- 日本テレビ放送網株式会社
- コンテンツ戦略本部コンテンツ戦略局 NFT IDOL HOUSE ファウンダー
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Web3×推し活!NFT IDOL HOUSEが目指す、次世代のアイドルコミュニティ
日本独自の文化として存在する「推し活」。アイドルや俳優、アニメやゲームのキャラクターなど、自分だけの「推し」を決めて熱狂的に応援することを指し、ファンの熱量が非常に高いことが特徴です。
この熱量が結束や共感を生み出し、独自のコミュニティが形成されるのも推し活特有の側面であり、単なるファン活動を超え、一種の文化として定着しつつあります。
こうした推し活とWeb3の要素を掛け合わせ、新たな形でのアイドルグループの創出に取り組むのが、日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)と芸能事務所の株式会社プラチナムピクセル(以下、プラチナム)が展開するプロジェクト「NFT IDOL HOUSE」です。
NFT IDOL HOUSEは、NFTのホルダーを中心とするコミュニティと運営が一体となり、コミュニティドリブンでWeb3時代のアイドルをプロデュースしていくプロジェクトです。総合プロデューサーを、ガールズバンド史上最短で日本武道館の単独公演を行った「SILENT SIREN」のメンバーすぅ氏が担当し、一躍話題となりました。
また、コミュニティへの参加権となるNFTの販売だけでなく、アイドルの応援活動=「推し事(おしごと)」の貢献度に応じて、アイテム等と交換可能な「NIHコイン」が配布されており、ファンの活動が可視化されている点もWeb3プロジェクトならではの特徴です。
NFTが「冬の時代」といわれる市況感の中、2023年6月に実施されたセール以降好調に推移し、国内のNFT流通ランキングでTOP10入りを果たした同プロジェクト。その熱量の高さの秘訣はどこにあるのでしょうか。
そこで今回は、同プロジェクトのファウンダーを務める、日本テレビ所属のMOTOKIさん(@dont_wallynoue)に、Web3発のIP創出における工夫や、コミュニティの熱量を高める施策などについて詳しく伺いました。
熱狂的なコミュニティを作れるアイドルは、Web3と相性が良い
僕は、新卒で日本テレビに入社してバラエティ番組のADやディレクターを務めたのち、デジタル部門へ異動してからはYouTubeチャンネルの立ち上げや運用を担当してきました。
その後、2021年6月頃に、新規デジタルコンテンツ部門が立ち上がったことを機にNFTやWeb3の存在を知って、最初は仕事とは関係なくNFTアートを購入したりしていました。
その中で、現在X(旧Twitter)のアイコンにしているNFTコレクション「CITY BOY&CITY GIRL」を購入した際に作者のmilkさんと仲良くなって、一緒にコミュニティを立ち上げさせてもらうなどして、NFT業界の方と交流を深めていったんです。
一方、仕事においても地上波連動型のNFTオークション番組「デジセリ」という新しいスタイルの番組を企画していて、当時は1点もののNFTアートが流行っていた時期だったので、VRアーティストのせきぐちあいみさんなどのデジタルアートを、生放送でオークションするという番組を放送していました。
そして、その番組が終わったタイミングで次に何をやろうかと考えていたところ、ジェネラティブNFTのプロジェクトがちょうど流行り始めてきて。NFTが多様なコミュニティをドライブさせ、人々の熱量が高まっていくのを見ながら、「日本テレビとして何かできないか」と考えるようになったんです。
ただ、日本テレビの新規事業として立ち上げるなら、単にPFP(Profile Picture)のイラストを売るだけのNFTプロジェクトはやる必要がないなという思いがありました。
そうした中で、日本テレビの強みである「メディア」を、NFTプロジェクトの出口戦略として活用できる強みを踏まえたときに、人を動かし、熱狂的なコミュニティを作れるアイドルは非常に相性が良いと感じて。NFTプロジェクト自体、「推し活」の文化と近い側面を持つため、その掛け算で考えれば面白いものができるのではというアイデアから、「NFT IDOL HOUSE(以下、NIH)」の構想が生まれました。
Web3文化の中でコミュニティを育て、一緒にアイドルを成長させる
そこから実現に向けて動き始めたのですが、単にNFTを買って終わりではコミュニティの持続性がないので、立ち上げ当初からユーティリティや体験価値の設計に注力していました。
というのも、従来のアイドル文化では、握手会やオフ会などの交流の場はありましたが、自分たちで企画を生み出し、アイドルを成長させていこうという部分まで踏み込めるケースはほとんど無かったからです。
そこで、ファンが集まるコミュニティを育て、アイドルや運営と同じ方向を向いて「一緒に成長していく」体験を生み出せたら良いなと考えました。例えば、ライブやミュージックビデオの演出の一部や、グッズ案、プロモーションプランなどを一緒に考えられたら、ファンにはたまらないですよね。
「Web3発のアイドル」としてみんなの応援を得ていくには、すでに知名度や影響力を持つアイドルを起用するのではなく、アイドルを一から作る必要がありました。しかし、日本テレビはあくまでメディア企業であり、アイドルのマネジメントはできません。
よって、Web3×アイドルといったある種尖った企画でも、一緒にゼロから作っていける柔軟な芸能事務所と手を組むことが肝になると感じていました。その際に、ちょうどタイミングよく、プラチナムさんがすぅさんをプロデューサーに起用して、新しいアイドルを募集するという構想を耳にしたんです。
そこでNIHの企画書を持っていったところ、すぅさんも元々NFTに興味を持たれていたこともあって一緒にプロジェクトを立ち上げることになり、2022年12月にNIHを正式に発表して、まずはメンバーを公募するところからスタートしました。
そして、数々の選考や合宿を経てメンバーが正式に決まったのちに「Fuhua(フーファ)」というグループ名を発表しました。これは中国語で「孵化(ふか)」という意味で、「殻を破って、自分らしく羽ばたいて夢を届けてほしい」という意味を込めています。
Web3的に新しいアイドルを育てていく上では、コンセプトメイキングはもとより、いかに将来性のある人材を集められるかが重要ですが、改めて、すぅさんがプロデューサーで心底良かったと感じています。
彼女自身が広告塔としての役割がありますし、何よりアイドルプロデュースにかける情熱が本当にすごかった。 人を鼓舞して育てていく目線がものすごくあるし、合宿の際にも統率力に優れているなと感じましたね。すぅさんのおかげで、アイドルのクオリティが担保されている実感があります。
募集枠に対して20倍の申し込みが殺到。「推し」を作る仕掛けとは
ファンが集まるコミュニティの立ち上げにあたっては、チャットツールのDiscordをベースに設計を行い、2023年2月に公開しました。
その際、OGロール(初期メンバー)だけがコミュニティに参加できるようにし、50枠だけをGiveaway(NFTを無料でプレゼントする企画のこと)する形で募集しました。その背景として、一度に大量の人数が入ると丁寧なコミュニケーションを取ることが難しくなるので、「顔(アイコン)の見える距離感」を保てるようにし、文化を少しずつ広げていくよう意識しました。
実際に募集を開始してからは、すぐに1,000人ほどの申し込みが殺到してとても驚きましたね。「リアルのアイドル×NFT」という新規性や、日本テレビとプラチナムが共同で取り組むという大型企画感に対する期待値があったんだろうなと思います。
また、6月のセールまでに「推し」を見つけてもらうために、メンバー1人ひとりの魅力を知ってもらう機会を作る必要がありました。
そこでまずは、セールの2ヶ月ほど前からアイドルメンバーをDiscordに招待して、ボイスチャット上で誰でも参加可能なイベントを開催し、メンバーの人柄や可愛さを伝えていきました。また、OGロールの方に対してはアイドルと直接チャットができるようにし、「推し」の子についてより知っていただけるようにしましたね。
さらに、NFTのセール時によく開催される「他プロジェクトとの合同AMA」の際にも、ファウンダーだけでなく、毎回アイドルメンバーを1人ずつ呼んで、「対談相手の方にNFTについて教えてもらおうAMA」を開催しました。そうすることで、対談相手のプロジェクトを通じて聞いてくれた方々にもメンバーの魅力を知っていただけましたし、実際に、スペースで話したアイドルが「推し」になったファウンダーの方もいます。
▼実際に開催されたスペースの告知画像
このような施策を通じてセールまでに熱量を高めていったことで、金額面以外の理由で「2次流通よりあえて1次販売で買いたい理由」が生まれていた点も面白かったですね。そこには、せっかく推しの子のNFTを購入するなら「誰の取引履歴も残っていない、最初のホルダーになりたい」というファンの心理が生まれていたんです。この点において、取引履歴がブロックチェーンに刻まれることの重要性を感じました。
さらに、熱量の山が生まれたタイミングとして特徴的だったのは、NFTのリビール後です。
ファンの心理として、リビール時には「推しの子のNFTが欲しい」という思いが強くあったと思います。そのため、推しのメンバーの絵柄ではなかった場合に、2次セールで購入するのはもちろん、個人間トレードするという、他のプロジェクトではあまり見られない動きが生まれてものすごく盛り上がったんです。
この点もやはり僕たちとしては想定外で、アイドルを「推す」活動とNFTの特性がうまくマッチしたことを実感する機会でしたね。
Discordの世界観を創意工夫。ファンの参与度を引き上げる仕掛け
さらに、コミュニティの持続性を担保するために、Discordの世界観設計にも十分にこだわりました。
グループ名の元となっている「孵化」という言葉には、「卵を温め、孵化させ、みんなで成長させていく」という意味を込めていて、「孵化させる『巣』としてのDiscordコミュニティ」という発想がベースになっています。
また、NFT IDOL HOUSEのタイトルにもある通り、アイドルがライブ終わりに帰ってこれる第2の実家のような居場所であってほしいという願いを込めて、ハウス(家)の意味合いを強くしたいと考えました。
ただし、家だと家族しか入れない感覚が生まれてしまうため、アイドルが共同生活する「寮」という発想に切り替え、ファンのみんなも一緒にその寮に住んでいるという世界観を表現することにしました。
寮は2階建ての想定で、1階の共同エリアは「@入居者」のロールをもつ人であれば誰でも自由に出入りでき、2階にはアイドル専用の部屋を設け、特定の人しか入れない限定エリアとしています。
チャンネル名の設計にあたっては、アイドルはそもそもドメスティックな側面が強い文化なので、海外はあまり意識せず、とにかくわかりやすさを最優先にして「館内放送(announce)」や「共同リビング(general-chat)」などの日本語を使いつつ、チャンネル数も極力少なくするよう心がけました。
▼NIHのDiscordコミュニティの様子
ロールの設計においても、それぞれのファンのDiscord内での立ち位置が可視化されるように工夫しました。NFTの保有数に応じてロールが自動で付与されるのですが、例えば同じメンバーのNFTを3枚集めたら「〜しか勝たん」ロール、10枚集めたら「TO(トップオタ)」ロールが付与されるようにして、推し度合いがわかるようにしています。
また、メンバー全員のNFTを保有したら「箱推し」ロールが付与され、本来なら誰か1人のメンバーの部屋しか入れないところを、全員の部屋に入ってお喋りできるユーティリティを設けるなどして、セール後の勢いを落とさないための仕掛けもしています。
他にも、楽曲の歌唱動画などを投稿した人には「歌姫」ロールを、楽曲のコールを作成したメンバーには「コール職人」ロールを付与することでファンの貢献を可視化し、NFTなしでも楽しめる環境でありながら、NFTをプラスするとより「沼れる」世界観を作るように意識しましたね。
▼アイドルとファンがDiscordのチャット上で交流している様子
Web3ならではの企画を通じて、新たな「推し活」文化を創出
コミュニティの運営で最も大切にしていることは、Web3の思想をベースに「関わりしろ」を設け、ファンの参与度を引き上げることです。
そのための仕掛けとして、アイドルの応援活動=「推し事(おしごと)」の貢献度に応じて、アイテムや特別なロール等と交換可能な「NIHコイン」を配布するシステムを設けています。推し事は、例えばアイドルがX(旧Twitter)上に投稿したポストをリポストしたり、TikTokの動画にいいねを押したりといったアクションが該当します。
▼推し事を「報告デスク」チャンネルで申請している様子
さらに、コインの保有数に合わせたロールも作っていて、100コインで「@NIH専属記者」のロールが与えられて、通常より早く情報を得られたり、5,000コインで「@推し活マスター」として表彰されたりといったレベル分けも行いました。
推し事以外にも、定期公演のタイトルやコーナー企画、曲のコールなどのアイデアをコミュニティ内で募集し、採用された人にはNFTをプレゼントするといった企画や、アイドルの生誕祭の開催、ファンアート(二次創作)の商用利用を解禁するなど、様々な関わり方を用意しています。
また、最近では、ブロックチェーンならではの特性を活かした「ウォレットサイン会」を実施し、斬新な企画としてNFT界隈で注目を集めましたね。
これは、NFTの取引履歴がデジタル上に残る点に着目したもので、アイドルのNFTの購入履歴に推しの子の名前が刻まれたら、ファンとして嬉しいのではという考えから生まれたものです。具体的には、アイドルに一時的にNFTを送り、すぐに送り返してもらうことで取引履歴に推しの子のウォレット名が刻まれる仕組みです。
やり取りをしている間は、オンラインでアイドルと会話できるという特典も設けたところ、合計で68枚にアイドルのサインが刻まれ、非常に好評を得ることができました。
コンテンツ供給の基点がアイドルだからこそ、ファンの熱量が保たれる
総じて、Web3×アイドルのコミュニティを運営して興味深いなと感じたのは、異なる2つの層がうまく交わっている点です。
元々アイドル活動を行ってきた人が、NFTをきっかけにアイドルに興味を持った人に対して「推し活の楽しみ方」について教え、反対に、NFTの知識を持つ人がアイドルファンに「NFTの買い方」や「ウォレットの使い方」を伝えたりと、相互で教え合う関係性が生まれていて。
要は、「アイドルにはすごく詳しいけどNFTはわからない」という層と、「NFTやWeb3に詳しいけど楽しみ方がわからない」という層が仲良くなることで、よりコミュニティが活性化したのではと考えていますね。
また、アイドルというコンテンツ自体も、Web3的なコミュニティの形成に大きく寄与したのではないかと思います。
というのも、普通のNFTアートプロジェクトでは、クリエイターのイラストがコンテンツのメインとなるので、当然ながら作るのに労力や時間がかかる。しかし、アイドルというリアルな人間が存在していて、彼女たちがSNSを更新したり、定期的にライブを開催するとなると、供給されるコンテンツが常に絶えないわけで。
つまり、アイドルそのものが無限にコンテンツを生み出し、ファンがそれに反応できるという関係性が、コミュニティの熱量を維持できている要因であり、NIHはその点が強みだと思っています。
加えて、NFTプロジェクトの多くはセール前に一気に盛り上がって、その後落ち着くケースが多いですが、NIHはコミュニティドリブンな仕掛けを作ってきたことで、逆にセール前よりも、セール後から自主的な動きが増えたのもユニークな点だと思いますね。
日本武道館でのライブ開催を目指し、第2章が幕開け
最近では、イベントやライブ会場でNFTを販売するモデルに非常に可能性を感じています。
これも、アイドルというマスに近い存在だからこそのメリットだと思っていて、リアルな場で交流する中で推しの子に「もう1枚ミントして欲しいな…」と言われたら、ついミントしちゃいますよね(笑)。
NFT1枚の価格は決して安くはないものの、アイドルとのリアルな交流があるからこそ購買意欲がかき立てられる。コアなファンがもつ、推しのNFTであれば何枚でも買いたいというニーズを満たす手段としても有効だと思います。
実際に、6月に開催されたカンファレンスイベント「Non Fungible Tokyo」では65枚、7月のアイドルイベント「TOKYO GIRLS GIRLS」では60枚、そして8月のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL 2023」では27枚、8月末のFuhua初の定期公演では48枚と、合計で200枚(300万円分)のNFTを購入いただきました。
現地で販売する際はクレジットカードや現金での決済ができるようにして購入ハードルを下げつつ、やはりリアルなアイドルがいてライブなどで直接的なコミュニケーションの場がたくさんあるからこそ、こういう現象が起きうるのだと思います。
これまでのお披露目からNFTの販売、デビューライブなどを経て、NFT IDOL HOUSEの第2章を進めていく上で肝になるのは、「コミュニティで育てるアイドルのパイオニア」という立ち位置を確立することです。
そのためにも、今後はいかに既存のアイドル業界から新規のファンを獲得していけるかが重要だと考えています。既存のアイドルファンがリアルのイベントをきっかけにFuhuaを知り、NFTの世界に入っていく。そういった人を増やしていければ、Web3のマスアダプションにも自然に繋がっていくのではないかと。
また、僕たちとしては「日本武道館でライブを開催する」という大きな目標も掲げているので、引き続きコミュニティドリブンで、どのようにアイドルを育てていけるのかをファンの方々と模索しながら、Web3の強みを生かした様々な企画を展開していきたいですね。(了)
取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)