• 株式会社ヤッホーブルーイング
  • 代表取締役社長
  • 井手 直行

ファンの熱狂は、社員の熱狂から!ヤッホーブルーイングの、「どん底」からの組織づくり

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〜ファンの熱狂を生み出すためには、まずは社員の熱狂から。ヤッホーブルーイングの、ファンを魅了する組織作りに迫る〜

2016年5月、晴天の北軽井沢のキャンプ場に、クラフトビール「よなよなエール」のファン総勢1,000人が集まった。このイベントの名は「よなよなエールの超宴in新緑の北軽井沢(以下「超宴」)」。1泊2日で行われた超宴は、ビールのみならず、音楽やキャンプ、ワークショップなどを楽しめる、本格的なアウトドアイベントである。

▼イベントに集まった総勢1,000人のファンとスタッフたち

そして、大の大人が無邪気になって楽しんだこのイベントの裏には、ヤッホーブルーイングの熱狂的な社員たちの姿があった。ファンとおしゃべりを楽しむ社員に、ウルトラクイズでチームを盛り上げる社員…。

同社は2017年現在、12年連続で増収増益を実現しているクラフトビールのトップメーカーだ。しかし、はじめから順風満帆だったわけではなく、「どん底」の期間があり、今に至るのである。

個人プレーで、売り上げを達成しても「面倒な仕事が増える」という反応だったこの組織が、ニックネームでお互いを呼びあい、自らがファンを熱狂させる起爆剤となるまでに何があったのか。

今回は、ヤッホーブルーイングの代表を務める井手 直行さんに、社員の熱狂を生み出す組織作りについて詳しく伺った。

熱狂的なファンが生まれる、よなよなエールのこれまで

私はヤッホーブルーイングというクラフトビールメーカーの社長を務めています。1997年に創業した会社で、現在の従業員数は138人くらいになります。

弊社はクラフトビールメーカーではあるのですが、ファンとのイベントも多く、「超宴」というファンイベントから醸造所見学ツアーまで様々です。そしてイベントの日には、社員もファンも一緒になって、ニックネームで呼び合いながら楽しんでいます。

▼Facebookに寄せられた交流イベントの感想には、「スタッフ」を賞賛する声が

そして、最近では「ネオ三本締め」という、ファンとスタッフが一緒になって、新しい「三本締め」に挑戦する動画も出していたりするのですが、もともとはこういった雰囲気の会社ではなかったんです。

▼ファンとスタッフが一緒になって創り上げた動画「ネオ三本締め」

売り上げが上がっても、盛り上がるのは2人だけ

弊社は2004年くらいまではあまり上手くいかない時期が続いていて、お互いが疑心暗鬼になったり、社内の雰囲気がどんどん悪くなり、多くの社員が辞めてしまいました。

その後、業績自体は、楽天市場に出店した店舗の売り上げを中心に伸びていったのですが、僕が社長に就任した2008年も、まだその名残は残っていて。

楽天市場を担当していたのは、僕とあづあづという女性でした。彼女は僕が直接採用して、僕の思いに共感してくれた前向きな子だったので、売り上げが上がるといつも僕ら2人だけが盛り上がっていたんです。

でも、周りの人はシーンとしていて、逆に僕らが売り上げを上げて注文が増えると、「こんなに忙しいと困る」「残業が多くなった」ということを言われてしまい…。誰も、喜びを分かち合えないような雰囲気でした。

三木谷さんらに感化され、大きな目標を掲げるも…

そこで転機となったのが、楽天市場のイベントで、IT企業の経営者さんたちと交流したことでした。楽天の三木谷さんたちとも接点があったのですが、彼らは「売り上げ10倍を目指す!」といったように、本当に高い目標を目指していて。

▼ヤッホーブルーイング代表 井手 直行さん

それを受けて僕も、「10年後には売り上げを20倍以上にして、ビール市場の1%を取る」という目標を掲げたんです。でもメンバーは白けていて、星野佳路(親会社である星野リゾートの代表)も「そんな夢物語はやめておけよ」といった反応でした。

僕はすっかりIT業界の人に感化されていたので、本気でその数字を目指していました。そして、今のように2人だけが頑張る状況では、やがて限界が来るとも感じていたんです。

チームビルディングを、急成長のための最優先の課題に

そこで、楽天市場の経営者仲間で話題になっていた「チームビルディングプログラム」を導入することにしたんです。これは、座学やアクティビティを通じて、チームで1つのことを成し遂げる難しさやプロセスを学ぶものになります。

プログラムで実際にどういったことを行うのかについては、あまり具体的な例をあげてしまうと、これから受ける方の種明かしになってしまうので、抽象的な内容だけお伝えしますね。例えばアクティビティでは、1つのお題に対し、それをクリアするためにどうしたら良いかを皆で相談しあい、くぐってみたり、またいでみたりというミッションをクリアしていきます。

僕は40歳にして、試しにこの講座を単独で受けました。そして、「無理だと思えることをチームで実現していく」体験に衝撃を受けたんです。

そして、「今のヤッホーブルーイングには、一刻も早くここに注力することが一番大事だ」と思い、7人のメンバーに向け、業務扱いとして3ヶ月の研修を実施したんです。ビールの繁盛期だった時期に半数近くの社員が仕事からごっそり抜けたこともあり、他の社員からの不満の声もたくさん上がりましたが…。

しかし、結果的には参加してくれたメンバーが、僕と同じような感覚を持ってくれていたんです。そして、各部署に散らばった彼らは、チームで働く素晴らしさを自分たちで率先して行っていました。

それまで受け身だったのが前のめりになり、以前は1人でやっていたことも2人、3人で行うようになりました。その後、彼らの取り組みが過去にないくらい成果を出し始めたんです。もちろん、本人たちも楽しそうで。これを3回実施する頃には、だんだん今のヤッホーブルーイングの雰囲気に近づいてきましたね。

それに伴い、チームビルディングが落ち着いた2010年以降は、売り上げが急成長しています。

▼チームビルディングが落ち着いた2010年以降、売り上げが急上昇

一枚岩になるため、会社の方向性を定める

しかし、チームの重要性を学んでも、会社の拠り所とするものがなければチームは1つになれません。そこで、まずはミッション、ビジョンを上位概念から1つひとつ作っていきました。

▼ヤッホーブルーイングのミッション・ビジョン

次に決めていったのが組織文化です。これは、僕らの当たり前を作っていくような感覚です。例えば「フラット」という文化は、社長とユニットディレクター(部長職)とプレイヤー(一般社員)はただの役割でしかないと。現場の人の方がよく知っていることもあるし、立場に関係なく一緒に議論することが大切だと考え、定めていきました。

その後が、「価値観」の設定です。「社員は家族」「顧客は友人」などといった行動の前提となる決まり事を作りました。お客さんに「ははーっ」とするのではなく、尊敬しながらも一緒に楽しむ仲間だという感覚が、ヤッホーブルーイングの価値観なんです。

そして、最後に作ったのがヤッホーバリューです。

▼ヤッホーブルーイングが大切にしていくことが明示された「ヤッホーバリュー」

会社が何を大事にしているのか、というところを考えていったんです。でも、これは最初から決まっていたわけじゃなないので、既にいるメンバーの一部からは「そんなことを求めてきたんじゃない」という反発の声も上がりました。

納得して残ってくれたメンバーもいる一方で、「やっぱりこんな会社は嫌だ」と去っていく人もたくさんいて、正直辛い時期でしたね。

でも、組織が同じ場所を目指して一枚岩になるには、途中で辞める人がいることも受け入れなければなりません。

一方で、その後新しく入って来た人は、バリューに共感した熱狂的な状態で入ってきました。「僕らで日本のビール文化を変えたい」「ビールだけでなく、楽しいことを提供していきたい」といった話に、どんどん魅力的な人が集まってくるようになったんです。

ファンとの交流も、組織のチームビルディングと同じ

こうした社内のチームビルディングは、ファンとのコミュニケーションにも徐々に活かされていきました。

僕らのやっているファンとの交流イベントも、要するにファンとチームビルディングを初期状態からやるのと同じなんです。

初対面の人に、プライベートのことを突っ込んで聞けないじゃないですか。だから、ファンとも最初のうちは、こちらが誘導しながら、それぞれが自然と交流できる「自己紹介タイム」を取っています。

▼ファンとスタッフがビールを片手に、まるで友人のように打ち解け合う

あとは、ファンに必ず「ニックネームを書いた名札」をつけてもらっています。他にも「チーム分けしてクイズ大会をする」といったアクティビティを通じた交流もあり、例えば「超宴」では、夕方くらいにはみんな結構仲良くなっています。夜には1,000人のファンとスタッフで、キャンプファイヤーでマイムマイムを踊ったり。

「ファンと一緒に楽しむ」姿勢で、コアなファンを増やしていく

ファンを増やしたいと思って、打算的に「こうしたら喜ぶんじゃないか」というニーズを調査してみても、そこそこ満足度は上がると思います。でも、僕らのように「友人であるファンと一緒に楽しむ」という前提だと、スタッフ同士がギクシャクしていたりビジネスチックだと、ファンは冷めてしまうと思うんです。

僕らの場合には、まずは僕らスタッフが楽しんで、それをお客さんに「一緒に楽しみましょう」と分かち合うスタイルを取っています。こうやって、本当にお客さんの事を考えて巻き込むことで、よなよなエール好きのファンが少しずつ増えてくださっているんだと思います。

今後もファンと一緒になって、バラエティ豊かな新たなビール文化を創り、ビールファンにささやかな幸せをお届けしていきたいと思います。(了)

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