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「血の通った科学」を人事に。サイバーエージェント・人材科学センターの試みとは?

〜サイバーエージェント「人材科学センター」の、人事を「データ・ドリブン」にする取り組みの全貌を公開〜

人事の領域でもデータの活用を進める「HRTech」の潮流が広がってきている。「感覚」に頼りがちな採用や人事異動を、データに基づく客観的なものに変え、PDCAを回せるようにしようという試みだ。

さまざまな先端的な取り組みで知られる、株式会社サイバーエージェントも、2015年1月に「人材科学センター」を設置。自社開発ツール「GEPPO(ゲッポー)」を用いて、社員の「適材適所」の実現のためのデータを分析している。

GEPPOの情報を閲覧できるのは、役員とキャリアエージェント(適材適所・専門チーム)のみに限定されている。

そして同センターでは、社員の職歴や実績、評価のみならず、毎月のアンケートを通じて、社員の自己評価や趣味にいたるまでのデータを一元化。そのデータを、「Tableau」や「エクセル」でレポート化し、「適材適所」な人材配置に役立てようとしているという。

今回は、同センターで働く向坂 真弓さんに、その「人材科学」の試みについて、詳しくお話を伺った。

人事のデータ活用のために設立された「人材科学センター」

私は、新卒でサイバーエージェント(以下、CA)に入社して、広告代理店事業で8年ほど営業とマーケティングを担当していました。

その後、一旦退社してフリーランスで仕事をしていたのですが、2016年1月に、5年ぶりに戻ってきて、この人材科学センターにジョインしたという形になります。

人材科学センターは、CAの役員たちが事業案や組織案を提案してバトルする「あした会議」から始まったものです。

弊社は単体正社員でも2,000人以上が在籍しているのですが、この規模になっても、人事異動や採用をほとんど感覚で決めていた部分がありました。

例えば、新卒3年目で活躍している社員がいるとして、彼らの入社面接の時の評価がどうだったか振り返る、といったことをしていなかったんです。そうすると、面接での評価方法も改善されないですよね。

このような状況は良くないということで、きちんと人材に関するデータを一元管理し、採用や人事の判断をデータに基づいた「科学的」なものにすることで、「適材適所」を実現しようと、この人材科学センターが立ち上がりました。

「人」はデータだけでは判断できない!「血の通った科学」を目指す

ただ、「データ」「科学」といっても、人のことを数値データだけで語るのは危険です。弊社としては、「血の通った科学」「湿り気のある科学」を目指していこうとしています

まずは人間の「感覚」を大事にしつつ、その裏付けとして、データを少し添えるぐらいのイメージです。

その意味で「科学」とはいっても、「データサイエンティストがテキストマイニングを使って、ビッグデータをガリガリ分析」ということとは少し違うのかなと思っています。

個人をデータにもとづいて分析すること自体が目的なのではなく、個人の能力を引き出し、組織成果を高めることを目的に置いています。特にCAは「本人の意思」を尊重する文化もあるので、その背景を踏まえて、できるだけ1人ひとりの「意思」を吸い上げられるような仕組みを作っています。

そのための手段のひとつとして、自社開発の「GEPPO」をはじめとしたシステムを利用し、人事データの収集・管理を行っています。

そのような人事DBには、社員の前職、社内での職歴、評価などのデータが集められていて、私たちキャリアエージェント(※人事担当者)が、それらをすぐに閲覧できるようになっています。

自社システムGEPPO 自己評価と他者評価の食い違いから、課題を発見

人材科学センターの役割は、個人の意思や意向をその他の情報をかけあわせて様々な切り口で分析し、見えてきたことを経営層に伝えて、組織内での適材適所を行うことです。

具体的にはまず、GEPPOを使って、全社員2,000人強に月1回のアンケートを実施しています。その時々にあわせて必要な質問をしていますが、必須項目として毎回用意しているのが、その月の自己評価を「快晴・晴れ・曇り・雨・大雨」で回答する項目です。この部分に関しては、回答率は9割を超えています。

そして各社員の自己評価と他者評価を掛け合わせて、エクセルやTableauを使ってマッピング・可視化しています。例えば、新卒の「自己評価」と「トレーナーの評価」を見比べる、といったことですね。

こうしたレポートは役員会に提出され、人材配置の材料のひとつとして活用されています。

例えば、本人は「晴れ」で自分は成長していると評価しているのに、トレーナーの評価が芳しくない場合、相性問題など何か課題があるのではないか、などと考えることになりますね。

アンケートの回答や自己アピールを、人材の発掘につなげる

このような課題発見の他にも、人材の発掘・抜擢も行っています。弊社では、各事業部から「こんな人が欲しい」という要求がひっきりなしにやってきますし、新規事業も多いので、そこに人を割り当てる必要があります。

ここでもGEPPOが役に立ちます。社員の前職や職歴のデータがあるので、この人の経歴なら、この事業に合うのではないかという提案ができます。

例えば、過去に趣味についてGEPPOで尋ねたことがあって。そのときに「釣り」と答えた社員を、新規のコンテンツ事業で釣りコンテンツの責任者に推薦する、といった使い方を想定しています。

GEPPOでは、社員の回答内容に合わせて自由に「タグ付け」ができるんですね。先ほどの釣り好きの例であれば、「釣り」というタグをつけておくことで、後からでもすぐに検索ができます。

データを使って「検証」することでPDCAを回す手助けを

もうひとつ取り組んでいるのが、データを使って人事や採用の成果を検証することで、PDCAを回す手助けをすることです。

例えば、弊社では新卒採用の最終面接時にS・A・B・Cという評価をつけています。

ただ、実際にデータを調べてみると、入社半年や1年で成果を上げられているのは、入社時はピカピカの評価を得ていたSやAの学生でも、2割ほどなんです。つまり、面接の評価と実際の成果が必ずしもリンクしていない。

この結果に基づいて、今後は、面接だけではなく、インターンや内定者バイトなど、実際に働いている姿をもっと評価する仕組みを作っていこうという動きが始まっています。

つまり、データを集めて「検証」を行うことで「改善」をする動きが始まっています。人事や採用でPDCAを回すことに役立てるようになってきているんです。

フリー回答・コメントはすべて人が読み込み、アクションする

また、社員へのアンケートでは、フリー回答のコメント欄を必ず設けています。毎回、2割ほどの方が書いてくれているんですよ。

ここが特に人材科学センターの「血の通った」ところだと思っているのですが、フリー回答の部分は、キャリアエージェントが全部きちんと読み込んでいます。その中で、悩みがありそうであれば返信した上で、面談を設定したり。

やはり、「人」のデータですので、たった1行にその人の人生が詰まっていると思うんです。それに対してのアクションも、きちんと「人」がすべきだと思うんですよね。

このような姿勢のおかげか、以前GEPPO上で「GEPPOどうですか?」みたいな質問をしたら、「キャリアについて相談できるので助かる」「言いたいことが言える場があるのがありがたい」など、暖かい言葉をいただけて。

「毎月入力がめんどくさい」「書いて意味あるんですか」みたいな辛辣な言葉がくるかと思っていたこともあって、とても嬉しかったですね。

今後は実績を積み重ねて、「経営判断に使われる科学」を目指す

とはいえ、こういった試みはまだ始まったばかりで、私としては、まだ会社に十分なインパクトを与えられていないと感じています。

今後は、さらにデータの集積と分析を進めて、実績を積み重ね、最終的には、人材科学センターの提案に基づいて、人材の採用や抜擢が決まるような、「経営判断に使われる科学」を目指したいと考えています。(了)

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