ばすことを一番大事にしているのに、、世の中を変えるためにカルチャーが大事だと言っても、たぶんズレが生じるじゃないですか。
僕は「お金持ちになりたい、有名になりたい」という願望は全くなくて、単に教育を通じて世の中を変えたいという思いを実現する手段として起業しました。
それをベースにすべての意思決定をしていこうと決めて、ずっとそれに従ってきた結果として、いまのatama plusのカルチャーがある…という感覚です。
コロナ禍で強みを発揮した「変化に強い」atama plusの組織
片岡 先ほど、atama plusさんのカルチャーは「1人ひとりが自律して、同じミッションに向かって進んでいく」ことだとおっしゃっていましたが、決して簡単なことではないですよね。どのように実現されてきたのでしょうか。
▼株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さん
稲田 色々な施策も打ち続けてはきましたが、施策は施策でしかないんですよね。「同じミッションに向かってみんなで一丸となる」ことをとにかく大事にし続けてきた結果として、いまがあるんだと思うんです。
atama plusでは、「なぜ◯◯をやろうと思ったのか」という意思決定の背景の共有に、とても時間をかけています。情報共有のための全社ミーティングも、週に1回1.5時間、月に1回2.5時間かけていて、けっこう多いのかなと。
例えばプロダクトのアップデート報告でも、「ユーザーにこういう課題があることを見つけました。それを解決するためにはこういう視点がありそうでした。そしてインタビューしたらこうだったので、この機能をリリースします」といった形で、背景までしっかり説明するんですね。
説明する側はいつも大変ですが、皆に認識のズレがあるうちには施策は始めないことにこだわってきているので、ここは敢えてコストをかけています。
片岡 ミッションに向かって一丸となるための情報共有に、ずっと投資してこられたわけですね。結果的にその成果といいますか、象徴的だった出来事はありますか?
稲田 ひとつ挙げるなら、やはりコロナ禍になったときですね。あのときは、atama plusのカルチャーがすごく強みを発揮したな、と感じました。
2020年の2月末に、政府から「全国の学校を休校にします」というアナウンスが突然あったんです。学校が休校になると塾もすべてお休みになりますが、その時点で、僕たちのプロダクトは塾の中にあるタブレットのアプリでしか使えないものでした。
▼atama+のプロダクトイメージ
ですので、そのままにしておくとatama+は利用者数も売上もゼロになってしまうはずでした。けれど結果的には、その後約2ヵ月で、ユーザー数を10倍に伸ばすことができたんです。
そのときには、atama+を生徒さんの自宅のスマホやPCで使えるようにしたり、それができるように塾の支援をしたり、広報チームから新しい学び方を発信したり…。色々な施策を打って、その結果としてユーザー数が急激に伸びたんですね。
当時は状況がどんどん変化していて、急速に色々な意思決定をしなければならなかった。それを僕ひとりで行うことはできない中で、各チームがミッションに向かって自律的に意思決定し、できることを同時並行でどんどん実行していったことが、良い結果につながったと思っています。
片岡 お話を聞いていると、ミッションへの共感という部分でももちろんですが、1人ひとりが成熟された組織なんじゃないかなと感じます。
ミッションがあっても、それを自律的に行動に結びつけるのは難しいですよね。そこからチームとして具体的にやるべきことを考えて、計画しないといけないじゃないですか。
それを普通は、事業部長のような役割の人が担って皆に指示を出していくんだと思いますが、atama plusさんは皆さんがそれを当たり前にできる組織なのかなと。ベースのスキルや、経験値が高いと言いますか。
稲田 うち、スタートアップにしては年齢層が高めなんですよね。いま160名いるのですが、平均年齢は33歳前後です。
片岡 年齢と言うより、考え方の部分なのかな。いわゆる「急成長スタートアップで働きたい」ではなくて、「社会のために仕事をしたい」といった、上のレイヤーにフォーカスが当たっている成熟された方が多いのかな、という印象を持ちました。
実は以前から思っていたのですが、atama plusさんって、このフェーズのスタートアップにありがちな「うちら、めっちゃイケてる強強(つよつよ)集団やで」みたいな(笑)発信を見かけない気がするんです。
稲田 そうですか。僕自身も創業時に35歳で、共同創業者も大学の同級生で、大企業で10年以上務めてきたようなメンバーなんです。そもそもおじさんたちだから、「学生時代に起業しました」みたいなイケイケの方たちとはちょっと違うかもしれないです(笑)。
片岡 私はそれこそ学生時代に起業しているので、ノリノリで調子こいてた時代もありました(笑)。そういったところも、純粋にミッションに共感できる人を集められているポイントなのかなと。
ゆめみの社員からも、atama plusさんの価値観がすごく好きだという話を聞いたりするので、そう感じさせる何かがあるんだと思います。
稲田 それは嬉しいですね。ありがとうございます。
カルチャー維持のために、採用面接は「口説かない。擦り合わせる」
片岡 カルチャーや共通の価値観を維持することを考えたときに、採用はやはり大切だと思うのですがいかがですか?
稲田 その通りで、採用は、めちゃくちゃ大事です。会社のミッションを定めたあと、カルチャーを維持するために一番大事なのは、採用でちゃんとフィットした方に来ていただくことだと思います。
稲田 僕も毎日たくさん面接をしますが、採用は「擦り合わせ」だと思っていて。無理に口説くようなことはしない会社なんですね。
候補者の皆さんには、人生をかけてやりたいことが何かしらあるはずで。一方でatama plusにはミッションがあるので、それが同じ方向を向いているかどうかの擦り合わせにとてもコストをかけています。
結果的に、採用倍率もかなり高い水準になりますし、面接も候補者の方ひとりあたり3〜5回実施します。色々な人に会っていただいて、都度都度、ちゃんと価値観が一致しているか? ということを確認しています。
片岡 atama plusさんは2021年7月の資金調達の際に「次の3月までに社員数を250名に拡大する」といった目標を発表されていましたよね。
稲田 現状の1.5倍規模ですね。がんばっていますが、むちゃくちゃ難しい。
片岡 一般的には、組織の人数が増えてくるとカルチャー浸透が難しくなってくるという話があるかと思うのですが、これまでそういったことを感じられたことはありますか?
稲田 常に感じています。「◯◯人の壁」のようなものと言うより、毎月人が増えて、その度に色々な壁があるなと。
ただ、ちっちゃい壁が見えたら、それが大きくなる前にできるだけすぐに壊すことをずっとやってきています。ずっと小さなチャレンジを続けている感覚です。
例えば、いまこの瞬間は、「コロナが落ち着き始めたけれど、出社ポリシーどうしようかな」とか。ミッション実現のためにチーム内外の人をよく知っている状態を作りたい、ということと、感染リスクを軽減したい、ということのバランスで、都度意思決定をしています。
新入社員は既存社員「100名」と対話セッションを実施
片岡 atama plusさんは採用もそうですが、オンボーディングにもかなり力を入れてらっしゃいますっよね。
稲田 そうですね。今は入社してから約1ヵ月、プロダクトを使ってみたり、塾の現場に直接行ったりZoom越しに見学したり、社内の様々な人と話したり…色々なオンボーディングプログラムを作っています。プログラム自体も、毎月アップデートしています。
※atama plus社のオンボーディングについては、こちらの同社ブログ記事もぜひご覧ください。
片岡 これまでに行われたオンボーディングの改善の中で、インパクトがあったなと感じられたものはありますか?
稲田 「スタートーク」だと思います。
もともとatama plusでは、入社して3ヵ月以内の人を「スター」と呼ぶ習慣があるんですね。なぜスターかと言うと、その人たちを誘って食事に行くと会社が食事代を負担するという施策があって(※)、マリオの無敵状態みたいな感じということでそう呼んでいます。
※新型コロナ感染拡大時は、一時休止。
ただ、昨年4月頃に新型コロナウイルスが一気に広がったタイミングで、atama plusも一時全員がリモートワークになり、そうした施策ができなくなってしまいました。
そんな状況でも、スターたちをよりウェルカムしたいということで、始まったのがスタートークです。具体的には、新しく入社された方が、既存の社員と1on2、もしくは1on1の形式でお互いのことを話す30分ほどのセッションを行います。
これを1人のスターにつき、入社後3ヶ月の間に100本くらいダダダーっとやるんですね。たった30分の対話ですのでお互いの深い理解まではいけませんが、その後オフィスでたまたま会ったときや、何かの仕事で一緒になったときに、話しやすくなるじゃないですか。
片岡 1人100本はすごいですね!受け入れる側も相当時間を使うんですね。
でも、まさにいま稲田さんがおっしゃったように、ウェルカム感はとても大事だなと思っていて。ゆめみはリモートワーク先端企業を目指しているので、フルリモートでいかにそれを出せるかに挑戦していますが、なかなか難しい。
atama plusさんくらいの時間の投資となると、本当に一丸となって受け入れようとするスピリットを感じるので、素晴らしいですね。
稲田 めちゃくちゃ時間を投資していますし、一見、非効率に思えますよね。でもそこは「僕たちはお互いのことをよく知り合っている状態のほうがミッションに向かって進みやすいよね。それは何よりも効率的な投資だよね」という合意を全員でしているので、みんな大切に取り組んでいるかなと思います。
片岡 やはりお話を聞いてると、すごい団結感と言いますか、ひとつのチームなんだという雰囲気をとても感じます。
未だミッション実現の「0.1%」カルチャーを維持しながら仲間を増やす
片岡 ここまでカルチャーについて色々とお伺いしてきましたが、いま、まさに解くべき問いや課題は何かありますか?
稲田 先ほども採用の話がありましたが、次の3ヵ月で30〜40人を採用したいと思っているんですね。となると、過去にはなかったペースなので、カルチャーを維持しながらその受け入れができるように、体制も含めた整備に取り組んでいます。
オンボーディングに限らず、受け入れるチーム側でもこれまでにない挑戦になるかなと。スタートークにしても回数がとても増えてしまうので、どうしようかなとか。いくら採用がうまくいっても、積み上げてきたカルチャーがなくなってしまったら意味がないので、色々と整理しているところです。
片岡 大きな挑戦ですね。逆に過去に、カルチャー浸透や定着において「これは失敗しちゃったな」と思われたことはありましたか?
稲田 いっぱいあったと思いますが、課題があればすぐに改善していくので、忘れちゃうんですよね…(笑)。
でも創業してすぐの頃は、あまりカルチャーフィットを重視せずに内定を出してしまって、その後入社までのコミュニケーションでミスマッチが発生してしまったことがありました。
本当に申し訳ないことをしてしまったと思います。やはりお互いが不幸になってしまいますから、とても反省して、それを機に改めて採用でカルチャーフィットを重視するように見直したという背景があります。
片岡 そういった失敗もばねにして取り組まれてきたんですね。いまは入社後の方から「入ってみたらこんなギャップがあった」と言われることはありますか?
稲田 僕は新しく入社した方と意識的に1on1を行っていて、そのときに「入社後にギャップはありましたか?」と必ず聞いています。
そこでネガティブギャップが出てくることはあまりなくて、逆に「カルチャーにこだわっているとは聞いていたけど、ここまでやっているんですね」と言われる方が多いです。
実際オンボーディングの中で、僕も毎回2時間くらいミッションについて話すので、びっくりする方もいるようです。
片岡 …今日、色々とお話を聞いていると、atama plusさんは本当にすばらしい会社だなと思いました。僕も入りたいな(笑)。
稲田 本当ですか!是非(笑)。
片岡 目的をすごく大切にされているなと。教育を通じて世の中を良くしていく、という大きなミッションが社員の方の自己実現にもつながっているんだなと感じましたし、その意味で会社とそこで働く人のつながりの凝縮性が高いなと。
「このatama+という事業をやる意味は何なのか」「この施策が何のためにあるのか」といったことを、ミッションへのつながりも含めて時間を割いて1人ひとりに理解してもらっていますよね。だからこそ、「なんでカルチャー投資にそんなに時間を使わないといけないんですか」といった話も出ないのかなと。
それを理解しないままでいると、単に「代表が考える価値観を実現する」ということになってしまうので、すばらしいなと思いました。
稲田 ありがとうございます。
僕たちが目指すところとして、これだけ大きく社会が変わっていく中で、子どもたちに基礎学力と社会で生きる力の両方を身につけてほしくて。そのためにはテクノロジーの力で基礎学力の習得にかかる時間を短くして、その分増えた時間で社会でいきる力を学べるようにしていきたいんですね。
その実現と比べたら、いまやっているのは本当にその0.1%くらいに過ぎない。まだまだやることが死ぬほどいっぱいあって、それをできるだけ早く前に進めていきたいと思うと、やはりこのミッションに共感してくれる仲間をできるだけ早く増やしていきたいですね。
でも、採用にはこだわり続けるので、拡大を急ぐために妥協は絶対にしない、そしてカルチャーもキープする。これはかなり無茶な難題だと思いますが、地道にやっていきたいなと思っています。(了)
株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さんより対談後記
なぜ会社は、成長を余儀なくされるのか。それは自己顕示や株主からの期待に応えるためではない。
いや、その要素はあってもいいのだが、未来の子供に少しでも早く、より良い教育と届けたいという一心がまず第一にある、それがatama plusさんだった。
強い想いでひとつにまとまりながらも、高度な能力を持つ洗練された集団という印象。ただ、Giveの精神や想いが強すぎると自己犠牲や認知的不協和に押しつぶされかねないと心配も。
おふざけ(funny)や道化(flool)もplusされた姿を、次は見つけてみたい。
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