• 株式会社FiNC Technologies
  • 執行役員 VP of Engineering 兼 プロダクト本部 技術開発部付
  • 清水 隆之

半年でeNPSが30ポイント改善!FiNCの、エンゲージメントを高める組織の作り方とは

〜エンジニア組織崩壊の危機から脱却!課題の洗い出し・組織戦略の策定・エンゲージメント向上施策まで、FiNC Technologiesの組織立て直しプロセスの全貌〜

社員のエンゲージメントを高めるために、大切な要素は何だろうか。

FiNCアプリなど、ヘルスケアの予防領域で数々のサービスを展開する株式会社FiNC Technologies。

同社では、2017年の末にかけて多くの事業を立ち上げる中で、エンジニアに負荷がかかり、組織の課題が顕在化してきたという。

その立て直しを図るため、2018年4月に「本音」ベースの課題ヒアリングを実施。組織戦略を策定し、1人ひとりと徹底的に向き合うコミュニケーションでその戦略を浸透させていったそうだ。

そして、発信・採用・社内改善の3軸による「循環」を図示化。その起点を社内改善の「エンゲージメント向上」に定め、各要素をピラミッドの形で体系化し、情報の透明化、組織カルチャーの醸成などの施策を次々に実行した。

その結果、従業員のロイヤリティを図る指標であるeNPSが、半年で約30ポイント改善したという。

今回は、同社のVPoEで組織開発の責任者を務める清水 隆之さんに、組織の立て直しプロセスの全貌について詳しくお伺いした。

複数事業の同時立ち上げ・拡大!エンジニア組織の立て直しを図る

僕は、2014年に中途でFiNCに入社しました。当時はゼロから法人事業を立ち上げていた頃で、エンジニアとしてサービス開発のリードを2年ほど務めていました。

その後、プロダクトマネージャーを経て、2018年の初めからエンジニア全体の組織周りを担当しています。同年11月からは、その役割を明確化してピープルマネジメントにより注力するため、VPoEに就任しました。

弊社には現在、業務委託・インターンも含めて50人ほどのエンジニアが所属しています。組織体制としては、FiNCアプリやFiNCモールといったサービス別のチームと、データやAIといった事業部横断のチームで構成されています。

毎年、少しずつエンジニアも増えてはいたのですが、特に2017年夏から年末にかけて4つの事業・サービスを同時に立ち上げることになって。その事業を成長させていくために、全員でアクセルを踏んで開発しなければならなかったんですね。

ですが、そのスピード感の中で大きな負担がかかったり、他にも不満の声が上がってきて…。

組織を立て直す必要があったのですが、最初はそもそも何が課題かもわからない状態で。「責任は持ったけど、どこから手をつけたらいいんだろう」といった心境でしたね。

「リファラルできるか」という質問で、本質的な課題をヒアリング

そこでまず、課題の洗い出しを2回に分けて実施しました。

初回は、テックリードやマネージャーといったリーダー層のみを集めて、「リファラル(知人紹介)をできるかどうか」と「(できなければ)その理由」を書くというシンプルな問いにしました。

というのも、組織に不満がある状態だと、自分の知り合いを会社に紹介しようなんて思わないじゃないですか。なので「課題を出してください」と伝えるよりも、より本音の回答を得られると思ったんです。

そこで出てきた課題に対してさらに議論を深めるため、2回目は全メンバーを対象にして有志を募り、ミーティングを開きました。

会議室に集まり、少人数のチームに分かれてあーだこーだ言いながら洗い出しをした結果、かなり全方位的な課題が出てきましたね。

▼実際の課題洗い出しを実施したシート(2回目)

例えば、「経営陣とのギャップを感じる」「組織カルチャーが薄まってきている」「ユーザードリブンに開発できていない」といったものがありました。

ここでは、「いかに本音を聞き出すか」を一番意識していました。というのも、本質的な部分にきちんと向き合わないと、結局制度を整えたところで何も変わらないと思っていて。

そこで、「上司とか部下とか関係なく、みんな同じ立場で考えて、後腐れナシで思うことを自由に議論しよう」と予め伝え、ミーティングに臨みました。

すると、やはりそれぞれに課題感や思う所がすごくあって、「何とかしたい」という気持ちを持っていたことがわかって。会議だけでなく、1対1で飲んでめちゃくちゃ語り合ったりもしました。

今振り返ると、この徹底的に向き合うコミュニケーションが、その後の組織戦略を浸透していく上で一番重要だったように思います。

組織戦略は、「発信・採用・社内改善」の3軸の循環を回すこと

そうして課題を洗い出した後は、次に組織戦略を立てました。

まずは「どこを目指すのか」という目標を設定した上で、そこから「ゴールと現実のギャップをどう埋めるのか」を戦略に落とすことが重要だと考え、着手していきました。

目標設定においては、最終的なゴールである「予防×ヘルスケア×テクノロジー領域で世界No.1になる」ために、どのようにマイルストーンを置くかが重要でした。

というのも、抽象度が高すぎると、メンバーが目指すべき道が伝わりづらくて。なので、目標を大きく長期・中期・短期として、短期的には「特定のベンチマーク企業よりも選ばれる組織にする」といった目標をおきました。

ですが、そこから戦略を立てる上で難しかったのは、結局、短期ではなく中長期的にいい組織にしたいと考えた時に、内向きの話だけではないんですよね。

つまり、社内改善(社内)、発信(社外)、そして採用(候補者)という3軸・3つのターゲットにアプローチして、良い循環を生むことが中長期的には大切で。

この組織戦略をメンバーに論理的に伝え、納得してもらうため、関係を図示化しました。

▼図示化した組織戦略のシステム(赤:社内改善、橙:発信、緑:採用)

例えば、「社内改善」により社員がモチベーション高く働き、実績を出すことで、社外への「発信」に繋がります。それがブランディングとなり、ファンができることで最終的には「採用」にも貢献する。

この有機的な循環を回すには、必ずどこから始めるかを決める必要があります。その最初に着手すべき部分を、全員で議論していきました。

エンゲージメント向上の土台は、情報の透明性とカルチャーの浸透

議論を重ねた結果、3軸の中でも「社内改善」から着手する方針に決まりました。人が育つ組織を作り、そこにトップレベルの人が集まってくる循環をいかに作るか、ということにフォーカスしようと。

結局、エンジニアってどの職種よりも流動性が高くなりがちなので、「FiNCに所属する意味」をもっと高めていくことが大切だと思っていて。

その打ち手を考えるため、抽出した課題を参考にしながらエンゲージメントを高める要素を分解し、「エンゲージメント・ピラミッド」にして整理しました。

▼エンゲージメント・ピラミッド


はじめに着手したのは、ピラミッドの土台となる「情報の透明性」や「組織カルチャー」の部分です。

というのも、弊社のエンジニアは元々自ら思考して動きたいタイプが多いので、そういう人達にとっては「会社の動きがよく見えない」という状態が一番のネックになってしまっていて。

なので、表層的な課題よりもまず、情報の透明性を徹底的に高めることから、代表取締役CTOである南野とともにコミットして取り組んでいきました。

5月に方針を打ち出した後、人事に関わるコンフィデンシャルな情報以外は、なるべくパブリックにしていきました。例えば会議の議事録や検討資料などは、すべてScrapboxというドキュメント管理ツールで共有し、誰でも見られる状態に変えました。

また、元々「promise」というエンジニア組織の行動指針はあったのですが、よりカルチャーとして浸透させるためには、1人ひとりの共感が必要だと思っていて。

その共感軸を作って行動を促進するため、「promise voting」という取り組みをマネージャー主導で始めました。これは、エンジニア全員が月1で集まるランチで、promiseに合致した行動をした人を事前投票し、その場で表彰するというものです。

またその後、この取り組み以外でも、各promiseや行動指針に見合った行動に対しては積極的に感謝を伝えるような取り組みを始めたことで、どういう行動が賞賛されるのかが可視化されていきました。

とにかく何度も言う、露出する、コミュニケーションする。こうした基本的なことが情報の透明性やカルチャーの浸透などピラミッドの土台となる部分の改善で最も重要でしたね。

パーソナルな要素は、現場マネージャーとの連携で補完する

さらに上のレイヤーには、「Attractive job(魅力的な仕事かどうか)」「Skill & Carrier Building(スキル&キャリアアップになるか)」といった、よりパーソナルな要素があります。

これらの要素は特に、現場のマネージャーと協力して1人ひとりときちんと向き合うことが大切です。

各チームでは1on1を実施し、各人の志向性を確認した上で、必要なインプットやアウトプットの機会をサポートするようにしています。

また、経営層やマネージャー間の連携は、週1の頻度でミーティングを開き、事業・技術・組織の3パートを分けた形で密に情報共有をしています。もちろん、この情報も全員が見られるようにしています。

組織には僕より優秀な才能をもった人もいるので、VPoEの役割はそのタレント選手に頑張ってもらうための部活のマネージャーみたいなもので(笑)。必要な情報は、誰でも取りにいけるように心がけています。

最上段のWhyのところが擦り合っていれば、自分たちで考えて動いてくれるので、信頼して任せていますね。

戦略目標のカギは「アウトプット」。発信回数を増やすことが大事

このようにエンゲージメントの土台を作った上で、発信・採用・社内改善の循環を回す取り組みを全員で進めてきました。

その中でも、一番の核となるのが「アウトプット」です。これは、技術ブログの公開や勉強会の開催、カンファレンスへの登壇などを指します。

アウトプットは戦略上の重要指標にも置いていて、質よりも今は「量」を重視しています。というのも、自らが考えて発信する回数を大事にしたいからです。

結局、自分の中の知識を整理してまとめるというプロセス自体が、その人の能力を高めていくので、個人の成長に繋がるんですよね。

またキャリアの面でも、社外に出せるようなアウトプットがあると評価されます。それが溜まっていけば、企業や個人のブランディングにも繋がるので、自然とエンゲージメントが高まっていくんです。

社内改善をし、個々の発信も増えていけば、自然とFiNCで働くことに興味をもってくれる人も増えていきます。

今では、エンジニアはどこでも引っ張りだこで。組織として必要なことと、個人がしたいことをしっかりクロスさせながら戦略的に組織を作っていくことを、個人的にとても大事にしています。

半年でeNPSが30ポイント改善!FiNCの組織が注力する3つのこと

こうして、4月から組織改革に本腰を入れて、夏以降から少しずつ雰囲気が変わってきました。そして半年経つと、行動ベースでの変化が出てきて。こちらから言わなくても、自然と登壇やブログでの発信が増えてきたんです。

実際に、今年の3月と9月にそれぞれ取ったeNPS(※)の数値を比較してみると、その差は明らかでしたね。

※eNPS:従業員版のNPS(Net Promoter Score)。従業員のロイヤリティを測る指標。

「あなたは職場を友人・知人に勧めたいと思いますか」という質問に対し、5段階評価で選択してもらったのですが、この半年で「非常にそう思う」「そう思う」と回答した人の割合が18%増えたんです。

図は、偏差値化した場合の分布で、偏差値50以上の、相対的に良い回答をしている割合が増えていることがわかります。eNPSスコアでいうと、約30ポイント改善しました。

※NPSスコアの算出方法について、詳しく知りたい方はこちら

特に、マネージャーよりもメンバー層のポジティブな変化が顕著で、組織に対してのエンゲージメントが高まっていることが定量的にも現れていました。

今後も、トッププレイヤーが生まれる・集まる組織を作っていくためには、3つのことに注力していきたいと考えています。

1つ目は、技術投資をきちんとしていくことです。戦略目標にしているアウトプットが増えれば増えるほど組織が良くなっていく確信を持っているので、その機会をより支援していこうと考えています。

2つ目はブランディングの部分で、やはりFiNCの中が良くても外に伝わらないと勿体ないので、きちんと発信していきたいと思っています。

最後に、非常に大事なのが、才能あるエンジニアをどう仲間にしていくかという部分です。

そのためには、優秀なエンジニアに機会と報酬を与えられる組織になる必要があると思っていて。仕事も面白いし、フィードバックも十分もらえるような体制を整えていきたいと考えています。

そして、組織戦略のサイクルをきちんと回していくことで、より強いエンジニア組織を作っていきたいと思います。(了)

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当媒体SELECKでは、これまで600社以上の課題解決の事例を発信してきました。

その取材を通して、自律的な成長を促す「伴走型のマネジメント」が、組織づくりにおいて重要であるという傾向を発見しました。

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