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CEOもCxOも民主的に決める。ポジションの半数が交代した、Gaudiy「代表選挙」の裏側

CEOもCxOも民主的に決める。ポジションの半数が交代した、Gaudiy「代表選挙」の裏側

「ディベートバトル蠱毒(こどく)」「代表選挙」「給与バグ検知」という3つの新制度を打ち出し、常識破りな組織づくりを行っている株式会社Gaudiy

それらの制度の具体に迫り、大きな反響があった前回の記事から早1ヶ月。同社は、民意でCEOやCxOレイヤーを決める「代表選挙」を初めて実施。

複数人で意見を戦わせる蠱毒をベースに、CEOやプロダクトオーナー(以下、PO)といった4職能にて、「CEO推薦者vs民意推薦者vsダークホース」の三つ巴でプレゼンし、選挙によって新代表を決定したという。

その中でも、代表PO選挙に出馬した宮田 大督さんは「どのポジションの選挙も、まさに青春真っ盛りという感じだった」と語る。実際に半数のポジションでリーダーが交代するほどシビアな場でありながら、笑いや感動といったエモさもあわせ持つ選挙はどのようにして生まれたのか。

今回は、選挙運営に携わるProtocolチームの藤原 良祐さんと、代表PO選挙に出馬した宮田さん、三島 和人さんに、選挙設計から候補者選出、選挙当日とその結果まで、詳しくお話を伺った。

CEO推薦者vs民意推薦者vsダークホースの三つ巴で行う代表選挙

藤原 僕は、新卒で野村総合研究所に入社して約7年働いた後、2022年にGaudiyにジョインしました。現在はProtocolチームで、組織設計やプロダクトの経済設計などを担当​​しています。

前回の記事では、僕たちProtocolチームが「科学的なアプローチとデータに基づいたプロトコル(規則)の設計」を重視していることと、急成長期の組織課題に対して「蠱毒」「代表選挙」「給与バグ検知」という新制度を打ち出したことをお話しさせていただきました。

※3つの新制度の具体は、こちらの記事をご参考ください
ディベートバトル蠱毒、代表選挙、給与自己申告。常識破りを続けるGaudiyの次なる実験とは

今回は、今年5月に初めて実施した「代表選挙」について、実際にやってみてどうだったのか、具体的な内容をお伝えできればと思います。

まず、代表選挙が誕生した背景の一つとしては、2022年10月に「よりGaudiyらしいDAO」を再定義して、「民主的な組織設計」に舵を切ったことが挙げられます。それによって、各チームの代表者は民意を反映した選挙で決めるという方針を定めました。

ただ、企業における選挙の在り方は未知な状態だったので、いずれ選挙を実現することを前提に、まずはCxOレイヤーを立てたマトリクス組織に移行することから始めました。

Gaudiy_代表選挙代表選挙の初期設計においては、「チーム全員を対象に投票で1人を選ぶ」という案を考えていましたが、様々な科学論文を読む中で「選挙では獲得票数の結果以上に、論点をすり合わせるプロセス(熟議)こそが重要」だと分かって。

それと同時に、社内ヒアリングで「CEOやメンバーが考える、職能代表陣のポートフォリオも加味して投票したい」といった声も挙がったことから、複数人でディベートバトルを行う蠱毒をベースに設計することになりました。​

その結果、代表選挙は「CEO推薦者」「民意推薦者」「他薦による抜擢者(ダークホース)」という三つ巴でマッチアップする形に決定しました。

なお、この選挙ではフラットに投票で1人を選出するのではなく、基本的にはCEO推薦者が代表になるという方針があります。ただ、それではCEOが持つ何らかのバイアスが影響する可能性があるため、対抗馬として民意推薦者とダークホースを擁立して三つ巴にすることで、その意思決定バイアスを最小化するという狙いがあります。

※代表選挙の概要については、同社のこちらのnoteもご参考ください。

代表PO選挙では、新・旧POでポジションを交代する結果に

藤原 初めての代表選挙は、チーム規模や全体への影響度の大きさから「CEO、代表PO、代表Dev​​、代表UDev(※)」の4職能にて実施しました。今回はその中でも、特に「代表PO選挙」にフォーカスしてご紹介できればと思います。

※ Gaudiy社における代表UDev:UIデザイナーとUXデザイナーを束ねたチームの代表。一般的にはCDOにあたる役職​​のイメージ。

まず、代表PO選挙に出馬する顔ぶれには、CEO推薦として選挙時の代表POである宮田さん、民意推薦として三島さん、ダークホースとして西岡さんが選ばれました。

▼運営が用意したNotionの選挙特設ページより(一部抜粋)

そして、選挙当日までの1ヶ月弱で、「自分が代表POに選ばれたらどんな組織にしたいか」という観点でプレゼンの準備を進めていただきました。

なお、候補者全員に対して他のメンバーとの壁打ちをOKとしていますが、ダークホース枠の候補者のみ、Protocolチームのメンバーとも壁打ちできることになっています。実際に、西岡さんはProtocolチームや他のメンバー、CEOの石川さんに複数回アイデアをぶつけ、それぞれの助言の意図をふまえて前夜まで考え尽くし、当日の発表に臨んだとのことでした。

ここからは、CEO推薦の宮田さんと、民意推薦の三島さんにも体験談をお話しいただければと思います。

宮田 私は2022年にGaudiyに入社した後、ずっと代表POを担ってきました。先に結果をお伝えする形になりますが、今回の選挙を受けて代表POのポジションを三島さんに引き継ぎ、私はサンリオ様と協業しているプロダクトのPdMに専念することになりました。

代表選挙の元々の発端は、2022年9月頃に私が石川さんとの1on1で、「PdMを決める時は、チームで一番パッションを持っている人を選挙で選ぶのが良いんじゃないか」と話したことにあります。

それを組織課題を起案するボードに軽い気持ちで書き込んだのですが、まさか本当にやることになるとは思っていませんでした。ところが予想外に、「これやれば良いじゃないですか」という反応があって、「え?まじか」って(笑)。

もうあれよあれよと代表選挙の制度が生まれて、自分のポジションもその対象になり、結果的に代表POを譲るところまで来たわけです。私自身はこの展開をポジティブに受け止めていますが、人生はいつ何が起きるかわからないですね。

▼【左】三島さん【中央】宮田さん【右】西岡さん

三島 僕は16歳でエンジニアとして仕事を始め、2度の起業を経て、2021年にGaudiyに入社しました。直近はPdMとして、バンダイナムコエンターテインメント様と協業している「ガンプラファンコミュニティ」の機能開発リードを担当していました。そして、宮田さんからのバトンを受けて、今年5月から新たに代表POを担っています

選挙を終えた今だから話せますが、僕は最初から「代表POは宮田さんしかいない」と思っていたんです。ただ、宮田さんはすでにCEO推薦者に選ばれていたので、民意推薦では選択できなくて。

「他にGaudiyのことをよく理解していて、代表POを担える人は誰かな」と考えた結果、僕は自分自身に投票して、民意でも候補者に選出していただきました。なので、気合いを入れてプレゼンするぞ!と意気込むとともに、内心は「宮田さんの継続で良いよね」という相反する思いも抱えていた感じです。

宮田 私自身は、どの候補者が代表POを担っても組織はワークするだろうし、同じ人が続投して組織が停滞するより、交代する方が絶対に面白いと思っていて。そのため、自分のポジションを死守しようとは考えずに、半ば人ごとのように楽しみながら準備していましたね。

テーマは自由。「今までにない攻めたアイデア」で思いの丈をぶつける

藤原 今思い返すと、開催前日までの社内の雰囲気は「本当にやるの?」といった感じで、嵐の前の静けさがありました。いざ当日になったら、候補者のすごく練り込まれたプレゼンを目の当たりにして、一気に熱量が高まった形でしたね。

当日は最初にルーレットで順番を決定し、1人ずつのプレゼンと反証の後に、同じ質問に対して3人が同時に回答する「共通質問」をし、最後に有権者投票を行いました。

▼選挙当日のアジェンダ

選挙当日のアジェンダ宮田 1番手の私は、既存のやり方を全部取り払って、今までにない攻めたアイデアを盛り込んだ「青年の主張」をしました。

具体的には、「Gaudiyが非連続な成長をするために一番必要なのは、石川さん並みにイノベーティブなアイデアを打ち出せる人を増やすことだ」として、その総量と質を爆発的に向上させるための施策や組織の在り方をプレゼンした形です。

実は、「悪の組織を目指そう」というメッセージも盛り込んでいて(笑)。いかにインパクト強く伝えるかに集中してやりきったので、個人的にはめちゃくちゃ楽しかったですね。

代表PO選挙_宮田さんのプレゼン三島 2番手の僕は、ファンが中心となる「DAO的な国造り」をがっつり進めたいという思いから、Gaudiyのビジョンを実現する上で変えるべきことを、プロダクトと組織の両面でプレゼンしました。僕も自分が想像するワクワクする世界を、思うがままに盛り込みましたね。

また、3番手の西岡さんは、まさにダークホースとしての役割を担ってくださって。漫画の名シーンのイラストが満載でしたし、西岡さんの「推される人柄」も相まって、みんなの笑顔が溢れるようなプレゼンでした。

藤原 その後の共通質問では、「会社や立場といった前提を考えずに個人として成し遂げたいことは?」というお題に同時に回答してもらい、最後の投票フェーズへと進めました。

なお、この共通質問には、後攻が有利になりやすいという発表順によるアンフェアを解消し、日頃からいかに思考しているかと、あらゆる観点で自分の明確なスタンスを持っているかを問うという意図がありました。

有権者の民意とCEOの任命で票が分かれ、信任投票を経て最終決議

藤原 その後の代表PO選挙における投票フェーズでは、思った以上にシビアな展開になりました。まず「有権者による民意投票」では宮田さんの獲得票が1番多く、続く「CEOによる任命」では三島さんが選ばれたため、民意とCEOで意見が分かれたわけです。

最終的には、CEOの任命に対する「有権者による信任投票」で過半数を超える信任票が集まり、三島さんが新しい代表POになることが決定しました。

▼代表決定までの3つのステップ

選挙のステップ三島 結果として僕が代表POに選ばれましたが、やはり有権者はプレゼンだけでなく日頃の成果や候補者の人格なども踏まえて投票したと思うので、民意で選ばれなかったことはすごく悔しかったです。でもそれは一時の感情で、着任した今は「もうやるしかない」と振り切って推し進めているところです。

僕は今回の選挙を通じて、自分の視座が上がったと感じていますし、今後誰でも代表になれる可能性があることから、みんなの視座も上がったと思います。なので、間違いなく選挙をやって良かったなと思っています。

その上で、代表PO選挙に関しては、石川さんの一任が結果を左右した部分が大きかったので、今後はより全員の納得感が得られる仕組みを作っていけると良いなと感じました。

青春時代のような、笑いあり、涙ありのドラマがたくさん生まれた

宮田 当日を振り返ると、代表Udev​​でも新旧代表の交代がありましたが、どのポジションの選挙もまさに「青春真っ盛り」という感じでした。

私自身も、代表POとしての進退がかかっているにも関わらず、「学生の時にこんなの作ったよな」というテンションで臨むことができたので、そういう会社全体の雰囲気がすごく良いなと思いました。

▼同日に開催したDev代表選挙の様子

代表Dev選挙候補者藤原 運営としては、あえて機械的な進行に振り切ることで緊張感を出しにいったつもりでしたが、候補者のみなさんが全力で熱い想いを伝えてくださったので、自然と笑いあり涙ありの温かい場になったのだと思います。それは良い意味で想定外でしたね。

仕事の中で自分のワクワクを思うがままに人に伝える機会は少ないですし、Gaudiyが目指すファン国家を作る上で、今回の選挙のような「推せる文化」を自分たちで積み上げていく重要性も感じました。

▼選挙当日はSlack上も大いに盛り上がった

Slack上の盛り上がりなお、別日に開催された「CEO選挙」は、 職能代表を務めるメンバーが有権者となり、その得票数で決定するシステムでしたが、投票の結果、現CEOの石川さんが続投することに決まりました。

それらを踏まえた選挙後のアンケートでは、8割以上の方に「今後も選挙を続けるべき」というポジティブな回答をもらいました。例えば、投票に参加した有権者からは「視座と思考が高まった」「良い競争であり、お祭り感もあって、Gaudiyらしい制度だと感じた」といった声が多かったです。

実際に、当日マスコットキャラクターのお菓子を作ってきてくれたメンバーや、美味しいコーヒーを振る舞ってくれたメンバーもいて。みんなが選挙を業務として捉えずに、自律的にお祭り感を醸成して盛り上げてくれて嬉しかったですね。

お菓子やコーヒーを淹れて盛り上げる人たち加えて、選挙対象ではない別の職能のメンバーは、投票をしない観戦者として参加していました。彼らもまた、「他職能の課題などを知ることができて、学びの多い機会だった」といった声を挙げてくれました。

このように、総じて成功だったと言える一方で、「結果がシビアなわりに、発表の仕方に配慮が弱い」「準備コストが高い」など、今後改善すべき点も明らかになりました。そのような声を参考に、より良い制度に改良していきたいと思います。

なお、いずれは僕たちProtocolチームも含めて、すべての職能チームで選挙を実施します。そのため、今後は代表選挙の枠組みを誰でも運営できるパッケージツールに落とし込んで、各チームで選挙人を立てて実施してもらうような、自律分散型の仕組みにすることを目指しています。

選挙の目的は、認知バイアスを可視化して意思決定精度を高めること

藤原 最後に改めて、代表選挙の目的は「公平に決めること」ではなく、「人事配置を決める際の認知バイアスを可視化・最小化して、意思決定の精度を最大限に高めること」であるとお伝えしたいです。

選挙に限らず、何かを意思決定する時は、人によってモノの見方が全く異なると認識することが重要です。今回の選挙においても、石川さんが候補者のプレゼンを聞いて想像した結果と、民意による投票結果は全く違う内容だったそうです。石川さん自身も「CEOとして組織全体を見れている自負があったものの、民意とはここまで違うんだな」という気付きを得たとのことでした。

そういった各々の認知バイアスを可視化した上で、トップが説明責任を果たしてメンバーのケアをすることは、組織づくりにおいてすごく大切だと感じました。ただ、今回のやり方が正しかったのかは、今後事業が伸びるかどうかを見て初めてわかることだと思っています。

宮田 私は、今まさに現場で動いている中で、代表POと現場という双方の苦労や視野の違いを実感できていますし、きっと三島さんもポジションが変わったことで見える風景が変わったのではと思います。

それによって、今後私がPdMとして考える企画アイデアや動き方にも良い影響が出るのではないかと思っていますし、全員で代表のポジションをぐるぐると回していくメリットをすごく感じていますね。

以前から私は自分のスタンスとして、どのポジションであろうが、事業が成功するために必要なことをすると決めています。なので、今はプレーヤーとしてみんなと一丸となって、絶対成功させるぞという意気込みでやっていきたいです。

三島 僕は、Gaudiyは世の中を変える可能性を秘めていると感じています。その評価は既に社外からも受けており、「Gaudiyは順調に成長している」との認識が広まりつつあります。

その一方で、私たちのビジョンを現実化する道のりは遠く、まだ達成すべき目標と解決すべき課題が山積みであることも自覚しています。

ですので、全メンバーが誇らしげに「Gaudiy Fanlink」を周りの人に紹介できる状態をひとつのPMFとして、6ヶ月の任期中に全員とバチバチに議論しながら、そういう世界を作っていきたいです。(了)

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