- 株式会社デンソーアイティーラボラトリ
- CTO、博士(工学)
- 岩崎 弘利
世界一でなければ意味がない!デンソーのソフトウェア技術を担う、組織の在り方
〜デンソーの技術革新を支える株式会社デンソーアイティーラボラトリ(ITラボ)。「デンソーらしくない会社を作ろう」をコンセプトにする同社の、世界一を目指す組織文化から、ディープラーニング活用の最先端まで、その内部に直撃!〜
世界屈指の自動車部品メーカー、株式会社デンソー。ハイブリッドカーや自動運転技術など、ソフトウェアの重要性が増していく中、デンソーグループの技術革新を支えているのが、株式会社デンソーアイティーラボラトリ(以下、ITラボ)だ。
最先端のソフトウェアを研究、開発することをミッションとする同社は、「デンソーらしくない会社を作ろう」というコンセプトを掲げている。伝統的な製造業に根付く「PDCA」をから脱却する、「生涯研究者」にこだわるなど、独自の文化が形成されている。
そのITラボに設立から携わっているのが、岩崎 弘利さん。現在は、デンソーの技術企画部に所属しながら、ITラボのエグゼクティブジェネラルマネージャー兼CTOを務めている。
今回は岩崎さんに、同社の「世界一の技術」を目指すための文化から、現在力を入れているディープラーニングの分野まで、詳しくお話を伺った。
最先端の技術を追い求める、デンソーの「IT ラボ」
私は新卒でデンソーに入社し、10年ほど本社のある愛知県で勤めた後、2000年にデンソーアイティーラボラトリ(以下、ITラボ)の立ち上げに参画し、現在まで勤めています。
ITラボのミッションは、デンソーグループの中でも、最先端のソフトウェア技術を研究、開発していくことです。先端のソフトウェア開発するためには、本社のある愛知県では人が集まらないだろうと、渋谷にオフィスを構えました。
いままでにも、ITラボで開発した技術から実際の製品に活用されたものが、いくつもあります。
例えば、前方の車との距離を測る「ミリ波レーダー」の信号処理も、ITラボで開発されました。
ガードレールや車などの、様々なものから反射してきたミリ波から、距離を計測するような技術です。具体的には、前方の車からの信号だけを高精度に分離する技術を開発しました。これは前方の車に自動的についていく機能などに使われています。
他にも、「NaviCon」という、スマートフォンで検索したレストランなどの位置情報を、カーナビに転送できるシステムのプロトタイプも開発しました。いまでは、国内のほぼ全てのカーナビに備わっている機能です。
最先端の技術を実現する4つの文化。「PDCA」はやめる?
ITラボの社長のコンセプトが「デンソーらしくない会社を作ろう」なんです(笑)。デンソーとは別の会社として、ある意味、勝手にさせてもらっているところも多いですね。
「らしくない」ことは、会社の文化にも現れていますね。「PDCAをやめよう」「オープン」「個人重視」「生涯研究者」という4つが、特徴的かもしれません。
製造業は昔からPDCAを重視していますが、PDCAって今をベースに将来を考えて、そのギャップを埋めることを考えましょうというのが基本的なコンセプトなんですよね。それはそれで正しいのですが、弊社では逆の考え方をしています。
「PDCAをやめる」ということはつまり、現状から「改善」していくのではなく、未来がどうなるのかというのを基点にして、そこからいま何をすべきかを考えていきましょうということです。
「オープンな環境」と、「個人重視」から最新技術は生まれる
また、積極的に良い技術は出していこうと、「オープン」にすることを推奨しています。企業の中の研究所って、ほとんどクローズドなんです。技術を自社で開発していくしかない。
私たちは、それとは異なる文化を持っています。オープンにすることで、技術を多様な視点にさらして高められますし、新たな協力者、新たなニーズを獲得することもできます。例えば学会の場を重視しています。画像認識の分野なら、おそらくどの企業よりも積極的に学会で活動していると思います。
最後に、「個人重視」「生涯研究者」ということを大事にしています。
ピラミッド構造にして、みんなの力を集結して頑張ろうというのが日本企業の文化だと思います。私たちはそうではなく、個人の能力を最大限に高めていくことを重視しています。マネージャーでもマネジメント業務半分、残り半分はプレイヤーとして研究を継続しています。個々の成果を重視する、フラットな環境を作っています。
ディープラーニング実用化の最先端!
最近力を入れているのはAI、ADAS(先進運転支援システム)・自動運転、IoTといった領域です。
AIでは、特にディープラーニングの領域に力を入れていますね。2006年ごろから関連技術の研究開発に取り組んでおり、2013年ごろからは、ディープニューラルネットワークを使って、歩行者など物体を短時間で認識する技術を研究しています。
ディープニューラルネットワークは様々な対象を、高い性能で認識できることが魅力です。この認識を自動車の事故防止に応用しようと、車載向けマイコンでリアルタイムに動作させる技術を開発しています。
またディープラーニングは、大量のデータから学習することで高い性能を発揮できることがわかっています。しかしデータが増えるとその学習の時間が膨大になります。すると製品化に支障がでてきてしまうため、学習時間を一桁高速化するような技術も併せて開発しています。
▼歩行者認識技術のデモ画面
世界一でなければ意味がない!技術を突き詰めて目指す世界とは
ディープラーニングは最近流行っていますね。しかし、実際はChainerやTensorFlowのようなライブラリを使っているだけの人が多いです。私たちは、ディープラーニングのアルゴリズム自体を開発しているため、ライブラリはベンチマークに使う程度です。
というのも、ITラボはデンソーの先端技術を作っていく会社なので、その技術は凄く良いものでなければならないんです。
簡単に言うと、世界一でなければ意味が無いんですね。世界2位だと、デンソー本社は世界一の技術を採用するので、ITラボの存在意義が無くなってしまいます。
「ある分野では世界一です」になるポテンシャルを秘めている人を集め、これまで積み上げてきた技術やデータを活かしながら、「交通事故のない社会」の実現を目指していきたいと思います。(了)