誰でもわかる「メタバース」とは? 歴史や定義、参入プレイヤーも徹底解説【Microsoft、Meta、Roblox他】
すでに多くの方がご存知の通り、米Facebook社は2021年10月28日(現地時間)、社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表しました。同社のプレスリリースでは、
メタバースは、現在のさまざまなオンライン上でのソーシャル体験を掛け合わせたようなものになります。時には3次元に拡張され、時には現実世界に投影される、それがメタバースです。
と記述されています。
また同日にマーク・ザッカーバーグCEOが公開した「創業者からの手紙 2021」の中では、「今後10年以内に、メタバースを10億人にリーチさせ、数千億ドル規模の電子取引を提供し、数百万人規模のクリエイターや開発者の雇用を支える」としています。
加えて、米Microsoftは2021年11月2日(現地時間)に、「メタバースへの入り口」として、企業が独自の「immersive space(没入型スペース)」を構築できる「Mesh for Teams」の提供を22年に開始することを発表しました。
▼「Mesh for Teams」
このように、多くのテック企業の注目を集め、ときに「次世代のインターネット」とも呼ばれるメタバースですが、実はまだまだ発展途上の概念であり、明確な定義やプロダクトはありません。
そこで本記事では、現時点における「メタバースの全体像」を掴むために役立つ歴史や定義、実際のサービス、そして注目される理由についての情報をまとめてご紹介します。
「これされ読めば、誰でもメタバースについてある程度の理解ができる」内容になっていますので、ぜひ最後までご覧くださいませ。
<目次>
- メタバースとは何か? その歴史と、代表的な定義【3選】を知ろう
- メタバースを実現しようとするリーディング企業と「対立軸」
- Roblox社が構想する「クローズド」なメタバース
- 「フォートナイト」Epic Games社が目指す「オープン」なメタバース
- なぜ今、メタバースなのか? その実現を後押しする技術や時代背景
- メタバースを支えるイマーシブ・テクノロジーの成熟化
- NFTとブロックチェーンによるメタバース上での経済活動の実現
- 新型コロナウイルス感染症による未曾有のパンデミック
メタバースとは何か? その歴史と、代表的な定義【3選】を知ろう
メタバース(metaverse)とは、英語の「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語です。この言葉が最初に世の中に登場したのは、SF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した小説 ”スノウ・クラッシュ” の中で、架空の仮想空間サービスに付けられた名前でした。
その後、テクノロジーの進化によってさまざまな仮想空間サービスが登場し、現在はそれらの総称として「メタバース」という言葉が使われています。
実はメタバースの歴史はとても古く、ニール・スティーヴンスンが定義したメタバースに近い世界の実現は、それ以前から試みられていました。1986年に発表された「Habitat」というビデオゲームです。
▼Habitatのプロモーションビデオ
HabitatはLucasArt社が発表したマルチプレイヤー型のオンラインゲームで、 モデムや電話を通じて、バーチャルな空間の中で様々なユーザーがアバターを通じて交流する…というものでした。日本でも、1990年に富士通が「ビジュアル通信」としてライセンス展開しています。
その後、Linden Lab社より2003年にローンチされた「Second Life(セカンドライフ)」は、メタバース(に近いもの)を実現したサービスとして現在でもよく知られています。
Second Lifeはご存知の方も多いかと思いますが、仮想空間内での交流を目的としたサービスで、物品やサービスの売買をゲーム内通貨で行うことができ、かつそれを現実の通貨に換金出来ることが特徴でした。
最盛期には月に100万人が利用していたと言われ、現在でも運営されています。
▼Second Life内のマーケットプレイスではゲーム内の「家」等が売買される
(このSecond Lifeに似た日本国内のサービスとしては、サイバーエージェント社が2009年より運営している「アメーバピグ」が挙げられます)
ほかにも、マインクラフト(2011年)やフォートナイト(2017年)、あつまれ どうぶつの森(2020年)等のゲームも、メタバースとして紹介されることが多いですね。
ここまでの変遷を見ると、「メタバース=仮想空間を使ったゲーム?」と感じるかもしれませんが、ゲームはあくまでもメタバースという世界を実現するためのひとつの手法に過ぎません。
例えばMeta社(Facebook社)が2021年8月にリリースしたメタバースサービス「Horizon Workrooms」は、VRを使ったバーチャル会議などのビジネス上のコミュニケーションを目的としています。
また冒頭でご紹介したMicrosoft社の「Mesh for Teams」も、ビジネスコラボレーションのためのツールとして発表されています。
▼「Horizon Workrooms」
では、メタバースはどう定義できるのでしょうか? 実際には未だに諸説あると言えるのですが、ここでは著名な定義として紹介されることが多いものを3つ紹介します。
※各定義を、SELECK編集部が抄訳した上で、短縮版としてご紹介します。原文を参考にされたい方は各項目の引用元リンクよりご参照くださいませ。
①Makers Fund(ゲーム系VC)でパートナーを務めるMatthew Ball氏の定義
- 終わらない、永遠に持続する。リセットやポーズ、エンドは存在しない
- 同時性及びライブ性を持つ。事前にスケジュールされたイベント等はあるものの、メタバースの世界では、リアルな世界と同様に誰でもリアルタイムにその世界で起こることをライブ体験できる
- 同時接続ユーザー数に制限がない。誰もがメタバースの一部となり、特定のイベントや場所、活動に一緒に、同時に参加することができる。
- 経済性を持つ。個人や企業が他者に認められる「価値」を生み出し、「仕事」に対して報酬を得ることができる。
- デジタルと物理的な世界、もしくはプライベートとパブリック、オープンとクローズのプラットフォーム両方にまたがる体験であること
- データやデジタルアイテム、アセット、コンテンツに相互運用性があること(特定のゲーム内で購入したスキンを他のゲームでも活用できる…といったこと)
- 個人、グループ、企業などによって提供された「コンテンツ」や「体験」によって構成される。
※参照元:The Metaverse: What It Is, Where to Find it, Who Will Build It, and Fortnite
②米Roblox社CEOのDavid Baszucki氏の定義(メタバースを構成する8つの要素)
- Identity(アイデンティティ)
- Friends(友達)
- Immersive(没入感)
- Low Friction(軋轢が少ない)
- Variety(多様性)
- Anywhere(地理的な制限なし)
- Economy(経済システム)
- Civility(社会的規範)
※参照元:Roblox CEO Dave Baszucki believes users will create the metaverse
※Roblox社については、後ほど詳しくご紹介します。
③米Beamable社のCEOであるJon Radoff氏の定義(メタバースの7つのレイヤー)
- 体験:ゲーム、ソーシャル、eスポーツ、シアター、買い物 ゲーム、社会的体験、ライブ音楽など
- 発見:アドネットワーク、ソーシャルキュレーション等を通じて人々がその体験を発見すること
- クリエイターエコノミー:デザインツール・デジタル資産マーケットプレイス等、クリエイターがメタバースのためにモノを作り、マネタイズするためのあらゆるもの
- 空間コンピューティング:3Dエンジン・VR・AR・XR・地理空間マップなど、私たちが物体と対話できるようにするソフトウェア。3Dエンジン、ジェスチャー認識、空間マッピング、そしてそれをサポートするAI等
- 非中央集権化:エッジコンピューティング・AI・マイクロサービス・ブロックチェーンなど、エコシステムの多くを、許可のない、分散された、より民主的な構造に移行させるもの
- ヒューマンインターフェイス:メタバースへのアクセスを助けるハードウェアのことで、VRヘッドセットから、高度なスマートグラスなどの未来技術等
- インフラ:5G・6G・半導体・クラウドコンピューティング・通信ネットワーク等
※参照元:The Metaverse Value-Chain
いかがでしょうか。とっつきにくいワードも多いかもしれませんが、メタバースが単なる「バーチャルな世界を体験するゲーム」ではないということはおわかりいただけるかと思います。
どの定義を参照したとしても、メタバースはいわば「第二の人間世界」と呼べるような機能を備えたものであると言えるのではないでしょうか。
メタバースを実現しようとするリーディング企業と「対立軸」
そんなメタバースですが、まだその定義が発展途上なゆえ、サービスや参入プレイヤーを明確に定義することは難しいかもしれません。
先ほどご紹介したJon Radoff氏は、7つのレイヤー別にメタバースのカオスマップを作成していますのでご紹介いたします。
▼Jon Radoff氏が定義するメタバースの7つのレイヤー(先ほどの復習)
- 体験
- 発見
- クリエイター・エコノミー
- 空間コンピューティング
- 非中央集権化
- ヒューマン・インターフェース
- インフラ
▼Market Map of the Metaverse
※参照元:Market Map of the Metaverse
参入プレイヤーの数の多さに驚かれたのではないでしょうか? とは言え、現状は一般的な見方として、メタバースの実現に近い企業としてはRoblox社と、Epic Games社の名前が挙がることが多いでしょう。
しかし、両社が考えるメタバースの構想には違いがあります。両社の提供サービスと併せて、考え方の違いを簡単に紹介していきます。
Roblox社が構想する「クローズド」なメタバース
Roblox社は、2004年にDavid Baszucki氏とErik Cassel氏によって設立されました。そして2006年に、ゲームプラットフォーム「Roblox」をリリースしました。
Robloxは、ユーザーが独自のエンジンであるRoblox Studioを使ってゲームを簡単にプログラムしたり、他のユーザーが作成したゲームをプレイしたりできるオンラインプラットフォームです。
ゲーム内購入は「Robux」と呼ばれる仮想通貨を通じて行われ、またゲームだけではなくオンラインで友人とチャットを行うといったこともできます。
Robloxは2010年代後半に急速に成長し始め、2020年8月の時点で月間アクティブユーザー数は1億6400万人を超え、アメリカでは16歳未満の子供たちの半数以上がプレイしている状態になりました。
そしてRoblox社も2021年3月に上場を果たし、現在最もメタバースの実現に近い企業のひとつであると言われています。
先ほども登場した同社CEOのDavid Baszucki氏の発言によると、Robloxが目指しているのは「自社単体」でのメタバース構築です。これは、いわゆる「クローズド・メタバース(Closed Metaverse)」と呼ばれています。
※参考:Roblox CEO Dave Baszucki believes users will create the metaverse
実はメタバースには、2つの大きな方向性があると言われています。
ひとつ目は、「クローズド・メタバース」と言われる、1社単体でメタバースをコントロールできている状態です。Roblox社やMeta社は、このクローズド・メタバースを志向する動きをしていると指摘されることが多くあります。
クローズド・メタバースは、実現さえできればプラットフォームとして多くの利益を上げることが予想されます。しかしその一方で、メタバースという世界をひとつの会社がコントロールすることでユーザーを支配する危険性も指摘されています。
このクローズド・メタバースの対抗軸として存在するのが「オープン・メタバース(Open Metaverse)」であり、これから紹介するEpic Games社が志向しているとされています。
「フォートナイト」Epic Games社が目指す「オープン」なメタバース
Epic Games社は、2017年に公開されたマルチプレイ型のオンラインゲーム「フォートナイト(Fortnite)」で知られています。
フォートナイトはいわゆる「生き残りをかけて戦う」バトルロイヤルゲームですが、その特徴は建築(クラフト)要素を持つことです。プレイヤーはマップ内から素材を集めて、壁や階段などを作り、バトルに活かすことができます。
Epic Games社は以前からゲームの枠にとどまらずに、コンテンツ制作のためのゲームエンジンやコンテンツ流通のプラットフォームを提供するなど、「メタバースの構築」を意識してビジネスを展開してきました。
直近では、2021年7月に世界最大規模の3Dモデル・プラットフォーム「Sketchfab」の買収を発表するなど、メタバース構築に向けてさらに前進していると言われています。
実際に、フォートナイトのゲーム空間内において映画「インセプション」を上映したり、アーティストであるTravis Scott氏らがバーチャルコンサートを実施し、のべ3,000万人以上の参加者を達成しました。
(※厳密に言うと、フォートナイト上のバーチャルコンサートは2万5000個に分けられた各仮想空間に50人ずつが参加する形式だったため、「同時接続数に制限がない」はずの完全なメタバースの世界とは呼べないと言われています)
同社CEOのTim Sweeney氏が目指すメタバースは、先ほど説明した「オープン・メタバース」とされています。
※参考:Tim Sweeney: The open metaverse requires companies to have enlightened self-interest
オープン・メタバーズは「相互運用性がある」メタバースのことで、いくつものプラットフォームを障壁なく相互に行き来することができます。言うなれば、同じアバターやデジタルアセットを使って「Roblox」も「フォートナイト」も遊べるような世界です。
ひとつの企業や組織がコントロールするのではなく、参加者全員がその貢献度に応じた扱いを受けることができるので、より現代でいう「インターネット」の世界観に近いものと言えると思います。
しかし、オープン・メタバースには技術的に解決すべき課題も多く、その実現を可能にするためにはより一層の技術の進歩が必要だと言われています。
なぜ今、メタバースなのか? その実現を後押しする技術や時代背景
このように各社が参入し、その実現に向かって邁進しているメタバースですが、なぜ今これほどに注目されているのでしょうか? その背景について、3つのポイントを説明します。
①メタバースを支えるイマーシブ・テクノロジーの成熟化
近年の、「拡張現実(AR)」「仮想現実(VR)」「複合現実(MR)」といった「イマーシブ・テクノロジー(没入型技術)」の発展には目覚ましいものがあり、その市場規模は、2020年には63億ドルに達したと言われています。
※出典:Immersive technology consumer market revenue worldwide from 2018 to 2023, by segment
こうしたテクノロジーの発展により、メタバースを実現するためのデジタル世界を構築し、より充実させるためのインフラが整いつつあるのです。
中でも、専用のゴーグルを通じて仮想空間の中にいるような体験を実現するVR技術の活用は、メタバースの実現には不可欠だと言われています。
前述したMeta社(Facebook社)も、2014年にVRハードウェアおよびソフトウェア開発企業Oculus VR社を20億ドルで買収し、さらに現在は新型ハイエンドVRヘッドセット「Project Cambria」の開発に取り組んでいると発表しています。
同ヘッドセットでは、顔の表情や目線までをメタバース上のアバターに反映し、感情のこもったコミュニケーションを実現するための新たなセンサーが搭載されているということです。
今後のVR技術の発展により、現状の視覚体験や身振り手振りにとどまらない、より自由度が高く充実した仮想空間内での体験が提供されることが期待されます。
②NFTとブロックチェーンによるメタバース上での経済活動の実現
前述したメタバースの定義の中にも登場した「経済性」。個人や企業がメタバースの中で自由な経済活動を行うために、活用が期待されているのがNFTとブロックチェーンです。
NFTとは「非代替性トークン(non-fungible token)」の略で、ブロックチェーン上に構築されるデジタルデータの一種です。
アートや音楽、コレクターズアイテムといったデジタル資産は、これまでもインターネット上に数多く存在していました。しかしそれらは簡単にコピー、改ざんすることができたため、資産価値はほとんど生まれていませんでした。
それがNFTの登場により、ブロックチェーン上でデジタル資産の所有証明を発行し、その所有者歴に関する情報をすべて記録・確認することができるようになったため、デジタル資産にも価値が生まれるようになったのです。
実際にNFTの登場によって、従来は取引されることがなかったようなデジタル資産の高額取引が相次いでいます。
例えば2021年3月11日、Beeple(マイク・ヴィンケルマン)による「Everydays – The First 5000 Days 」がオンラインオークションで約6,935万ドルで落札され、NFT作品として史上最高額での落札となりました。
また2021年3月22日には、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーが、自身初めてのTwitterでの投稿をNFT化し販売し、オークションサイトにて291万5835ドルで落札されました。
※参考:国内外のNFT高額取引事例まとめ
近年では「OpenSea」など、誰でも手軽にNFT作品を購入できるようなプラットフォームも多数登場しています。
このNFTとメタバースが組み合わさることで、仮想空間上でより多様で大規模な経済活動が実現できると期待されているのです。
これまでも、セカンドライフ上で土地の取引が行われるなど、ゲーム内通貨を用いて売買を行う仕組みは実現されてきました。
しかしこれまでのケースでは、運営側がそのデータ(ゲーム上の土地等)について正しい所有者を知る方法はなく、違法な複製や規約に反する取引といった不正行為を防ぐことは困難でした。また、仮に運営会社が破綻するとサービスは終了し、記録されたデータは全て消滅してしまうという問題もありました。
これでは、メタバースに求められる永続性や相互運用性、非中央集権的で自立した経済圏といった要素を満たすことは不可能です。
ですが、ブロックチェーン技術をメタバースに応用することで、各ユーザーの仮想通貨の保有数やアセットのデータを、不正な改ざんがほぼ不可能な状態で記録することができます。また、メタバース内のアセットや通貨をNFT化すれば、資産性と相互運用性を持たせることも可能になるのです。
このように、ブロックチェーンとNFTはメタバースと非常に親和性が高く、メタバースの実現を大きく後押しするような技術であると言えます。
③新型コロナウイルス感染症による未曾有のパンデミック
最後に、メタバースの実現に向けた後押しとなったのがCOVID-19によるパンデミックです。
世界中でロックダウンが相次ぐ中、現実空間で「人に会う」ことが難しくなりました。とくに大勢の人々が集まるイベントには、厳しい制限が課せられるようになりましたね。
日本でもテレワークを導入する企業が一気に拡大し、仕事や日常のコミュニケーションのオンライン化も進みました。このような状況下において、現実世界に近い体験を実現可能な空間として、メタバースが期待されています。
前述した通り、オンラインゲーム「フォートナイト」内では実際にバーチャルイベントやライブコンサートが実施され、多くの人を集めました。ビジネスシーンでも、(まだメタバースとは言えませんが)オンライン会議やバーチャル展示会、バーチャルオフィス等を提供するサービスが次々と登場しています。
今後、こうしたオンライン上での様々な体験をより現実世界での体験に近づけるために、メタバースが活用されていくことが期待されます。
いかがでしたでしょうか。メタバースの成長は、今後も目が離せない領域です。引き続き、注視していければと思います。