- 株式会社サイカ
- 代表取締役 CEO
- 平尾 喜昭
「統計」は誰にでも使える!? 意思決定にヒントをくれる、統計分析の始め方
今回のソリューション:【統計分析】
〜事業と向き合って問題意識や仮説を持つことが第一歩。あらゆるビジネスに活かせる、「統計分析」の使い方〜
ビジネスの現場では日々、意思決定を迫られる。しかしその「意思決定」は、どのように成されるべきなのだろうか。誰かの主観や経験をもとに決定していくのか? それとも客観的な事実をテーブルに乗せた上で、そこから議論を開始するのか?
「統計分析は、意思決定をする上でのヒントをくれるものです」と語るのは、株式会社サイカの代表取締役 CEOである平尾 喜昭さんだ。同社では統計分析を誰でも簡単に導入できる「adelie(アデリー)」や、営業行動の分析に特化した「Rockhopper(ロックホッパー)」というプロダクトを提供している。
数字を扱うというその性質上、難解と捉えられがちな統計分析。だが実は、事業と向き合いさえすれば、誰でも簡単に取り入れることができるのだという。平尾さんに、統計分析の価値と使い方について詳しくお話を伺った。
「世の中のどうしようもない悲しみ」をなくしたい
僕がまだ小さかったころ、父が勤めていた会社が倒産しました。それを皮切りに、父の周りでいろいろと不幸なことが起こって。同僚の方が体を悪くしたり、部下が婚約破棄されたり。父自身も、倒産をきっかけにどんどん弱っていったんです。
その時、父の背中を通して「世の中にはどうしようもない悲しみってあるんだな」と感じ、そういった悲しみをなくしたいと思うようになりました。そして、それが実現できるのは音楽なのではないかと思い、中学の仲間とバンドを組んで音楽にどっぷりつかるようになりました。
衝撃的だった統計分析との出会い
ただ、ミュージシャンもこれからは自分でマネジメントできないとダメな時代だと考えて、大学には進学しました。竹中平蔵さんのゼミに入ったのですが、そこでは経済学を政策まで落とすような研究をしていて、政策の影響を統計分析で算出していました。
例えば、政策金融の貸付が増えると中小企業は救われるのか? といったテーマを分析した結果、プラスの影響が出ているのは限られた業種だということがわかったり。
この時、初めて統計分析に触れたのですが、アハ体験というかすごい衝撃でした。と言うのも、この手法に対する理解が深ければ、父が勤めていた会社が倒産せずに済んだかもしれない、と思ったんです。
もし、統計情報を分析していれば、経営手法のリスクを数値化できたかもしれません。そして、倒産を防ぐこともできたのかもしれない。この時に「統計分析を世の中に広げることで、どうしようもない悲しみをなくすことができるのではないか」と思い、サイカを立ち上げました。音楽はやめたくなかったんですけどね。
統計分析を使うと、ヒントがある状態での意思決定が可能に
起業してからはお客様に統計分析のコンサルティングを提供したり、企業の方が自分たちで簡単に統計分析ができる「adelie(アデリー)」や「Rockhopper(ロックホッパー)」というプロダクトを開発しました。
統計分析は、すべてのビジネスで活用できる手法だと思っています。その価値は、客観的事実をテーブルに乗せた上で議論ができることにあります。これは、車でドライブに行くことを想像するとわかりやすくなります。
「統計分析ができていない状態」は、カーナビ、スピードメーター、オイルメーターがない状態でドライブをするようなものです。目的地への経路もわからなければ、到着時間も予測できていない。いつ車がガス欠で止まってしまうかもわからない。個人の勘や経験に依存した、危険なドライブになります。
一方で、「統計分析ができている状態」だと、カーナビ、スピードメーター、オイルメーターがある状態でのドライブになるので、目的地にどのような経路で行けば良いかわかりますし、到着予想時間もわかる。
また、オイルの残量もわかるのでガソリンスタンドにいつ寄れば良いかもわかる。安心感を持ってドライブできますね。
このドライブ=経営と考えると、統計分析がどのようにビジネスに活かせるかがわかりやすいと思います。もちろん、ドライブの行き先を決めるのは人間なので、統計分析ですべてが解決するわけではありません。
ただ、ヒントがある状態で意思決定できるというのが大きいんです。事実を数値で明確にした上で、はじめてシャープな議論や意思決定ができますよね。このように、統計分析は営業、マーケティング、採用など、様々なビジネスで勝負をするための準備に活用することができます。
分析ステップの最初に、スピーディーな目的設定→課題の抽出を
統計分析をビジネスに応用する上でまず重要なのは、分析の手法を知ることより、ステップをしっかりと回すことです。
そのステップは、目的の設定、問題意識の抽出、仮説の立案、データの抽出、分析、解釈、巻き込み、実行、になります。実際に統計分析の手法を使うのは、全体のステップの中の一部分にしかすぎません。
では、実際にあった広告代理店の事例でこのステップを見てみます。まずは目的の設定。これは例えば「クライアントの新商品をオウンドメディアで認知させる」といった感じで設定されます。ここで、重要なのは目的を自分事にすることです。
ビジネスの現場では「売上を上げる」などの大きな目的は決まっている場合が多いので、それをもっと自分の業務レベルにまで具体化すると、事実に目を向けて分析をすることができます。
次は、問題意識の抽出です。これは「オウンドメディアへの流入を増やすために、指名検索を増やしたい。ただ、テレビCMやオフラインのマス広告が指名検索にどのくらい効果があるかわからない」といった内容です。
問題意識の抽出の方法は色々ありますが、それまで事業を運営してきた中で日々データが出ているはずなので、そこからスピード重視で考えるのがいいと思います。
目的を要素に分解し、仮説を立て、分析へ
次に仮説の設定ですが、「指名検索」という目的を分解することから考えます。指名検索という成果に影響する要素は、①TVCMのGRP(TVの広告出稿ボリューム)、②OOH(出稿金額)、③リスティング一般ワード(imp数)、④ディスプレイ広告(imp数)、⑤動画広告(view数)などに分解できます。
成果を説明するに足る要素をなるべく漏れなく、そして重複なく挙げていきます。その上で「テレビの広告出稿ボリューム(GRP)は指名検索と連動しているはずだ」という仮説を立てます。
そして、それぞれの要素に関するデータを抽出し、分析する。ここでやっと統計分析の手法が出てきます。テレビの広告出稿ボリュームが指名検索に与える影響を明らかにするために、指名検索数と先ほどの①〜⑤の要素を用意します。
このデータをもとに、指名検索数に各要素がどのくらい影響を与えているか、ということを重回帰分析という手法で分析をします。
普通に分析をしても、指名検索数とTVCM(GRP)の相関関係は見られませんでしたが、「TVCM(GRP)の効果は遅れて出てくる」という仮説を持っていたことで、3日後の影響を算出し、相関関係を見つけることができました。
その結果として、「テレビの広告出稿ボリュームに関しては1GRPあたり検索数が3.487回増える」「OOH(出稿金額)に関しては影響なし」「リスティングに関しては1impあたり検索数が0.014回増える」「ディスプレイ広告(imp数)に関しては影響なし」「動画広告に関しては1viewあたり検索数が0.014回増える」といったことがわかりました。
重要なのは分析の手法ではなく、問題意識を持って仮説を作ること
この分析を受けて、指名検索を1増やすために必要な広告出稿量を計算して、広告単価をかけて優先順位をつけました。そして、結果として「相関が見られない広告や費用対効果が低い広告の予算配分を減らしていく。」という意思決定を顧客に促すことができました。
ここまで分析されていれば、納得感を持って意思決定や実行ができますよね。
これまで見てきたように、統計分析をビジネスに応用するためには、細かい知識よりも一連のステップをぐるぐる回していくことが重要です。その中でも特に、問題意識を持って仮説を作ることが一番のキモになると思います。ここで99%決まると言っても過言ではありません。
実際に分析をする部分はできる人が沢山いるので、その人達にお願いすればいいんですよ。 つまり統計分析は「理系の人にしかできない世界」というわけでは全然なくて、始める時に本を読んで学習する必要もありません。それよりは今まで以上に事業と向き合って、問題意識や仮説を持つことが重要です。
ぜひ多くのビジネスパーソンに、統計分析を使って意思決定のヒントを得て欲しいな、と思います。(了)