• 株式会社BeyondConcept
  • 代表取締役社長
  • 福永尚爾(mekezzo)

分散型メタバースで、創作物に永続的価値を。「Metaani」が描くクリエイターの未来

海外ビッグテックの一角、米Facebook社が2021年に社名を「Meta(メタ)」に変更したことをきっかけに注目を集めた、インターネット上の仮想空間を指す「メタバース

メタバースという言葉がバズワード化するほど多くの企業が関心を寄せ、2022年は「メタバース元年」とも呼ばれた。その一方で、抽象的な概念が先行し、本来のメタバースがもたらす可能性や将来性が見えづらいといった現状もある。

アバターを作成し、他者と自由に交流する。キャラクターやアイテムを販売し、新たな収益源を作り出す。

これらはどれもメタバースの一要素でしかなく、的確に本質を押さえておかなければ、近い将来に起きるパラダイムシフトの潮流をつかむことはできないだろう。

そんな時代において、日本初の3DアバターNFTを活用したメタバースプロジェクト「Metaani(メタアニ)を運営するなど、日本のメタバース業界を牽引している一人が、株式会社BeyondConcept代表のmekezzo(福永 尚爾)さんだ。

今回は、メタバース空間の発展に伴うクリエイターエコノミーの未来や、Metaaniが目指す独自のエコシステムについて、mekezzoさんに詳しくお話を伺った。

人体の感覚を「ハック」して、バーチャルならではの体験を届ける

私は、メタバース黎明期からVRアバターや仮想空間プラットフォームの開発を行い、現在はNFTプロジェクト「Metaani」や、音楽とNFTを掛け合わせたWeb3.0コミュニティ「VVAVE3(ウェイブスリー)」、クリプトアートのイベント「Crypto Art Fes」に携わっています。

Web3.0業界に入る前は、ソーシャルゲーム開発企業の創業メンバーとして7年ほど従事していましたが、事業がひと段落したタイミングで、次は元々興味があったVR業界に携わりたいと考えました。

VRって本当に面白くて。例えば、VR上で海を見ると磯の香りがしたり、波の音が聞こえるといった体験をする方がいます。これはVRに限った話ではありませんが、過去の経験から脳が情報を補完して、記憶が擬似的に呼び起こされる「クロスモーダル現象」と呼ばれるものです。

こうしたVRの可能性を踏まえても、皆さんの経験に基づく記憶を呼び起こすようなバーチャル体験を設計する必要があると思ったんです。

その実現のためには、私自身がもっと深く現実世界を知ることで、さまざまな感覚を「ハック」する必要があると思い、前職を辞めてからしばらくはアジア圏を中心に旅をしていました。

そして帰国した2018年頃は、VTuber(バーチャルYouTuber)が盛り上がっていたタイミングでした。そこで、彼らがファンに向けてデジタル上でもグッズを販売していくのではないかという仮説のもと、クリエイターがデジタル上でVRアバターやグッズなどをNFTで販売できる仮想商店「Conata」を開発しました。

また、2019年にはConataを拠点にサイバーパンクな世界観を作り、バーチャルライブやNFTの制作などを行うバーチャルクリエイティブユニット「ππ来来(パイパイライライ)」の活動もスタートさせました。

▼ππ来来の楽曲「ラビュリントス / Labyrinth 」

こうして当時からNFTに着目していたのは、メタバースやVRが経済性を持つのならば、NFTは必須になると考えていたからです。

NFTを活用すれば、デジタルグッズを二次販売できるようになるので、メルカリのようなマーケットが生まれる可能性がある。加えて、物流コストがかからないので、クリエイターの活動域を広げることができるのではないか。そのように考えて、これらのプロジェクトを展開してきました。

クリエイターが抱える課題解決を目的にスタートさせた「Metaani」

現在手がけているNFTプロジェクト「Metaani」は、2021年に初開催した「Crypto Art Fes」のイベント後、メタバース・クリエイターのMISOSHITAさんにお声がけしたのがきっかけで始まりました。

▼デジタルアートを身に纏った、Metaaniのアバターたち

キャラクターのシェイプ(形状)はもとより、「Metaani」の根幹には「クリエイターがメタバースへ進出するハードルを下げたい」という思いがあります。例を挙げると、抽象画を描くクリエイターは、自分の作品を身にまとってメタバース空間へ行くことが難しいんですよね。

アートは「クリエイターの魂の一部」であるのにも関わらず、自分の作品をメタバース上に持っていけないのは、すなわち自分の思想やアイデンティティを持っていけないということです。

これは将来的にバーチャルワールドの発展性が期待されているにもかかわらず、非常にもったいないことであり、解決すべき課題だと思ったんです。こうした背景から、この課題を解決するプロダクトとして2021年6月に「Metaani」をローンチしました。

Metaaniには色々な種類がありますが、例えば「Metaani GEN」ではNFTホルダーに商用利用権を付与していて、自分のデザインを反映したTシャツやトートバック、パーカーといったグッズを販売するなどの二次創作も可能になっています。

また、「Metaani」はメタバース上でアバターとして機能するほか、キャラクターごとにデザインの変更もできるので、いわゆる「プラットフォーム・トイ」としてさまざまなクリエイターやプロジェクトとのコラボがしやすくなっているのが特徴です。

過去には、VTuberとして有名なKizuna AI(キズナアイ)さんや、きゃりーぱみゅぱみゅさんとコラボしたコレクションもリリースしています。

▼【左】Metaani Kizuna AI【右】Metaani KPP

このように、クリエイターのメタバースデビューをサポートしつつ、さらにはWeb3.0時代の新しいキャラクターやIPを創出することを目的に、「Metaani」を運営してきました。

Web3.0特有の「思想」をメタバースに反映することの難しさ

昨今、メタバース業界においては「多数のメタバースが乱立している」「プラットフォーム間でNFTの互換性がない」「VRデバイスが普及していない」などの課題が挙げられていますが、これらの課題は技術の発展によっていずれ解決されていくだろうと考えています。

それよりも、メタバースの設計において難しいのは「思想」の部分です。

例えば、Web3.0ネイティブを意識したメタバースを作っていこうとしても、やはり既知のWeb2.0のような世界観からどうしても想像が広がらず、Web3.0の思想の浸透には時間がかかります。

とはいえ、Web2.0との対立構造を作るのではなく、あくまで均衡状態を作ることが大事だと捉えています。要は、今までなかった選択肢をクリエイターに提示したいというのが、私たちの基本的なスタンスです。

そこで、Metaaniが目指しているのは「Web3.0型の分散型メタバース」、つまりクリエイター自らがメタバースの所有権を持ち、自由に創作活動していける世界です。そうした世界から新しいクリエイターエコノミーを創出することを目指しています。

そのようなWeb3.0ならではの思想を宿し、分散型メタバースの実現に向けて始動したプロジェクトが2022年12月にローンチした「Metaani DNA」です。

▼販売中※のNFT「Metaani DNA」(※2023年3月22日時点)

「Metaani DNA」は、分散型のメタバース空間(Metaani Area)、SNS、そしてアバターNFT(Metaani SBT※)の三つのプロダクトを一つに統合しようという野心的なプロジェクトです。

※SBT(ソウルバウンドトークン)とは「譲渡不可能なNFT」のことで、一度受け取ったらウォレットの外に移すことができない特性を持つ

Metaani DNAのホルダーへ配布される「Metaani Area」と呼ばれる空間では、レゴブロックのように好きなNFTを配置し、オリジナルの空間が作れる仕組みとする予定です。他の人のMetaani Areaに遊びに行くことも可能です。

分散型メタバースは耐久性を帯び、クリエイターの「画材」となる

Metaani DNAはブロックチェーンに近い技術を活用し、仮に私たちがサービスの運営をやめても、クリエイターの方々が創作し続けられる仕組みになるように意識しました。

そうすることで、これまでは「おもちゃ」だった創造物に価値を付与できて、一つの「アート」として認められる可能性があるのではないかと思っていて。

アートはとりわけ画材の「耐久性」が重要です。多くの画家に愛されている油絵は数百年もの耐久性を持ちますし、昨今、多くのクリエイターが注目するレゴブロックもプラスチック素材なので、画材として優れた特性を持っています。

では、メタバースはどうかというと、「画材」として成立するにはまだまだ難しいのが現状です。デジタルアート作品は、既存の画材に比べると耐久性の観点が欠けているんですよね。

けれども、私たちが居なくなった後にも、インターネット上の公共財をみんなが編集できるようになっていれば、誰も想像しなかったような新たな創作物が数百年後に生まれる可能性だってあります。その可能性を残したいという思いで、分散型メタバースMetaani DNAを開発してきました。

そして、Metaaniの「耐久性」をどう担保するかについては、ブロックチェーン技術を使うだけでなく、いわばメタバースの中の種族として生き残るために、Metaaniを作れる人々やコミュニティに貢献してくれる人々の人口を増やす必要があると考えています。

そういった観点から、将来的には独自ポイントの発行などを含め、楽しいだけではなく、ユーザー同士の交流が活発化するような仕組みにも取り組んでいけたらと考えています。

「精神的な拠りどころ」を増やすことこそ、メタバースの価値

メタバースが持つ本来の価値は、「精神的な拠りどころ」になることだと考えています。

今の若い人たちの中には、オンライン上の人間関係の比重がオフラインよりも大きい方もいます。学校という現実よりも、オンラインゲームで知り合った人との方が関係性が構築されていたりする。今後は、そうしたコミュニケーションの在り方も加速していくのではないかと思っています。

また私自身、上京した際に人間関係に悩んだ時期がありましたが、SNSを通じて知り合った人と実際に会う中で、徐々にコミュニケーションの仕方を身につけていった経験があります。

同じように人間関係で悩みを抱えている人がいるはずで、コミュニケーションさえうまく設計できれば、彼らも少しだけ人と交流しやすくなるのではと思っていて。

なので、私はあくまでも「現実とバーチャルの接続」を大切にしたいんです。

結局、人生って有限じゃないですか。そう考えた時に、現実での時間がバーチャルの時間を豊かにしたり、その逆も然りで、それぞれが相互に作用する世界が創れたらいいなと。

例えば、「ポケモンGO」においても、本当は歩きたくなくても「ポケモンが近くにいるから」という動機で自然と歩く設計になっていますよね。つまり、デジタルでの体験が楽しいからこそ、プレイし続けることができる。そういった補完関係をMetaani上で作り、人生が豊かになる一助を担えたら嬉しいですね。

今後は、Web3.0の難しさを取っ払って、NFTに馴染みのない方でもMetaaniの世界を気軽に楽しんでいただけるイベントを実施していきたいと考えています。実際に、3月1日には「Extra Day in Shibuya」で画用紙とクレヨンを使って好きな絵を書いて、Metaaniのアバターに貼り付けるというワークショップを開催しました。

▼ワークショップ当日の様子

私自身、NFTを保有すること自体に精神的な価値はあると思う一方で、「なぜそれを所有したいと思ったのか」まで深掘りできる人が増えると面白くなるのではと思っています。

そういった体験をワークショップを通じて提供できたら嬉しいですね。そうすれば、「自分はバーチャル空間でこのアートを身に纏うんだ」という、メタバースに足を踏み入れる第一歩になるのではないかと。

今後もさまざまな企業やクリエイターの方々とコラボレーションしながら、より多くの人々に「メタバースって、面白い」と感じてもらえるよう尽力していきたいです。(了)

ライター:古田島 大介
企画・取材・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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