「デジタルツイン」とは何か? 世界市場は160億ドル規模へ、事例【11選】や用途を徹底解説

デジタルツイン_seleck

デジタルツイン(DigitalTwin)」とは、「デジタル空間上の双子」を意味し、現実の世界にある物理的な「モノ」から収集した様々なデータを、デジタル空間上にコピーし再現する技術のことです。

デジタルツインを用いると、将来の事象についてデジタル空間で予測をすることが可能になります。例えば製造業において、機械が故障する可能性を事前に察知し、事前に使用を停止するようにプログラミングする…といったことが可能になるのです。

デジタルツインという言葉自体は、古くから主に工学分野でシミュレーション技術のひとつとして取り扱われていました。しかし、近年の3DモデリングやIoT、AIなどの技術の発展により、いっそう注目を集めるようになっています。

実際に、米Deloitte社の調査によると、デジタルツインの世界市場は年率38%で成長しており、2023年には160億ドルに達すると予想されています。

※出典:Expecting digital twins

直近では、2021年11月17日(現地時間)、オーストラリアのスタートアップであるBlackshark.aiが、地球規模のデジタルツインである「デジタル地球」の開発と拡張のために、2,000万ドル(約22億円)を調達したことを発表しました。

「デジタル地球」はかなり規模の大きい話ですが、実際にはエンジンや風力発電所、ビルや都市といった、物理的な世界にある物体のデジタル複製として、企業のみならず、政府や自治体における活用事例が次々と生まれています。

今回は、いま知っておきたいデジタルツインについて、その定義や歴史、実用化された事例までを、徹底解説いたします。

<目次>

  • デジタルツインとは何か? NASAから始まったその歴史
  • デジタルツインとシミュレーションの違いとは?
  • デジタルツインは「いつ」「どこで」活用されているのか?
  • デジタルツインの実用化事例【11選】
  • 国土交通省が提供する3D都市モデルのオープンデータ「PLATEAU」
  • 「デジタル新宿」「デジタル渋谷」PLATEAUを活用した企業の取り組み
  • 災害大国・日本に挑む。内閣府「CPS4D」と、静岡県「VIRTUAL SHIZUOKA」
  • GE社の航空機エンジン / テスラ車のレプリカ / スウェーデンの電動シティカー
  • デンマークのスーパーのデジタルツイン冷蔵庫 / DHLのデジタルツイン倉庫

デジタルツインとは何か? NASAから始まったその歴史

先ほどお伝えした通り、デジタルツインとは物理空間にあるデータを集め、仮想空間に「デジタルコピー」として再現する技術です。

デジタルツインという概念が最初に登場したのは、1991年に米イェール大学のデビッド・ゲレルンター氏が発表した著作 ”Mirror Worlds” です。

デジタルツイン_mirror_world

同著は、仮想現実(VR)の世界に暮らす人々の未来の姿が描かれたもので、画面を通して外界を水晶玉に映し、それを操作する様子が描写されています。

その後、フロリダ工科大学のマイケル・グリーブス氏がこの考え方を製造業に応用し、2002年に開催されたSociety of Manufacturing Engineers(製造技術者協会)の会議で正式に紹介しました。

しかし、デジタルツインのコンセプトである「現実空間とデジタル空間を対にして扱う」ことを最初に採用したのは、NASAのアポロ計画で用いられた「ペアリングテクノロジー」だと言われています。

アポロ13号の宇宙飛行中に酸素タンクが爆発する事故が起きましたが、地球上のデジタルツインを活用してシミュレーションを実施し、無事地球へ帰還できました。

デジタルツイン_NASA_アポロ計画

さらに2010年のロードマップレポートの中で、NASAのジョン・ビッカーズ氏がこのコンセプトに「デジタルツイン」という名前を付けています。実際にこのアイデアは、テスト用の宇宙カプセルや宇宙船のデジタルシミュレーションに使用されました。

※参考:The Digital Twin Paradigm for Future NASA and U.S. Air Force Vehicles

その後、2017年に米ガートナー社がデジタルツインを戦略的テクノロジー・トレンドのトップ10の一つに選んだことで、さらに多くの人に知られることになりました。

それ以来、様々な技術の著しい発展も後押しとなり、デジタルツインは、多くの産業用途やビジネス分野において活用されるようになっています。

デジタルツインプラットフォームの開発・提供を行うSymmetry Dimensions社が発表した「デジタルツイン 業界カオスマップ」2021年8月版によると、すでに多くの企業が参入していることがわかります。

デジタルツイン_カオスマップ

※出典:「デジタルツイン 業界カオスマップ」2021年8月版

こちらを見てもわかるように、デジタルツインは製造業(Manufacturing)や建設業(AEC Industry:architecture, engineering and construction)、スマートシティ等、従来から 3D データを利用していた領域で先行して活用が進んでいます。

※詳しいデジタルツインの活用事例については、後ほどご紹介いたします。

デジタルツインとシミュレーションの違いとは?

デジタルツインの具体的な活用を見ていく前に、もう少しそのコンセプトについて説明できればと思います。

よく挙がる疑問が、「デジタルツインとシミュレーションは何が違うの?」ということです。

シミュレーション(simulation):現実に実験を行うことが難しい物事について、想定する場面を再現したモデルを用いて分析すること
※出典:実用日本語表現辞典

シミュレーションとは、現実世界で起こることを何らかの手法によって再現するものであると言えますが、この「手法」はデジタル空間に限ったものではありません。

例えば、記憶に新しいのが新型コロナウイルスの感染拡大のシミュレーションです。いわゆる「パンデミック」のような不確実な事象の予測・対処のために、既存の感染データや数理モデル等を用いて、様々な検証が今も行われています。

デジタルツイン_シミュレーション

他にも、ビジネスにおける戦略立案や収益予測、リスク分析といったシーンで、シミュレーションを用いて予測の精度を上げることは多くあります。

デジタルツインは、このシミュレーションを行うためのひとつの技術であると言うことができますが、従来のシミュレーションの大きな違いは ①リアルタイム性 ②現実世界との連動 の2点です。

一般的なシミュレーションでは、想定できる様々なシナリオを仮定した上で設計を行います。つまり、現実の事象を人を解析した上で仮定を置くため、現実の事象とリンクしているわけではなく、リアルタイム性が低くなる傾向がありました。

一方で、デジタルツインではリアルタイムで稼働している現実世界のデジタル情報を再現し、それを元に将来予測を行います。つまり、想定シナリオよりも現実的なシミュレーションを行うことが可能なのです。

デジタルツインは「いつ」「どこで」活用されているのか?

このように、現実世界に対する確実性の高いシミュレーションを提供するデジタルツインですが、その活用タイミングは大きく以下の3つに分類できます。

デジタルツイン・プロトタイプ(DTP)…物理的な製品を作る前に実施されるもの。
デジタルツイン・インスタンス (DTI)… 製品が製造された後に、様々な使用シナリオのテストを行うために実施されるもの。
デジタルツイン・アグリゲート(DTA)…DTIの情報を収集した集合体。製品単品の能力を判断して予測を実行した上で、集団としての動作パラメーターをテストする。

これだけ見ても、イメージが湧きづらいかと思いますが、実際にはデジタルツインは幅広い産業やアプリケーション、目的のために活用されています。ここで、産業ごとのデジタルツインの典型的な活用事例パターンを紹介します。

①製造業

製造業の生産性と合理性を高め、スループットにかかる時間を短縮するためにデジタルツインが活用されています。

例えば製造工場における人員の稼働状況や業務負荷のデータをリアルタイムで収集・分析することで、最適なスケジュールや人員を配置し、製造プロセスを最適化できます。

また、試作品を製作する場合にデジタルツインを利用すれば、材料費や人件費といった試作品の製作にかかるコストの削減にもつながります。

デジタルツイン_製造業

②自動車産業

自動車業界でのデジタルツインの活用例としては、製品の改良に役立てるために、車両の運用データを収集・分析し、その状態をリアルタイムで評価することが挙げられます。

また新車の開発においても、製品の車両全体からそのソフトウェア、各種パーツなどで構成されるデジタルツインを活用できます。実際の部品を生産する前に起こりうる問題をシミュレーションできるため、製造コストを下げることが可能です。

③小売業

デジタルツインは、ショッピングセンターや店舗での顧客体験をモデル化し、強化するためにも活用されています。

また、物流会社やサプライチェーンの管理者が、製品が調達され、購入され、消費されるまでの過程をデジタル上で追跡することも可能です。それによって小売業者は、輸送や製品管理の無駄を最小限に抑えることができるため、顧客満足度を高めることによりコストをかけることが可能になります。

④医療

医療分野では、臓器提供、手術のトレーニング、手術のリスク軽減などの分野でデジタルツインの恩恵を受けています。また、病院内での人の流れをモデル化し、どこに感染症があるのか、誰が接触して危険な状態になるのかを追跡しています。

⑤災害管理

デジタルツインは、インフラ、緊急対応計画、気候変動のモニタリングなどのデータを用いることで、近年世界中で影響を及ぼしている地球規模の気候変動への対処に活用することができます。

特に日本では、地震や台風といった大規模な被害をおよぼす可能性のある災害に対して、デジタルツインを用いてその規模を事前、または発生直後に予測し、最適な救援・救助計画を立案することを目指しています(詳しくは後述します)。

⑥スマートシティ

スマートシティとは、都市の設備稼働データ・消費者属性・行動データ等の様々なデータをデジタル技術によって収集・分析することで、都市インフラ・施設や運営業務等を最適化し、企業や生活者の利便性・快適性の向上を目指す都市のことです。

このスマートシティにおいて、デジタルツインは、実際に都市が直面する多くの複雑な課題への解決策提供に活用できます。例えば、ウイルスによる感染拡大等が起こった際に、デジタルツインからのリアルタイムの情報をもとに病院の危機管理を行うことができます。

デジタルツイン_スマートシティ

※参考:WHAT IS DIGITAL TWIN TECHNOLOGY AND HOW DOES IT WORK? / Digital Twins in Retail / What is the potential of digital twin technology in retail

デジタルツインの実用化事例【国内外11選】

ここまでデジタルツインについて説明してきましたが、最後に、実際の活用事例【11選】をご紹介します。近いものはカテゴライズして、5項目にまとめてお届けします。

①国土交通省が提供する3D都市モデルのオープンデータ「PLATEAU」

PLATEAU(プラトー)」 は、国土交通省が2020年度からスタートした3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のプロジェクトです。2021年8月には、全国56都市の3D都市モデルのオープンデータ化を完了しています。

「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」推進のため、「現実の都市のデジタルツイン」を構築し、オープンデータとして公開することで、誰もが自由に都市のデータを活用できる状態を実現しているのです。

デジタルツイン_plateau

こうした国や自治体によるデジタルツインのオープンデータ化は、日本のみならず世界中で加速しています。

例えばアメリカでは、政府機関や州・都市などが保有する公共データを一元的に管理提供する「Data.gov」が公開され、2009年の発足当初47件だったデータが現在(※2021年12月時点)では33万件を超える状態になっています。

②「デジタル新宿」「デジタル渋谷」PLATEAUを活用した企業の取り組み

先ほど紹介したPLATEAUが提供するデータは、実際に企業等の新たな取り組みにも活用されています。

例えば三越伊勢丹ホールディングスは、2021年3月に公開した「バーチャル伊勢丹」の仮想世界を拡大し、PLATEAUが提供する3D都市モデルを活用して、新宿三丁目エリアを中心とする「バーチャル新宿」を構築しました。

その実証実験では、ユーザーは新宿駅東口から伊勢丹周辺にかけてのエリアや新宿御苑周辺をアバターで自由に移動。VR空間の中で広告表示や街並み、小売店舗と連携したEC接続等のコンテンツを体験することができました。

このようなデジタル空間と現実空間をミックスした体験が、ユーザーのQoL向上や、エリアの価値向上、参画企業のマネタイズにどのように貢献するのかを検証したそうです。

※参考:バーチャル都市空間における「まちあるき・購買体験」

また、前述したカオスマップを制作したSymmetry Dimensionsと一般社団法人渋谷未来デザイン等は、渋谷区民や渋谷区に関わる様々な人々 、企業とともにスマートなまちづくりの実現を目指す「デジタルツイン渋谷プロジェクト」の開始を2021年11月に発表しました。

こちらでも、PLATEAU等の国や自治体のオープンデータが活用されています。

※参考:渋谷区のさまざまなデータを可視化する「デジタルツイン渋谷プロジェクト」スタート!

③災害大国・日本に挑む。内閣府「CPS4D」と、静岡県「VIRTUAL SHIZUOKA」

災害大国である日本ならではの取り組みとして、政府は東日本大震災を教訓に、災害に関する情報を共有するシステムを整備してきました。

まず2018年に内閣府によって稼働したのが、省庁や自治体、研究機関や民間企業が所有する災害関連情報を共有するシステム「SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)」です。

そして現在では、SIP4Dで集めた情報を使ったデジタルツインである「CPS4D: Cyber-Physical Synthesis for Disaster Resilience」の開発もスタートされ、2022年の完了を目指しています。

避難・緊急活動支援統合システムであるCPS4は、災害に関する現実空間の様々なデータを集約し、シミュレーションによって未来予測を行うものです。

例えば、台風で被害が発生した場合の自治体の負荷増大リスクをリアルタイムで推計することで、優先的に応援部隊を派遣すべき自治体がどこか判断できるようになります。将来的には自然現象だけでなく、社会現象も対象にすることを視野にいれているそうです。

※参考:災害対応を「前に進める」情報処理技術 ~SIP4D/CPS4Dの挑戦~

ちなみに日本の地方自治体の中では、災害対策へのデジタルツイン活用として先進的な取り組みを行っているのは静岡県です。

静岡県が整備しているのは、3D点群のデータベース「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル静岡)」です。

例えば、静岡県熱海市で2021年7月3日に発生した大規模土石流の際には、専門家や事業者が有志チームを結成。VIRTUAL SHIZUOKAを用いた現場地形の分析を自主的に行い、被害規模の把握と、原因として「盛り土」の存在も指摘しました。

※参考:熱海の土石流、静岡県のオープンデータ「VIRTUAL SHIZUOKA」を活用。有志から成る「#静岡点群サポートチーム」が被害状況を把握・分析

④GE社の航空機エンジン / テスラ車のレプリカ / スウェーデンの電動シティカー

続いては、航空機や自動車といった「乗り物」産業における、海外企業のデジタルツイン活用を3例紹介します。

まずは、航空機産業における米ゼネラル・エレクトリック(GE)社の事例です。

世界の航空機の70%が搭載しているのが、GE社製のエンジンです。GEは、航空機の心臓と言えるエンジンの経年劣化を予測するために、長距離用ボーイング777に搭載されているエンジン「GE90」のファンブレードのデジタルツインを作成しています。

具体的には、1億飛行時間を突破したGE90エンジンのファンブレードのデジタルツインを作成することで、過酷な環境下での飛行を経た実際のダメージを検証。エンジンメンテナンスの適切な時期を、ピンポイントで見極めることに役立てています。

続いては、電気自動車「テスラ」の事例です。

デジタルツイン_テスラ

テスラが生産する新車には、それぞれデジタルツインが搭載されています。車両に組み込まれたセンサーが、気候条件のような環境や、車両の性能に関するデータを、クラウド上にある仮想レプリカに常にストリーミングしているのです。

そしてAIがこれらのデータを分析することで、車が期待通りに動作するかどうかを判定しています。条件に合わせて車両の構成を調整し、仮想的に性能を向上させ、遠隔診断を行うことで、ユーザーがサービスセンターに出向く必要性を最小限に抑えています。

※参考:Digital Twins: Components, Use Cases, and Implementation Tips

最後に、スウェーデンで電動シティカーを開発するUniti社の事例です。

Uniti社では、デジタルツインによって最適化された新車開発を行っています。完全な仮想環境での設計と物理的動作のシミュレーションのみならず、生産計画においてもデジタルツインを活用しています。

※参考:車両設計からマルチフィジカルシミュレーションまで

⑤デンマークのスーパーが導入するデジタルツイン冷蔵庫 / DHLのデジタルツイン倉庫

小売やサプライチェーン領域でのデジタルツイン活用も進んでいますが、今回はその中でもちょっとユニークな海外の事例を二つご紹介します。

まずはデンマークのSuperBrugsenやFaktaといったスーパーマーケットで実証実験的として導入されている、「デジタルツイン冷蔵庫」です。

ご存知の通り、冷蔵・冷凍のシステムはスーパーマーケットにとって必要不可欠なものです。しかし、その監視や設定値の調整、アラームの処理など、多くの部分が手動で行われています。

さらに、システム自体がコンプレッサーラック、陳列棚、室外機、そして熱回収ユニットなど、様々な部品で構成されていることから、その管理には専門的な知識も求められます。

そこでデジタルツインを活用することで、電力料金体系に合わせたシステムの最適化しエネルギー効率を高めるだけではなく、故障の事前検出・診断を行っています。

※参考:Supermarket refrigeration systems

続いては、ロジスティクス業界のグローバルリーダーであるDHL社の事例です。

DHLは、IoTとデータ分析、さらに物理的な倉庫と仮想的な倉庫の橋渡しをするデジタルツインを用いて、「スマートウェアハウス」ソリューションを構築しています。

このソリューションでは、倉庫施設のバーチャルな3Dモデルと、保管されているすべてのアイテムのサイズ、数量、場所などのデータを組み合わせることができます。これにより、施設がデジタルでリアルタイムに再現され、オペレーションの効率化や安全性の向上を実現しています。

いかがでしたでしょうか。デジタルツインは、今後はビジネスシーンにおいても当たり前の概念になっていくと考えられます。引き続き、注目していきたいと思います。

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