- 株式会社エイチーム
- 社長室 人材開発グループ アシスタントマネージャー
- 田中 翔也
新卒採用は「選考中に」回答期限を握り合う!内定承諾率を50%→80%に改善した方法
〜内定承諾の判断時期を選考中に握り合い、さらにコミュニケーションタイプの似ている社員との面談を通して、内定承諾率を160%改善した事例〜
学生にとっては一生に一度であり、進路の意思決定にどうしても時間がかかる新卒での就職。特に採用数が多い企業ほど、その内定承諾率をいかにコントロールするかは、重要なテーマになる。
名古屋発のITベンチャー企業、株式会社エイチームでも、地理的なハードルから内定承諾率は約50%に留まっていた。
結果的に多くの学生を集める必要が生じ、採用倍率は200倍を超え、多大な採用工数が発生していたという。
そこで、「告白の成功率」をヒントに内定承諾率と選考期間の相関を分析。すると、選考開始からある一定のタイミングを超えた場合、一気に入社率が下がる傾向を発見した。
この傾向を踏まえ、選考段階から進路を決める期日を学生と握り合い、さらにコミュニケーションタイプの似た社員との面談を通じて魅力付けを行う、という施策を実施。
その結果、2019卒採用では、内定承諾率が約80%に向上し、採用倍率も昨年比で半分以下にまで改善しているという。今回は同社で新卒採用を担当する田中翔也さんに、一連の施策についてお話を伺った。
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エントリー後の選考への移行率と、内定承諾率に課題感があった
エイチームは2000年に設立し、約850名の社員で「ヴァルキリーコネクト」をはじめとするスマホゲームや、引越し比較サイト「引越し侍」などを運営しています。
私は2017卒以降の新卒採用に携わっているのですが、エントリー数に対する入社率が低く、必要以上に採用工数がかかっているという課題を感じていました。
具体的には、2017卒は8,000名以上のエントリーに対して採用数が35名、2018卒は10,000名以上のエントリーに対して採用数が46名と、倍率が200倍を超える状況でした。
特に、エントリー後に受けてもらう適性検査の受験率は半分以下、最終的な内定承諾率は約50%と、最初と最後の移行率に大きく改善の余地があったんですね。
倍率200倍というのは、学生にとっては良い意味で登竜門的な印象をもってもらえるかもしれません。
ただ、2019卒では採用の目標人数を80〜100名と前年度の倍に掲げたため、単純に母集団を増やすのではなく、何とかこの移行率の割合を改善できないかと考えました。
そこで、過去のデータを踏まえて選考方法を見直すことにしました。
全説明会をオンライン化。伝えられる情報量が増え、移行率も改善
まず、エントリー後の移行率を改善するために、通常の会社説明会を廃止し、全ての説明会をオンライン化しました。
もともと、どのエリアの学生にも平等に情報を提供することと、採用チームの工数を軽減する目的で、2017卒からオンラインでも会社説明を受けられるようにしていたんです。
社風や事業概要がわかる「企業紹介動画」と、職種ごとの業務内容や働き方がわかる「職種別動画」の2種類を用意して、学生に見てもらっていました。
▼会社紹介動画
※職種紹介動画は、YouTubeのエイチーム公式チャンネルからご覧ください。
すると、通常の説明会に来た人よりも、オンラインで動画を見た学生の方が、適性検査への移行率と内定率が高くなっていたんですね。
職種別動画を用意したことで、時間の都合上、通常の説明会では伝えきれていなかった情報を学生に伝えることができ、理解してもらいやすくなったのかなと思います。
また、「何となく参加した」ような受動的な学生が減り、能動的に情報を得ようとする意欲の高い学生だけにエントリーしてもらえるようになったのかもしれません。
そこで2019卒採用から通常の説明会を廃止したところ、箱がなくなった分、エントリー数は減りましたが、適性検査への移行率は昨年比約2倍と大幅に改善されました。
工数の観点でも、準備と後片付けも含めて1回5時間かかる説明会を年間約30回開催していたので、採用チーム1人あたり約150時間を他の業務に使えるようになりました。
「告白の成功率」をヒントに、選考期間と内定承諾率の相関を発見
また、内定承諾率が低い原因としては、まずエリアの問題がありました。選択肢の多い関東の学生の内定承諾率は約30%しかなく、その他エリアの約70%に比べて非常に低くなっていたんです。
ただ、どうしても地理的な問題は解消できないので、目をつけたのが選考期間でした。
よく、就職活動=恋愛っていうじゃないですか。そこで恋愛に関する成功法則を探してみたんです。
その中で「告白の成功率」でググってみたところ、「出会ってから3ヶ月以内に告白すると、成功率が高くなる」という記事を見つけて。
もしかすると、これは採用においても活かせるかもしれない、そう思って昨年の採用データを見てみました。
すると、適性検査を受けた時点から経過期間が3ヶ月以内だと、内定承諾率は約70%でしたが、4ヶ月を超えると約20%と著しく下がることがわかりました。
学生は他社も受けているので、内定後の期間はこちらからの連絡に対するレスポンスも遅くなり、どうしても私たちが主導権を持つことが難しくなります。
その結果、時間が経ってから辞退されるケースが非常に多かったんですね。
そこで選考中の学生にあるタイミングで、「◯月◯日までに、進路の決定ができる覚悟があれば、選考を受けてほしい」ということを伝えるようにしました。
「出会ってから」でなく「意識し始めてから」の期間がポイント
エイチームの新卒採用は、通常の選考に加えて、インターンシップを経て面接を実施する特別選考があります。
※同社の選考については、こちらの記事をご覧ください。
人の魅力を武器に!年平均40%で成長し続けるエイチームの、人物重視の採用戦略
特別選考の場合はインターンシップと面接の間に実施するリクルーター面談で、通常選考の場合は最終面接の前に、進路を決める時期を握り合いました。
▼スケジュールのイメージ(画像は編集部で作成)
特別選考だと、仮にインターンシップが10月末に終わった場合、11月上旬にリクルーター面談を行い、そこで3ヶ月後の1月末までに意思決定ができるかを確認します。
そこから選考に進むかどうかを12月中旬までに判断してもらい、進む場合は2週間ほどで面接を実施して、可能な限り最終面接の当日に内定を出します。
「エントリーから」でなく「リクルーター面談から3ヶ月」としているのはワケがあります。
なぜなら、恋愛においても同窓会などで久しぶりに再会して付き合うことがあるように、「出会ってから」よりも「意識し始めてから」が大切だと考えたためです。
また、通常選考の場合は1ヶ月ほどで最終面接の前までの面接を実施し、最終面接に進む前のタイミングで、2ヶ月後の月末までに進路の意思決定ができるかを確認しました。
特別選考と違ってインターンシップによる魅力付けができない分、話をする時期を少し遅らせています。
進路の意思決定の確認は本音ベースで話す。選考の辞退者は20%に
また、伝え方としては「必要以上に悩ませて、足を引き留めたくない」「お互い無駄な時間を過ごしたくないよね」という話をしました。
その結果、当初は意思決定の確認をしてから最終面接に進む移行率を約60%で予測していたのですが、約80%の学生が選考に進みました。
期限設定について、2019卒の内定者に話を聞いてみたところ、「本音を言えば、もうちょっと待って欲しかった」という学生もいました。
ただ、大多数からは「特に問題はなかった」「企業と集中して向き合う時間をつくることが出来た」とポジティブな意見をもらいました。
実際、内定を出した学生の内定承諾率は80%となっています。
適性検査ツールを活用し、学生の「魅力付け」と「見極め」を実施
また、学生の魅力付けとして、性格の似ているリクルーターとの面談を設定するために、適性検査ツール「mitsucari適性検査」を活用しています。
このツールでは、その人の人物像を「結果重視 or 過程重視」「自己評価 or 他己評価」など計14の項目から、能力面ではなく性格面で理解することができます。
▼診断結果サンプルの一例
社員と学生に受検してもらい、その結果から性格を「感情をコントロールするor感情を豊かに表す」「意見を聞くor意見を主張する」の軸から4タイプに区分します。
そして、同じタイプの学生と面談をしてもらうことで、学生により親近感を持ってもらえるようにしています。
また、分析結果から、どのような性格の社員がエイチームで高いパフォーマンスを発揮しているのか? という傾向を知ることもできます。
mitsucari適性検査はそのデータから、「この学生は◯◯なミスマッチが生じるリスクがあるので、こういう質問をした方が良い」という面接のヒントを教えてくれます。
そしてその回答から、活躍しやすい社員の価値観と大きくズレていないかを確かめて、エイチームで活躍できそうな人材かどうかを見極めています。
さらに、営業・エンジニア・経理など、性格と職種の相性も見ることができます。
今後は、入社後のパフォーマンスが実際どうなったか? というデータを蓄積し、より配属先を意識しながら選考を進めていくことができればと考えています。
採用活動の生産性を向上させ、学生の魅力付けにも成功
このような取り組みの結果、2019卒の内定承諾率は、以前の約50%から約80%までに改善させることができました。
現在のところ、昨年比で約半数のエントリーに対して75名ほどから内定承諾をいただいており、最終的には80~100名の採用となる見通しです。
採用数は倍になっていますが、説明会を廃止してエントリー数が減ったことから、面接数はむしろ少なくなって、採用活動の生産性も高めることができました。
また、学生の魅力付けという意味では、内定者アルバイトの希望率も70%を超えているので、上手くいったという手ごたえを感じています。
今後もより良い方法を模索し続けて、エイチームで活躍できる学生を採用していきたいですね。(了)