- 株式会社TimeTree
- CEO
- 深川 泰斗
全世界で登録数5,000万を突破!TimeTreeの「ユーザーと対話する」海外グロース戦略とは
スタートアップの立ち上げ期はリソースが限られるため、全世界でサービスを展開するには多くの壁を乗り越える必要があるだろう。
そんな中で、組織が10人に満たない2015年のサービスリリースと同時に海外展開を始め、「ユーザーリレーション」を軸にした施策で多くの海外ユーザーを獲得してきたのが、株式会社TimeTreeである。
同社が展開するカレンダーシェアアプリ「TimeTree」は、2023年9月に全世界の登録ユーザー数が5,000万を突破し、海外ユーザー比率が50%を超えるまでに成長。「スマホの中の壁掛けカレンダー」として数多くの人に利用されているが、そこに至るまでには世界各国の現地ユーザーの巻き込みと、直接的な対話が鍵を握っていたという。
今回は、同社のCEOである深川 泰斗さんに、小規模な組織でどのように海外グロース戦略を実行し、ここまでの実績を築いてきたのかについて、詳しくお話を伺った。
グローバル展開のベースとして、「人が人を呼ぶ仕組みづくり」に注力
私はヤフーやカカオジャパンを経て、2014年にJUBILEE WORKS(現TimeTree)を共同設立し、CEOを務めています。
2015年3月にリリースしたカレンダーシェアアプリ「TimeTree」は、ありがたいことに全世界で5,000万ユーザーにご利用いただき、現在は海外ユーザー比率が50%を超えるまでになりました。
今でこそ弊社は80人を超える規模の組織になりましたが、リリース当初は10人もいなくて、とてもグローバル展開できるような規模ではありませんでした。それでも、海外グロース施策に初期から取り組んできて一定の実績を創出できたので、今回は世界中にサービスを広めるために行ったことについてお話しできればと思います。
まず、サービス設計については、「時代を超えて存在している世界共通の悩み・ニーズ」を起点に考えました。現在のカレンダーシェアアプリに行き着いたのも、「昔はほとんどの家でリビングの壁掛けカレンダーに予定を書き込んでいたな」という記憶が発端になっています。
それが近年では、LINEなどで相手と連絡を取りながら予定を調整するようになったわけですが、日程を合わせるために何度もやり取りするシーンが世界中で起きているのかなと思ったんです。その日常の不便さを解消するために開発したのが、「共有」に特化したTimeTreeでした。
このサービスは一般的なカレンダーツールとは異なり、ユーザー1人で使うことはなく、最初の登録時に「誰と使うか」を指定して相手に招待リンクを送ってもらうことが特徴です。
その際に、日本ならLINE、韓国ならカカオトーク、中国ならWeChatといった、国ごとの最適なメッセンジャーが起動するようにしている点が、グローバル展開のベースとして大きく影響しているように思います。
▼ユーザー数の多い主要6地域でも利用実態は大きく異なる
また、世界で普遍的にある承認欲求やコミュニケーションのニーズも満たせるように、チャット機能や、誕生日や記念日にオンラインで送れる「TimeTreeギフト」などの機能を追加し、TimeTreeを使うことで新たなコミュニケーションが生まれる工夫もしています。
▼「TimeTreeギフト」のイメージ画面
現地語にこだわらずに「とりあえず出してみる」姿勢が功を奏した
そういった世界共通のニーズを満たせるサービス設計をした上で、2015年のリリース初期から海外グロース施策として行ったことは、日本語と韓国人の創業メンバーが対応できる韓国語を除き、一旦すべての国に英語でリリースするということでした。
もちろん最初から国ごとの言語に対応したサービスを提供できるのが理想ですが、当時はそのリソースがないという事情がありました。そのため、「とりあえず出してみて反応を見よう」と英語でリリースすると、例えば「ドイツ語にしないの?手伝ってあげるよ」といったように、現地ユーザーがサポートを申し出てくださるようになったんです。
また、私たちが段階的に簡易な翻訳レベルの現地語を反映していくと、より正確な表現に直すためにサポートしてくださるユーザーも自然と出てきて、とてもありがたかったですね。
そのように、たとえサービスに不足点がある初期フェーズであっても、使い続けてくださるユーザーさえいれば、その方々と協力しながら品質を上げていけるというのは、試してみて初めて分かったことでした。
結果として、現在では日本語のほか、英語、韓国語、中国語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語…など、13言語に対応できるまでになりました。
このように対応言語を増やす中では、言語表記のクオリティを整えるために各国のユーザーから有志を募り、主要言語を一気にブラッシュアップするプロジェクトも実施しています。
また、当初はApple Storeにいかに取り上げてもらうかに注力していました。例えばApple Watchなどの新製品が出た時には、Apple Watch版アプリを出すといった形でいち早く対応していくことで、Appleさんの目に留まり「推してもらう」という作戦でした。
実際は、私たちみたいな小さな開発会社が、そこまで機敏に新製品に対応するメリットはあまりないんです。新製品はユーザー数も限られるし、わざわざApple WatchからTimeTreeを使い始める人もいないので。
それでも、Appleさんは日本だけでなくアジア単位で推すアプリを選んでいたので、そこに着目して狙ってアピールしたことで、アジア全域のユーザーに対して強くおすすめしてもらえたこともありました。
もちろん時代によって、プラットフォームの伸び率や、個々のプラットフォームが推したいことが変化しているので、その時々で作戦を変える必要があります。とはいえ、日本の小さなスタートアップが海外で大きな露出を獲得するのは難しいので、今でも一定の効果はあるのかなと思いますね。
現地で生の情報を集め、「これがないと話にならない」を明らかにする
世界中のユーザーにサービスを受け入れてもらうには、各国の風習やユーザーの感情といったソフト面をしっかりと把握することも欠かせません。
とはいえ、「各国の人にとって結局どんなサービスが嬉しいのか?」を、日本にいる私たちが正確に言語化するのは困難です。なので、各地域のユーザーの反響を注視し、できる限り現地に出向いて生の情報を集めたり、ユーザーインタビューをお願いしたりしながら、ローカライズやカルチャライズを進めました。
例えば、ドイツのユーザーから欧州ならではの「週番号」の重要性について教えてもらい、実際に現地のカレンダーを取り寄せつつアプリにも実装をしたり、アジア圏の「旧暦」の追加なども行いました。
そういった国ごとの大まかな情報はネットで調べることもできますが、「これがないと話にならない」みたいな熱量の部分は、やはり直接コミュニケーションを取って知ることに価値があると考えています。
また、台湾でユーザー数が伸び始めた時には、現地のスタートアップが日本でイベントを実施していた会場に伺って、司会をしていた台湾人の学生さんにインターンとして入社してもらいました。その彼女に、台湾ユーザー向けのキャンペーン設計をお願いしたこともありますね。
同様に、SNS上でTimeTreeを推してくれている海外の学生さんにお声がけしてインターンをしてもらう中で、現地で反響のあるキャンペーンについて教えてもらうことも多かったです。
他には、「ユーザーの言葉で伝える」ことを重視して、熱量の高いアプリレビューから訴求すべきメッセージのヒントをもらって広告に反映したり。インタビューでユーザーが困っていたことやTimeTreeを使ってどんなことが嬉しかったのかを伺って、アプリ内や現地サイトで読めるコンテンツとして地道に展開することも続けました。
▼各国のユーザーの声をコンテンツとして発信(日本語版の一部)
海外でメジャーな「アンバサダープログラム」に1,000人超の応募が殺到
海外グロースのプロモーション施策としては、ユーザーインタビューで教えてもらった「アンバサダープログラム」も効果的でした。
海外ではメジャーな手法とのことで、2021年頃にアプリ内でTimeTreeを推薦してくれるアンバサダーを募集したところ、一気に1,000人を超える海外ユーザーから応募があって。その中でアクティブにSNSを使っている方や、TimeTreeの使いこなし度が高い方を数十人ほど選んで、公認アンバサダーとして活動していただきました。
例えば、こちらから投げた「気に入っているところは?」といったお題に対して、自分なりの表現でSNSに投稿してもらって、いくらかのフィーをお支払いするという形です。
さらに、ある日突然アメリカのApple Storeでの順位が一気に上がって、爆発的にユーザーが増えたことがありました。これは本当に偶発的な出来事でしたが、学生のジーナさんが夏休みに友人と予定が合いにくかったことからTimeTreeを見つけて、TikTokで実際のカレンダー画面を映しながら紹介してくれたんです。
@ginaabitante #greenscreen #greenscreenvideo make a friend group calendar #savinglives #calendar
その動画がなんと270万を超える視聴回数になって、コメント欄でも「WE SHOULD DO THIS(私たちもこれを使うべき)」と、友達にメンションして共有してくれる方が大勢出てくるという現象が起きて。その後も連日ジーナさんと同じフォーマットで、パートナーや友達5人でシェアしてるといった自分の使い方を投稿する方が増え続けていきました。
そこで、すぐにジーナさんや目立った投稿主さんへ詳しいインタビューを実施して、ユーザーごとの利用方法を理解できたので、とても感謝しています。
ただ、このバズを自社で再現できたら理想的だったものの、企業が似たフォーマットで動画を出しても広告感が強くなってしまうので、それはうまくいきませんでしたね(笑)。
ここまで、ユーザーリレーションをベースに取り組んできた海外グロース施策をお話ししましたが、基本的に飛び道具的なものはありませんでした。とにかく地道に各国の風習に合わせて作り込んでいったことが、今の成果に結びついたと思っています。
また、80人規模に組織が拡大しても海外のカスタマーサポートを外部に委託せず、社内のユーザーリレーションチームに所属している5〜6人のメンバーが、世界中の問い合わせに対応しています。そのように顔の見える双方向のコミュニケーションを大事にしている点も、弊社の特徴的な部分かもしれません。
馴染みのレストランのように、ユーザーと対話してサービスを磨いていく
これまでの活動の積み重ねで、今では世界36ヵ国のアプリストアランキング(2022年時点)で、TimeTreeが5位以内に入るほど多くの方に利用していただけるようになっています。
また、今年9月には、グローバルな事業展開により成長発展している企業として、「ニッポン新事業創出大賞」のグローバル部門で最優秀賞をいただきました。
その中で評価していただいたポイントは、家族や恋人といったクローズドなところで予定を共有できる点でしたが、今後はクローズドだけでなく、オープンに予定を公開できる仕組みにも力を入れたいと考えています。
例えば、スターバックスさんが新商品を発売する日や、アーティストの方がコンサートを開催する日をカレンダー上で発信していただき、ユーザーの皆さんがそれを見て行動できるといった形です。そのように、予定共有の可能性をもっと広げていきたいと思っています。
また、TimeTreeでは創業当初から、「馴染みのレストランのようなサービス開発運営をしよう」というコンセプトを掲げてきました。それは、私たちが提供している価値がアプリケーションそのものではなく、それを使った「体験」にあるからです。
なので、ユーザーにとって「物言わぬ機械」のようにサービスを使っていただくのではなく、「対話のできる相手」と認識していただいて、一緒にサービスを作りあげていって欲しいと願っています。
その中では、やはりユーザーと対話して関係を構築することが大切なので、今後も私たちの軸としてそのスタンスを貫いていきたいですね。この考えに共感していただける方は、ぜひ私たちのチームに仲間入りしてもらえたら嬉しいです。(了)