• 株式会社Gaudiy
  • プロダクトオーナー
  • 宮田 大督

アウトプットではなくアウトカムを生み出せ。Gaudiyのプロダクトマネジメント変革の全貌

アウトプットではなくアウトカムを生み出せ。Gaudiyのプロダクトマネジメント変革の全貌

事業フェーズが急速に変化するスタートアップのプロダクトマネジメントでは、限られたリソースで何を優先するかを常に決断する必要がある。特にSaaS等のBtoBプロダクトの開発では、顧客の要望に応えることとプロダクト自体を磨き込むこと、双方の両立が課題となることも多い。

ブロックチェーン技術を活用した、ファンの熱量を最大化するファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を提供する株式会社Gaudiy。国内のWeb3.0企業の中でも成長著しい同社では、事業成長に合わせてプロダクトマネジメントの考え方や、プロセスを大きく進化させてきた。

中でも、特にその契機となったのは、現在プロダクトオーナーを務める宮田 大督さんのジョインだ。宮田さんは2022年8月の入社後、顧客の要望中心、かつ「いつまでに何を出すのか」というアウトプット重視で動いていたプロダクトマネジメントの「考え方」を変えることから着手。

アウトプットではなく、アウトカム(成果)を創出することが重要だと、一人ひとりのマインドセットが変化するような働きかけを行ったという。

さらに、プロダクト開発における「不確実性の段階を下げる」プロセスを、「In Sense / In Discovery / In Delivery」の三つのフローに分化して定義

エンジニア、デザイナーなど様々な役割を持った人から構成される「フィーチャーチーム」が、個人ではなくチームとして一連のプロセスを担うことで、全員がアウトカムの創出に向かって全プロセスのオーナーシップを持ちながらも、個々のスキルを高める意識を持てる体制を構築した。

現在はこの体制をさらに進化させ、プロダクトマネージャーを職種関係なくチーム内の投票で決める仕組みも導入しようとしているという。

今回は宮田さんに、Gaudiyのプロダクトマネジメント変革の取り組みの全貌について、詳しいお話を伺った。

「ファン国家の創造」を目指し、コミュニティ運営サービスを展開

私は新卒でNTTコミュニケーションズに入り、最初はマーケティング事業部でメルマガやLPの制作をしていました。その後、新規事業開発に関わる部門にチャレンジしたことをきっかけに、スタートアップにも興味を持つようになりました。

そこから楽天、メルカリといった企業で、時代の流れとともに役割を変えつつ経験を積み、最終的にはプロダクトマネージャーというロールでITスタートアップ業界にて活動するようになりました。

当初は、どうしたらプロダクトが良くなるのか、UXデザインや仕様の観点から現場寄りの立場で考える役割が多かったのですが、AIスタートアップのエクサウィザーズに入って以降は、プロダクトオーナーのような、より全体を見ていく役割に変化してきました。

2022年8月のGaudiy入社後も、プロダクトオーナーとして仕事をしています。実際に入った感想としては、メンバーが「1言ったら100理解してくれる」ような、もう素晴らしい環境なんです(笑)。これまでで一番過ごしやすくて、楽しい会社だと感じています。

Gaudiyが今プロダクトとして作っているのは、「Gaudiy Fanlink」というサービスです。特定のIPや作品のファンコミュニティを簡単に立ち上げることができるSaaS型のサービスですが、その特徴は、ブロックチェーン技術を活用したさまざまな機能を提供できる点にあります。

Gaudiy Fanlink例えば、コミュニティに所属している方に向けてNFTを配布したり、特定のNFTを持っている人だけがコミュニケーションできるチャットルームを開設したり、といったことです。

このようなWeb3.0の技術を活かして、ファンの人たちがより密にIPや作品への愛を深めていけるような、より良いコミュニティを作っていくことを模索しています。

Gaudiyでは、ビジョンとしてファンの創作・貢献・還元から成り立つ「ファン国家」を創造することで、エンタメコンテンツ業界にイノベーションを起こすことを掲げているので、今はそのための一つの段階を踏んでいるというところです。

事業成長に伴い、プロダクトマネジメントにおける課題が表面化

現状の「Gaudiy Fanlink」は、大手のIPさんとも一緒にやらせていただきつつ、どんどん新しい引き合いもいただいています。コミュニティサービスとしては、一定のPMFをしている部分はありますね。

ただ、PMFは一回で終わるものではありません。プロダクトを世の中に広げていくにあたっては、現状とは別のターゲット層に対してもまたPMFをしなければならないので、今はまさに二段階目、三段階目のPMFを目指していくフェーズです。

このようなフェーズにおけるプロダクトマネジメントにおいて、大事なことは二つあると思っています。

一つは、ビジョンを大事にすること。ただPMFすればいいのではなく、「これを達成すれば、いつかはビジョンの実現にたどり着く」かどうかを逆算して、プロダクトをマネジメントする必要があります。

PMF後にビジョンを考えるパターンもあるとは思いますが、僕たちが大事にしているのは「ファン国家を創る」こと、一点なので。Gaudiyはとてもビジョンドリブンな会社ですし、私自身もそこには非常に強い思いを持っています。

Gaudiy_宮田さんそして二つ目は、その一方で完全なるビジョンドリブンを貫いて、お客様のことを見ない、ということは絶対にないということです。両極端に感じられるかもしれませんが、あくまでもお客様の課題解決を徹底することが大切だと考えています。

また、私が入社する前の面接などを通じて、Gaudiyのプロダクトマネジメントにはいくつかの課題があると聞いていました。

まずは、プロダクトマネジメントが「プロジェクトベース」になっていたこと。これは要するに、「いつまでに何を出すのか」という、アウトプットを中心としたプロダクト開発だったということです。

さらに、そのアウトプットは、基本的にはお客様からの要望に応える形のものが多かったと。というのも、当初はお客様からの信頼が十分ではなかったので、まずは一定の信頼を得ることが重要なファクターだったからです。

ですので、基本的にはセールスドリブンに、お客様の要望に全力で対応していくことが当時の戦略でした。もちろんそれには一定の役割と目的がありましたし、意味のあることだったと思っています。

ただその一方で、当時から、よりプロダクト自体を育てていきたい、磨き込みたいという思いもとても大きかったそうです。

さらに体制面でも、POの役割がビジネス側の中心でもあった代表の石川に全て集中していたので、引き合いが増える中でそれらを全て一人で持つことが難しい状況になってきていました。結果的に機能の磨き込みが薄くなったり、エッジケースへの考え込みが足りず手戻りが発生したり、といった問題も起こっていたと。

そうした中で、やはり専任のPOが必要だということで、採用に動いたと聞いています。

「アウトカム」が全て。プロダクトマネジメントの考え方を刷新

私が実際に入社した後は、まず最初にプロダクトマネジメントにおける「考え方」を伝えました。

というのも、「なぜそのプロセスでやるのか」を説明せずに、「今日からこのプロセスをやります」と組織に浸透させることはすごく嫌でしたし、実際にそれでやってもうまくいかないことは過去の経験からわかっていたので。

余談的な話ですが、例えばUXの世界には、カスタマージャーニーマップやペルソナといった様々な方法論があります。ですが、正直それは何でも良いと言いますか、そこに意識が囚われるくらいだったら、1秒でも長くお客様のことを考える方が大事じゃないですか。

プロダクトマネジメントも同様で、様々な考え方や専門用語、フレームワークがありますが、まずはそれを使わずにそもそものプロダクト開発を成功させるためのマインドセットを浸透させる方が大事だと思っています。

具体的にどんな考え方を伝えたかというと、まず一つは、これまでのように「いつまでに何を出すのか」というアウトプットではなく、アウトカム(成果)を最大化することが大事だということです。

一見、当たり前のように聞こえますが、普通に仕事をしていると結局「目の前の仕事をとりあえずいつ終わらせるのか?」ということを目標にしがちです。

でも本当は、お客様の行動変化やビジネスインパクトのような求めるアウトカムを達成できれば、極端な話、アウトプットは何でも良い。一番は何もアウトプットを出さずに、アウトカム(成果)だけ得られれば良いんですよね。

この考え方を伝える上では、いわゆるレクチャー会のような「教える」ことは行わず、代わりに社内の定例MTGの中で、「なぜそのアウトプットを出そうとしているんですか、達成したいアウトカムは何ですか、アウトプットはもっと最小化できないですかね」といった質問を重ねていきました。

というのも、みんなすごく素直に話を聞いてくれる印象があったので、それによって変に型を意識しすぎるのも良くないなと。

すると、もともとすごくビジョンドリブンな組織だったこともあり、自然に「たしかに何のためにやってるんだっけ」「本当に実現したいのはこういうことだ」といった形で、意識が変わっていく流れが生まれました。

そして、二つ目の考え方として伝えたのが、そのアウトカムを達成するには、仮説を立てて検証する「Learn、Build、Measure」のプロセスを愚直に回すことがすべてだということです。

というのも、「アウトカムが大事だよ」と言っているだけでは、根性論になってしまいます。また、アウトカムに向かえば何をやってもいい、となってしまうと、いきなりモノを作り始めたり、検証を無視してしまうこともあるので、そうならないために最低限必要なこととして伝えていきました。

ちなみにこのプロセスは「Build、Measure、Learn」という進め方が一般的なんですが、私はいきなり物を作り始める前に、前例や何らかの先行研究から学んで、仮説を立てる「Learn」を最初に持ってくることを大事にしています。

ただ一方で、このプロセスをテーマもなくただ回していては、何をもって終わりとして良いかがわかりません。そこで、抽象度の高いものから具体的なものへと仮説検証のテーマを変えていくべき、という考え方に沿って、開発プロセスを「In Sense / In Discovery / In Delivery」という三つのフェーズに分けています。

▼実際のプロダクト開発のフロー図(同社提供)

「In Sense / In Discovery / In Delivery」「Sense」の段階は、お客様の情報をどんどんインプットしていきつつアイデアを思いつくような、不確実性の塊のような状態です。

この段階で、いきなり開発して検証することも一つの方法ですが、かなりコストがかかりますし、後戻りもできません。そこで、次の「Discovery」の段階でより検証を深めて、怪しい仮説や懸念事項を全て洗い出し、不確実性を下げていきます。

そして最後の「Delivery」では、もともと求めていたアウトカムの達成を目指していきます。

この三段階のプロセス自体は、私が入社前から導入を検討していた物だったのですが、以前のGaudiyにおいては「Senseが企画、Discoveryがデザイン、Deliveryが開発」という形でシンプルに理解されていました。でも、入社後はそうではないという点を強く伝えていきました。

というのも、例えば開発ナシでアウトカムが達成できたら最高じゃないですか。つまり、開発をしないでDeliveryのプロセスを終わらせることもできるわけです。

さらに、企画、デザイン、開発といった職能で開発プロセスを考えていると、「Deliveryに行く前にデザインを終わらせないと」という形で、アウトプットの意識から永遠に離れられません

それよりは、あくまでも不確実性の段階を下げていき、一つのアウトカムを達成するためのプロセスとして考えた方がシンプルです。「In Sense / In Discovery / In Delivery」というフレームは、こうした考え方が浸透することを目的として運用を開始しました。

それぞれの職能を磨きつつ、全体へのオーナーシップ意識も高める

具体的にどのような体制でこの開発プロセスを実現しているかというと、「フィーチャーチーム」という色々なロールを持った人が集まるチームを組成しています。

現状は4チームあるのですが、それぞれのチームにユーザーストーリー(開発要件)を割り当てた上で、一連のプロセスをチームの中で完結させる形で進めていきます。

その中では、職能は関係なくチームで一つのアウトカムを目指して動くので、エンジニアがDiscoveryの段階からしっかり関わるようなことももちろん出てきます。

ですがその一方で、エンジニアがデザイン作業をしたり、デザイナーがエンジニア作業をすることを良しとする仕組みではないこともポイントです。それぞれが得意ではないことをやってしまうと、クオリティが下がるのは明確なので。

つまり、全員が全てのプロセスにオーナーシップを持っているけれども、同時に互いのスキルや職能をリスペクトして背中を預けあう。この二つの意識を同時に持っているところが、今の組織形態の面白いポイントです。

Gaudiy_宮田さん加えて最近では、組織体制をさらに改造しました。そのポイントは二つで、まず一つは、職能別の横串のプロフェッショナルチームを作り、それぞれのスキルセットや職能を責任を持って磨き込む時間を設けたことです。

そしてもう一つは、フィーチャーチームの中で誰がプロダクトマネージャーを担うのかを、相互投票で決める仕組みを導入しようとしていることです。これは、全員がオーナーシップを持つという考え方をさらに後押しするものですね。

プロダクトマネージャーは、アウトカムを最大化するための責任者という役割を担います。ですが、その思想は職能問わず皆が持つべきものなので、チームの中でそれに最も貢献しそうな人が担うのが良いだろうと。

結果として、アウトカムへの意識が強い人がプロダクトマネージャーになるというメリットもありますし、さらには「自分もいつかプロダクトマネージャーになるかもしれない」と常に思うことで、全員が全体のことを考えるマインドセットを醸成することにも役立つだろうと思っています。

こうした組織の仕組みによって、プロフェッショナルとしての意識や、アウトカム最大化への意識を後押しできることが面白いですよね。

このような取り組みに加えて、最近では石川から戦略をセールスドリブンからプロダクトドリブンに変えるぞという大号令があったこともあり、組織のマインドセットは大きく変化してきたと思います。

また、個々の案件でアウトカムを意識するようになっただけで、日々変化がありますね。お客様に言われたことをやるだけではなくて、自分の頭でお客様にとっての行動変化につながるものを考えられるようになってきていると感じます。

Gaudiyのような自律的なコミュニティを、社外にも生み出したい

私がGaudiyへの入社を決めた理由には、スタートアップとしての勢いもありましたが、それに加えて組織づくりに対する思想がマッチしていたことがありました。

もともと私は人が働く組織の最適化や、生きる上で所属するコミュニティの設計に興味があり、両者が抱える課題は同じソリューションで解決できるのでは? と考えていたんです。

なので自分の仕事としても、会社という組織を良くしていくことと、コミュニティという場所を良くしていくサービスと、両方やりたいなと思っていて。その点で、コミュニティサービスを作っているGaudiyは面白そうだなと。

加えて、初めて石川とリモートで話した時に、30分の予定だったのが結局1時間半ぐらい話し込んでしまって。人類としてのベストなコミュニティの在り方はこうだ、という部分で話がめちゃくちゃ合って、もうこれはベストマッチだなと。このあたりの、組織とコミュニティに関する考え方の一致が、入社の決め手になりました。

私はやはり、プロダクトと組織は強くつながっていると思っています。そしてその点、今のGaudiyの組織自体がすごく面白いんです。

誰もがCEO感覚と言いますか、オーナーシップを持っていて。言われたことだけをやるのではなく、自分で考えて自律的に動く働き方ができている。これを、今後はプロダクトにどんどん反映させていきたいです。

言い換えると、「Gaudiy Fanlink」で作られたコミュニティに参加している人たちが、自律的にアイデアを出して、能動的に新しいアクティブなファン活動をするようになっていく。「コミュニティの中にGaudiy的な組織ができていく」ような状態を作っていきたいですね。

その先には、Gaudiyだけではなくて、日本全体が楽しく働いて趣味活動もできる、つまり楽しく生きていける国になる。非常に壮大なんですが、そこまでが私のやっていきたいことですね。(了)

【読者特典・無料ダウンロード】UPSIDER/10X/ゆめみが語る
「エンジニア・デザイナー・PMの連携を強める方法」

Webメディア「SELECK」が実施するオンラインイベント「SELECK LIVE!」より、【エンジニア・デザイナー・PMの連携を強めるには?】をテーマにしたイベントレポートをお届けします。

異職種メンバーの連携を強めるために、UPSIDER、10X、ゆめみの3社がどのような取り組みをしているのか、リアルな経験談をお聞きしています。

▼登壇企業一覧
株式会社UPSIDER / 株式会社10X / 株式会社ゆめみ

無料ダウンロードはこちら!

;