- 株式会社VOYAGE GROUP
- 代表取締役社長兼CEO
- 宇佐美 進典
新規事業は「打席に立つ数」が重要。柔軟に変化させる、VOYAGE GROUPの事業開発
〜「利益額成長」と「粗利成長率」で事業を16ステージに分類。VOYAGE GROUPが新規事業を開発するプロセスとは?〜
参入障壁が下がり続ける、インターネットビジネス。その飽和化が進んだことで、新しいビジネスを成功させる難易度は高まっていると言える。
そもそも、失敗する可能性の方が高い「新規事業」において、投資と撤退の基準の定め方は、経営者にとって悩ましい点だ。
そんな中で、2010年以降、約70もの新規事業を立ち上げているのが、アドプラットフォームやポイントメディア事業を展開する、株式会社VOYAGE GROUPだ。
同社では、粗利や営業利益の「利益額成長」と、その成長率である「粗利成長率」で、事業を16のステージに分類する、「JIGYOPRO」という独自の仕組みで、すべての事業を評価しているという。
ただ一方で、同社代表取締役社長兼CEOの宇佐美 進典さんは、「制度はあくまでもナマモノで、時代や環境に合わせて変えていくべきもの」と語る。
今回は宇佐美さんに、「JIGYOPRO」が生まれた背景や、事業開発において大切にしている点について、詳しくお話を伺った。
7年間で70の新規事業に取り組む
VOYAGE GROUPは、人を軸にした事業開発会社です。アドプラットフォーム事業とポイントメディア事業の主軸ビジネスに加え、新規事業にも積極的に取り組んでいます。現在は主に、人材・EC・フィンテックなどの領域に注力していますね。
数で言えば、2010年以降、約70の新規事業を立ち上げ、沢山の失敗も経験しました。
例えば2010年頃に、スマホが伸びていくタイミングでもあったので、スマホアプリをどんどん作っていく子会社を立ち上げました。
そこにリソースも人も、かなり宛てて取り組んだのですが、結果的には大きく当たるサービスが生まれなくて、会社ごとクローズさせてしまったり…。そういった経験を糧に、新規事業の作り方は常に進化させています。
これまでの数々の失敗から、投資判断を「柔軟」に考えるように
事業開発を進める中で大切にしていることは、目標や投資期間・金額、撤退基準などの指標を、それぞれの事業特性に合わせて、柔軟に考えるということです。
例えば、ひとつの事業への投資ラインも、以前は「半年で累損3,000万円以内」のような基準を設けていましたが、最近では事業ごとに設定しています。
と言うのも、特にここ2、3年、新規事業を成功させる難易度が非常に上がっていると感じています。インターネットビジネスは、ほぼほぼ必要そうなサービスは出揃ってきており、新しい事業を展開できる白地がどんどん減ってきているんですよね。
また、スタートアップが資金調達をしやすい環境にもなってきているため、大企業だからと言って有利ということでもなくなりました。
このような状況ではそもそも、投資判断を画一的に行うのではなく、事業によって個別に、柔軟に行うべきだと考えています。
利益額成長と粗利成長率で事業を16ステージに分類
こういった背景のもと、会社の経営管理に加え、事業の成長を見える化するために「JIGYOPRO」という仕組みを設けています。
縦に粗利額もしくは営業利益額、横に粗利成長率をとって、事業を全部で16のステージにプロットし、それぞれが今どのステージにいるのか、ひと目でわかるようになっています。
▼事業を16のステージにプロットする「JIGYOPRO」のイメージ図(編集部作)
(※補足)粗利成長率は前年度の同3ヶ月間の数値と比較(例:「2017年4-6月」と「2016年4-6月」)
まず、最初のステージでは、利益ではなくMAU(※)などのKPIを追います。それをクリアすると、3ヶ月ごとの粗利額で500万、1,500万円と、ラインが上がっていきます。
(※)MAU:「Monthly Active Users」の略。月あたりのアクティブユーザー数を示す。
そして粗利額が1,500万を超えると、指標が営業利益へと変わり、5,000万、1億円をラインに区分されます。
また、横軸にある粗利成長率は、前年と直近の3ヶ月を比較し、15%未満、15%~30%、30%以上という形で分類しています。
売上ではなく、粗利を採用しているのは、事業の形態によって粗利率が全く異なるためです。
どの事業も、最初はJIGYOPRO上で言うと左下から始まり、まずはだんだん上にあがっていきます。そしてその後、「利益は出ているけど成長していない」という事業が出てきます。
そういった事業は、表の中で左に寄っていきます。ですので、経営判断としては、右上に出てきている「利益が出ていて、成長率も高い事業」をどうドライブさせていくか、ということを考えていくことになります。
「撤退ライン」を握り合うのは大切だが、画一化はしない
それぞれの事業の目標は、通期で立てますが、3ヶ月ごとにどんどん見直しをかけています。
目標の立て方は、事業によって異なります。例えば「市場が年率100%で成長しているので、120%を目指す」という風に市場の成長率にあわせて考えることもあれば、責任者の性格が反映されて、常に右肩上がりになっているケースもありますね。
ただ共通しているのは、事業をスタートする時に、そのチームメンバーと経営陣の間で、「撤退検討ライン」を決めることです。
目標と投資する金額を決めて、「このタイミングでここまでいかなかったら、撤退を含めて検討しよう」ということを握り合っています。
とは言え、この「撤退ライン」も、絶対的なものではありません。と言うのも、どうしても想定外のことが起こるので、「もう少し見なきゃわかんないよね」という状態もありえるからです。
そういった場合には、改めてラインを引き直します。撤退においても柔軟な考え方が大切であり、最初に設定したバーに固執し過ぎず、場合に応じて、「おかわり」は必要かなと考えています。
一方で、予め撤退へのラインを握っておくことで、撤退時に「納得感」が生まれやすい、ということもあります。
事業開発において一番の失敗は、それをやっていた人たちが辞めてしまうことです。事業を撤退することより、その経験をした人たちがいなくなることの方が、会社にとっては辛いことなんですよね。
実際、過去に事業から撤退するときに、関わっていた人が辞めてしまうこともありました。
たとえきちんと予算を決めていても、それが責任者レベルにしか伝わっていなくて、運用がうまくいかなかったり。コミュニケーションも取れておらず、最終的に、責任者以外のメンバーがぼろぼろ辞めてしまったこともありましたね。
その人たちに、別のミッションでまた活躍してもらうためにも、納得感のある形で撤退を決めることが非常に大切です。そのために、最初に目標ラインをしっかりと定めています。
「失敗」が圧倒的に多い事業開発。多くの打席に立つことが重要
このように、事業開発においては、JIGYOPROのような枠組みを作りつつも、個別の事業特性にあわせて、あくまでも柔軟な判断をしています。
でも、今の形がベストではないと思っています。やはり環境が変われば、このJIGYOPROのやり方自体も見直して行かなければありません。制度そのものが、「ナマモノ」という感じですね。
やはり、新しいことを百発百中で当てるのは難しいので、どちらかと言うと、たくさん打席に立ってバット振ることを大切にしています。空振りすることを恐れてバッターボックスに立たないよりは、まずそこに立って、バットを振ると(笑)。
その回数をこなしていく中で、結果として成功確率も上がってきます。短期的に見ると失敗したな、うまくいかなかったな、ということだったとしても、その経験自体がマイナスになるわけではなくて、次に必ず生きてくるので。
ただ、最も重要なことは、やはり責任者の熱量です。気持ちが折れている人に、いくら「頑張れ」って言っても絶対に無理なので。
やはり、事業を作るのは人なので、それぞれが情熱や納得度を持てる組織作りを、今後も進めていきたいですね。(了)
※下記の記事で「新規事業」をテーマに、SELECKで取材した事例をまとめて紹介しています。ぜひ、ご覧いただければと思います。