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Ingressユーザーに愛される、伊藤園のファン作りの秘訣とは

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〜老舗飲料メーカーの伊藤園が、スマホゲーム「Ingress」とコラボ。コミュニティに寄り添ったファン作りで、売上を2桁増やした事例〜

2016年7月にNiantic, Inc.からリリースされた、「Pokémon GO(ポケモンゴー)」。

その原点とも言える、同社のスマートフォン向け位置情報ゲーム「Ingress(イングレス)」はそのゲーム性を活かし、企業のマーケティング施策としても注目を集めている。

そこに目をつけたのは、「お〜いお茶」などの飲料で知られる、株式会社伊藤園。同社は、商品協賛として参加したIngressのイベントで、そのコミュニティの質の高さに驚いたという。

Ingressを良いゲームにしていくため、ときに社会貢献まで行うユーザーたち。そのユーザーたちに影響を受け、伊藤園は、売り上げではなく、ユーザーのことを第一に考え、コラボキャンペーンを作り上げていった。

今回は、Ingressユーザーに徹底的に向き合い、応えていった同社の大楽 泰督さんに、コミュニティにおけるファン作りの姿勢について、お話を伺った。

▼ Ingressの「ポータル」になっている、伊藤園の自販機

位置情報ゲーム「Ingress」とのコラボレーションを実施

私は伊藤園に入社後、数年間はルートセールスをしていました。自販機の補充や、店の陳列といった業務もしていたのですが、その中で次第にマーケティングに興味を持ち始めました。

伊藤園の大楽 泰督さん

同じ陳列面積でも、違う形に並べるだけで人の動きが変わって、売れ方が全然違うんですよ。そこで実績を作り、販売促進部を経て、現在では「お〜いお茶」などのマーケティングを担当しています。

弊社は自販機を各地に設置していますが、実は、自販機って結構マーケティングができるんです。POPひとつだけでも、売り上げが大きく変わりますし、全部好きなようにできる自分たちの店舗のようなものです。

そのマーケティング活動の一環として、弊社では「Ingress(イングレス)」という、スマートフォン向け位置情報ゲームとコラボレーションしたキャンペーンを実施しました。

▼「Ingress(イングレス)」では「ポータル」と呼ばれる拠点を取り合って遊ぶ

7,000本配ってゴミが2本!Ingressファンの誠実さに社員が感動

Ingressは、青と緑のチームに分かれて、「ポータル」と呼ばれる陣地を取り合うゲームなのですが、弊社のコーポレートカラーも青と緑なんです。

これは運命じゃないかという話になり(笑)、2015年の3月に、まずはIngressのイベントで商品協賛をすることになったんです。京都で開催された、5,600人くらいが集まるイベントでした。

そのイベントでは、青色と、緑色のパッケージの「お〜いお茶」を配りました。7,000本くらいお渡ししたのですが、驚いたことにそのとき会場で出たゴミが、僕の知っている範囲ではペットボトル2本だけだったんですよ。

藤園の大楽 泰督さん

それだけでなく、イベントが終わった後のアフターパーティーでも、「伊藤園さん、1日お疲れ様でした」と声をかけてくれたんです。普通のサンプリングイベントだと、みんな黙って取っていくだけなので、社員も感動して。「この人たちはちょっと違うぞ」と感じたんです。

単なるゲームを超え、強いコミュニティを持つ「Ingress」

Ingressって、ポータルの申請から、すべてユーザーが作り上げていく仕組みなんです。その分、自分たちが育てたという意識が高く、リアルな「コミュニティ」ができています。

自分たちで作り上げたゲームなので、どうしたらもっと良いものになるかというのを、みんな考えていて。「パトロールしながらIngressをしよう」とか「清掃活動をしながらIngressをしよう」という風に、自主的に動いているんです。

その意味では、Ingressって、もう単なるゲームじゃないんですよね。位置情報ゲームってよく紹介されていますけど、もうそのレベルを超えちゃっているんですよ。ゲーム内のレベルは16が最大なんですけど、そのレベルに到達した人たちも多いんです。

それで僕、「レベル16になった後って、続けるモチベーションが下がるんじゃないですか?」と、聞いたんです。すると、「そんなことない!」と。「コミュニティーがあるから、みんなで集まって飲める」と言うんです。

世界観を崩さず、「伊藤園、良くわかっているな」とSNSでも好評

このように、ゲームに対する愛着を持ったユーザーと、そこから生まれる強いコミュニティ。集客力もあり、マナーを持った社会性のある人たちが集まる。そういった点が魅力的に映って、この人たちを喜ばせることができたら、何かが起こるかもしれないと、直感したんです。

自販機では、30代以上の大人の方がメインターゲットとなっているので、Ingressユーザーとも相性が良いと思いました。

そこで、2015年8月から自販機とのコラボレーションも始めました。コラボをする上では、「自分がIngressを好きになること」「世界観を絶対に壊さないこと」「Ingressのユーザーが喜ぶことを、第一に考えること」「Ingressをもっと広げていくこと」の4点に気をつけて、できるだけ企業色を出さないようにしました。

キャンペーンで置いた伊藤園のポータルも、普通の自販機をポータルにするのではなく、何か意味のあるものにしたかったんです。そこで、災害対応自販機や、売り上げの一部を寄付するような自販機およそ2000台をポータルに設定しました。そうすることで、Ingressの世界観を壊さないようにしました。

▼実際に用意された自販機

すると、ユーザーはすごく喜んでくれて。「今まで自販機に興味が無かったけど、わざわざ歩いてまで買いに行くようになった」という声や、「これがきっかけで災害対応自販機を認知することができた」という声をいただけたんです。「伊藤園、良くわかっているな」と、SNSでも反響がありましたね。

売り上げが2桁上がるも、「ユーザーのため」を貫く

キャンペーンでは、お茶を買ってくれた人に、アメリカでしか手に入らないレアアイテムを配布しました。すると、ユーザーの方がみんな根こそぎ買ってくれて。

それと同時に、自販機の写真がSNSにアップされるようになったんです。「伊藤園のポータルができた」「キャンペーンが始まった」と。中には「俺が売り切れにさせてやったぞ」というユーザーも出てきて、それに続く人も現れました。

また、売り切れになっても、弊社のセールスがすぐに補充するので、「神対応だ」とも言われていました(笑)。

キャンペーンの結果、対象商品の売り上げは2桁も上がったんです。ただ私たちは、キャンペーンの目的を「売り上げ」だけにしたくなかったんです。

そこで、Ingressのユーザーがボランティアで実施している、FS(ファーストサタデー)というイベントに協賛させてもらいました。このイベントは、上級者が初心者のレベル上げを手伝うのですが、ユーザーがボランティアでやっているため、参加者へのフォローに対して、主催者も困っていたんです。

そこで、来てくれた人に「お〜いお茶」と「黄金烏龍茶」を商品協賛したところ、イベント主催者の方々も、凄く喜んでくれました。

飲料を販売する機能を無くしても、効果は後からついてくる

いま、お台場と仙台に「XM-Profiler(エキゾチックマター プロファイラー)」という、ポータルの状況を立体視できる機械を置いています。これも、最初は「自販機を光らせるか」という企画から始まったのですが、最終的には、飲料を販売する機能を無くしてしまったんです(笑)。

会議で「販売機能を無くしました」と言ったときには、みんな絶句していたのですが、せっかくコラボレーションするならユーザーのことを第一に考えたいと思って。そしたら、中途半端なことをしたくないなら「伊藤園ロゴも外したほうがいい」と驚くべき発言が社内から出て、結局、伊藤園ロゴもはずしました。

そのXM-Profilerをイベントで発表すると、ユーザーはみんな大爆笑してしまって(笑)。僕としては、「かっこいいの作ってくれたね」と喜んでもらえると思ってたんですが、逆に「そこまでやってくれて、大丈夫なのか?」と心配されてしまいました。でも、ユーザーは「伊藤園、最高」と言って、Twitterでつぶやいてくれたりしたんです。

ユーザーにどうやって喜んでもらえるかということを考え抜いたら、自然とこういう形になって。気付くと、ブランディングとプロモーションの両立が成功している状況でした。

よく売上とか、競合とか、そういうことばかり考えがちじゃないですか。でも、いちばん重要なお客様のことを、見ているようで見ていない場合って、あると思うんです。 そうでなくて、お客様の事を心底考えていれば、おのずと売り上げにも跳ね返ってくるのかなと思います。(了)

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