- 株式会社ネットマーケティング
- 管理本部 人事総務部 シニアマネージャー
- 宇田川 奈津紀
データベースを嗅ぎ分けろ!通称メスライオン、「Webマーケに学んだ」採用術とは?
今回のソリューション:【ダイレクトリクルーティング】
〜ITベンチャー人事界隈に彗星のごとく現れた「メスライオン」こと宇田川 奈津紀さん。ダイレクトリクルーティングを中心に、その採用のノウハウと哲学を語り尽くす〜
社員数100名強のベンチャー企業、株式会社ネットマーケティングで「4ヶ月で20名を採用」した実績から、現在ではイベントなどにも引っ張りダコの、宇田川 奈津紀さん。
採用担当者から直に候補者にスカウト文を送る、ダイレクトリクルーティングという「肉食」な採用手法を得意としているため、ついたあだ名は「メスライオン」。
今回は、そんな宇田川さんに、「Webマーケティングに学んだ」という、採用についての基本的な考え方、そしてユニークかつ徹底的なダイレクトリクルーティングのノウハウと哲学を、存分に語っていただいた。
トップ営業から、「人が止まる企業を作る」人事へ転身
新卒では、旅客乗務員になりました。安定した仕事だったのですが、「私は私!」という考え方の自分にはあまり合わなくって…。
そこでドロップアウトして、人材派遣の会社に営業職として入社しました。そこでは上司に「ザ・営業!!」を叩き込まれましたね。目標必達は勿論のこと、トップ営業マンの発言力の強さを見せられました。本当に、メンタルが鍛えられましたね(笑)。
そのおかげで、トップ成績を取れるようになって。それで、その当時、勢力を伸ばしていた大手人材系と介護会社を運営する会社から、ヘッドハンティングの声がかかったんです。
介護事業の責任者になり、「私、結婚なんてしなくていい!東証一部上場のこの会社で、経営陣の椅子が欲しい!世の中を動かす様なサービスを考えるメンバーの一員になってやる!」なんて思っていました。
ところが、とある事件で、会社は一夜にして大暴落。最後には、解散してしまいました。
私は、そのときの最終的な原因は、「人」にあったと思っています。
私は当時27歳でしたが、この流れを止められなかった自分のマネジメント能力のなさを悔やんで…。こんな事になってしまってお先真っ暗でしたし、本当に「死」も意識しましたね。
そんなときに、ある経営者の方に、「企業は人がすべて。だから企業の『企』は『人が止まる』と書くんだ。あなたのように企業が崩れる瞬間を知っている人が、人が止まる企業を作ってほしい」という言葉をかけてもらったんです。
その言葉が「会社が人から崩れた」という自分の経験とすごく響き合って…。もう一度だけ、今度は企業のなかの「人」に関わるプロフェッショナルとして、人事の仕事でがんばってみようと思ったんです。
それ以来、人材系の会社やIT企業などで、人事の仕事をしてきました。
「採用はマーケティング!」、Webマーケから採用の基礎を学ぶ
私は、「採用はマーケティング」だと思っています。実際、私は採用の基礎を、現場のWebマーケティングから学んだからです。
Webマーケって何か、というと、単にWebサイトを作っただけでは人が来ないので、SEO、リスティング、Facebook広告…さまざまな手段を使って、集客をすることですよね。
あるとき、Webマーケのディレクターに「Webマーケって、いろいろメニューがあるけど、どうやって戦略を組んでるの?」と聞いたら、「それぞれのメニューで訴求できるターゲットが違うから、自分たちの欲しいターゲットに合わせて使い分けている」と言われて。
採用も同じだ、と思ったんですね。単に会社を作っても人はこないので、人を集めるために、こちらが欲しい人のタイプに合わせて、さまざまなチャネルやサービスを使い分けていくことが必要だと。
さらにWebマーケでは、A/Bテストでメニューを最適化したり、さまざまな数値データで効果検証して、メニューの組み合わせを改善したりすることが当たり前ですよね。
でも、これを採用でしっかりやっているところは少ない。私はこの手法を、採用で実践しようと思ったんです。
A/Bテストや効果検証の発想を取り入れ、採用をロジカルに
そこで、まずは自分で、世の中にどんな採用媒体、どんな紹介会社、そしてどんなダイレクトリクルーティングのサービスがあるのか、メニュー表を作って、効果検証をしていきました。
媒体を例にしていえば、「リクナビネクスト」で、何月から何月まで、こういう原稿枠で募集を出して、結果として何名応募がきて、何名が一次面接を通って、何名が内定にいたったか、全部データを取っていきました。それを次は「DODA」でやる。
これを繰り返していくと、営業職だったらどの媒体、管理部門ならどの媒体っていう適性が見えてきます。さらに、どれくらいの時間とお金をかければ欲しい人が採れるのか、つまり、WebマーケでいうCPAがわかってきます。
すると、採用の提案がロジカルにできるようになります。データをもとに、「このポジションには、このふたつの媒体が有望です。こちらの方が早く採れ、募集要項はこのサイズが一番訴求できますが、お金がこれぐらいかかります。採用予算から見るとこちらが良いと思いますがいかがでしょうか?」
といったような、具体的な提案できるようなるんですね。
「データベースを嗅ぎ分けろ!」サービスごとの得意分野を知る
いまでも、媒体、人材紹介などの採用戦術を使い分けていますが、特に力を入れているのはダイレクトリクルーティングです。ただその中にも色々なサービスがあるので、それぞれの得意分野やデータベースの特徴を見極めることが大切です。
私は経験則から、デザイナーやエンジニアなどのクリエイティブ系なら、まずは「Poole(プール)」か「Green(グリーン)」のデータベースを開きます。そのあとで弊社サービスの「Switch.(スイッチ)」。
逆にIT系営業マンだったら、まずはSwitch.、その次にDODAリクルーターズを見ます。こういったサービスを使ってデータベースの調査をし、市場感を理解します。
その上で自分が見ているデータベースでは母数が足りないという時はリクルートのNプロプランナーに連絡をし、データベースの状況を伺い戦略を一緒に練って「リクナビネクストプロジェクト(Nプロ)」を動かします。
こうして、欲しい人材に合わせて、開くデータベースを変える。私はこのことを「データベースを嗅ぎ分けろ!」といっているんです。「メスライオン」にぴったりの言い方ですよね(笑)。
成功の鍵は、テンプレではない、思いを込めたスカウト文
データベースを開けたら、次はこちらの欲しい条件でセグメントしていき、ターゲットを絞っていきます。
一番やってはいけないと考えているのは、何百人もの候補者に一度にテンプレのスカウト文を送ることです。
私も初めてダイレクトリクルーティングを行ったときは、テンプレ文を使ったこともありました。けれど、それではほとんど内定にはつながりませんでした。
そこで、A/Bテストだと思って、今度は1人ひとりにしっかりと向き合ったスカウト文を書くようにしたら、驚くほど成果が出たんです。
それ以来、心構えとしては、最初からたったひとりだけを探すつもりで、ぎゅっと条件を絞り込んでいます。そうしてセグメントされた候補者に、しっかりとカスタマイズされたスカウト文を送る。
この方法の場合、条件に合う候補者はなかなか見つかりません。それをなんとか探し出すのが、人事の仕事だと思っています。
ダイレクトリクルーティングって、基本的には、工数のかかる辛い作業で、ほとんど自分との戦いなんですよ。「もうデータベースにはいないのかな…、辛いな、でももう少し頑張る!きっといるはずだ!」と葛藤しながら進むんです。
母集団形成の道のりを計ると辛いかも知れません。私は、内定までの道のりを描き、自分のモチベーションをアップさせています。
そうしてようやく候補者が見つかったら、もうテンプレ文を送るなんてありえないじゃないですか。「あれほど多くの中からたったひとり、あなたを見つけた」。それはもうほとんど、運命の人です。その気持ちを込めて、スカウト文を書いています。
インスピレーション・オリジナリティ・プライオリティが大切
私のスカウト文は、長いときには1,500字ほどにもなり、1日で3通しか書けないといったこともあります。平均でも、1スクロールで読むことができる600字ほどは書いていますね。
内容としては単刀直入に「お会いしたいと思っています」と書きます。それで相手の経歴のどこに惹かれて、どうして会いたいと思っているかを説明していきます。
スカウト文を書くときにポイントは、「インスピレーション」「オリジナリティ」「プライオリティ」の3つだと考えています。
まず、人の心を動かそうとしているのですから、いろいろな言葉に触れて、人の心を揺さぶる文句をストックしておく。私自身は、太宰治や芥川龍之介といった純文学にインスパイアされることが多いです。多くの人の心に響く文章を生み出す秘訣は、文豪が持っていると思うからです。
ただ、単なる受け売りではダメです。必ず、自分自身のオリジナリティを加えて、血の通った言葉にする。
そして、最後に、一番重要なのがプライオリティです。相手の経歴をじっくりと読み込んで、「なぜあなたが必要なのか」「なぜあなたに会いたいのか」を徹底的に語るんです。これだけで、驚くほど返信が来ますよ。
スカウト文が起こした奇跡、会社のブランディングにもつながる
過去の奇跡的なスカウト例のひとつをお話すると、「20代日本人、IT業界経験あり、英語・中国語・韓国語を実務で経験している人」という難しい条件での採用を依頼されたときのことです。
データベースに、条件に合う人はたった6人しかいなくて。でも「6人もいる」と考え方を変えて、いつも以上に心を込めたスカウト文を送ったら、6人中5人から返事が返ってきて。その中から現場の思想と合致した人がピンポイントで決まりました。
また、このようなスカウト文は、候補者の方の記憶に残るんですね。
先日、私が以前の会社でスカウトさせていただいたものの、ご縁を持つ事ができなかった方に、以前の事は何も語らず、渾身のスカウトメールを送ったんです。
そうしたら、あちらが私のスカウトの内容や面接でお話したことを覚えてくださっていて。今回は、良いご縁につながったんですよ。
「返信がこないからって、めげちゃいけないんだ」と思いました。既読スルーだと考えるから、辛くなるんです。それぞれの事情があり、返信ができない状況だと考えるようにしました。
たとえ返信が来なくても、心を込めて書いたスカウト文は、どこかで記憶に残っている。言い換えると、その一通のスカウト文面からだって、会社のブランディングはできるんですよ。
面接に来てくれた人の中には「僕の友人も宇田川さんからスカウトをもらったんです。こんな事書かれたら受けたくなるよな、って言ってました」と伝えてくれる人もいました。
大切な事は、渾身の想いを込めたスカウトをどれだけの人に送れるか、ということなんです。
採用は、相手の人生を左右する仕事であることを忘れない
最後に伝えたいのは、採用は相手の人生を左右する仕事だということです。
採用をしていると、どうしても自分たちのことに目がいって、人が足りない、とにかく採用できればいい、と考えがちです。でも、採用は相手に対し、人生を決める決断の選択肢を与える仕事だということも忘れてはいけないと思います。
そうすると、まず採用に「嘘」があってはいけないはずです。さらに、相手の経歴や考え方が、どうして自社に合うのか。自社が相手に対してどんな機会や経験を提供できるのか、相手と徹底的に向き合って、考え抜く必要があります。
だから私は、スカウト文や面接の中に「いまあなたが理想と現実の間で悩んでいることはなんですか」といった問いかけを入れることがあります。
こうして問い続け、相手の本当の関心を理解することで初めて、嘘のない、相手にとっても会社にとっても、本当に良い結果をもたらす採用ができると考えています。(了)