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評価は「合議」で決める!上下関係をなくし、互いの成長にコミットし合う組織の作り方

〜「360度評価」を起点に、メンバー1人ひとりが互いの成長に責任を持つ。上下関係が存在しない人事評価制度「Natura」の全貌とは〜

ティール、ホラクラシーなど、「上下関係やマネジメントが存在しない」組織づくりの考え方が広まっているが、その実現は本当に可能なのだろうか?

2000年1月に創業し、「NP後払い」などの決済サービスを運営する株式会社ネットプロテクションズ。

同社は、以前からよりフラットなネットワーク型組織を志向してきたものの、実際には「これはマネージャーの仕事」といった暗黙的な棲み分けがあり、なかなか権限委譲が進まなかったという。

そこで2018年からは、自律・分散・協調に基づくティール型の組織を実現するため、独自の人事評価制度「Natura」の運用をスタート。マネージャー職を撤廃し、もともとは彼らに集中していた「評価」や「育成」といった責任をメンバーに分散した

具体的には、360度フィードバックを起点とする評価制度を構築するとともに、成長支援のための1on1面談を制度化。「全員が互いの成長を支援する」仕組みによって、上下関係や競争意識を生まない組織づくりを実践している。

今回はNaturaのプロジェクトを主導した河西 遼さんに、その全貌や運用について、詳しくお話を伺った。

フラットなネットワーク型の組織を目指し、組織づくりに取り組む

私は、2013年に新卒としてネットプロテクションズに入社しました。当初はセールスのグループに所属する傍ら、並行で新規市場の調査を1人プロジェクトのような形で担当していました。

そこから新サービスの立ち上げ責任者を2年務めたあとに、人事に異動希望を出し、徐々にキャリアをシフトさせてきた形です。そして、人事の大きなプロジェクトのひとつとして、今回の新しい人事評価制度「Natura」のプロジェクトをリードしてきました。

私に限らず、このように流動的なアサインメントがあることは弊社の特徴のひとつです。

本人にとっては、キャリアを自分で選択することで自己実現につなげることができます。また会社からしても、全員が複眼を持つことで、個別最適化に陥らずに全社最適を自律的に考えられるようになる、というメリットがあるのかなと思っています。

弊社ではもともとNaturaが立ち上がる以前から、よりフラットなネットワーク型の組織を志向し続けていました。「自律分散協調型組織」と名付けているのですが、自律分散性と、協調性を高度に両立させることを常に意識してきたんです。

その結果として、流動的なアサインメントであったり、キャリアの自己選択性といったことが以前から組織には根付いていました。

具体的な例として、私が入社した2013年からは、社内で公募されているプロジェクトに自分の業務時間の20%を使える「ワーキング・グループ制度」が本格的にスタートしました。

また同じくらいのタイミングで、全社員での議論を経て会社のビジョンを刷新しています。それによって「これが会社としての良い在り方だよね」ということが明文化されたので、入社するメンバーの価値観も揃うようになりました。結果として、理想の組織像への共感度も飛躍的に高まっていきましたね。

「マネージャー」を撤廃。メンバーが互いの成長に責任を負う形に

Naturaは、自律・分散・協調に基づくティール型の組織を実現するために、2018年から運用を始めた新しい人事評価制度です。

▼人事評価制度「Natura」のコンセプト

立ち上げの目的としては大きく2つあり、まずは理想の組織状態により近づくため。それに加えて、現状で発生している課題を解決するためでした。

当時どんな課題があったのかというと、まず、人口ピラミッドが極めて若手に偏っていて、成長支援や評価の負荷が、一部の成熟しているメンバーに偏ってしまう状況にありました。

そこでNaturaでは、いわゆる「マネージャー」職を撤廃し、その負担を分担するためにできる限り権限や責任を少なくした「カタリスト」という、対外的に必要な最小限の事務管理と人に関わる機微情報の管理を担う役割をつくりました。

そして、以前はマネージャーに集中していた1人ひとりの成長支援に関して、全メンバーが互いに行うものと、改めて明言しました

▼マネジャーを撤廃し、メンバーが互いに「成長支援・評価」を行う

具体的には、「DS面談」と呼ばれる1on1の制度を設けています。DSは「Development Support」の略で、言葉どおり、あくまでも本人の成長を支援するために設けられる面談の場です。

面談者に関しては、業務でのかかわり合いをある程度スコア化して、人事部の方で組み合わせを決めています。複数のプロジェクトを担当しているメンバーも多いので、1人あたり5〜10人ほどと面談をすることになっていますね。

以前は、「この人の育成担当はこの人だよね」「ここはマネージャーの仕事だよね」といった暗黙的な棲み分けがあって、なかなか権限委譲が進まなかったんです

でもそこを明示化して、権限と責任をできるだけ分担・共有する形にしたことで「お互いの成長支援を全員でやるんだ」というふうに意識が変わってきたのは大きいなと。

今はDS面談もカタリストやバンドの上位メンバーが担当していますが、今後はその逆転現象もどんどん出てくると思っています。必ずしも、成長支援が「上位が下位に」という形に限らない組織風土をもっと担保していきたいですね。

360度評価をベースとし、「合議」で昇格を決定する

またもうひとつの課題として、自律分散協調とうたいながらも、割と一般的な評価の仕組みを取り入れてしまっていたために、それによる不整合が起きていることがありました。

そもそも「評価をする」ということ自体が、上下関係や競争意識を生みやすいので、そこで違和感が起こっていたんですね

それに対して、1本筋の通った方向性を示すために、Naturaでは評価制度をアップデートしています。

具体的にはまず、いわゆる「バンド制」を採用し、全社員を5つのグレードに分類しています。それぞれに年収のレンジが定められており、バンド内においては、基本的には毎年一定の割合で自動昇給をする仕組みです。

ただ、明確な成熟度の違いを表すバンドの昇格に関しては、360度評価を用いることで互いに納得できる形で決定するようになっています。

評価者の選定は、本人が記載する「業務関連度アンケート」がベースになっています。なるべく業務関連度の高い人から順に、バンドの偏りや評価人数の偏りを調整しつつ、人事が1人あたり5〜10人の評価者をピックアップしています。

▼実際の「バンド」の内容

昇格の判断の際には、クォーターごとのDS面談を担当しているカタリストおよび、カタリストから権限移譲されたメンバーが、評価者を代表して「評価委員会」という形で議論を行います。誰かが最終決定するのではなく、そこは合議という形です

最初はこの会議も、結構、紛糾しました(笑)。ただ、それを繰り返す中で徐々に基準が明確化されてきたので、徐々に精度も高まってきましたね。

「全員が評価者」である制度を担保するための仕組みとは…

一般的に「評価」というと、「限られた人件費を社内で奪い合う」構図を暗黙的に想起させてしまうところがあると思っていまして。

それは本来的に目指すところではないですし、評価の意義って、コミュニケーションによってお互いの成長を支援し合うことにもあると考えていて。それをひとつコンセプトとして掲げて、作り込んでいったのがこの制度です。

ただ、この制度を開始するにあたり、これまでマネジメントを経験したことのない若手メンバーも評価や成長支援に関わることになったので、立ち上げのタイミングで研修を実施しました。

例えば人間関係の作り方や、コーチング、コミュニケーションのスキルなどを、外部のプロコーチの方をお呼びして学びました。

更に、制度上も「コンピテンシー」の定義をかなり細かく作っています。具体的には11個のコンピテンシーを定め、それぞれに対してバンドごとの期待値を設定しています。

▼コンピテンシーとその期待値の一例

とは言え、やはり評価に偏りが出てしまう部分があるので、その分析と改善を進めています。例えば傾向として、若手の方がやはり甘めの評価になったり、特定の部署では辛めの評価になったり、といった傾向はあるんですね。

それに関しては、人事の方で集計結果を匿名化した上で「あなたの評価の付け方は甘めですよ」といったフィードバックを行っています

ひとつの参考材料として平均値を見ながら、個々人が内省して、もっとこうした方がいいんじゃないかという議論を繰り返していけるといいなと思っていますね。

新しい人事評価制度によって、「組織風土」が明文化された

人事として良かったなと思うのは、このNaturaという制度を通じて、これまで色々な取り組みの中で培ってきた組織の風土を明文化することができたことです。

結果的に社内の不安・不満の解消にもつながりましたし、社外の人によりわかりやすく我々のことを伝えやすくなったのではないかと思っています。

やっぱり「自律分散」とか「協調型」と言われても、なかなか理解が難しいじゃないですか。その中でNaturaのような仕組みができたことで、より多くの方に弊社に興味を持ってもらえるようになったのかなと。

これまでは、組織の風土を重要視するからこそ、社内の構成も新卒に偏りがちな部分がありました。でも今後は、中途採用ももっと強化していきたいですね。

一方で、制度のような「箱」だけを作ったとしても、それが組織の文化・風土と大きな乖離があったとしたら、ただのハレーションにしかならないと思っていて

そこは、「文化や風土」と「仕組みや制度」が、互いに1歩ずつ高め合えるような設計が非常に重要だと思っています。仕組みによって、今ある風土の少し先を提示していくことを繰り返すことで、より良い組織に進化できるのではないかと

その際に起こるハレーションに関しても、しっかりと向き合い続けていくことが重要ですね。実際に今も、社内で出た不満や懸念の声に関しては、意識的にすべて社内に公開するようにしています。

今ある課題に向き合って改善を加えない限り、不満はどんどん広がっていってしまうので。この向き合う姿勢が、結果的に仕組みを作った側と使う側をつなぐカギにもなるんですよね

常に課題に向き合って改善しながら、より良い会社の仕組みをつくり、それが結果的に組織の文化を醸成することにもつながっていくといいなと思っています。(了)

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