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1年で組織が約2倍に急拡大。ログラスの急成長を支えるTech Value「Update Normal」とは

「良い景気を作ろう。」をミッションに掲げ、SaaSプロダクト「Loglass 経営管理」を中心にサービスを展開する株式会社ログラスは、2023年1月からの1年間で社員数が約2倍になるほどの急成長を遂げている。

創業当時から、ビジネスサイドとエンジニアサイドの垣根なく、連携を強化しながら顧客に向き合ってきた同社では、言語化はされていなかったものの、組織全体で大事にしてきた「DNA」が存在していたという。

しかし、組織が急拡大する中では、メンバーの拠り所となる指針が必要になると感じ、2023年に全社組織コンセプトとTech Valueを策定。

そのTech Valueの策定を進めたVP of Engineering(以下、VPoE)の伊藤 博志さんは、「会社が急成長し、開発チームも急拡大していく中では、芯を通すTech Valueの存在が非常に重要になる。全員が大切にしたいことを一つの言葉に蒸留したことで、メンバーの指針になっただけでなく、候補者とのマッチングも強化することができている。」と語る。

そこで今回は、伊藤さんに同社のTech Value策定プロセスや浸透の取り組みについて、詳しくお話を伺った。

開発チームの強さの源泉として、受け継がれてきた「DNA」とは

私は、新卒でゴールドマン・サックスに入社し、12年ほどエンジニアとして従事しました。当時は管理会計にも携わっていたので、ログラスの事業との親和性は高かったと思います。

その後、FinTech系のスタートアップ企業や、READYFORの執行役員VPoEを経て、2022年10月にログラスに入社しました。

弊社は、CEOの布川がビジネスサイド、CTOの坂本がプロダクトサイドを牽引する形でタッグを組み、2019年5月に創業した企業です。厳しい経済環境が続く日本において、「良い景気を作ろう。」をミッションに掲げ、人々が本来価値を発揮すべき仕事に専念できるようにと経営管理クラウド「Loglass」シリーズを開発・展開しています。

また、坂本は創業時から「誇れるコードを持つ強い開発チーム」を実現することにこだわっていました。そのため、DDD(ドメイン駆動設計)のエキスパートである現エンジニアリングマネージャーの松岡や、実際に経営企画担当者として業務を経験してきた布川を巻き込んで、議論しながらプロダクト開発を推進してきました。

その先にあった思いは、「お客様にとって本当に価値あるサービスをつくる」ことです。

例えば、お客様から「こんな機能がほしい」と要望を受けると、セールス担当者からプロダクト担当者にそれを伝えて、技術的に解決するために動くという流れが多いかと思います。

それに対して、弊社では「お客様の本質的な課題」に気付いたプロダクト担当者の方から「このやり方が良いのでは?」と提案し、リリースまで持っていくことがあります。これはセールスサイドとプロダクトサイドが議論しながらお客様に本気で向き合っているからこそ、実現できることなんです。

また、本質的な課題解決に向かうプロダクトサイドの姿勢をセールスチームが賞賛したり、リリース後のお客様からのポジティブな反応をプロダクトチームに伝えたりといったアウトカムの共有も活発に行われています。

このように職種やチームの垣根なく、一緒に議論をしながら進めることを重視して取り組んできた結果、「DDDもスクラムも当たり前」の組織文化ができあがり、どれだけチームが分化してもログラスのDNAとして組織の根底に流れていました。

そして、2023年1月からの1年間で組織全体が2倍近くに急拡大したことがきっかけで、これまで受け継がれてきたログラスのDNAが失われてしまったら、今後の事業成長にとって大きなリスクになると感じるようになりました。

それまでもふわっとした共通認識としてDNAが存在していた感じだったので、あらためてログラスとして大事にしたいことを言語化し、新たに入ってくる方にも周知し続ける必要があると考えたのが、全社組織コンセプトとTech Value策定のはじまりでした。

Tech Value策定に着手。ChatGPTを活用し、客観的に言葉をあぶり出す

まず、開発チームでTech Valueの策定に取り組もうとした時に、その前提となる全社組織コンセプトが制定されました。それが「Commitment & Challenge」です。

この全社組織コンセプトはログラスの土台として、組織が急拡大する中でミッションやカルチャーを浸透させ、全員がミッションに向けて前進している状態を目指すべく掲げたものです。

その後、2023年7月頃からTech Valueの策定を本格的にスタートしました。その策定プロセスとして、最初に未来に向けた議論をする場である「プロダクト開発LTV会」を活用しました。

プロダクト開発LTV会で出てくる言葉の中に、Tech Valueの種が存在しているだろうと思い、そこで「自分たちの開発カルチャーの良さ」を言語化したのが第一ステップです。

その場で出てきたアウトプットをNotionを使って文章化し、さらにそれをChatGPTにインプットして言語化してみました。ここでChatGPTを使ったのは、誰かが恣意的に決めたトップダウン的なワードを生み出すのではなく、みんながカルチャーとして大事にしていることを客観的にあぶり出したかったためです。

▼ChatGPTによるTech Valueの第一次ドラフト​​(同社提供)

この時点で、7つほどの観点に絞られて、ログラスのDNAの片鱗のような言葉が出てきていました。それを元にみんなで話し合ったところ、「7つあるのは多いのでは」「無機質な感じがする」「意識しただけでテンションが上がるような言葉が良いよね」といったコメントが挙がったんです。

その先も全員で進めてしまうとなかなか収束しないので、そこからは私を含めて6人の有志を募って議論をしていく形にしました。

根底に流れるDNAから「Update Normal」が蒸留されるまで

その後は有志メンバーで発散と収束を繰り返していきましたが、「何となくこんな感じ」止まりで、まとまりきらないという壁にぶつかってしまったんです。そこで、シニアエンジニアリングマネージャーの飯田に、ファシリテーターとして入ってもらうことにしました。

それでも、言葉のプロではないので最後の言語化までは、なかなかたどり着けません。「これ以上は我々だけでは難しそうだ」となったため、ログラスのバリュー策定時にサポートいただいたLASSI氏にも協力を依頼したところ、「Tech Valueは1つでも良いのでは」というアドバイスをもらいました。

そこから、コアとなるワーディングを詰める段階に進んだわけですが、この時点ですでにログラスのDNAとして3つの柱となる言葉がある程度収束していました。

▼ログラスのDNAを言語化した3つの柱

  • お客様やビジネスの本質的な価値の創出に向き合い続ける
  • 技術的な卓越性を探求し、品質や開発生産性の向上にもフォーカスし続ける
  • 常に新たな学びを適応し続ける

これらの言葉から、組織の根底にあるのは「常に当たり前をアップデートし続けている」ことである、という共通認識の醸成もできました。それを元に何十個かのワーディング候補から絞っていき、全員一致で「Update Normal」というTech Valueが決定した形です。

長い道のりでしたが、「Update Normal」は元々開発チームの中にあったものをあぶり出していった感覚なので、このTech Valueは考えて決めた「策定」よりは、「蒸留」という言葉がしっくりくるな、と思っています。

「当たり前のアップデート」を積み重ねるための文化醸成や仕組みづくり

昨年Tech Valueを定めてからは、すでに社内でも当たり前の価値観になってきていると感じています。

その浸透のために行った取り組みとしては、まずプロジェクトを主導した有志メンバーから開発チームの全員に向けて、「Update Normal」に込めたアツい思いを語る場を設けるところからスタートしています。

さらに、込められた思いを表現するキービジュアルをデザイナーチームに作成してもらい、浸透を深めていくフェーズに入っていきました。

その後は、有志メンバーの数人がイニシアチブを握って、「プロダクト開発朝会」を活用して日常的に浸透を進めていく活動を始めました。

具体的には、開発過程の具体的なエピソードを挙げて「これはUpdate Normalだね」、「これはUpdate Normalではないよね」と対話しながら、全員の認識をすり合わせるようなことを行っています。

▼挙げられた事例をもとに、「Update Normalかどうか」を議論している

その中では、「これはまだUpdate Normalの手前かな」というエピソードも出てきたので、自然と「Update Normal前夜(通称:アプノマ前夜)」という共通言語が生まれていましたね(笑)

その流れで「アプノマ」や「アプノマ前夜」というSlackのスタンプができて、エンジニアはもちろん、デザイナーやプロダクトマネージャーも含めて日常的に使われるようになっていきました。

▼実際にSlackにて「アプノマ」などのスタンプが活用されている様子

今では、それらのスタンプが押されたSlack投稿が、1つのチャンネルに集約されて流れるようになっているので、「今週のUpdate Normal」としてプロダクト朝会で実例を共有しています。

加えて、エンジニアやプロダクトマネージャー、デザイナーが職種や部門の垣根を越えて行っている「10分勉強会」は、Update Normalを体現する取り組みだと思っています。

これは週3回の持ちまわりで発表者を交代し、「最近学んだこと」「前職での経験談」「プロダクトの新しい学び」などを発表するというものです。

この場でのアウトプットがメンバーにとって学びの強化になり、新しいことを知るきっかけになるだけでなく、気になったことがあれば深堀りして業務に活かすなど、さまざまな波及効果がある取り組みになっています。

アップデートを続け、良い景気を作るというミッションを達成したい

今回お伝えした「Update Normal」というTech Valueは、社内のエンジニア組織向けに作ったものではありますが、すでにプロダクト開発組織の全体にも広がってきていて、最近では候補者の方にも話すことがあります。

カジュアル面談で伝えると「すごく良いですね!」と反応してもらえることが多いので、Tech Valueが軸となって私たちとマッチする方と出会える言葉にもなっていると実感しています。

 これまでログラスは、「良い景気を作ろう。」というとても壮大なミッションを掲げて邁進してきましたが、まだまだその到達には長い道のりが続くと思っています。

理想の状態に近づくためには、私たちのケイパビリティも足りていないと思うし、プロダクトをどんどん成長させていくことも必要です。

その過程では、お客様とも対話しながら、より良いプロダクトづくりに取り組まなければいけないので、ログラスのDNAから蒸留した「Update Normal」というTech Valueに共感してくださる方がいれば、ぜひ一緒に取り組んでいけたらと思っています。(了)

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