- 株式会社ネットプロテクションズ
- 関西開発拠点拠点長 兼 ソリューションアーキテクトグループ統括責任者 兼 BtoBディベロップメントグループ 統括責任者
- 春田 岬
人が育つ土壌を作るために内製化を実行。ネットプロテクションズ開発組織の4つの取り組み
後払い決済業界のリーディングカンパニーであり、組織づくりにおいて「ティール組織」を採用していることが特徴的な株式会社ネットプロテクションズ。
同社が提供するBtoB決済代行サービス「NP掛け払い」では、これまでほぼ100%外部の開発パートナーに依存する体制でシステム開発を進めてきた。しかし、プロダクトの成長と共に、技術負債や人材育成の課題も蓄積されていったそうだ。
▼BtoB決済代行サービス「NP掛け払い」のサービス全体像
そこで2021年から、着手しやすく投資効果に繋がりやすい機能に限定し、スモールスタートで開発の内製化を実施。加えて、人材育成・アジャイル組織の適用・セクション制の導入といった取り組みも実施し、わずか半年で人材育成や組織の自律化などの面で様々な成果を創出できたという。
今回は、「NP掛け払い」開発組織の全体統轄を務める春田 岬さんと、同組織におけるチームリーダーを担う堤 春陽さんに、同社の開発内製化プロセスと人材が育つ土壌を作るための取り組みについて、詳しくお話を伺った。
組織づくりでは「自律・分散・協調を重視したティール組織」を形成
春田 私は2016年にネットプロテクションズに入社し、現在は主に開発内製化の推進と、3つの開発組織の全体統轄を担っています。
具体的な管掌範囲は、事業横断で開発を進めている「関西拠点」と、技術と経営に軸足をおいて全社のレベルとITの実行力を高めていく「ソリューションアーキテクトグループ」、そして自社プロダクトのシステム開発を担う「BtoBディベロップメントグループ」です。
会社全体の組織づくりにおける大きな特徴としては、「自律・分散・協調」をテーマにしたティール組織を採用していることが挙げられます。
具体的には、マネージャー職(役職)を廃止して、「情報」「人材」「予算」の采配権限をもち、メンバーが自律・自走するための支援を行う「カタリスト(役割)」を配置しています。このカタリストは各チームで複数人が担っていて、一定期間を経て流動的に交代する仕組みです。
▼マネージャー職を廃止し、メンバーの自律・自走を支援する「カタリスト」を設置
また、人事評価制度では、個々人のグレードを全社員に開示し、360度評価を用いて昇格・昇級を決定するという運用が特徴的だと思います。
これらの組織づくりの根底には、会社のために人材がいるという考えではなく、一人ひとりが成長して個人のWillを実現することと、企業発展の両立を目指すという考えの元、組織マネジメントを進めていこうという想いがあります。
※同社の人事評価制度については、こちらの記事もご参考ください
評価は「合議」で決める!上下関係をなくし、互いの成長にコミットし合う組織の作り方
巨大化した開発組織を解体し、縦・横でバランスのある組織に移行
春田 ここからは弊社の開発組織にフォーカスしてお話しできればと思います。
まず、長らく変わらない組織の特徴としては、ビジネスと開発を分断しないということが挙げられます。具体的には、エンジニアにはシステム開発だけに注力するのではなく、ビジネスサイドのヒト・モノ・カネのコンテキストを把握しながら設計することを求めています。
ですので、開発メンバーの普段の会話でも、事業やビジネスについての意見が飛び交っており、一般的な開発組織とは違う雰囲気があると思いますね。
一方、開発組織の構造については、この10年ほどで大きな変化がありました。元々は2014年に設立した「ビジネスアーキテクトグループ」が事業横断でプロジェクトを担当しており、正社員だけで60~70人を超えるような社内最大の組織になっていました。
当時はこのグループでもカタリストを設置して、組織をボトムアップで動かしていきたかったのですが実現が難しく、事業や組織の成長に伴ってマネジメントがいびつになったことで、人材育成の面で課題が出てきてしまったんです。
そうした背景から、各事業のプロダクト開発チームを独立させる体制に移行し、BtoB事業を発展させていくグループとして設立したのが、「BtoBディベロップメントグループ」でした。
100%外注の開発体制では人材が育たない。開発の内製化を決意
堤 私は2018年に新卒で入社しました。現在はBtoBディベロップメントグループのリーダーとして、ビジネスサイドとのやりとりやプロダクトマネジメント、開発パートナー様へのディレクションを担っています。
BtoBディベロップメントグループの中でも、主力事業である「NP掛け払い」を担当するチームは、開発パートナー様、インターンも含めて50名規模の組織となっています。私は2022年10月からこのチームのリーダーを担っていますが、引き継ぎを受ける中で次のような課題があることがわかりました。
まず、事業が急速に大きくなった結果、多くの技術負債が蓄積されていました。それによって、短期的に数字を伸ばすための開発を進めながら、中長期的にアーキテクチャを改善する必要があったわけです。
とはいえ、当時のプロダクト開発は開発パートナー様にほぼ100%依存しており、ブラックボックス化されているという現状がありました。
それと同様に、短期的な機能開発の投資を優先するあまり、中長期を見据えた投資判断ができていないという状況でした。
また、チームリーダーとしてやるべきことを考えた時に、自分1人ですべてを担うのには限界があるため、組織形成が必要でした。具体的には、BtoBディベロップメントグループ内でもティール組織を徹底して、いかに権限をメンバーに委譲し、ボトムアップで問題解決ができる組織にするかが大きな課題でした。
春田 開発パートナー様に依存した開発体制であることは、社内の人材育成にも影響があります。社員自身がビジネスを作っていく人材になるためには、エンジニアリングの経験が必要不可欠だからです。
特に弊社はこれまで新卒採用に比重を置いてきたため、新卒メンバーがエンジニア経験を持たないことも大きな課題となっていました。ですので、人が育つ土壌を作るためにも、開発の内製化を進める必要性を感じていましたね。
一方で、無理に内製化を進めれば、開発パートナー様との関係性が悪くなってしまう可能性もあります。いかに関係性を維持しつつ、投資リターンが得られる分野から内製化を進められるかが、私たちのミッションでした。
内製化の目的はプロダクトを把握し、事業方針に則った改善をすること
春田 私たちはこれらの課題に対して、「開発内製化」「人材育成」「アジャイル組織の適用」「セクション制の導入」という大きく4つの取り組みを実施しました。
1つ目の取り組みが、2022年10月から本格化した開発の内製化です。その過程においては、開発パートナー様との関係性に配慮しつつも、社内のメンバーが取り組みやすく、投資効果がある複数の領域から、スモールスタートすることにしました。
具体的にはまず、お客様の課題に向き合い、新しい事業企画を進めるカスタマーサポート業務を支援する「CRE領域」が挙げられます。
その背景には、カスタマーサポートチームが利用している重要ツールを内製化し、業務改善に向き合うことで、事業企画から開発までの連携ラインがシームレスに繋がり、事業企画を考える人と作る人の目線が揃うことに繋がるのではないかという狙いがありました。
次がNP掛け払いにおける購入者様とのタッチポイントになる「会員領域」です。今後事業としても重要機能として位置付けられていくことと、それに伴って素早く価値をデリバリーする必要があることから、内製化して機動力を高めるメリットがあると考えました。最後に、事業の核となる「与信機能」を内製化しました。
堤 内製化を進める中で、開発パートナー様中心に開発を進めていただくディレクション案件(※)についても、良い影響が見られました。
※ネットプロテクションズ社員が案件における全体指示や進行管理を行い、開発パートナーが詳細設計と実開発を行うもの
それまではディレクションを行う社内メンバーのプロダクト理解が不足していて、かつ開発パートナー様も業務や事業の詳しい状況を知らなかったため、依頼がうまく伝わらなかったり、本質的な問題解決ができない開発に繋がったりするケースがありました。しかし現在では、詳細設計の部分まで関与することもできるようになり、依頼の精度も高まっています。
そもそも内製化の目的は、自分たち自身で開発することではなく、社内のメンバーがしっかりとプロダクトを把握し、正しく事業方針に則った機能改善を進めることにあります。今後は自ら手を動かしたことのある人材が増えるため、開発パートナー様とも連携しながら、より精度の高い開発が可能になると考えています。
このような開発内製化と並行して行った2つ目の取り組みは、人材育成です。これまでは新卒採用文化が根付いていたものの、誰が誰を育成するのかを明確にしていなかったために、入社後のフォローが不足してしまうケースも発生していました。
そこでバディ制度を開始し、少なくとも入社から1年は、何でも相談できるバディが1人つく体制にしました。とはいえ、バディも若い人材が担うので、他にもヤング、アダルトといった「バディを見守る役割」も設けました。これによって新卒メンバーのスキルの底上げと定着に繋がっています。
アジャイル組織とセクション制の導入で、自律的に動く開発組織に変化
春田 3つ目の取り組みは、アジャイル組織の適用です。BtoBディベロップメントグループが自律的に動けるようになるためには、まず短期的に組織の大枠を作った上で、段階的に自律分散型の組織にしていくことが必要だと考えました。
そのため、いわゆるOSとしての組織の共通ルールを作りました。この点を短期的に推し進めたことで、今では自律的な活動が生まれ、すでに現場の声から機能改善される事例も生まれ始めています。
堤 現場のメンバーとしても、ルールが何もない状態で「自律的に動いてくれ」と言われても、すぐにはうまく動けません。ですので、共通のルールを作って段階的な支援を行うことではじめて、自律・分散・協調が実現できるのだと、自分自身も実感しましたね。
春田 4つ目の取り組みとして、開発パートナー様も含めた全メンバーを対象に「セクション制」を導入しました。これによって、メンバーが主体的に組織づくりを進める良いサイクルが生まれました。
具体的には、機能ごとに分類したプロダクトセクション、関係部署と横串で進めるコラボレーションセクション、そして有志で集まるギルドセクションを設置しています。これらは若手からシニアが所属して、組織における課題をどうやって取り扱っていくべきかという意見を出し合い、実行していく役割を持っています。
特に活発なのがギルドセクションです。メンバーが感じていた課題から様々なギルドセクションが生まれていますが、最近では盛り上がりすぎて工数面の不安の声も出てきていて。その課題意識から、「どのくらいギルドセクションにリソースをかけるかを考える」というギルドセクションでの動きが生まれるといった流れもありました(笑)。
堤 前提として、メンバーが組織に対して言いたいことがあれば伝えるべきですし、今回の取り組みによって彼らが伝えやすい「箱」ができたことは、非常に大きなメリットだと感じています。
その上で私たちからは、「問題提起する際には自分で改善することもセットで進めるべきだ」とメッセージングしているので、ただ文句を言うだけの人は生まれにくい構造ができていますね。
また、各セクションでの決定事項は、私や春田さんなどのリーダーの承認を得ることなく進めることができます。これらの仕組みによって、自ら主体的に組織運営に関わりながら実行力を身に付けられるという、人を上手く育てる構造ができていると感じています。
取り組みで得た知見を他のチームに横展開し、全社で価値を創出したい
堤 まだまだ道半ばではありますが、これらの取り組みを通じて組織に「人が育つ土壌」を醸成できてきたと実感しています。
新卒社員が入社直後からビジネスを作る人材になるのは難しいですが、その坂をなだらかにするような取り組みができているので、実際にメンバーの成長スピードやアウトプットにもその良い影響が表れていますね。
春田 それと同時に、組織のスケーラビリティ性が向上したことも感じています。私はティール組織の課題は人材育成にあると考えていて、特に組織規模が大きくなればなるほど、一人ひとりに手をかけて育成していくことは非常に難しくなります。
しかし、今回の取り組みで人が育つ土壌のベースを作ることができたので、組織の規模が大きくなってきた時にもうまく機能するだろうと感じていますし、今後も積極的に人材を採用していけたらと思っています。
また、現在は決済事業という難易度の高い事業において、問題解決できる高度な次世代リーダーを輩出していくことを目標としています。そこまでしっかりと見守り、必要があればさらなる改善を加えていきたいです。
最後に、ティール組織は成果を出しやすい構造なものの、規模が拡大するとマネジメントや人材育成で課題が増えていくことも事実です。私たちがBtoBディベロップメントグループで進めてきた知見は、社内の他チームにも展開できるはずです。この経験を活かすことで、会社全体で価値を創出していきたいですね。(了)