- 株式会社クレイジーワークス
- 代表取締役 総裁
- 村上 福之
「バズる記事はカネにならない。PVとか見るな!」8年間のブログ運営から見えたもの
今回のソリューション:【ブログ】
〜次々と新しいWebサービスを生み出し続け、かつ大人気ブロガーでもある村上総裁。「バズる記事は誰かを傷つけていることも多い」8年間のブログ運営を通じて得たものとは〜
アルファブロガー・アワード2010を受賞し、現在もITmedia オルタナティブ・ブログなどに記事を寄稿するたびネット界隈を賑わせる、「総裁」こと村上 福之さん。
自ら次々に新しいWebサービスを生み出すエンジニアである村上さんのブログには、同業者を中心に熱烈なファンも多い。
村上さんがブログ執筆を開始したのは、2008年のこと。「あまりにも暇だった」「営業に行きたくなかった」という理由から始めたという「村上福之の『ネットとケータイと俺様』」。
同ブログはインターネット界隈への考察や批判を発信することで人気ブログとなり、2012年には加筆・修正を加えた「ソーシャルもうええねん」というタイトルで書籍化され、Amazon総合ランキングで1位も獲得している。
過去には「社会の悪い人」についてブログから発信し、結果的に炎上も体験している村上さん。今でもマイペースにブログ執筆を続けているが、以前とは向き合い方も変化しているのだと言う。
「バズる記事は誰かを傷つけていることも多いし、仕事にもつながらない」と語る村上さんに、これまでブログを通して得たものや、今後についてお伺いした。
「社長=怪しい」というイメージから、「総裁」を名乗るように
2007年3月にクレイジーワークスを創業して「総裁」を名乗り始めたのですが、そんなに深い意味はないんですよね。たしかテレビを見ていて、日銀か自民党から発想したんですけど。
当時は第一次起業ブームで、「社長」が多かったんですよ。起業家の交流会も多くて、そこに行くと、みんな「起業しようよ」と言う人たちばかり。
その時は大阪にいたせいか、そういった場所で出会うビジネスもちょっと怪しくて…英語教材とかパソコンを高額で売りつける、みたいな。個人的に「社長=怪しい」というイメージがあったので、とりあえず怪しくない社長ってどう呼べばいいんだろうと考えて、「総裁」にしたという感じです。
プログラミング自体を始めたのは小学生の頃で、親がゲームを買ってくれないから自分で作ってみたことがきっかけですね。お年玉でファミリーベーシックを買って、本屋で立ち読みしてプログラミングを覚えて。
当時は小学生の子供がちょっとゲームを作ったら、大人は「すごい!」という反応じゃないですか。今だと、もうそんなに注目されないですよね。
別にプログラミングが好きかと言われると、そうでもない…。今はなんか辛くて…40近くなってきて、介護保険入らなきゃだし、年金もないし。
働き方を問う前に、生き方を問うみたいな。Facebookで「いいね」が押されると、なんとなく承認欲求が満たされて満足して、これでいいかなぁ、っていう感じなんです。
ビジネスコンテストで入賞し、上京。「暇だから」始めたブログ
キャリアの最初は、母が「寄らば大樹の陰」と言ったので(笑)、ちゃんと仕事をしようと思って、関西の大手家電メーカーに就職しました。5年務めて退職し、オーストラリアにワーキングホリデーに行き、独立技術永住権を取得して帰国しました。
その後フリーランスで仕事をしていた時に、自作の動画配信システムで経済産業省のビジネスプランコンテスト「DREAM GATE GRAND PRIX 2007」で2位に入賞しました。それをきっかけに、GMOインターネットの熊谷社長に東京に呼んでいただいて。2007年にクレイジーワークスを創業しました。
ブログを始めたのは2008年ですが…理由はまぁ、暇だったから(笑)。当時はあんまりいい仕事がなくて、することがなかったから、ブログを書いたんです。東京に来たのにすることもないし、友達もいないし。でも1人だから飯は食える。暇だから、書き始めたんですよね。
ブログが結果的に、営業につながったことも
最初は、思ったことをそのままぶつけていたという感じです。変なものを作っては公開していましたね。例えば、ファミコンソフトを携帯電話向けに変換してくれるツール。
ファミコンのログファイルをアップロードすると、QRコードが出るんですよ。それをガラケーでカシャッとすると、いきなりゲームが始まっちゃうという。
これ楽しいね!ひゃっほー!という感じで公開していたら、当然ですが発売元の企業から怒られて。そんなことをしていたので当時のブログは閉鎖になって(笑)、今はITmediaで書かせていただいております。
あと、ブログを始めたのは、あまり営業に行きたくなかったということもありますね。東京に来たばかりの頃に、何度かいわゆる商談に連れていってもらったのですが、何か…全然楽しくなくて。いきなり知らない人に会って「何か仕事ください」って言ってまで仕事欲しくないなって。言われたものをそのまま作るのも楽しくないし。
ブログを書いていたら結果的に、楽しい人が寄ってきてくれて、仕事をくれる人も現れまして。僕のキャラクターを理解した上で仕事をくれるので、ちょっと怪しくて面白い仕事がたくさん来るようになりましたよ。
社会の「悪い人」を、ブログから発信できることが楽しかった
2012年に「ソーシャルもうええねん」という本を発売したのですが、それを書く前あたりが一番楽しかったです。「ソシャゲーの闇」みたいな、ちょっと社会をつつく記事を書くのが面白かった。
ブログを使うと、悪いことをしている人のことを世の中に発信できるので。最初は「やらなきゃいけないよね」という気持ちが強かったです。
ブログやSNSで募金を募る活動もしていたのですが、それも同じような発想からです。災害などで被害にあった地域に募金を集めて、届ける。東日本大震災がきっかけになって、その後はタイやフィリピンにも、直接お金を持って行きました。
####▼以前はブログを通じた募金活動も。
もともと僕の母の家系は代々、材木屋をしているのですが、寄付が好きというか。商売人は儲けたら「お金にならないけれど必要とされている」お寺や福祉施設のような場所にお金を持っていくことが務めだ、という教えがあって。
そういうの大事なんだなぁ、と小さい頃から感じていたんですよね。Webを使えば人件費もかからないし、経費も削減できる。そこを適正化したいという気持ちもありました。
最近はちょっと、募金は辛くなってきたかな…本当に役に立っているのか悩んでいて。特に日本の地方だと、「もらってやるぞ」的な感じもあるし。たとえ300万円を集めても、自宅が全壊した人からしたら、それじゃ家は建たないじゃないですか。
道路も1mも直せないですよ。他に何かできることないかな、って今いろいろな人と話しながら考えています。
バズる記事は人を傷つけていることもある。PVはもう見ない
ブログの反応を測るものとしては、僕は最近はもう、PVは見ていないです。PV至上主義になると、作品性はドブに捨てられるし。一番最初は見ていましたが、PVはリアルタイムで変わるので、だんだん病んでくるんですよね…。
PV中毒になっているメディアの中には、目が死んでいる人もいますし。東京砂漠だなぁなんて思います。
しかも意外と、バズる記事は仕事につながらない。バズるものってちょっと攻撃的だったり、時事的だったりするので、誰かを傷つけていたり、嫌な思いをさせていることも多いです。
個人的には、時間はかかるしあまりバズらないけど、「作ってみた」系が精神的には一番安心。仕事にもつながりやすいかなと思います。
結局、他社のサービスについてとやかく言っても仕方ないのかなって。批判って誰にでもできますしね。やっぱり内容がしっかりしている「作ってみた」系の方が、PVは少なくても仕事につながるという実感はあります。
「同じものをうちにも作ってほしい」とか「そのサイトごと買いたい」というご提案をいただくと嬉しいですね。
Webの世界では、記事は「読まれる」のではなく「見られる」
昔はブログで、「はてな氏ね」とか言って楽しかったんですけどね。今はあんまり、人の悪口は書かないようにしています。キリストも「人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである」って言ってるし。結局僕は、はてな作れないし。作った人のほうが偉いよなぁって今は思います。
メディアの世界も変わってきましたしね。生産性の低い仕事が増えて。Webメディアなんて、明日は忘れ去られるような記事を毎日、一生懸命に量産し続けるみたいな。
死にそうな顔して書いている人も、たまに見かけます。それで500万PV稼いだって、なんかね…。辛いですよね。読者もSNSでシェアされた記事を見ているだけで、「これが誰の記事か」って認識してないし。
Webで伸びる記事と、雑誌に書く文章は全然違います。雑誌の場合は作品性を問われるので、最後まで美しく持っていくように書かないといけない。
でもWebの場合は、タイトルが本当に命。僕自身もブログを書く時は、「どうせ僕の文章を最後まで読まないだろう」と思っているので、上の方に画像を入れたり、早めにオチがつくようにしています。
中身は何でもいいわけではないですが、もはやWebの場合、読者は「読む」のではなくて「見て」いるんだと思います。その中でも「読まれる」メディアが、今後は生き残っていくんだろうなと思いますけどね。
これから先、ブログはどうしようかなぁ。もうみんな書いていて、あまりアイデンティティーを感じないですよね。若い子はそもそも文章を読まないし…。
インスタグラムもちょっとやってみたんですけど、全然フォロワーが増えない。でもやっぱりSNSでのコミュニケーションは僕の承認欲求を満たしてくれる部分はあるので、何かの形で続けていくとは思いますね。(了)
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