- 公益社団法人京都市観光協会
- 広報・プロモーション課
- 小笠原 昌彦
1,500事業者の「観光のデジタル化」を推進!逆境に負けない、京都市観光協会の挑戦
〜まずは「話を聞いてみよう」と思わせることが鍵。事業者のITリテラシーに合わせた手段で地域を巻き込み、観光のデジタルシフトを支援する、京都市観光協会の取り組み〜
デジタル化の推進により多くの人々を巻き込むには、どのようなアプローチが有効なのだろうか。
京都市域において唯一、観光の振興を目的に活動する京都市観光協会(DMO KYOTO)。同協会は、新型コロナウイルスの状況を鑑みて、今年の3月から様々な施策を実行。
その施策のひとつである「デジタル活用支援パッケージ」では、事業者のITリテラシーや支援ニーズの違いがあることを考慮して、相手に合わせた手段によるアプローチを図ったという。
まずITに慣れていない層に対しては、電話やFAX、直接足を運ぶなどのアナログな手段を用いて、取り組みに対する理解や信頼を獲得。一方で、ITリテラシーの高い層に対しては、Facebookグループを使ったコミュニティやクラウドファンディングのまとめサイト開設などで、事業スピードを加速できるような支援を行っている。
一連の施策を通じて、事業者同士のつながりが強化され、お互いの知見を共有することができるようになったそうだ。
今回は、同協会の広報・プロモーション課に所属し、本プロジェクトを担当してきた小笠原 昌彦さんに、取り組みの全貌を詳しくお伺いした。
京都観光を守るため、新型コロナに対する施策をアジャイルに推進
私は、2019年4月に京都市観光協会に転職し、現在は広報・プロモーション課にて広報・デジタル統括官を務めています。
京都市観光協会は1960年に設立され、今年で60周年を迎えました。京都市域にあるお寺や宿泊施設、飲食店などが弊協会に登録しており、その会員数は現在1,500を超えています。
我々はいわゆる「DMO(※)」として、行政や関係団体との連携、事業者支援、国内外に向けた情報発信などを通じ、京都の観光振興を積極的に推進しています。2017年11月には、世界水準のDMOとされる「日本版DMO」に、2020年8月には「重点支援DMO」に観光庁より認定されました。
※DMO(Destination Management/Marketing Organization)…観光庁が認定する「観光地域づくり法人」のこと。
現在は、アルバイトを含む約100名の職員が在籍しています。中には、京都市役所や、旅行・交通などの関係会社から出向している者や、ホテルや航空業界、ITなどの分野で専門知識を持つ者もおります。地域との繋がりを持った人材と、専門性を持った人材の両方がいるイメージですね。
これまでも、観光振興のための施策やプロジェクト支援を行ってきましたが、今春に発生した新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響を受けて、弊協会としても新たな施策に取り組んできました。
DMOは自治体と違って、意思決定の早い組織構造が特徴的かなと思っています。この数ヶ月間は、走りながら考えるような形で、アジャイル的に活動を行ってきました。
コロナ流行フェーズに応じて、適切な施策を立案・実行
まず、コロナ流行初期においては、助成金制度の創設や注意喚起ピクトグラムの制作などを行いました。
この頃は休業している方も多かったので、回復期を見据え、京都観光の基礎知識や外国語研修などをテーマにしたオンライン研修も実施していました。
▼京都市観光協会版 ウィズコロナ時代の適応を目指した「京都観光ロードマップ」
その後、感染拡大期を迎え、外出規制が始まったことから、観光業のデジタル化への対応が急がれるようになりました。そこでスタートしたのが、自宅で京都の魅力を感じてもらうプロジェクト「Stay Home, Feel Kyoto」です。
これはいわゆる「バーチャルツアー」で、料理動画をみながら自宅で料亭の味を再現してもらったり、禅の動画をみながら一緒に体験できるような参加型のツアーを企画しました。
しかし、プロジェクトを進める中で、デジタル化が追いついていない事業者が多いことに気がついて。
そこで、Withコロナ期に入った頃から、IT機器の導入促進やデジタルを活用した事業者間連携の活性化を支援する「デジタル活用支援パッケージ」の提供も開始しました。
ただ、一口に「事業者」と言っても、アナログな事業に従事している方もいれば、ITを活用した事業をされている方もいて、デジタルへの親しみ度合いが全然違ったんですね。
そこで、事業者それぞれのITリテラシーに合わせて、異なる手段でアプローチしていきました。
「デジタル化は難しくない」オンライン相談所の開設で入口を作る
まず、デジタルに慣れていない方々に向けて「デジタルお悩み相談所」を開設しました。これは、デジタルの導入やさらなる活用を希望する事業者と、そのサービスや知見を有する事業者をマッチングするサービスです。
ですが、最初はほとんど反応がなくて。最近ではお寺さんもWebページの作成に注力されていたり、京都はキャッシュレスの普及率が全国でもかなり高かったりと、全体的にITリテラシーが高くなっていると感じています。
なので、そうした方々はすぐに情報をキャッチアップしてくださるのですが、全くデジタルに触れていないような方々には、オンライン窓口を開設してもなかなか情報が届きませんでした。
そこで、申し込みの初期対応を電話やFAXに変更したり、実際にチラシを持って足を運ぶ方法にシフトしました。
すると、徐々に問い合わせ件数が増えてきて。実際に悩みを聞いてみると、「メールアドレスの設定ができない」など、思いもよらぬところで悩まれている方もいらっしゃいました。
こうした方々には、まず協会の取り組みを認知していただき、「何があっても、とりあえず協会に相談すれば大丈夫」と思ってもらうことが重要だと考えています。そのため、冊子やメルマガで定期的に活動報告を行っていますね。
また、地域からの信頼を得るためには、まず「事例」を作ることを特に意識しています。というのも、地域づくりは「人」が起点なので、「〇〇さんが導入しているなら、うちもやってみよう」という形で噂や評判が広がっていき、信頼が増すことも多いんです。
デジタルに接していない方からすると、新しい技術や仕組みの導入はどうしても腰が重くなってしまうので、「思っている以上に簡単ですよ」ということを伝えられるまで、どれだけ接点を持ち続けられるかが重要だと感じています。
コミュニティを通じて横のつながりを構築し、自立的な活動を促す
次に、ITリテラシーが一定以上ある方々に対しては、デジタル活用をさらに促進するようなオンライン研修を実施しています。
そのテーマは「初心者向けOTA活用講座」や、「ゼロからはじめる観光事業者向けデジタル活用セミナー」といったものです。
▼オンライン研修に関する実際のチラシ
また、事例や情報を共有できる場として、事業者をつなぐFacebookグループにてコミュニティも立ち上げました。現在300名ほどの方が参加しています。
先日、このコミュニティに所属されている旅館のおかみがテレビ出演されたときに、コミュニティ内で「録画しますね、頑張ってください。」と応援メッセージが送られていました。
これまでは、誰がどこで活躍しているかということを、業界を横断して知る機会があまりなかったんですね。
コミュニティを通じて横のつながりができたことで、応援し合う空気が生まれたり、他の事業者が抱えている課題やノウハウを気軽にシェアできるようになったと感じています。
さらに、事業者のプロジェクトを応援したいという気持ちから、クラウドファンディングをまとめたサイト「京都つながるNavi」を立ち上げました。
▼「京都つながるNavi」のサイト画面
これは、京都市内でプロジェクトを立ち上げている事業者が全国の京都ファンとつながることで、新しい挑戦ができる機会を提供することを目的にしています。
DMOとしては、やはり地域が稼げるようになることが重要だと思っていて。なので、ITリテラシーが高い方に対してはより稼ぐ力を高めていただき、事業の成長スピードを上げるような支援が必要だと考えています。
サポート役としてプラットフォーム機能を提供。京都を盛り上げる
我々DMOの役割は、あくまでプラットフォームであり、継続的なサポートに徹することが大切だと思っています。
DMOが民間企業と同じような取り組みをしてしまうと、本当にやりたい方が他にいた場合に、民業圧迫になってしまう場合もあると思っていて。
国や自治体の支援も大切ですが、何らかの問題が生じた時に事業者自らが解決できるような仕組みを作ることや支援をすることが、DMOのあるべき姿だと感じています。
実際、1,500社に及ぶすべての事業者を、私たちだけで直接的に支援することはなかなか難しいです。最終的には、事業者同士でも新しい取り組みやビジネスが生まれていく形が理想だと思っています。
そのためにも、事業者の方には「京都市観光協会に所属していてよかった」と感じてもらうことが一番だと思いますね。
まだまだコロナも予断を許さない状況ですが、これが収束しても「新しい観光スタイル」として、動画の活用やSNSを通じたファンとのコミュニティはより重要になってくるかなと考えています。
また、観光客に安心安全をどう提供するか、需要をどう作っていくかを一緒に考えていくことが最大の支援ですが、県外からあまり人を呼べない状況下では、京都の観光や文化を守るための地元の支えも必要です。
そこで、6月からは「地元民で京都を盛り上げよう」というコンセプトで「地元応援!京都で食べよう、泊まろうキャンペーン」を開始しています。
こうした取り組みによって、地元の方々がもう一歩足を運んで外食に行くとか、特別な日にせっかくだから泊まってみようといったきっかけを作り、京都の観光を盛り上げていきたいですね。(了)